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魔皇の魔法とハツミリア  作者: 道草 遊者
王路院編

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第269階 刀と想い

「あぁ、良い刀だ。こんな刀は見たことない」


 握り締めるその手は、大きくてたくましかった。

私の白く小さく細い指で握りしめた拳よりも大きかった。

ずっとずっとずっと。実際よりもそう感じてしまった。


 お父さんは静かに【天夢々魂】を鞘から引き抜く。

音が鳴る。もちろん鋼の音はしない、風が勢いよく吹き抜く様な。

大量の冷たい空気が針の穴を理路整然と通り抜ける、一瞬で。


 そんな音。


 【天夢々魂】の刀身が露わになる。瞬間、圧に包まれる。

幽霊が声だけで楽器を奏で歌う様な錯覚を想起させられたわ。

そして【天夢々魂】は何事も無かったかの様に静かに佇んでいる。


 静寂を叫ぶ音。


 お父さんの視線が微かに動く、刀身の先から手元まで。

刃に集中する様に吸い込まれていく。刃はお父さんの冷たい瞳を映し出していた。

その瞳は戦う時の眼の時のものだった。


「何物をも寄せ付けず、何物にも屈しない、何物にも媚びない。

彼女を思い出す」


 確かにお父さんは微笑んでいた。

昔を懐かしむ様に。

視線は確かに西の大帝国の方向を向いていた。


「ほぉ?」


 私が感じた想いと、お母さんの想いは重なってはいなかった。

戦士の顔が一瞬で凍り付き、表情が曇る様に

複雑な感情を抱いた。


 お母さんが世界最強だと。


「ナティラ、違うからな!断じて違う!違うんだ!」


 お母さんはなぜだか、にこにこしていた。

一瞬で冷たく感じる無表情が、太陽の様に暖かな笑みになっていた。

お母さんはお父さんに詰め寄る様に一瞬で距離を詰めた。


 「輪に入りたいな、お母さんだと難しい話っ?」


 お父さんは詰め寄られて慌てふためいていた様から

自然と出た表情を綺麗に呑み込んだ。

表情は目付きが鋭く、刃を自分に向けていた。


 戦士の顔で。


 「ナティラにもこの刀は美しいと思えるのか?」


 【天夢々魂】の刃先は八相の構えを彷彿させ、

天を衝く様に唯々真っ直ぐ天を睨みつけていた。

その造形に吸い込まれそうに見入っていた、私。


 「正直怖いとも思う、刃物がって言うのもあるんだけどっ

美しすぎるのっ、整合性が取れ過ぎているといえばいいのかな」


 お母さんが神の造形と見紛えてもおかしくないわ。

彼女(フルール)に連なるフロースから手渡されたんだもん。

彼女(フルール)が制作に関与していてもおかしくないって思うわ。


 「それだけ分かれば十分」


 お父さんは穏やかな表情で深くうなずいた。

そしてそのまま間を置かずに続けた。


 「俺もそう思う、出来過ぎている」


 お父さんは【天夢々魂】を鞘に納めてお父さんは

【天夢々魂】を鞘に納めてお母さんに大きな瞳に目を合わせていた。

お母さんの口元が緩み、少し目線を斜めに逸らす、恥ずかしそうに。


 「2人の仲に入れて嬉しいですっ」


 お父さんと私は目を合わせて笑い合って

お母さんを抱きしめた。

とってもふんわりとしたいい匂いに幸せを感じる私。


 「ところでこの刀は、どこで手にいれたんだ?」


 当然、疑問に思うよね。


 「渡した『天夢々魂(あまのむむたま)』は

西の大帝国の『ソレイール・アンジュ』で譲り受けたわ。

お母さんも知る通りもう一人の私が譲り受けた物」


 お父さんとお母さんは目を見合わせた。


「そうなんだな。まるでなんでも捻じ曲げてしまう強力な武器だな。

一つだけ言わせてくれ。俺とナティラが、父と母で良かったか?」


 あれ、なんで急にそんな事を。


「こんな時だからこそ、伝えておきたいんだ!

善悪なんかよりも、神さえ軽く凌駕する何かに与えられたその翼で

何処かに行ってしまう前に!!」


 神さえ凌駕する。

それは私の半分に重くのしかかり鋭い鉤爪で抉られる様だった。

でもそれは不快感ではなかった、むしろ喜んでいた、彼は。


「お父さん、お母さんも安心して。

私には確かに四人分の人生が刻まれている。

大切にしてくれた人々の事は決して忘れはしない!!」


 私は間髪入れずに言葉を続けたかった。

だから何か言おうとした、お父さんに

言葉の斧を叩きつけるように、続けた。


「この先何があっても!!」


 お父さんは泣き崩れた。


「いや、ごめんな。怖かったんだ、ハツミがどっかに行ってしまいそうで

悪いお父さんでごめんな、ハツミの自由を奪いたくないと思いつつ」


 本当に消えりそうな表情をする、初めて見る。

こんな表情。あ、私にお母さんを。

こんなにも大切に想ってくれているんだって。

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