第277階 今も変わらなくて
「おかえりっ! ハツミっ! キレちゃん!」
「ただいま!お母さん!」
自然と声が出る不思議な感覚。これね、集然を使わない太陽人として人として声を出す感覚は。
そして昔から変らないいつも。
「ただいま! ナティラ!」
私の声が、お母さんに届いた直後に響くお父さんの声。
お父さんのいつもの行動から私達、私とお母さんを大切にしているって分かるわね。
「できているよっ!! 座って、座って!」
美味しそうな匂いがキツツキの様に鼻をつつく。
甘味、辛味、温かな湯気。踊り奏でるようにお母さんの料理を彩っている。
私はそう感じて楽しくなったわ。
「倉庫の魔物共をふんだんに使ったな! ナティラ」
大きな魚の頭に、肉に突き刺さる大きな骨、巨大な赤と白の軟体動物にはさすがに驚いたわ。
「えぇ、魔力結構使っちゃったっ。座るね……!!」
お父さんはお母さんの手を自分の手の上に乗せて
自分自身を滑らせる様にお母さんを柔らかいソファーに座らせた。
まるで踊るみたいに。
「キレちゃんっ!ありがと!!」
お父さんはお母さんの瞳を真っ直ぐに見つめていた。そして微笑んでいた。
お母さんはたまらずに顔を逸らせている。
「今日も相変わらず料理が上手だな、ナティラは。
なぁ、ハツミ!」
お父さんは心からそう思っているように
私に屈託のない笑みを向けてくる。
私もそう思う、久しぶりに食すことが出来ることもあって。
さらに美味しそうに見えるわ。
「うん、とても美味しそうで早く食べたいかも」
涎が出そうだし、お腹も鳴りそう。
お母さんと目が合った気がする!
そしてお母さんの破顔が飛び込んでくる。
「ハツミっ食べたいね!」
はい、もうその通りです。
手を伸ばしてしまう、そこにスプーンがあったから。
お父さんとお母さんの温かい笑顔が飛び込んでくる。
「食べたい、お腹すいたわ」
2人の笑顔が飛び込んでくる。
「食べよっかっ! キレちゃん!」
お母さんはフォークとナイフを私達に配ってくれる。
お父さんが片手間で創ったフォークとナイフ。
装飾として星が銀河の様に散りばめられている。
「そうだな‼ 俺もお腹がナティラの料理を求めてる」
お母さんから受け取ったナイフとフォークにスプーンにお箸を、
私の目の前に置いてくれる、
とても素敵な笑顔で正直、心を鷲掴みにされるほど嬉しかった。
老巨龍のステーキ。七種の希少水龍と巨鯨殺し(ばけものいか)のお造り。
国滅茸と鬼殺茸と神堕茸と天壊茸と心酔茸の5種のきのこと
ハイエルフが指導して摘んだ木の実のオイルパスタ。
私とお父さんは料理の名前をお母さんから聞いた。
待ちきれないという気持ちが溢れる。その直後お母さんが微笑む。
「どうぞっ!召し上がれ!」
お父さんはまず老巨竜のステーキを慣れたナイフ捌きで、
食べやすい大きさに切ってくれて
私とお母さんの目の前のお皿に盛り付けた。
「いただきまーす!!」
私は我慢をブラックホールに投げ込んで
切り分けられたステーキにかぶりいた。
肉の柔らかさと旨味がお口の中を支配する。
美味しい‼ 頭の中を支配する感覚に私は現実を忘れる。
「‼?」
そこにはなぜか笑顔で覗き込んでくるお父さんと
目の前で可憐な花のように微笑むお母さんがいて、
恥ずかしくなってしまっていた。
「ハツミは本当に美味しそうに食べるな!
俺も頑張って巨竜を狩ったかいがある。
食べ方も食べる姿も可愛いな」
すごく恥ずかしい。恥ずかしさで溢れている。
でも食べたい気持ちも同じぐらいに溢れて、今日は食べたい気持ちの勝ち。
「もうっキレちゃんったら……親ばか」
今日も仲いいわ。お父さんとお母さん。
理想の夫婦像は子供の時から変わっていないと再確認できたわ。
「ナティラ、ハツミに妬いてるのか?
俺は2人とも一番大切で好きだし、愛してるつもりだ。
それはハツミが産まれてきたときから何も変えていない」
私の2枚目のステーキの5倍はある大きさのお肉に
かぶりついて頬を大きく膨らませながら。
荒々しい食べ方なのに、かっこよくて。
「そういう事じゃないっ……」
お母さんもステーキを食べ始める。
私の選んだステーキの半分の大きさ。
お母さんはお父さんから顔を逸らしながら。
お父さんって普通に言って欲しいことを
素直に恥ずかしがらずに真っ直ぐに言ってくれるから、
ぐうの音も反論も出来なくって。
笑ったり、美味しさに感動したり、そんな風に時間が流れて行く。
産まれた時からこんな風に食事を楽しんでいた。
今も変わらなくて。お皿もぜんぶ空になって。
私とお父さんが同じぐらい食べてしまったわ。
私は一度自分が以前使用していた部屋に戻った。
何も変わらなくて、最初の転生を行った時のままに。
塵に埃一つなく、綺麗にはされているけれど。
「ハツミっ!今日は泊まって行くよね」
お母さんがひょっこり顔を出して現れる。
食事の間も、今は何をしているのかは特に聞かれなかったわ。
私がしゃべらないからかもしれないけど。
「うん、泊まって行くわ」
お母さんが近づいて来て。
嬉しそうに太陽の様な笑顔で見上げてくる。
「じゃあ、準備するね」
お母さんは背中を押してくる。
その行動に疑問に思いながら。
お母さんを手伝おうかなって。
「キレちゃんっのところ行ってきて。
西の大帝国にいるんでしょ、今」
お母さんから【西の大帝国】なんて
そんな単語を聞くなんて思いもよらなかった。
聞こうか迷ったのが正直なところ、でも。
「うん、そうする。なんで分かったの!?」
聞いておかないと。何かがそう訴えている。
こう何かが繋がるような気がして。
「太陽人の娘の魔力を感じたからっ。
ハツミっの魂からも、あの刀っからも」
緻密な魔法操作が大得意なお母さん。
気付かない訳ないんだわ。そう思い知らされた。




