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第86話 どんでん返しの裏で暗躍するあの人


攻城軍の本陣ではいつまでも陥落させられないことにいら立ちが募っていた。


一昨日前にハティ・アガートラーム・マクスウェルが合流した。


たった一人で3万の兵を蹴散らした魔人。

あれから一週間ほどであるから疲労もしていよう。


だが、先日の暴れっぷりを見れば楽観視もできない。


そして、その晩に打った会心の一手。

ある人物から事前に授けられていた策。


それも見事に退けられた。

……とんでもない悪臭という方法で。


一日を立て直しに費やした。


そのまま攻め入っても「臭く」て戦意を挫かれる。

交代制とはいえ、夜通しの夜襲を演出していたのだ。

不満の声は大きくなりつつある。


今日、ここで結果が出なければ撤退もやむを得ない。



物見台から戦況を見ていた指揮官のもとに伝令が駆け寄る。


「敵兵がこちらに向かってきます」

そう伝令が告げる。


「数はおよそ200騎。装備からティア・シュトゥーテ・フラインの隊と思われます」


この報告に指揮官は鼻で笑った。


「ハティ・マクスウェルの隊ではないのか?どこまでも驕ったものよ」


物見台から特攻を仕掛けてくる軍を確認できていたが、その指揮をとっているものまでは確認できていなかった。


(ならば、ハティ、バルドールが城の防衛か。確かにティアの隊は機動力に優れているが)


「迎え撃て。重装歩兵、ファランクス!構え」

指示に盾と槍を装備した歩兵が密集し、バリケードをつくる。


「防御魔術、【アイギス(盾)】を展開」


ティアの騎兵が突入してくる。

そのまま槍衾に突っ込んでくる。


本来ならば串刺しにされるところだが、一歩手前でティアが吠えた。


「【イージス(盾)】!」

先頭のティアを中心に魔術の盾が展開される。


「身体強化…魔力付加…頼んだぞ、相棒!」


その盾ごと軍馬で突進した。


「総員、突撃!―――軍技【馬蹄蹂躙ばていじゅうりん】っ!」


ティアが強化したのは軍馬の筋力とその蹄だった。


重装備の兵が連ねた盾が蹴破られる。


軍馬の数百キロの体重と筋力で襲われるのだ。

人間が敵うものではない。


防衛線を突破してティアが迫る。

守りを崩した後は人の力だ。


馬上にあって武器を振るい、血路を切り開く。

どこまでも斬り込んでくる。


「おおおおおおッ!」

ティアの声が響く。


一貴族の子女。文官の子供。

確かに文治に秀で、兵站の統制に富んでいたのは確かだ。

が、ここまでの武力があるとは敵は思いもしなかっただろう。


『黒金の鷹』『白銀の虎将軍』と呼ばれた主力級を欠いたこの状況。

たとえ『白狼』と呼ばれたハティ・マクスウェルが控えていてもだ。


強い。


その一言に尽きる。


女性のみと侮ってはだめなのだ。

彼女らは強いのだ。


知恵が回り、連携が強固なだけに難敵だ。


指揮官は防衛網が食い破られ、錐のように一点に穴をあけて進む騎馬軍を食い入るように見た。

予備隊を投入して防ごうとするものの、侵攻が止まらない。



予備隊全てを投入したものの、本陣近くでの混戦となった。


そして、辛うじてティアの侵攻を押し返した。


彼女の隊が馬首を返して去っていく。


追撃をかけようと司令官は手を挙げ、伝令を呼ぶ。


伝令将校が駆けてくる。

戦場では不思議のない光景。


「あの小娘の首を獲れ!城に逃げ込まれぬうちに追撃せよ」


言葉に片膝をついた将校が返事をする。

「ハッ」


しかし、次の瞬間だった。

片膝をついた姿勢から将校は物見台にいる司令のところまで一足で跳び上がった。


「な!?」

驚きの声を上げる間に、司令官の首は胴から離れた。



(さて、ここからどうするか)


ハティは物見台から周りを見渡す。

ティアたちははるか向こう、城壁近くまで去っている。


今は突然のことに多くの兵が動けないでいる。


(しかたあるまい)


「敵総大将!このハティ・マクスウェルが討ち取った。首級はここにあり」

首を掲げて声を上げる。


途端に怒号が響いた。

殺せ、殺せと怨嗟の声がこだまする。


ああ、いつぞやの。幼き頃より受けたこの責め苦。


今は腹の底から怒りが沸き上がる。


(僕が何をした、母が何をした、お前らは何をした……)


