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第10話 「異議あり!」酒飲み町医者の一方的な論破。



「ポルコっ!」


ハルが怒声を上げて工場に入って来る。


ポルコはそれをニヤついて見ていた。


「おい、なに『勝手にキレて』いるんだ?意味わかんないよ」


ポルコが言う。


取り巻きたちが口々に「キッショ」「なに?機嫌悪いの」と言いだした。


「よくも、コレットに!」


「コレット?誰?」


「お前っ!」


とぼけるポルコにハルが掴みかかろうとした。


「おい、何をもめているんだ!」


そこへ農園主が現れる。


「農園主さん、なんでか、ハルが勝手に俺にキレかかってきたんです」


ポルコは困ったというように肩をすくめる。


「ハルっ!」


農園主が言うとハルも負けじと言った。


「こいつがコレットに、罪をなすりつけたからっ」


「コレット?ああ、孤児院の子か。それがどうしたんだ」


「『結界石』をコレットに押し付けたんだ」


「なに!?」


農園主が目を剥く。


「なんで、その子が持っているんだ」


「ポルコが押しつけたってっ、僕に渡せっって」


ハルが言う。


ポルコは声を上げて笑った。


「はははははっ!ハルっ、語るに落ちたな」


そう言ってハルをニヤケた顔で見る。


「なんで孤児院の子の言う事、真に受けてるんだよ」


「あ~、それとも何かな?自分がやったことをその『コレット』って子を使って俺のせいにしようって腹か?」


ヘラヘラと笑っている。


「なんだと!」


ハルが向かおうとした。


「やめないかっ」


農園主が一喝する。


「止めないでください」


「止めるさ。それとも、クビにされたいか」


農園主の言葉でハルが止まる。


「でも……」


「その子が嘘をついているという可能性は?」


「そんな子じゃない」


「じゃあ、お前がその子に渡したのか?」


「なんで、僕なんだよ!ポルコ疑えよ」


「それこそ、ありえんだろう。ポルコ君がそんなことするわけがない」


農園主は頑として聞かない。


「クソッ」


ハルが声を上げた時だった。


「あの~、すいませ~ん」


何とも気だるげな声がする。





あれ?あの人……


「なんだね、君は」


農園主が尋ねる。


「ああ、私は『エルザ』っていうケチな町医者です」


「はぁ」


あ、あのお医者さん「エルザ」って言うんだ。


「いや~、この間、診た患者さんの経過観察に来たんですがねぇ」


そう言って頭を掻く。


「その家のお兄ちゃんがいないものだから。感染してないか確認するために探しに来たってワケです」


少し癖のある白銀の髪。

アイスブルーの瞳。


そして、背が低いわりに……胸、大きいなぁ。


〈ふんだ!〉


アンジェさん、ご機嫌斜め。


大丈夫。


君の「スレンダーボディ」の方が魅力的さ。


「ああ、まあ。今見た感じ、大丈夫そうなんですが……」


そうエルザさんが言う。


「もめ事ですかね」


キラリと瞳に光が差す。


「ようござんす。私めが、お話をうかがいましょう」


「いえ、けっこうです」


自信ありげに言ったエルザさんに農園主がキッパリと断った。


「内輪での話ですから。よそ様には関係ない」


「そうですか?でも、何やら不穏な感じですがねぇ」


そう言って白銀の髪を弄びながら言う。


「どうも、その『結界石』とやら。それが無くなって困っていた」


なんか、強引に話進めていない?


「ところが今日、『ハルくん』がそれを持って怒鳴り込んで来た」


「そこにいる『豚くん』が盗んで、『コレットちゃん』に押し付けたと」


いや、どっから見てたんだよ。


そしてポルコは「誰が、豚だよ!」ってブフーと抗議している。


「ところが『豚野郎』は自分が盗んでいない。盗んだのは『ハルくん』だブーと鳴く」


……ちょっと?今、なんて?


「まあ、主張が真っ向からぶつかっているワケですな」


あの~、エルザさ~ん。


「私に言わせれば、犯人は明確です」


エルザさんは溜をつくった。


「そう、犯人は―――――」


そう言って、ポルコを指さす。


「お前だ!『クソ豚』!」


なんか、すっごく酷い呼び方。


「誰がクソ豚だ!ブヒー!」


ポルコもなんか、乗っかってるの?





