第61話 動乱 ~エルザさんの正体と仲間たち~
翌朝、僕たちは朝から騒がしかった。
「えええ?!なんで誘ってくれないのっ、おとうさんの技見たかった」
「そうだぜ、俺は親父の一番弟子なんだから、それを差し置いて」
リャナンとフィンレーが詰め寄ってくる。
ちなみに一番騒ぎそうなリムアンは朝が弱いのでまだ半分寝ている。
「そうですよっ、ハティの雄姿を私も見たかったです」
エルザさんが叫ぶ。
なんか、時々口調が違うんだよね。
騒ぐ僕らをよそに、ハティさんこと残念魔人さんはルーダに謝り続けている。
「ルーダ、本当にごめん。直すの手伝うから」
「親父は作れないだろ」
「簡単な機構なら―――」
「簡単じゃないっ!」
ルーダがさらにへそを曲げる。
「ああああ!そんなつもりじゃないんだぁ」
朝起きた時からこんな感じ。
「そうだっ、新しいバッグを買ってあげよう。ルーダ、マジックバッグ欲しがっていただろ?『タカハシさん』の弾倉に使えるって」
あ……物でご機嫌とる作戦に出た。
「バッグ」っていかにもお年頃の女の子って感じがする。
けれど、用途がルーダらしい。
そっぽを向ていたルーダがぴくりと反応した。
まあ、とんでもなく高価なものだからね。
そして、手ごたえありと見た残念魔人さんことダメ親父ハティさん。
「今度さ、アダマンタイト採ってくるよ。それともオリハルコンがいいかい?」
いや、神話級の鉱物ですよ、それ。
「……ほんとう?」
恨みがましい目でルーダが見る。
「もちろんさ、何だったら今からでも取りに行ってくるよ」
かなり食い気味にハティさんが言う。
「約束だからな」
「うんうん」
何だろうなぁこのやりとり……
〈フッ、まだまだね〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが鼻で笑う。
〈物で釣ろうなんてのが、そもそもダメなのよ〉
あ、そういうものなんだ。
〈プレゼントとか物じゃなくて、「気持ち」を言葉にして贈るのが「愛」なのよん〉
……そっかぁ
僕はちょっと考えてしまう。
早く渡したくって持っていた物。
う~ん、「彼女」が喜んでくれると思ったんだけれどな。
〈どうしたの?ロッシェ〉
「アンジェ」さんが尋ねてくる。
「うん。実は……」
彼女のための「プレゼント」を用意していた。
いつも僕といっしょにいてくれる「アンジェ」さん。
ピンチの時も彼女のおかげで何とかなっていたんだもの。
「オルジュの街」から戻ってきてすぐに、「ギース親方」に僕は注文していた。
支払いは「ダンジョンアタックの報酬」。
昨晩のバタバタで渡せなかったから、「今朝」渡そうと思ったんだけれど。
油紙に包まれていた「物」を取り出した。
〈っ!?〉
「アンジェ」さんが息をのむ。
僕が取り出したのは、「半円状」の金先。
まん中に「リング(?)」みたいな穴が空いている。
そう、「草掻きホー」のパーツだ。
〈ろろろろろ、ロッシェ!これってっ!?〉
「うん。君に似合うと思って……」
〈ハッハッハッハッ……〉
「アンジェ」さん、ちょっと過呼吸気味。
〈り、リング……金先のリング……〉
「嵌めてみてもいいかい?」
〈うん……〉
僕はそっと「アンジェ」さんの(指)先に「金先」を嵌めていく。
〈うっひゃーー!『エンゲージリングっ』!〉
「アンジェ」さんが叫ぶ。
「やだなぁ、気が早いよぉ」
そんなつもりじゃなかったけれど……
「そうです!まだ早いと思いますっ」
急に声が上がった。
〈へ?〉
「え?」
僕は声の主を見て驚いた。
コレットが隣にいる。
みんなも何事かと見ていた。
「そそそ、そういうのは、子供にはまだ早いと思います」
「まずは、ちゃんと『交際』してからじゃないとっ!」
一生懸命な顔。
「『交換日記』とか『お散歩』とかいろいろあってからじゃないと……」
って、何でコレットが?
〈もしかして、この子……アタシの声が?〉
アンジェさんが言いかけた時だ。
「ねえねえ、ハティぃ、お姉ちゃんにはなにかお詫びはないの?」
何ともワザとらしい大きな声でエルザさんが僕たちの間を抜けていった。
「え?姉上には何もありませんよ」
「んまっ、酷い。遅めの反抗期なの?お姉ちゃん泣いちゃう」
「なんですか、それ」
戸惑うハティさん。
エルザさん、急にどうしちゃったんだろう。
……ん?ちょっと待って。「お姉ちゃん」?
「エリーゼさん、親父困ってるから勘弁してやってよ」
しつこく絡む「エルザ」さんにフィンレーが割って入る。
……なに?「エリーゼさん」?
「ちょわぁっ、弟とのラブラブタイムを邪魔するなっ、クソガキがぁ」
フィンレーがチョップされる。
……ハティさんが、「弟」?
…
……
「えええええええええええ?!」
僕は絶叫した。
「え、エリーゼ・カナン・マクスウェルぅぅぅ!?」
驚愕のあまり、エルザさんを指さしたまま固まってしまった。
「……おい、ハル」
いつの間にかハティさんが後ろにいた。
「僕の姉上を呼び捨てにするな」
頭を掴まれる。あ、ヤベェ、殺される。
そんな僕を尻目にエルザさんことエリーゼ様はいやんいやんと身もだえしていた。
「やだぁ、ハティったら『僕の姉上』だなんてぇ」
驚愕の事実を知り、愕然としてる僕。
さっきエリーゼさんにチョップを食らったフィンレーは頭を抱えてうめいている。
そんな喧騒をよそに朝の酒場(モーニングの時間です)で客が噂話をし始めた。
一見して傭兵か盗賊の類ととれる男たちの会話が耳に入る。
「……おい、とうとう始まったぜ」
「ああ、団長はどっちにつくんだろうな」
「まあ、俺としては共和政府についた方が利口だと思うがね」
「だが、黒鷹には五年前に世話になったとかいうだろ」
「おいおい、義理なんざ一銭の得にもならないぜ」
それを一瞥し、エリーゼさんはカウンターでグラスを磨いている店主の前に立つ。
「ちょっと、ご主人。伺いたいことがあるんだけれど?」
「なんだね、お姉さん」
「向こうの席で噂をしているみたいだけれど、黒鷹の剣士がどうかしたの?」
「おいおい、今、何が起こっているのか知らないのかい?」
「え?」
「始まったんだよ、とうとう」
「まさか」
「戦さ、最後の」
悪い予感は的中した。
「共和政府が痺れを切らしたのさ。いつまでも列席しないで独立自治を貫くエーレンブルグに侵攻を始めたのさ」
「ここでエーレンブルグを傘下に入れれば共和政府は磐石だからね」
「“真紅の盾”と“金の軍靴”を味方にしているって話だ」
「“十字の騎士”は行方知れずで、死んだという噂もある」
「残る“銀の右腕”だって数年前に王家を追放されてどっか行ってしまったんだ。そんなやつらに加勢するわけもなし」
「ならば、残る英雄 “黒鷹”さえ押さえれば、あとは逆らえる力のあるものはいないというわけだ」




