第63話 これって戦記物だった?~再臨の白狼。黒鷹の強襲~
雪の積もる平原をひた走る兵団。
“猟犬”と呼ばれる兵団。
共和政府の抱える尖兵部隊である。
3年前の叛乱時にも活躍したこの部隊は軽騎兵を主要戦力としている。
「はぁっ!」
馬を鞭打ち、鐙を鳴らして走る兵団は勇壮である。
これから一戦交える相手。
旧王家のなかでも随一と言われた敵への戦意を漲らせている。
「むっ!?」
進行方向、白い平原の真ん中に一つの影がある。
遠目には立ち枯れた木の幹か岩のように思っていたソレは人の形をしていた。
疾走する軍馬の一団を見て微動だにしない。
「どけ、どけっい!退かねば踏みしだくぞ」
先頭を駆ける兵士が叫ぶ。
地吹雪が白い幕を広げる。
一瞬、雪煙に紛れた一人の人間の姿がかすみ、白い狼の幻影を見せる。
不敵な笑い声が響く。
「その軍旗、ドラグブラッケと見受けた」
静かだが良く通る声。
降り積もった雪にも勝る白銀の髪の男。
男はゆっくりと右手を差し伸べる。
瞬間、軍馬がいっせいに慄き制止を始める。
「どうっ、どぅ!」
慌てて馬を落ち着かせるが、怯えて別な場所へと逃れようとする。
それを尻目に男は続ける。
「名高き猟犬よ、その首、貰い受ける!」
耐寒用のマントが跳ね上がる。
右手は銀に光る金属の義手に変じていた。
「【氷結の槍兵】!」
右拳を地面に打ち付ける。
兵団へ向かい地吹雪が襲い、その雪煙に混じって刃のような氷柱が飛んでくる。
「がぁっ!」
混乱と苦悶が同時に一団を包む。
何もない平原の中で敵襲を受けるなど想定できようか。
たった一人の歩兵が放った一撃。
それが騎兵の突撃のような氷槍として襲ってきたのだから。
前方の混乱が波及する。
怒号が響き、指揮官が伝令を呼ぶ。
「なにがあった」
「敵襲です。前方、正面より魔術の攻撃。敵は歩兵一人」
「ばかな、他に敵影は?」
「それが……」
言葉は続かなかった。
突然雄叫びがあがり、雪原の丘陵から毛皮を纏った騎兵が突進してくる。
「蛮族!?奴らがどうして」
疑問を投げかける間に巧みな騎馬操術を誇る異民族の騎馬隊が迫った。
湾曲した刀剣を振りかざして猟犬の横腹に噛み付いてくる。
瞬く間に乱戦となった。
そのなかで一頭の空馬を連れた騎兵が、駆け抜けていく。
「っらぁ!」
騎兵は黒く重厚な鎧を身につけ、身の丈ほどもある大剣を振り回した。
猟犬たちをことごとく切り倒していく。
「アガートラームっ!」
先ほどの歩兵のところまで馬を進める。
疾走する勢いをそのままに駆け抜けるのを横目で確認した歩兵――
ハティ・アガートラーム・マクスウェルは大きく跳躍した。
その尋常ならざる脚力で駆け抜ける馬の背に飛び乗る。
「さすが、見事な差配だ。ガレット」
「オマエもよくやるものだ」
黒衣の騎兵こそ旧王家時代、戦場の覇者とうたわれたガレット・グランハートである。
両頬の傷と無造作に撫で付けられた黒髪。
身の丈は二メートルにも及ぶ巨躯は、獣じみた凶暴な闘気を発している。
馬を駆り、並走する二人は互いの無事を確認すると馬首を返して戦列に戻る。
「我らが安寧を破る破壊者だ、友よ、容赦するな!打ち砕け!」
ガレットが吠える。
応じて一際高い声が上がり、異民族と呼ばれる騎馬兵たちの攻撃が苛烈さを増す。
ガレット自慢の大剣が暴風のように周囲の敵を巻き込み、弾き飛ばしていく。
次いで駆けるハティは槍を手に馬上から巧みに敵を突き崩し、叩き落す。
混乱の最中の乱戦。
ふたりの英雄によって、「猟犬」たちは追い散らされた。




