第9話 ズルい奴にはお仕置きだ。彼女のために僕は土寄せ棒を手にする。
春とはいえ、孤児院はまだ肌寒かった。
私は「ポルコさん」から押しつけられた「石」をどうすればいいか悩んだ。
その辺に捨ててしまうということも考えた。
でも、これが本当に、ハルにとって「大事なもの」という可能性もある。
相談できる人もいない。
数日前からハルには会っていない。
妹のエナちゃんが病気になったらしい。
ハンナさんに聞いた。
どうりで「エルザ」さんが帰って来ないわけだ。
そして、今日は3日ぶりに戻ってきた。
「エルザ」さんなら、相談に乗ってくれるかな……
「おトイレ……」
私はトイレに行こうとベッドを抜け出す。
周りの子たちを起こさないように……
廊下を歩く。
窓の外からは月の光が差し込んでいた。
みんなが寝静まっていて、シンとした感じ。
私を脅かすものがないこの静かさは好きだ。
ふと礼拝堂が明るいことに気づく。
(こんな遅い時間にだれだろう)
怖さ半分、興味半分で礼拝堂を覗くことにした。
孤児院側からの扉は開いている。
隙間から覗くとお姉さんがいた。
(っ!?)
私は言葉を失った。
その光景は私の胸を打った。
神の像を前に膝を折り、祈りを捧げているお姉さん。
天窓から差し込む光を受け、その髪が月の光と同化して冷たい光を放っている。
冷たい色合いが占める空間、それなのに暖かさを感じる。
周りに蛍のような小さな光が舞っていた。
数多く立ち上り、周回するように舞う。
それから天井をすり抜けるように空へと消えていく。
(……きれい)
あの光がなんであるのか、私にはわからなかった。
けれど、悪いものではないという確信があった。
だって私に囁く声が、お姉さんの祈りを教えてくれる。
(清め給え、罪、穢れ。守り給え、一切の魂を……)
お姉さんはこの教会に来た時から嘘をついていない。
言行が一致している。
怒る時は怒るし、文句を言いたい時は文句を言う。
そして、笑う時は大笑いしている。
シスターとのやりとりも考えていることとと言っていることは同じだった。
そんな人だから私に映るイメージの声も少なかった。
この人は、嘘をつかない。
そう、私は確信していた。
でも……それでも名前を呼ばれる時、黒い靄がかかる。
たぶん、「エルザ」っていう名前は「嘘」なんだと思う。
そして、時々映る「心の声」が呟いている。
「寂しい」って。
「会いたい」って。
「私を支えて」って。
とても悲しそうな顔。
小さい小さい声なんだけれど、私は聞き逃さない。
私はお姉さんの美しさに目を奪われて、時間を忘れて見入ってしまった。
お姉さんが息を吐く。
光が溶けるように消え、身を起こす。
私は気づかれる前にその場を立ち去った。
◇
「うおおおおん、会いたかったよぉう」
僕は号泣した。
「元気してたぁ?病気してなかった?喉は渇いてない?」
そう声をかけて「ジャガイモさん」たちの様子を見る。
「僕がいなかったからって『腐って』いやしないよね?」
そう言ってかぐわしい「土」に顔を寄せた。
「ああっ、ああっ!なんてことだ……」
僕は驚いた。
3日ぶりの「畑」。
そして「男爵イモ、三日会わざれば、括目して見よ」という諺を思い出した。
「芽、芽がぁ……『芽』がぁぁぁあ!あああああっ!」
そう、「芽」が地面から出ていた。
「も、『萌え』ぇぇぇぇっ」
〈ねえ、ロッシェ。正しい言葉の使い方だけれど。ちょっと、それは……〉
なぜか【土寄せ棒】のアンジェさんが引いている。
〈私の出番、減るじゃない〉
そうか。
でも、大丈夫。
僕は君をけして手放したりなどしない。
そして、人(棒)にはいつだって与えられる役割はあるのさ。
◇
「ハル……」
コレットが声をかけてくる。
「あ、久しぶりだね」
そう言って僕は顔を上げた。
草地にいるコレットは、なぜか泣きそうだった。
〈ロッシェ、あの子「結界石」持ってる……〉
え?なんで、コレットが?
彼女が持っているっておかしい。
あの晩に無くなった結界石。
村を外敵から守るための結界に穴を空けられた。
まさか―――――
僕は急いでコレットのところへ行った。
コレットは僕の顔を見ておびえた様子だった。
「コレット!」
僕は彼女の肩を掴む。
「結界石を持っているの?」
コレットが頷く。
恐る恐るといった様子で差し出してきた。
「なんてことだ」
僕は声を上げていた。
そして、コレットの目を見て言った。
「ポルコだね」
僕の言葉にコレットは驚いたようだ。
「なんで……私を疑わないの?」
震える声で彼女は言う。
「コレットなわけない!コレットがこんな大それたことをするわけがない」
僕は声を上げた。
「それに、つじつまが合わないんだ」
そう言うと、コレットがしゃくりあげた。
それから、ボロボロと涙をこぼして泣き出した。
◇
〈あの、豚野郎ぅ〉
ドスの利いた声でアンジェさんがうめく。
〈ドタマかち割られにゃぁわからんと見えるのぉ〉
アンジェさん、怖いよ。
でも、僕も同意見だ。
コレットが落ち着いてきた頃合いをみて、事情を聞いた。
ポルコに押し付けられたんだ。
そして、僕に渡すように命じられた。
「アンジェさん……」
僕は「アンジェさん」に声をかける。
「今度ばかりは、僕は許せそうにない」
そう言って彼女を握る。
〈いいわよ。この件は、私は止めない。やりたいようにやりなさい〉
アンジェさんが言う。
そうだよ。
こんな小さな子に押し付けるなんて。
泣かせるなんて。
許せるわけがない。
僕は【土寄せ棒】のアンジェさんを手に、ポルコたちがいる「ワイン工場」へと向かった。
ジャガイモ仲間へ
今日も1日お疲れ様でした。
今日はどんな日でしたか?
仕事(課題)に追われる日でしたか?
それとも嫌なヤツに嫌味を言われましたか?
せっかくの夜です。
(明日も仕事や学校の人はごめんなさい)
とにかく今日は美味しいものを食べて気持ちを切り換えませんか?




