5.異世界転生症候群
滝沢 侑也……主人公。神の種を宿してる。
仲野 千鶴子……主人公の幼馴染。人類代表の超人。
キリコ……警察庁特務係。班長。
チャコ……警察庁特務係。キリコの部下。影使い。
「異世界転生症候群?」
あまりに聞き慣れない単語に俺は思わず聞き返してしまった。
「そうだ。異世界転生は分かるか?」
「えっと、アニメとかになっているのと同じですか?」
「厳密に言うと、ああいった中世ヨーロッパの剣と魔法の世界だけではなくて、現実世界のパラレルワールドや近未来のような科学の異世界もあるのだがその認識で大丈夫だ」
「それで、症候群というのは?」
「仲野少女は自分を異世界転生から帰ってきたと思い込んでいる」
なんだ、それは?
厨二病とかいうレベルではない。
「そんな思い込んでいるだけで超人になれるんですか?」
「普通は無理だ。ただ、色んな条件が重なってしまい彼女は超人になった」
やはり信じがたい。
それに仲野ってそんなアニメとか見るタイプだったか?
俺は暇があればアニメと漫画を楽しんで一人で過ごしていたけど、仲野は陸上に打ち込んでたからそういうのに興味ないかと思っていた。そもそも幼馴染といってもあまり趣味とか聞いたことなかったしな。
「まず、襲われた時に頭を打ってリミットが外れた。元々、陸上をやっていたのが幸いして身体の基礎はできていた。気絶した時に高速で異世界を旅する夢を見てしまった」
「それだけで?」
「もちろん頭を打った時にリミットが外れてしまったのが一番大きいのだが、夢によって能力が固定されてしまったのだろう。私とチャコが来た時はまだ混乱状態だったのだが『私は魔王を討伐して帰ってきた、そしたらゴブリンに襲われた』と言っていたくらいだからな」
「それってもしかしたら本当に転生して帰ってきたのかも」
「もちろん転生世界から帰ってきた者も存在する。だが、彼女は襲われてたから目覚めるまでが短過ぎる。時間の流れが違うケースもあるが、あまりに短過ぎる。それにもし魔王のようなものを倒していたとしたら、逆に能力が低過ぎる。もっと強くないといけない。だから、異世界転生をしたと思い込んでいると判断した」
キリコのこの言い方だと恐らく本当に魔王を討伐して戻ってきた人間を知っているのだろう。
「教えてくれてありがとうございます」
信じられないことしか起こっていないが、信じるしかないだろう。俺はもうこのまま流されていいのかもしれない。
「それで今日、うちに来たのはどうしてですか?」
「君の普段の生活拠点を見ておこうと思ったのだ。ひとり暮らしで不便はないのか?」
「まぁ、中学の頃から一人で過ごす時間は多かったですし、今年からほとんどひとり暮らしのようなものですが親から生活費は振り込まれますし、お小遣いもあるので平気ですよ」
「何か困ってるようならチャコをこの家に置くことも考えたが必要なさそうだな」
チャコが家に来られても逆に困ってしまうのでそれで良かった。
「もし私が一緒に暮らすことになったら、大人の魅力にメロメロになって他の人のことなんて好きになれないかもしなかったから、もったいないっスねぇ」
「いや、それはないと思うので大丈夫です」
「なんでっスか!」
チャコは顔立ちは可愛いと思うがあまりにファッションが奇抜過ぎて恋愛に発展するパターンが全く想像できないのだ。
「ただ、君の護衛はしないといけないので、この道路の反対側の空き家を借り上げた。チャコはそこで暮らす」
「夜這いしたらダメっスよ!」
いや、しないから。そう思ったが口には出さないでおいた。
「キリコさんはどうするんですか?」
「私はさすがにずっと浜松にいるわけにはいかないから東京に戻る。裏社会とのバランスを取る部署も人手不足でな。世界を揺るがす案件だが、人の命や社会的な危機が無さそうな案件だからな。これに私まで付きっきりになるわけにはいかない」
「私たちはだいたい三人から五人で一つのチームで動いてるっスよ。キリコさんのチームは四人で、そういうのが五チームあって、それで日本全域をカバーするから大変なんスよ」
「ここはチャコに任せる。あとは何かあれば今はオンラインで打ち合わせもできるし確認もできるからな。専用回線のノートパソコンもこの家にも置かせてもらう」
「あ、ノートパソコンなら俺のもありますが──」
「これは機密事項だから万が一漏洩を防ぐために特殊なものを用意させてくれ」
「わかりました」
「間違えてエッチなサイトをこっちのパソコンで見ちゃダメっスよ〜、普通のインターネットもできるっスけど履歴も全部管理してるっスからね〜」
「君も年頃の男の子だ。そういうのに興味があるのは分かるがまだ18歳未満なのだから節度を持って──」
「そんなの見ないですって!」
そもそも18歳未満なのに子作りがどうこうと押し付けてくるのがどうかと思うのだけど。
「それにしてもここに来れば君が選ばれた理由の断片くらいは分かるかと思ったが、さっぱりだな」
「ここで分かるくらいなら、俺もそんなに悩まないですって」
「それもそうだな。そろそろいい時間だ。私たちは一度、東京に戻るとするよ。その前にこの家に結界のようなものを張っておく」
「結界?」
「今後、どんな輩が襲撃してくるか分からないからな。命の危険は無いにしてもギリギリを攻めてくる奴がいないとも限らない」
サラッと怖いことを言う。
「でも、キリコさんに任せておけば大丈夫っスよ! そういうのに関してスペシャリストっスから」
チャコのその言葉と同時にキリコは何やら呪文を唱えたが、それも一瞬で終わってしまった。
「それだけですか?」
「長ければいいってものじゃない」
「短くても強力なのは凄い証拠っスよ!」
確かにチャコの言うのも一理ある。詠唱破棄のようなものだろう。
二人を車まで送る。
「まだまだ実感はほとんどないですが、今日は色々ありがとうございました」
「そんなものだろう。これから色んな種族が君を求めてやってくる。そうなると実感するだろう」
「これから言い寄ってくる女は全部種目的だと思った方がいいっスよ!」
「なんでそうなるんですか? 普通に好意を持ってくれる女子も──」
「今の高校生活でそんなこと起こると思うか?」
キリコがチャコの話を肯定するかのように突っ込んでくる。それはそうなんだけど。
「気を落とすな。悪いことばかりではないと思うぞ。とにかく今後性行為に困らない人生になるのだから、年頃の男子にはもってこ──」
「あー、キリコさん、それはセクハラになるっス」
キリコの言葉をチャコが止める。
この人、本当に凄腕の裏世界とやらとの調整役なのだろうか……チームは機能してるのだろうか。関係ないとはいえ、今後近くにいる人なのだから気になってしまう。
「なかなか難しいな。ともかくそんな悲観する生活にはないと思うから、高校生活をそのまま楽しんでくれたまえ」
「近々、引っ越してくるからよろしくっス」
キリコとチャコはそう言って去っていった。
明日から大きく俺の人生は変わるのだろうか。
本当にあらゆる種族の代表が俺に迫ってくるのだろうか。
可愛い子が来るといいな……もしいなかったら、やっぱり人間として仲野を選ぶのか……仲野のこと、幼馴染なのに意識したことなかったから、あの時は即断できなかったし、そもそもあいつはどう思っているのだろうか。
全くこの先の人生を想像できないまま、長かった一日が終わっていった。
お読みいただきありがとうございます。
まだ始まったばかりですが、20〜25話程度を予定しております。
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