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第46話 時間だよ、全員集合……ってオバサンは死亡フラグ




「……ここ、本当に安全なんですか」


コレットが呟く。


岩山をくり抜いた街。

そこまでは良いが、道にはガラの悪い連中がたむろしている。


「そうよ。こういうところだから、逆に、ね」


宿屋に入る。


「二人泊まれる部屋、空いてる?」

「空いているよ」


新聞を読んでいた男がカウンターから気のない返事をする。


「一人、一晩いくら?」

「銅貨4枚だよ」

「あら、相場より高いわね」

「どこの相場だよ。うちはセキュリティーがしっかりしているんだ。嫌なら他所に行きな」


エリーゼは小さく笑う。


「子連れでも冒険者よ」

「それならたくさんいる、うちのお得意さんの一人だね」


この言葉にエリーゼがため息をついた。


「私の負けね、二人分だから8枚?。相部屋割引はしてくれないの」

「そんなのしないよ」

受付の親父はにやりと笑った。


「あら、残念」

エリーゼは銅貨8枚を受付に渡す。

そして笑った。


「2階の一番奥の部屋だよ。これ、鍵ね」


受付の親父もニヤリと笑った。


エリーゼは鍵を受け取り、部屋まで行く。


部屋のドアを開けた。


ベッドが二つ。

テーブルが一つと椅子が二つという部屋である。


だが、見るからに清潔で、シーツも新しいもの。

寝床は干し草ではない。


「けっこういい部屋じゃない」


そう言って中を探る。


「問題なさそうね」


言って椅子に座る。


「夜通し歩いたから疲れたでしょ?好きなベッドを使っていいから寝ていていいわよ。起きたらご飯食べに行きましょ」


コレットはエリーゼの言葉に頷き、ベッドに向かう。


自分の荷物を足元に置くと、そのままベッドにもぐり込んだ。

疲れから睡魔にさそわれるまま瞼を閉じる。




少ししてコレットが目覚めると、エリーゼが徽章を見ている。


「?」

いつになく考え込んでいる様子に不思議に思った。


(やっぱり、政府の徽章。しかも、魔族の術式が込められている。アイツら、私たちを追い出しただけじゃ満足できないのね)