戦場で将を討ち取ったこの場ではそうかもしれないが、幼い頃のことを重ねて錯誤する。


腰袋に敵総大将の首を容れる。

あとは、怒りのままに暴れるだけ。


ここではもう、ハティ・マクスウェルという騎士は要らない。


腹の内に押し込めたものを吐き出すのだ。

「がああああああああぁ!」

獣の咆哮が上がる。



敵本陣で血しぶきが絶え間なく上がる。

敵は混迷の中にあった。


(そうだろう、敵の大将として私を獲りたいのと、自身の大将を殺したハティを討ちたいのと)


先にティアの追撃が始まったのだから大勢がそちらに向かう。

その後にハティの出現で、前後どちらに動いたものか。この大人数では混乱する。

指示を出す者はいない。

人数が多いということは簡単な判断と行動が困難になる。


(そこで、さらに一手)

横腹から喚声が上がる。


「な、なんで私がこんなっ、こんなことを!」

バルドールの悲鳴が上がる。

性格は偏屈。

しかし、彼は無能ではない。

すべてにおいて「並」なだけなのである。

浅くも広い知識。

平均的な魔力量ながらも工夫で乗り越える。


脳筋集団の「黒金の鷹」において、その魔術師は重要な「オールラウンダー」だ。


そのすべてを人並みにそつなくこなせるなど、別な見方をすれば万能な人物である。


そしてその能力はこのタイミングを過たず、敵の横腹に攻め入ることにも使われた。


一人で数千、数万の敵を引き受けていたハティには福音に見えた。


(あと、何時間も粘れというのかと)


では、城の防衛はどうなったのか。

そこにはジャンヌとコレットの姿があった。


「ジャンヌさんっ!東側壁面に敵がっ」

金色に光る瞳。

コレットが【高貴なる洞察ノーブルインサイト】で戦況を把握する。


そして、ジャンヌは事前に示された作戦通りに采配を振るう。

「東城壁に予備隊50の増援を」

「西はまだ薄くてもいい。交代で休ませろ」


指示の後にコレットがまたも告げる。

「南側、苦戦しています。敵も多いです」


即座にカンペを開いたジャンヌが紙面の内容を口にする。

「南壁面、予備隊100名向かわせなさい」

「北門からは兵を50下げる。前線のものだけ。20、30の順に」


矢継ぎ早に指示を出す。

そのすべてがティアから託されたカンペどおりであった。

(お、お嬢様!すごすぎですぅぅぅぅっ)

ジャンの手元には出陣前のティアから渡された「指示書」があった。


それは時系列ごとにまとめられた想定される事態が網羅されている。

そして、それの対処法がフローチャートで示されていた。


指示の時に発する要点にはマーカーがついている。

それをジャンヌはコレットの報告と照らし合わせて発するだけでいい。


敵兵の動き、自軍の動き。そのすべてが記されたとおりになっている。

(も、もはや【預言書】。尊い!)

よだれを垂らしながら、ハフハフと指示書を抱きしめる。



ハティは苦戦していた。


さすがに高所の指揮台とはいえ、四方から攻められるのを防ぎきるのは容易ではない。


さらに周囲には雲霞の如くいる敵兵。

休むことも、息をつく暇も与えてはくれない。


(これでは、ジリ貧。攻めに出るか)


太陽は中天に。


敵の陣容を割り開いてバルドールと合流する。

待っていても、彼の軍が到達できるかは知れない。

途中で潰されることも考えられるが、ただ待つよりはいいだろう。


(この敵の中を突破する力を)

剣を一閃。

群がってくる敵を一時とはいえ掃討した。


呪を唱えて印を切る。

風が吹いた。

(やるしかあるまい)


「天狗の秘術!飯綱いづな

周囲に真空の刃が放たれる。


裂雷さくいかづち火雷ほのいかづち

次いで雲が現れ、雷を落とす。


バルドールが攻め入っている方へ道を拓く。

「奴は逃げるつもりだ!阻め!」

敵の誰かが叫ぶ。


(そのとおりだよ!)

内心叫ぶと、指揮台のふちに足をかける。


(天狗の秘術!烏天狗からすてんぐ!)

