4.影使い
滝沢 侑也……主人公。神の種を宿してる。
仲野 千鶴子……主人公の幼馴染。人類代表の超人。
キリコ……警察庁特務係。班長。
チャコ……警察庁特務係。キリコの部下。
昼休みに仲野に「いくじなし」と言われた後はどう午後の授業を過ごしたのか覚えていないまま放課後を迎えた。
自転車通学の俺は自転車置き場から校門に向かって帰るつもりだったが、交換した覚えのない相手からLINEのメッセージが入ってきた。
『自転車置き場には寄らずに校門へ来るっス』
名前はチャコ。アイコンはよく分からないクマみたいな動物の手書きのイラストだった。なんだこれ?
多分、昼休みに会ったあのパーカーの警察の人だよな。
何の用事だろう?
無視してもいいけど、いつの間にか交換した覚えのLINEが交換されているような相手だし、無視するのも無駄だろうと大人しく校門へ向かうことに決めた。
「家まで送るっスよ」
チャコはそう言った。
「いや、俺、自転車通学なんですけど」
「大丈夫っス、自転車はもう積んだので」
チャコはそう言うがセダンタイプの車に自転車が積めるとは思えない。
後部座席にはキリコが座っているし、どういうことだ。
ただ、校門前で目立つ格好をしているチャコと話している俺を帰宅する他の生徒達が何事かとジロジロ見ながら通り過ぎて行く。
また学校で浮くのが加速しそうだな。
そう思い自転車のことは深く考えないようにした。
家までは特に俺がナビをすることなく走っていった。
「駐車場、借りていいっスか?」
「あ、はい、大丈夫です」
家は住宅街。いや、住宅街というか山の中を少し切り拓いた町の中の集落みたいな変わった地区なのだ。道路も狭いので路上駐車はできないので、使ってない駐車場に車を入れてもらう。
「じゃあ、自転車出すっスね」
そう言えば自転車のことはすっかり忘れていた。
どこから出すのかとチャコを見ているとチャコは屈んで自身の影を触った。いや、触ったというか影の中に手を突っ込んだ。
突っ込んだ?
そこに穴は無いはずなのにチャコの手が影の中に吸い込まれていく。
「よいしょっス」
勢いよく影の中から自転車を取り出した。
その光景を見て俺は益々不思議な話を信じるしかなくなった。
「外で話すのも何だから中に入ってもいいだろうか?」
キリコのその言葉に俺は頷くことしかできなかった。
♢
我が家は平屋で大きくない。
というか今は俺しか住んでいないので、それでちょうどいい。
父は植物学者、母は言語学者として昔から国内外を飛び回っている。俺が中学卒業と同時にその頻度が上がり実質ひとり暮らしになっている。
「あの、普段はお客さんが来ることもないので大したものは出せませんが」
来客用の部屋にキリコとチャコを通し、紙コップに麦茶を注いで出す。高校生男子のひとり暮らしにしては気の利いた対応ではないだろうか。
「気を遣わせてすまないね。普段は客が来ないと言うが友達も来ないのか?」
キリコはそう言いながらもお茶をすぐに飲んだ。俺はそのキリコの言葉をスルーする。
「で、チャコさんのさっきのは何ですか?」
影から自転車を出したのは何だったのだろうか?
「私は影使いっス」
チャコにそう言われてもさっぱり分からない。
「影にまつわる能力がアレコレ使えるっスよ。ある程度のサイズのものなら自分の影の中に仕舞えるし、影踏みの能力で自分より少し上くらいの力の相手までなら動きを止めれるっス。完全に格上には効かないっスけど……」
チャコはガクッと項垂れた。
昼休みに身体が動かなくなったのはその能力のせいだったのか。
「そろそろ先ほどの話も信じられるようになったかい?」
「えぇ、まぁ……先ほどの影から自転車を出すのを見せられると信じない訳にはいかないというか……」
「急激に環境が変わると言うのは大変かと思うが頑張ってくれたまえ」
「はぁ……」
俺はため息のような返事しかできなかった。
「これから君に近付く女性は全て君の貞操を狙っていると考えてくれていい」
この人、言葉のチョイスがいつも微妙というか、なんとかならないのだろうか。
「いやいや、普通に接してくれる女子だっているでしょう?」
「今の学校生活でそんな風に感じるか?」
「いや、それは……」
キリコに痛いところを突かれて何も言い返せない。
「もしかしたら君好みの超絶美少女が現れるかもしれないから楽しみにしたらどうだい?」
「でも、昼休みに話しましたけどその逆の可能性もあるんですよね?」
「先ほどは言わなかったが、その可能性は低いと思っている」
「えっ?」
キリコの予想していなかった言葉に俺は間抜けな反応しかできなかった。
「よく考えても見たまえ、子供を作るということは君が欲情して性行為に励まないといけないわけで、君の好みのタイプの女性でないと欲情しないのではないか? そうだとしたら神託書も君のストライクゾーンから大きく外れる女子を候補に選ぶとは思えないのだよ。それとも君のストライクゾーンがあまりに広くてどんな女性でも受け入れるという寛大な心があるのなら別だが」
「誰でもいいわけでもないですが、別に女子の容姿をそこまでどうこう言えるほどいい男じゃないですし、それに俺が誰かを選ばないといけないっていうのも何かいまでも実感がないというか……」
「うむ、君はなかなか素直でいいな。私が人間代表ならここで押し倒してしまいたい」
「はっ?」
「そんな怖い目で見ないでくれ。冗談だ」
この人、言葉のセンスも無いし冗談もセンス無いな……
「でも、仲野少女は満更でも無いように見えたがな」
確かに昼休みの反応を思い出すとそんなでもなかったのかもしれないが、そもそも急にそんなことを言われてもあそこで決断できる男子の方が普通は少ないと思うんだけど。
「それで、仲野が超人化してるっていうのは本当なんですか?」
「本当だ」
「オリンピックで金メダル取れるくらいっていうのは?」
「その言葉の通りだ。それくらい身体能力が上がっている」
「なんでそんなことに……脳のリミッターが外れたって話してましたがそんなことあるんですか?」
「火事場の馬鹿力って言葉があるだろう? あれも火事の現場で生命に危険を感じることで生き残るために普段以上の力を出すという、それと似たことが起きている」
「転生者症候群っス」
チャコが聞き慣れない言葉を発した。
お読みいただきありがとうございます。
まだ始まったばかりですが、20〜25話程度を予定しております。
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