第291階 三度目の命の雫の目覚めの日 魔女
「なに、今思い出したような顔をしてんのよ......あなたたち。
あんたへの国家勅令任務の時に私もいたでしょう.......?」
ううう、やっぱし記憶にあんましないかも。
「全員参加と記載されておりましたのでいましたわ!そう、おられましたわ!」
目の前の彼女は諦めたような表情で、宝刀を握る力を強めて抜いた。
「ラナンちゃん!この施設での戦闘はすべてありですわ!」
「少し、驚かせてあげる」
足を踏み込んで蹴った後だった。
《しろい まほう》 《まほう しろく》 《しろく しろい》 《しろく ……》
「オーニソ......驚かすだけって言ったでしょう?
『心刀』まで握り締めて、また『エクレール』をまた粉々に砕くつもりなのかしら」
彼女の刀が私に届くことはなかった。
なぜなら《しろい まほう》は彼女のとても高価な宝刀の刃に食い込んでいたから。
「誰が刀を使っているのか、理解していないつもり?
フルール様に今の皇帝と七賢人達に刀を教えているのは誰?」
宝刀に食い込んだ《しろい まほう》に視線と気持ちが向けられているのが分かる。
「存じ上げておりますわ、だからこそ刀以外を吹き飛ばすつもりでしたわ」
オーニソ先輩の指先は、彼女の首元へしっかり狙いを定められていた。
私はなぜだかその指から放たれるであろう魔法へと違和感を感じていた、オーニソ先輩に対して。
風を得意とするのに通り名は【才能の魔王】。
風の才能によるものだと思い込まされていたような、風の欠けた虹色の本当の意味を知るのかもね。
「じゃあ面白いから『黎宙の先輩』として指摘したげる、オーニソ......あんた負けるわよ。
新入生伝統行事。1番可愛い下っ端の実力を計れていない」
そう言い終えた直後、宝刀の刃が砕けて粉々になった。
砕けた宝刀の先で彼女は私に向けて微笑んでいた、なぜだか分からないけれど。
「まったく同じ速度と力を用いて白い剣の硬さで受け止めた? ラナンちゃん?」
私の剣速の方が速ければ、宝刀の刃は真っ二つになって。
その半分がオーニソ先輩に当たるかもなんて。だから砂の城が崩れるように砕けるようにと。
確かにそう思ったわ。
「先輩、その私が相手ですよ。新入生伝統行事」
オーニソ先輩は妖しく口元で笑みを浮かべた。
その笑みの下に何を隠しているのやら。
ドロドロした嫉妬なんかじゃない。
オーニソ先輩はそんな感情に呑まれるような人物じゃない。
逆だわ、たくさんたくさん嫉妬されたり悪意を向けられた。
それをぜんぶ握り潰して生きてきた。
そんな悪名高さ。
「......実はラナンちゃんとの命の削り合いはね。
とっても楽しみ過ぎて『黎宙のエース候補の特権』を各方面に振りかざしまくってるのよ!!
どう? ラナンちゃん? 愛されているって感じしない?」
愛の方向性が違うような。
それは置いておいて。
楽しみだわ、オーニソ先輩の才能と剣を交えるの。
「ふーん......オーニソ......実は新人なんて思っていないわね?」
オーニソ先輩は舌を小さく出して、イタズラがバレた子供のような無邪気な表情を魅せる。
「プラがいうの、エクレールを改造するレベルで本気で相手して、
ラナンちゃんをちゃんと、かっこいい先輩達に守られるような
新人の可愛い女の子だって教えてあげたらって」
私は背中からオーニソ先輩に抱きつかれる。
それになんだか悪い気はしないわね。
可愛がられるっていうのも。
「私もノってあげる......生意気な新人の教育に.......一肌脱いだげる」
オーニソ先輩は首を振った。
「可愛くて可愛い過ぎる新人のラナンちゃんが、ちゃんと先輩を敬って同じ道を歩みやすくするために、雑草をたくさんむしってあげられるようなことがしたいのですわ」
彼女は微笑む。
オーニソ先輩が後輩への思いを言葉にするたびに驚くような表情と共に。
「まぁ......なんでもいいわ.......でも意外。
フクジュと険悪だったオーニソがデレるように後輩を思いやるなんて」
悪い顔をしているスノーフレーク。
そんな悪意をものともしないオーニソ先輩は一笑みを返す。
「私はフクジュは好きですわよ。でも刺々しい言葉にはうんざりしましたの。
だから私は先輩ってなんだろうって、どんな存在なのだろうと、たくさんたくさん考えましたの」
彼女は遠い目をしていた。
昔を思い出すような哀、しい表情をいつもの顔で覆い隠すように。
「ずっと先輩で在りたかった......そんな風には思っていたみたい。
でも、あのフクジュでさえ呑み込まれた。
フルール様にもキキョウお姉様にもそういう気持ちを抱いていたみたい、たぶん......」
言葉を紡いでかき消した。
「もう、決着はとうの昔に着いておりますし、エクレールの件は御助力頼みましたわ。
スノーフレーク先輩」
彼女は優しく微笑んで了承していた。




