第60話 「活人剣」と「殺人刀」と涙の別れ……さらば、タカハシさん(五号機)
夜の広場は暗く、静かだった。
〈すんすんすんすん―――――〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんは、僕の胸で鼻をすすっている。
いや、さめざめと泣いているのだ。
〈ロッシェ~、アタシ、どうかしていた〉
いや、いいんだよ。
〈他の男に、気を取られるなんて〉
それは良くないけれどさ。
〈でも、改めて誓ったの!『ロッシェ』に一生!いえ、未来永劫憑いていくって!〉
ハッハッハッ!おおげさだなぁ、「アンジェ」さん。
愛で星が落ちてくるレベルじゃないか!
こちらこそ「バッチコーイ」だよ?
そんな「愛の確認」をしてる中で、ハティさんたちの準備は進んでいた。
「ハル君のお母さん、すみませんが協力してくださいね」
そう言って母さんを立たせる。
ハティさんは1メートルくらいの木の棒を持って母さんを背にした。
「ルーダ、遠慮なくやっていいよ」
「わかった」
ルーダがボウガンを構える。
あれ、なんか変な形。引き金がなくて横にハンドルがついている。
それに、ボウガンの上に箱が載っている。
「じゃあ、親父、いくよ!」
ルーダがハンドルを回した。
矢が飛び出す。
……ってどんどん出てくる。連射式ボウガン?!
一発でも矢なんて防げない。
あんなもの防げるわけがないって、あ、盾の魔術を使うのか。
そう思っていたら違った。
なんと、ハティさん、棒で矢を叩き落としている。
あまりに速くてよく見えない。
魔人アガートラームって呼ばれるだけのことはある。
今度はルーダが移動をして違う方向から母さんを狙う。
けれど、ハティさんは射線の間に立って防ぎ続ける。
それだけじゃない、徐々に距離を詰めている。
近づけば近づくほど対応し辛くなるだろうってのに。
矢がきれるのを待っているんじゃないの?
そう思ったとき、ハティさんの姿が消えた。
いなくなったら母さんが撃たれるじゃないかっ!
でも矢は飛んでこなかった。
ルーダの手元が棒で抑えられて、上に向けられている。
それからくるんと棒が回転してボウガンが手から離れる。
ついでとばかりにハティさん、少し腰を落とした。
柔らかく円を描くような腕の動き。
それに合わせるようにルーダの身体も一回転した。
ふわっ―――――
地面に着く前にハティさんが引き上げたのか、脚から着地する。
それからゆっくりと座らされる。
「どう?痛くないだろ」
ハティさんが言うとルーダが呆けたように頷く。
「じゃあ、もう一回ね」
そう言ってさっきと同じように母さんを背にして立つ。
「ルーダ、いつでもいいよ」
ルーダが頷いてまた矢を放った。
けれど、二の矢、三の矢が放たれる前にバキッという音がする。
ルーダの手元にあったボウガンが真っ二つに斬られていた。
ハティさんの仕業だ。
すでにルーダの目の前にいて、棒で本体部分を斬ったんだ。
え……棒で?斬る?
それからルーダの首筋に棒の先を突きつける。
彼女は動くことすらできなかった。
けれど、ふと我に返って叫び声を上げた。
「ぎゃああああああああ!オレの『タカハシさん・五号機』があぁぁぁぁ」
「あ……」
ハティさんもしまったとばかりに口を開けている。
「親父のばかぁぁぁぁぁ」
ルーダが号泣する。
◇
「えっと、わかったかな?」
ハティさんが僕に問いかける。
何が「わかった」って?
あなたの人外っぷりですか?
ちなみにルーダはさめざめと泣いて「嫌い、嫌い」って呟いている。
ハティさんもその度に「ごめんよぉ」って泣きそうだ。
「えっとね、最初のが『活人剣』。誰も傷つけないヤツ」
ああ、確かにルーダも怪我してないし。
「で、最後のが『殺人刀』。壊したり傷つけたりするのが目的のヤツ」
ルーダが声を大きくしてまた泣き始めた。
うん、傷ついてるね。
「それでだね。ハルはどっちが良いと思う?」
「えっと、どっちも凄いけれど、最初の方がどっちかっていうと」
「そうだよね。最後のは君のお母さんを守れても誰も幸せにならない」
ハティさんも凹んでいる。
自分でしでかしたとはいえ、なんだろう、このダメ親父感。
「僕たちはどちらかっていうと『殺人刀』なんだ。でも、ハルならきっと『活人剣』を使えるようになると思ってるんだよね」
え?僕もあんなことできるようになるの?
「君は誰かを傷つけたり、血を流させたりって嫌だと思うんだ。だから、ね」
「できるんですか、僕に」
「簡単じゃないよ。とんでもなく時間がかかる。だいたい何もないところからのスタートなんだから何年もかかるだろうし」
そうだよね。
「でも、できるって僕は信じている」
ハティさんはまっすぐに僕を見て言った。
「姉上から聞いた。君がどれだけ優しくて辛抱強くてひたむきなのかを」
「それに」と呟いて僕の持つ【土寄せ棒】、「アンジェ」さんを見た。
「いや、なんでもないよ」
そう言ってハティさんは不敵に笑った。
皆さま、毎日「ヴィクトリーー!」です。
1日1日を生きている皆さんは、それだけで素晴らしいのです。
嫌なことはみんな「薄い本」の「カップリング」のネタにしちゃいましょう!
嫌なセンパイと嫌味な上司が...とか、ね。




