第83話 ドキドキ寝室作戦~そして僕は男になる?~
ハティはもとよりティアを起こす気はない。
というより、ロリでもない彼女には興味がない。
城内を見回り、兵の駐屯場所に向かう。
寝ている兵の一人に喝を入れる。
「っ、あ?!」
目覚めた兵はあたりを見回す。
「今、どこにいて、自分が誰かわかるか」
短く問う。
これに頷いた。
「すまない。緊急事態だ、頼めるか」
詫びると同時に小瓶を手渡す。
「張り倒して起きることができる者を集めてくれ。どうしても起きない者はこの薬で起こしてくれ」
兵が黙って頷く。
「頼む」
言うが早いか、その場を後にした。
◇
城下に出ると寝静まった街が広がっている。
遠くで地鳴りのような足音が聞こえる。
侵攻が始まったか。
「アンタ、王国兵士か」
声がかけられる。
「そういうあなたは、冒険者だな」
「いかにも。元冒険者のアンドルだ」
「聞いた名だな。鉄紺のアンドル殿であっているか」
「古い名だな。今はその話は」
「ええ」
「名は?」
「ハティ・マクスウェル」
「白狼か」
「過ぎた名だ」
「この事態どうする」
「寝ている者を起こす。そして対処する」
「できるのか」
「気付け薬を皆に嗅がせるしかあるまいな」
「……?」
ハティが苦笑いする。
「これが、非常に臭い。それはもう嫌なにおいだ。顰蹙を買うだろうな」
言葉を区切ってさらに説明する。
「長時間嗅がせると体に害を及ぼす薬だ。短時間で使い、すぐに魔術で風を吹かせてかき消すしかあるまいよ」
何とも言えない顔をしてハティが言う。
「アンドル殿、力を貸してほしい」
「何なりと」
「使える者で城門を守ってほしい。内側から開けられないように」
「壁面はどうする」
「捨て置いて構わない。侵入されても無視していい。だが、門を内側から開けられることはあってはならない」
「無茶を」
「承知の上だ。だから30分堪えてくれ、それでこちらは皆を起こせる」
言うと、筒状のものを渡す。
「打ち上げ花火だ。城門の守備についたら上げてくれ」
さらに布を渡す。
「これで顔を覆ってくれ。とんでもない悪臭だから」
そう言ってハティは立ち去る。
◇
僕はティアさまの部屋を訪れた。
「ごめんくださ~い」
メチャクチャ緊張する。
そりゃそうだ。深夜に女性の部屋を訪れるんだから。
「ティアさま?」
扉を開けるとティアさまが体を起こしていた。
(あれ?睡眠魔術は?)
不思議に思って近づく。
ぼんやりとした顔で彼女が僕を見る。
まだ夢うつつ半ばの状態だ。
「大丈夫ですか、どこか痛みますか」
肩に手をあてて呼びかける。
髪がはらりと胸元に垂れた。
僕は無意識に目で追ってしまい、気づいた。
寝乱れて服をはだけている。
(う……)
なまめかしいその様子に息をのむ。
(気づかなかったけど、ティアさまも胸、おっきい……)
夜着を押し上げる膨らみにつばを飲み込む。
「ハティ……」
ティアさまが頬を赤らめる。
彼女はいったいどうしたんだろう。
「わたし……」
そっと目を閉じる。
「やっとあなたに気持ちが通じて」
少し頤をそらしている様子は、キスをねだるようにも見える。
「こんな気持ちになれたのは初めて」
(これは……いけない)
僕は自制心を総動員した。
確かにティアさまは綺麗で、かわいいところがある。
しかも今はエロい。
服がはだけていて、お腹が……
鼻血を吹きそうになる。
引き締まっている。無駄がない。
でも、とにかくそのラインがエッチぃ。
だが、しかし。
これはいけないのだ。
(誰だよっ、こんなことしてくれてんのぉぉぉぉっ)
知りもしない誰かを呪う。
据え膳喰わぬは男の恥とは誰が言った。
本当に彼女のことを思えば、状況に流された結果もっとも傷つくのは彼女の方だ。
他にもいろいろと問題がある。
本当ぅに、いろいろありすぎる。
(ねえ、ねえ、僕は男になるんじゃないのか)
悪魔(仮称ディアブロ)のささやきが聞こえる。
(ダメだよ、お前はまっとうな人間になるんじゃなかったの!)
天使(仮称アンジェ)がそう自分に問いかける。
目を閉じて何かを何かを待っているティアさまを前に、苦悶する。
(待っているんだから、恥をかかせちゃだめだよね)
そう、僕は「男」になるんじゃなかったのか?
どこかで暑苦しいオッサンが「それは『ヴィクトリー』じゃねぇぞぉ」って言ってる。
けれど、その幻影を無視した。
僕は意を決して顔を近づけ―――――
「ハティ……」
その言葉に我に返った。
最初から、彼女はあの残念魔人のことしか呼んでいない。
「ちぃぃぃくしょぉぉぉぉぉぉぉ!」