敵がひしめくなか、跳び上がり、宙に体を投じる。


怒声を上げて敵は彼の体が躍り入るのを待ち構えた。

だが、そうはならなかった。


彼は宙を駆けている。


「と、飛んでいる」

誰かが言ったが、それを正す気はハティにはない。


斬り込んでくるバルドール隊まであとわずかだが、敵も仲間が被弾しないよう空に向けて魔術や矢を放つ。


それらをかわしながらハティは駆け抜ける。

(痛っ……たいなぁ!)

わずかに体を傷つけるのは無視した。


(抜けた!)


バルドール隊の上まで来ると、宙を駆ける術を解いて着地する。

「オウル殿!撤退をお願いします」

勢いのまま地面を滑るハティが叫ぶ。


「承知した!ハティ殿に馬を」

その直後だった。


森から鬨の声が上がる。

木立から、湧き出るように兵が殺到してきた。


「軍旗、確認しました」

バルドールの副官が叫ぶ。

「黒金の鷹…お頭が戻って来た!それに胸鎧ブレスト白銀虎エリーゼの姐さんも!」


「た、助かったぁぁ!」

バルドールが声を上げる。


そのあまりの暢気な言葉に自軍からは笑い声が上がった。


「ここまできて、死ねないな」

「逃げろ逃げろ!」

「バルドール様が助かったって言ったんだ」


先ほどまでの緊迫した雰囲気はどこへやら、一斉に尻をまくって逃げはじめた。


「殿は、私が」

ハティが言いかけるが、並走するバルドールが槍の石突で小突く。


「バカな真似はここまでにしてください。あなたが一番の重傷者です。やるなら、我々がやります」



ボロ雑巾のようになったハティをティアに引き渡す。

「さすがに、これは無茶苦茶だ」

バルドールの呆れ顔にティアは笑う。


「生きていて何より」

「……ティアの淹れた紅茶が飲みたい。あの、頭が痛くなるくらい甘いやつ」

ハティは言うなり意識を失った。


死にはしないだろう。ただ、体力を使い切っただけだ。


崩れるように膝をつくのをティアが抱き留めた。


「お疲れさま」

彼の頭に手をあて、優しくなでる。


(フライン卿?)

バルドールはその様子を見て何か言いかけたが、やめておいた。



その後は一方的だった。


城を取り巻く兵は総大将を失ったがために指揮系統も混乱し、瓦解した。


後ろから強襲したガレット、エリーゼによって蜘蛛の子を散らすように追い払われた。


それだけではない。

長い攻城によって疲弊していた攻城軍には余力がなかった。

物資も少なくなっていた上に挟撃を考えていた隊まで壊滅させられていたのだから、退くしかなかった。


ハティの活躍もあったが、何よりもティアの粘り勝ちである。



この様子を木の陰から見守っていた人物がいる。


「(ギリギリギリ……)ああ、あの女、ハティに触れるなんてぇ」

一見するとエリーゼと見間違う容姿。


エルザ・ジグニュール・ブライトガードだった。


(ハティがアンジェのところへ行っている間に、邪魔な女どもに嫌がらせをしてやろうと練った計画でしたのに)


(ハティがアンジェを救出して、ついでにアンジェの【煉獄】で私に掛けられた【従属の刻印】を消す。)


(その間、のうのうと領地を立て直しているエリーゼたちが困って泣きべそをかくように、別動隊を仕向けたというのに)


(まさかハティが戻るなんて)


(エリーゼとガレットを出し抜いて砦を包囲したまでは良かったのですが、まさか中二病がここまでやるとは思いませんでした)


そして、ホウッとため息をつく。


(でもでも、『私の旦那様』の雄姿が見られたのでぇ、これはこれで良しとしましょう)


(ボロボロのハティもス・テ・キ……うふふふふふ)

忍び笑いを漏らす。


「待っていてくださいね、『私の旦那様』。エルザは、ちゃあんと身を洗い清めてから、あなたの背後に寄り添いますからね(ハート)」


ジャガイモ仲間のみなさんへ


今日も1日お疲れ様でした。

世間では明日から三連休のようですね。


皆さんもひと息つけるのでしょうか?

まだまだ忙しいよ!という方は、その分「ヴィクトリー」なんです!頑張って下さい。


もちろん、お休みだったり、いつも通り過ごすかたも、です。


さて、明日からの3日間は投稿時間が変わります。

7:20と21:20となりますので、よろしくお願いいたします。(日曜日だけ7:30と19:20)


ぜひぜひ、次回もご覧ください。



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