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第85話 灯火(トーチ)を灯せ!兄妹の絆と「向き合う勇気」。




「コリガンっ、こっち」

「う、うん」

少女の声に応じてフードを被った少年が走る。


「ぅぁっ」

小さな悲鳴を上げて転ぶ。

手に持った資材を落してしまった。


「ご、ごめん……」

泣きそうになりながら少年が言う。


「いいからっ、拾って持ってきて」

起き上がった少年は資材を拾い上げて走る。


「とりあえず、ここでいいと思う」

青みかかった髪の少女は周囲を警戒しながら言う。



「ごめん……」

男が呟くと、意外そうな顔をする。


「はぁ?何言ってるの」

「だって」

「リムはここに運んでって頼んだの。コリガンは持ってきてくれた。何の問題があるの?」

「途中で落としたし……」


「落して困る物じゃなかったから良いの。時間にも間にあってる」

それでもうつむく男をめんどくさそうに見る。


「それ、やめて。どう思ってるか知らないけど、私たち兄妹は誰もバカにしてない。こうやって力を貸してくれて重い物を運んでくれているコリガンは頼りになる」

それからぺちっと軽く平手打ちする。


「コリガン王都に残った。落ち着いた後、教会に戻って私たちの帰る場所にいてくれた。だから、今日があるし、いろいろできた」

「僕はただ新しい何かをしたり、出ていったりする勇気がないだけなんだ」


「同じ場所で、向き合い続けるのも『勇気』なんだよ。コリガンはそれができるんだよ。手紙だって届けてくれてなかったら、今がなかった」


リムアンが息を吐く。


周囲の空気の異変を察したからだ。

「リムはこれからリムだからできることをするんだ。そうするために重い物を運ぶのはしたくなかった。でも、コリガン代わりにしてくれた。それだけで十分助かった。コリガンだって見つかったら殺されるかもしれないのに来ただけでも凄いんだ」


グスっと鼻をすする音がする。

「コリガン!ハティはコリガンのことバカにした?転んだらどうしてた?」

「うん…」

「手は差し伸べてくれるし、手をとるまで待ってくれるでしょっ、泣いてたらよしよしってしてくれるでしょっ、弱っちくてバカなリムたちを『だからどうした』って認めてくれるんだよ」

悔しそうにリムアンが言う。


「コリガンが自分のこと嫌いでも、リムも自分のこと嫌いでもッ、好きな人のために頑張ってたら、そんな自分をちょっとは頑張ってるって言えるんじゃないの!」


言い争う間に周囲の状況が変わってきた。

「トーチ(灯)を焚いたら消えないようにして。リムはそれを守るの。きっとここからは本気の持久戦だから」

ざわざわと闇夜の中でうごめく者がある。




黒い靄を纏った異形が群れを成している。

一様に彼女たちを凝視し、誘われるように近づいてきた。


「ぎゃぁぁぁぁ、きたきたきたぁっ」

リャナンが悲鳴を上げる。


「何やってんのよ、姉貴」

ルーダが辟易したようにため息をつく。


「だって怖いっ、ぐにょぐにょしてて気持ち悪いぃぃ」

「しっかりしろよ、姉貴」


「るーちゃぁぁん、おねがあぁい、ポケットから便利道具出してぇ」

「マジックバッグなっ!そんで、どうしてオレがどこぞの青タヌキみたいなことしないといけないんだよ!?」


「助けてぇぇ」

「助けてほしいのは、オレの方っ!」



「リムは上手くやってるかな」

「さあ、どうだろ」


「案外、あっさりだなアルス」

「うるさいな、スヴェン」


「悪い」


男二人。

アルセイスとスヴェンはトーチ(灯)を背に立っていた。

木材の骨組みに、魔力の光を放つ水晶が載っている。


「コリガンはいざっていうとき頼りになるよ。勇気があるんだ。だから任せられる」

「じゃあ、俺らが先にヘバるわけにはいかないな」

「そうだね」


「攻撃アルセイスだよりだからな……俺も木偶の坊っていわれたらそれまでか」

「エリーゼさんに気合入れてもらったでしょ、今からでもできることあるんじゃないの」

「だよなぁ」

「スヴェン兄さん、エリーゼさんのこと好きでしょ」


「おまっ……」

「みんな知ってるよ。それでフィン兄さんはアンジェさんね」

「こういう時に言うなよ、なんか縁起でもねぇ」

「いいじゃない、男二人なんだから。たまにはこういう話もしたいよね」


「アルセイスってさ、時々肝が据わってるよな」

「親父殿が『大丈夫』って言ってるんだから、慌てる必要ないよ」

「だよなぁ……『エルポイント』ってまだ生きてる設定か?」

「わかんない。だってあの人、気まぐれでしょ?」

「だよな。じゃあ、まあ、認めてもらえるように気張ろうか」

「そうだね」



「フィン兄ぃ」

「何だ?オーレ」

「大丈夫かな」

「大丈夫だろ」

「なんでそんなこと言えるの」

「大丈夫だからだよ」

「ふぇ?」


「親父ったら、酷いんだぜ」

フィンレーが頭を掻く。

「頭を下げて、俺らにトーチを敵地に灯してくれってんだからよ」

「うん、それは聞いてる。無茶苦茶だよね、『標的との距離感が掴めない』といって着弾点にいろってさ、殺す気かって思った」


「確かにヤバいよなぁ、そんで俺たちの力でアンジェさんのフォローもしてくれってんだから」

「撤退の合図出るまで寄ってくるのと戦わないとダメなんだよね……」

「それな。『たぶん来るのは人間じゃないだろうから』ってなんだよ、ホントに」


「助けてくれって頼まれたらさ、断れないじゃないか」

「ホントだよな。『誰も死なせない。一人でも死んだら僕も死ぬ』って言われたらやるしかねぇよ」


「本当に僕の仕込みで大丈夫かな。アンジェさんから貰ったっていっても急造でしょ?」

「そこは、ほら俺らみんな信じてるから」

「プレッシャー与えないでよね、自信ないんだから」

「それは俺たち全員そうだっての」



それぞれが違う場所。

それぞれが異なる思いを抱いている。

そんな中で、一様にため息をついた。


「まぁ、あとは、『ジャガーノート』に頼るしかないかぁ」



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