僕たちはエルザさんにそれぞれ「ことの経緯」と「主張」を伝えた。


「はい。わかりました」


エルザさんはそう言って手を叩く。


「犯人は―――――お前だぁ!」


そう言って、またポルコを指さす。


「『残飯漁り』、君はハルがコレットに『結界石』を押し付けたと言うんだね」


「そうだよ……って、誰が、残飯漁りだ!」


「どうして、そう思うんだい?」


「ハルが盗んだ犯人だからだ。そして、断れない孤児院の子に押し付けたんだ」


「ほうほう」


ちょっ、エルザさん?なんで詰めたワインの瓶を開け始めるの?


あ~あ~、飲み始めた。


「うへ、味が落ちたってホントですね」とか舌を出している。


じゃあ、飲まないでよ。売り物なんだから。

熟成の前だしさ。


〈あの女、ヤバいわね〉


アンジェさんが囁く。


(僕も、そう思うよ)


〈いや、アタシは、「別の意味」〉


(ん?どういうこと)


〈ロッシェ、下手に刺激しちゃダメよ。命にかかわるわ〉


そう警告してくる。


何なんだろう。


「まず、行動に矛盾があります」


「それは、ハルが人目につく場所でお前に怒鳴り込んできたこと」


いや、呼び方。


「そんなことしなくてもコレットに場所を教えて、こっそり戻せば良いだけの話」


「わざわざ、『豚ミソ』くんのところに来る必要がない」


だから、呼び方。「豚ミソ」ってちょっと美味しそうだけれど。


ポルコも根負けしたのか呼び方にツッコまない。

代わりに言い訳を始めた。


「じゃ、じゃあ、そのコレットって子が嘘をついて!自分が盗んだってのを」


「おい、それこそありえないんですよ!『ゴミ箱』くん」


呼び方、どんどんひどくなってく……

そして、もはや生き物ですらない。


「その子がこの村に来たのは、『結界が壊れた』日の後でしょう?それも初めて」


「でも、前から知っていて、知らん顔で……」


「ここの結界石の配置や解除法を知っていたとでも?外部のその子が?」


ズバリと言った。


「それだけ凄い魔術師なら、孤児院になどいないで生計を立てられている」


「ほぅら、『肥溜転がり』の主張は『つじつまが合わない』」


もう、その呼び方やめてあげよう?ね?


「では、ポルコくんが……」


農園主がやっと、ポルコを疑い始めた。


ポルコは視線を受けてビクッと身を震わせた。


「あ~、そういうの、やめません?」


エルザさんが言った。


「そんなのでも、ここでは必要なんでしょう?」


エルザさんは目を細めて言う。


「犯人はだいたい『ソレ』でしょうけれど、糾弾しても意味がない」


いや、もう、物扱い!?って指示語でしか表してない。


「むしろ、ここで悪事を晒されるよりも、自分にも疑いの目が向けられているって思うことが大事」


「そうすれば、ヘタな真似はもうできないでしょう」


そして、酒瓶を呷ると僕を見た。


「それは、ハルも同じ」


そして、綺麗なアイスブルーの瞳で見つめてくる。


「義憤にかられるのはいいけれど、その後が手に負えないこともある」


「もう少し、思慮深くなるでしょう」


そう言って、酒瓶を傾ける。


「まぁ、『犯人』がどっち、ってよりも、さっさと『結界』直した方が建設的なんじゃないですかねぇ」


カラカラと笑って酒瓶を空けてしまう。


「やっぱ、前より味が落ちてますね」って呟く。


それから「ゲフゥ」と美女らしからぬゲップをする。


そして、ゆっくりと「ポルコ」に近づいてなにやら耳打ちした。


〈あ、あの女っ!〉


アンジェさんが悲鳴に近いような声を上げる。


ポルコは目を見開いて、急に震え出した。

エルザさんが離れると同時に喉を抑える。


そう、この時、僕は気づいていなかった。


エルザさんが、ポルコを脅していたことに。


「じゃあ、ごちそうさま~」


そう言ってエルザさんは手を振って去っていった。


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