エリーゼがコレットに気づき、目を向ける。


「少しは疲れがとれた?」

「あ、はい」


「じゃあ、ご飯を食べに行きましょう」

「先生、何を見ていたんですか」


「ん?ああ、襲ってきた奴から奪ったものよ」

「そうですか」




酒場で食事を摂っていると、黒髪の女性が近づいてくる。


「あの……」


まだ年若い、十代後半といった女性である。


躊躇いがちにエリーゼを見ている。


エリーゼは一瞥すると険しい顔をする。


「あの、エリ――――」

「エルザよ。お嬢さん」

言いかけた言葉を遮るように名乗る。


「あ、エルザ…さん?お久しぶりですね」

「久しぶり?どなた?私は知らないんだけど」


「リャナンです。リャナン・シー・マクスウェル」


「ぁあん?」


『マクスウェル』と名乗ったときエルザが凄む。


「あ、いえ、すみません。リャナン……ですぅ」


リャナンと名乗った女性は泣きそうな顔をしていた。


「憶えていませんか?孤児院の」

「だから知らないって言っているでしょ。人違いじゃないの」


「ううぅ……」


目じりに涙を溜めている。

コレットはちょっとだけかわいそうになってきた。


「あの、先生。忘れているだけってことは」

「ないわね。知らない。だから話しかけないでほしいわ」


とりつく島もなく言い切った時、しゃくりあげる音がする。


「え?」

コレットが見ると、リャナンがボロボロと涙をこぼしていた。


「うぇ、えっく……」

これにはエリーゼも苦い顔をした。


「うえぇぇぇぇん」

ついに声を上げて泣き出した。


「おば、おばさまが苛める。おばさまがいじわるするぅぅぅ」

「だれがおばさんよ!このクソガキ」


なおも声を上げて泣くリャナンに周囲も何事かと注目し始めた。


「わかった、わかったわ。ほんっと、腹の立つ子ね。あなたのことは憶えているわ」

「ほんとですかぁ」


「憶えているって言っているでしょ。弟が面倒を見ていた、あのリャナンでしょ?王都の孤児院の」

「そうですぅ、なのに、なんで無視したんですかぁ」


「うるさいからよ。あと、私はエルザね。いい、エルザさん。復唱しなさい」


「え、エル……」


「省略しない!」


「声が詰まっただけなのにぃぃ」

またもやリャナンが泣き出す。


「ああ、あの、リャナンさん。落ち着いてください。先生も悪気があってのことではないと、そう思うので」

コレットがなだめにかかる。悪気しかないとは思っているがあえて言わない。


「ううぅぅ、こんな小さい子に慰められるなんてぇ」


ぐすぐすと鼻を鳴らす。




少し落ち着いてきたようだ。

その様子を見てエリーゼが深々とため息をつく。


「あの、リャナンさん。まずは掛けてください。私、リャナンさんとお話したいなぁ」


コレットが愛想笑いをしながら言う。


「なんていい子なのぉ、お母さんに似なくてよかったねぇ」

「失礼なガキね」

エリーゼが忌々し気に言う。


「あ、あのぉ私は先生の子供じゃないですよ?」

「ふぇ?」

「いいから、そのままでいるのも悪目立ちするから早く座りなさい」


首をかしげるリャナンに座るようエリーゼ、ことエルザが促す。

鼻を鳴らしながら座るリャナンに「あなたも何か頼んでいいわ」とエリーゼが言う。


給仕を呼んで、飲み物を頼む。


「コレットは孤児院にいたのを私が引き取ったの」


言葉にリャナンがコレットの顔を見る。

同意を示して頷いたのを見ると、彼女はがっしりと手を握ってきた。


「私と同じ。仲良くしようね、コレットちゃん。従妹になるのかな」

「あなた、図々しいわね」

エリーゼが言うが、リャナンは気にしない。


「コレットちゃんって呼んでいい?」

「はい。リャナンさん」


「かわいい、コレットちゃん。お姉ちゃんって呼んでもいいわ」

「いえ、それは」


「そお?ん~、ねえ、エリ…エルザさんに苛められてない?」

「え?いえ、ぜんぜん」


「本当?エルザさん私たちに意地悪だから。辛かったら私たちと一緒に来てもいいんだよ」

「本当に大丈夫です。先生、私をとても大切にしてくれるので」


先ほどまでギャンギャン泣いていたのににこやかにコレットと話している。

感情の振れ幅が大きいのだろうか。

コレットもリャナンの嘘偽りのない好意に驚いている。


「あの、他の方もいっしょにいるんですか」

「うん。ここで待ち合わせているんだ。もうすぐ……あ、噂をすれば」


酒場に数人の男女が入ってくる。


「あ、リャナン」


リャナンに気づいたその集団は、その向かいに座るエリーゼを見て硬直した。





エルザさんだ。


隣にいる子は……コレット!?


栗色の髪はそのままなんだけど、めちゃくちゃ可愛くなってる。

あっ、ハンナから貰ったリボン。まだしてくれてるんだ。


何か月かぶりの再会。


エルザさん相変わらず美人だなぁ、でもなんか不機嫌そう。


喜んでいる僕に反してみんなはなぜか怯えていた。


「ああぁ……」

よくわからない声を漏らして冷や汗を流している。


「あぁん?何?」

エルザさんが不快そうに見る。


視線を受けて5人は駆け足でテーブルまで来る。

全員が直立し、頭を下げた。


「お久しぶりです。おばさま!……へぐぁ!」


言った途端、先頭にいたフィンレーが張り飛ばされた。


「だれがおばさんじゃぁ、このクソガキども」


「あわわわわわ」

床にころがるフィンを見てコレットが慌てる。


「え、エリ――」


「エルザさん!エルザさんなんだよねぇ~」


スヴェンが言いなおそうとしたところを、リャナンが割って入る。




床で伸びていたフィンレーを僕は介抱した。

ここまでの旅で、フィンがめちゃくちゃ強い冒険者だったって思い知らされた。


けれど、それを一発でのしちゃうエルザさんって。


「あらためて自己紹介です。私はリャナンです」


「俺はフィンレー」


はじめましてのコレットに自己紹介を始める。


フィンレー…頬が腫れている。痛そうだなぁ。


「スヴェンだ」


「僕はアルセイス」


あれ、アルセイスが名乗ったらエルザさん微笑んでいる。

もしかして面食い?


