第84話 臭いよ冗談抜きで
壁内の北端へと急いだ。
アンドルは手近な仲間を起こして城門の守りについた。
ややあって、四方の門から花火が上がる。
ハティが小瓶を開けて砂状の薬を撒く。いわゆるスメリングソルトだ。
アンモニアの刺激臭がする。
ハティが風の魔術を使い、臭いを充満させる。
(いくぞ)
時計回りに駆けだす。
薬を散布しながら風魔術で広げる。
広い壁内を駆け続ける。
方々では「くっさぁぁっ!」という悲鳴が上がった。
非常の手段ではあるが、ハティが後で恨まれることになったのは言うまでもない。
一周する頃にはほとんどの住人や兵士が目を覚ました。
「クセェ!」「死ぬぅ」「鼻がぁっ、鼻がぁ……」
「風よ!」
ハティがさらに魔術を使い、旋風を起こす。
悪臭を巻き上げるのだ。
この古今類に見ない悪臭を放つ戦は、事もなく終わった。
城内に満ちる悪臭と、防備についている者を見て相手方も効果なしとして退いた。
(やっべぇ、くっせぇ……なんだ、この城……)
敵兵たちは一様に鼻を摘んで足早に去っていった。
本当に臭い一夜はこうして終えるようと――――していなかった。
◇
様子を見にハティがティアの部屋を訪ねた。
「ティア、入るよ――――」
ドアを開けて……すぐに閉じた。
(な、なんだ?何があった!?)
かの魔人が冷や汗をかいて扉の前で事態を把握しようと努める。
ギギギギギギギ―――
ドアが重い音を立てて静かに開く。
「……どうぞ、お入りください」
コレットがジト目でハティを促す。
「あ、いや、僕は遠慮しとこうかなぁ、なんて……」
逃げようとする彼を室内から呼ぶ声がする。
「ハティっ!」
「は、はぁい」
「来いっ!」
「はいぃぃ」
ティアの怒声に従わざるを得ずに、彼は恐る恐る部屋へと入った。
(ハル……一体何が……)
部屋の中央で正座をしているハル。
この世の終わりのような顔をして俯いている。
「ハティも座れ」
鼻栓をしたティアが命じる。
「はい」
素直にハティが椅子に座ろうとする。
「誰が、椅子に腰かけていいと言った?お前もそこのジャガイモといっしょだ」
「え、ぼ、僕は何か悪いことを」
言いかけたところを睨み付けられる。
「はいぃぃぃ」
ハルの隣に正座する。
それから、ティアが静かにハルを問いただし始めた。
「で、お前は私の部屋で何をしていた」
「い、いえ、何も……」
「嘘です。私は『視て』いました」
コレットの言葉にハルの体がビクッと跳ねる。
「何をしていた?」
「緊急事態でしたので、ティアさまに助けていただこうと」
「ほぉう……」
「嘘ではないですけれど、その後が問題です」
コレットが口を挟む。
「ちょっと、コレット、お願いだから少し黙ろうか」
ハルがコレットを黙らせようとする。
「嫌です!寝ている女性にイタズラしようとする『変態』に私は屈しません」
コレットが毅然と返した。
「なぁんだとぅ!?」
隣に座るハティが驚く。
「君って奴はっ、ただのスケベエ小僧だと思っていたのに……まさか、寝ているティアに」
「してません、してませんってっ!未遂で――――あ」
しまったとばかりにハルが口を押える。
「最低っ!」
コレットが叫ぶ。
「覚悟はできているな」
鼻栓をしたまま、睥睨するティア。
「は、はひぃぃっ」
震えるハル。
「―――こぉの、変態イモ野郎!」
左拳が見舞われる。
(で、伝説の左ストレート!)
ハティが戦慄した。
そう、彼女は左利き……しかも魔力を纏わせた光速の左ストレート。
過去、彼女を侮辱した者たち全てがこれによって撃沈した。
ハルは正座した姿勢のまま吹っ飛び頭から壁にめり込む。
その惨劇を隣で見ていたハティは身を震わせていた。
「ぼ、ぼぼぼぼ僕は、イタズラなんかしてませんよぉ」
「お前は臭いんだよっ!」
ハルと同じように殴られる。
そしてハル同様に頭から壁に生やされた。
(り、理不尽な……)
こうして、非常に悪臭を放った一夜が、本当に終わろうとしていた。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
一週間の折り返しに来ましたね!
祝日がお休みの方は明日1日踏ん張るとお休みですよ!
そうでない方々も、今日1日頑張ったのですから、「ジャガイモヴィクトリー!」です。
作中のハティさん、一生懸命頑張ったのに、壁から生やされました(笑)
皆さんも理不尽な目に遇わされることもありますが、一緒に頑張りましょう!
次回は我らが「ジャガーノート」の伝説が…
そして反撃の狼煙が上がる?
ぜひ、次回もご覧ください。




