表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/133

第64話 コリガンの「勇気」


僕は、アンジェさんとの面会を終えて教会に戻ることにした。

帰り際、アンジェさんが「気をつけて帰るのよ」って手を振っていた。

「また、会いに来てね」って。


なんだか切ない気持ちになった。


外で待っていたイグリースさん。

かなり不機嫌。


「用事は済んだようですね」

そう言って僕を見る。

あれ?なんで、僕なの?普通コリガンくんじゃないの?


それから僕にスッと身を寄せる。

「ふふふっ、あなたからちょっと香ばしい匂い……」

そんなふうに笑う。

いや、エリーゼさんと同じ顔で、そんな陰鬱な笑みって怖いよ。


「気をつけて帰るのよ。車の前に飛び出してはダメよ。急に止まれないから」


荷馬車のことを言っているんだろうけど、この人も大概に優しいよね。



「おい、アイツ」

「確か、孤児院にいる奴だよな」

「ああ、『みんなに嫌われてるヤツ』の……」

「ひひひ、きもぉ」

甲高い笑い声、癇に障る。


首都の荒廃は本当にここまで進んでいるのか、と思う。

商人の威勢のいい呼び声。

笑顔の市民。

それに混じって聞こえる悪意ある言葉。


全部、上っ面だ。

なんなんだよ、この荒廃ぶり。


貼り付けられた笑顔の裏で、どれもこれもが他人を蔑んでいる。


「ハル……僕から離れた方がいいよ」

コリガンくんが言う。

「なんでさ」

「だって、君まで嗤われる」

「お断りだね」

僕はキッパリといった。


「僕はコリガンくんの友達だ。君がいい奴だって知っている。だから君を笑うあんな奴らの言葉には腹が立つ。けれど、コリガンくんと離れる気はない」

コリガンくんがくっと口を引き結んだ。

「ありがとう」

「当然のことだよ。でも、どういたしまして」



僕は打ち合わせを兼ねて孤児院に入る。

ろくに掃除もされていない。

外からは貧民街のどぶ川から漂ってくる悪臭が流れ込んでくる。


「ああ、腹立つ!アイツら何なんだよっ」

僕は声を上げた。

「よってたかって君のことをバカにしてさっ、君が何をしたってんだよ!」

そう、議事堂でのやりとり、道行く人の心無い言葉。

王都ってこんなに荒んでいるのか。


「それに『みんなに嫌われてるヤツ』って、ハティさんのことだろっ、お前らなんかがよく言えるよなって思うよ」

「ハルもフィンたちと同じようなことを言うね」

「君はどうしてそう落ち着いていられるのさ」

「僕が醜くて、出来損ないなのはかわらないから」

……否定したくても、できない。

それはやっぱり口先だけになるから。


「それでも、君はこうしてここで頑張ってるんだろ」

僕は続けた。

「なんで、君はそんなに頑張れるの?我慢できるの?」


「僕は親に捨てられたんだ」

コリガン君が言う。

「こんな見た目で、グズでどうしようもなくて」

俯きながら言う。


「いっつも怒られて、バカにされて」

「憂さ晴らしに叩かれもしたよ」


「酷い……」

「戦で焼け出された。父親は戦死した。そしたら母親は僕が邪魔になったみたいで、すぐに追い出した。次の日には新しい男を連れて来てさ」

「僕は行く当てもないからその辺をうろうろしていた。けれど母親に『近寄るんじゃない。どこかに行け』って」


「そして僕は王都近くまで来たんだけれど、奴隷商に掴まったんだ」

そんなことが、あったのか。


「僕は売れ残りだったんだよ。奴隷でもなんでも買う奴はいなかった」

「だから、親父に助けられても、僕は、価値のない僕なんかは、どうせここでもどうでもいいんだって思ってた」


「でも、親父は違った。そんな僕に『べつにいいじゃない』って言ったんだ」

グスっと鼻をすする音がする。


「『なんで、特別でなきゃいけないんだ?一番でなきゃだめんなだろうね?生きてるだけでいいってさ、誰かが許してくれなきゃだめなのかな』って言ったんだよ」


「僕はみんなみたいにすごくない。頑張っても何やってもダメだ。でも、親父だけはそれでいいじゃないかって言ってくれた」


「僕が、ふて腐って寝てようが引きこもってようが『それはそれで』って許してくれたんだよ?」


「わざわざ釣りにひっぱって行って『ほら、僕だって一匹も釣れやしない。釣果ゼロのダメな奴なのさ』って笑うんだ。その後、僕が釣ったら『すごいや』って喜んでくれて」

コリガン君が笑う。


でもすぐに暗い顔になった。

「コリガン・マクスウェルは出来損ないだ。でも、親父のことを尊敬しているのはみんなと変わらない」


「親父さ…僕に言ったんだ。『コリガン、僕のことを憶えていてくれるか』って。なんだよそれ、遺言みたいで嫌だったよ。でも、その後腕を失って、死にそうになって、帰ってきたと思ったら、追放されてみんなにバカにされてさぁっ」


コリガン君が泣く。

「あんまりだよっ、あんまりじゃないかっ!僕の親父だよ?僕を、こんな僕に優しくしてくれた人なんだ……なんで、みんなはそんな酷いこと平気で出来るんだよぉ」


「親父はこんな僕も見捨てなかった。醜くて、泣き虫で、根性なしで、逃げてばかりの弱い僕にも普通に話しかけて、話も愚痴も文句も聞いてくれた」


「せめてさ、こんな僕でも、僕を信じてくれて、優しくしてくれた人のためになりたいじゃないか。そうしたらさ、ちょっとは自分を許せるっていうかさ」

僕は彼の気持ちが痛いほどわかった。


僕たちは同類なんだ。

「戦う力はなくたって、荷物運びくらいならできる。グスでのろまでも、物を運んだり、誰かの代わりに死ぬことだって――――」


「それはダメだよ」

僕は言った。

「簡単に死ぬって言葉使わないで。僕は生きていてほしい人がたくさんいる。君のことだってそうだ。それに、ハティさん、きっと悲しむし、怒ると思う」


「そうかな」

「絶対にね。君に何かあったら国が滅ぶよ」

僕の言葉にコリガン君が笑う。

「そっか、親父は怒ってくれるんだね」って。


「当然すぎて想像できるくらい」

そう言ったら笑ってくれた。


ああ、そうだよ。

笑ってくれよ。

心から笑えなかった僕が、エリーゼさんや、フィンたちみんなに出会って笑えたように。


皆さん、日曜日の夜、いかがお過ごしですか?


明日からお仕事(学校)という方もいるかもしれません。(もちろん、今日もお仕事の方も)

ああ、明日からまたダルいなぁという方。

明日、一歩でも踏み出すことができただけでも「ヴィクトリー!」なんですよ!


作品はシリアス回が続きますが、次回は「アンジェからの手紙」です。

これ、私から皆さんへの手紙でもありますので、ぜひご覧下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