「で、こいつが」

最後まで名乗らないで不機嫌そうにしているリムを指す。


「……リムアン」

リムは呟くように言った。

はじめましての人には毎度こうなんだよね。


「俺たち冒険者をやっているんだ。『魔狼騎士団フェンリルナイト』ってクランをつくって活動してる」


フィンレーが説明した。


「フィンがリーダーで、私がサブリーダーなの」

リャナンが補足した。


「アタッカー(攻撃役)がフィンとリャナン。タンク(防御役)がスヴェン。ブロッカー(防御役)兼サポーター(補助役)でリム。ヒーラー(回復役)兼バックアタッカー(後方攻撃役)が僕だよ」


アルセイスが言葉を継いで言う。


「そして、我らがルーキーのハル君!」

アルセイスが大げさに僕を紹介した。


「ど、どうも」


「あ、憶えてます。バクス村の人ですよね」


「う、うん。憶えていてくれたんだ」


「はい。あの時はとっても、その、ありがとうございました」


「いや、いや、いいんだ」

なんだか恥ずかしいな。


「あれあれぇ?ふたりってばぁ、なに、そういう感じのご関係?」

リャナンがニヤついて僕らを見比べる。


「ちがうよっ!リャナンが思ってるような関係じゃないって」

僕は慌てて誤解を解こうとする。


「そうっ!ぜんぜん、違う!」

さっきまで黙っていたハンナまで乱入してくる。


「あっ!ハンナさんっ、私、貰った『リボン』宝物にしています」

そう言ってコレットが髪の房に結びつけている「黄色い」リボンを見せた。


「ふぅわわわわわっ!」

変な感動の声を上げて、ハンナが固まった。


「もうぅっ!ウチの子になってっ」

そう言ってハンナがコレットに抱き着いた。


コレットが元気そうで良かった。

エルザさんとも会えてよかった。


でも、僕は何もしていない。


本当に、僕はこの子に何もしてあげられなかったんだ。


〈ロッシェ、大丈夫?〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが尋ねてくる。


ほんと、アンジェさんは、僕のことよくわかっている。


リャナンは先ほどからコレットと手をつないでいた。


「他のはどうしているの?」

エルザさんがフィンに聞いた。


「あ、はい。コリガン、オーレ、ルーダの三人ですね。あの子たちは戦いに向かないので、冒険者じゃなくて生産者になりました。技工士とかです。元気でやっていますよ」


「そ、よかったわね」


「お……じゃない、『エルザ』さん。1年前はごめんなさい」


リムアンが謝る。


ん?ああ、前に「おばちゃん」って呼んで怒らせたっていうあれか。


「いいわよ。お酒、1杯ごちそうしてくれたら忘れるから」


その言葉に皆の表情が緩む。

態度のわりにはみんなのこと思ってくれているのがわかったからだ。


リムアンはいそいそと給仕の人にお酒を注文する。


「ルーダもこの街にいますよ」

「ギース親方のところです」

フィンたちが説明する。


エルザさん、お酒を飲みながら「じゃあ、安心ね」なんて言っている。


「で、なんでハルまでいるの?」


エルザさんが僕を見る。


「実は――――」




事情を説明した。

エルザさんは唖然としていた。


少ししてから「そう、か」と呟いた。


エルザさんがスッと手を伸ばしてきた。


両手で僕の顔を包むように手をあててくる。


顔が近い。

というか、近づいてくる。


なに、なにっ、これは「ちゅ~」なのか。


僕は人生初のキスを体験するのかっ!?


こんな美人のお姉さんに!?もしかして今まで頑張ってきたご褒美?


〈何をする気じゃぁ、この「痴女」がぁぁぁ!〉


アンジェさんが叫んでいる。


でも、今回だけは見逃してくれよ、「アンジェ」さん。


そう思っていたら胸に抱かれてしまった。


「ありがとう、ハル」って優しい声。


あったかいなぁ、いい匂いだ。


スパイスのようで、柑橘のようで……


それになんだろう、この柔らかい感触は……

って、エルザさんにっ!?


気づいたときには頭のてっぺんまで血が上っていた。


〈ちょっ!?ロッシェぇぇぇぇぇ〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんの悲鳴が響く。



ああ、気が遠のく……これが天国というものか……




ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日はどんな日でしたか?

まずは1日頑張った自分を労って下さい。

「今日の自分!ヴィクトリー!」


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