第273階 あの日の続き
「私も殺してくれない……?」
死を望む音が鳴った。
ズズズ、それは重さで空気を締め付ける様な音。
似ている、寝ている時の音に。
でも全く違う。
全身で奏でている、彼女の精神の全てで。
そうなのね、精神と肉体の境界が引き千切れる音。
同時に精神が血の様に流れ出る音。
消えていく、彼女の生きて創造された
彼女のすべてという何かが。
「条件があるわ」
彼女は驚いた。
「もう、生きたくない!レサト御父様もガーベラ御母様も
生きて欲しいと必死だけど、私はもう『夢に憧れ』も
思い出せない、思い出したらあの男が私の腕を引き裂くだけ」
ズズズ、鉄球で木材を轢き潰す様な音が
肉体を掛け巡る様に皮まで貫き響き渡る。
生きて欲しいとは、言わなくて良かったと謎の安堵が支配する。
「私は貴女としてこれから生きる。
願いや貴女の事を教えて欲しい」
彼女は不思議そうな顔をした。
「いいの…?」
「私が影として生きる選択肢もあるけれど。
そういう生き方は御望み?」
彼女は首を横に振った。
それはもう決めていた事とでも言わんばかりに。
彼女は微笑んだ、それは死が救いだと信じ切っているかの様な。
「私のことよね……私うまくしゃべれるか、伝えられるか心配」
そう言って彼女はレサトお父さん、ガーベラお母さんの事。
2人の友達のマーガレットとエキナセア、病院で出会ったコスモスの事を教えてくれた。
私は彼女に成った。
目を覚ましたのは白で彩られた、隔離された場所。
彼女の手はやせ細り、植物の様だった。
彼女の思考と精神は消え掛かっている。
私は彼女を生かそうと思えば生かせた。
でも、しなかった。
私は転生する時に、奪う事はしなかった。
今回もこれからも。
その気持ちに変わる事はないわ。
「ねぇ、アオナで合ってるよね?」
私の心の中で彼女に問いかけられる。
「えぇ、そうよ。アオナよ」
私も心の中で答える。
「こんなことを言うのはあれなんだけど......ありがとう」
どうして?そう思ったけど、口に出さなかった。
口に出す事が彼女をより深く傷付けると、強く思ってしまったから。
彼女を知っていく中で、そう思えていってしまえている私が止めてくれた。
寄り添う事が難しい世界で私は唱えた。
彼女の為に何が出来るのかなって。
彼女の心を救えるような魔法を。
「どういたしまして。いってらっしゃいで合っているの?ねぇラナン」
彼女の精神は身体から離れようとしていた。
鳥が翼を広げて飛翔の準備をするみたいに。
まるで天使だった。
「合ってるよ、行ってきますだね。お別れは寂しいか……
マーガレットとエキナセア、コスモスと毎日遊ぶんだ。
……アオナにはまた会いたいな」




