第44話 「鈍器コング」と「魔狼騎士団」……
「くっそぉ!なんだ、この猿!」
フィンレーが叫ぶ。
「ムカつくムカつくっムカつくぅぅぅ!」
リムアンも叫んで地面を斧槍で叩く。
「猿モグラ」は穴から顔を出しては僕らを挑発しまくる。
時には、女子のお尻を「ぺちん」と叩く。
その度に怒りのボルテージが上がる。
リャナンなど普段のニコニコはどこへやら。
今はもう、「暗殺者」のような暗い殺意に満ちた顔になっている。
「恨み……晴らしやす」
リャナンが低く呟く。
実に、恐ろしい。
だが、彼らのやっていることは「リアル・モグラ叩き」。
悪手もいいところだ。
そんなんじゃあ、音と振動に敏感なモグラにすぐに察知されてしまう。
「ハル?」
僕はそっと、ハンナに近づく。
ハンナが不思議そうに僕の顔を見る。
「話があるんだ」
ここでは「猿モグラ」に聞こえてしまうかもしれない。
ハンナの手をとって、茂みへと連れて行った。
「はっっ!はあぁぁっ!?ハルっ」
ハンナが顔を真っ赤にして「ハフハフ」息を荒くし始めた。
そうだね。
ハンナも「畑」をメチャクチャにして、みんなをバカにしている「猿モグラ」に憤ってるんだね。
僕は茂みの中、地面に這うよう「設置」されている「草トラップ」に足をとられた。。
あ、「作物泥棒対策」に草の先端結んだ地味な「トラップ」!ここにもあるんだ。
よろけた勢いで、木に手を着いてしまう。
あぶなっ、ハンナ巻き込んじゃうところだったよ。
「あ……ダメよっ、こんな時に」
ハンナがうつむく。
ハンナは木を背にしている。
そして、僕は彼女を挟むように立っていた。
「近くに……みんなが……」
擦れた声でハンナが呟く。
〈うおぉぉい!ロッシェェェェ!〉
アンジェさんが吠える。
いや、いま大事な時なんだから。ちょっと静かに。
「ハンナ、急なんだけれど」
「……うん」
「僕、思ってたんだ」
「うん、私も」
え?ハンナも?さすが、村娘代表!「猿モグラ対策」がすぐに浮かぶだなんて。
「じゃあ、思っていることは同じだね」
そう言って僕は「猿モグラ」に悟られないように彼女の耳元で囁く。
「ハンナに、してもらいたいんだ」
〈ちょっっとぉっ!?〉
アンジェさんが叫んでいる。
ハンナも目を見開いている。
みるみるうちに耳の先まで真っ赤になった。
「そ、そんなっ、急に……」
それから「心の準備が」とかもじもじし始める。
「ダメ?けっこう、切羽詰まってきてるんだよ」
そう、いつまでみんなの体力がもつかわからない。
怒り狂って暴れているから、スタミナとか考えてないよね。
「いいわっ、覚悟は決めた!どんなことでもハルの望みは叶えてあげるっ!」
ハンナが思い切ったように言った。
最近、協力的だよね。
前はけっこう素っ気なかったのに。
やっぱり、村を救ったからかな?
そこまで恩を感じなくたっていいのにさ。
「さあ、言ってっ、どんな恥ずかしい――――」
その言葉が終わらないうちに、僕はハンナに耳打ちした。
「樽」
「……あ?」
「樽の底を抜いて、『罠』をいくつか作って欲しいんだ」
僕がそう告げると、ハンナの目が釣り上がっていく。
「ああんっ?」
ちょっと?ハンナ怖いよ?
「いや、ハンナも知っているでしょ『モグラ捕獲の罠』。樽でつくって欲しいんだ」
ねぇ、なんでそんなに顔を引きつらせているの?
「僕は、フィンたちに作戦を伝えて、準備するから」
「いいけどさ」
なんで怒ってるかなぁ?
足音を立てて「荷車」の方へ歩いて行く。
〈ロッシェぇ、アンタさぁ、もうちょっと「乙女心」分かった方がいいわ〉
何を言っているんだ?
「乙女心」って言われてもさ……
別に僕には君がいてくれればそれでいいんだけれど?
……ああ、「畑」は忘れちゃいけないな。アハハハッ!
◇
「クソガぁぁぁ!」
「猿モグラ」に翻弄されているフィンのところへ行く。
肩に手を置いた。
「あん?」
フィンレー、本気でムカついてるんだね。
顔メッチャ怖いよ。
でも、「トーシロ」の君では奴に勝てないさ。
「僕に任せてくれ」
その言葉にフィンレーは僕の顔を見る。
「大丈夫。秘策がある」
僕は不敵に笑ってみせる。
「お、おお」
彼が頷いたと同時に、僕は「農家の智慧」を使う。
「括目して見よ!そして、『音』を聞け!」
バッと僕は両手を広げた。
〈行けっっっ!ロッシェ!〉
アンジェさんの鼓舞と共に僕は動く。
「農家の智慧!貴様など、我らの『英知』の前ではすでに丸裸だっ」
僕は叫ぶとともに、大地へと「キッス」をした。
―――――モフ
地面に顔を突っ込む。
「……」
あたりが静寂に包まれた。
―――――モソ、モソ、モソ
地の底を這う音が聞こえる。
ふふっ、大地を味方につけ、その囁き(振動)を聞けるのはお前だけじゃないぜ。
「モフモフモフモフ(ふむ、だいぶわかってきた)」
そう言って顔を上げる。
「わかったぜ」
爽やかに笑う。
フィンの顔は引きついいていた。
「ちょっっと、良いかも!?」
リャナンが口に手をあてた。
「では、お次には」
そう言って僕はぴょこんと跳ねる。
地面の固さで奴の「ルート」を炙り出す。
「アンジェさぁぁぁん」
僕は声をかける。
〈HAY、ミュージック、すたーてぃん!〉
「ステップ、ステップ!」
〈HEY!HEY!HEY!〉
僕は地面を踏み踏み、移動する。
「タップ、タップ!」
〈気分は、『ハイ』!〉
畑を跳ねまわる。
「君の気分は~~~?」
一帯を跳ねまわった。
『ピーカンさっ!』
僕は地面を踏みしめ、人差し指を空に差す。
「……」
フェンリルナイトのみんなは呆気に取られていた。
ふふっ、そうだろ?
僕の圧巻のパフォーマンスさ。
「農家」と謝肉祭の「ダンス」は切っても切れないんだぜ?
「去った・DAYS」の「ナイト」は「フィーバータイム」さ。
「あ……あ~、それで、俺たちはどうすればいいの、でしょうかぁ?」
躊躇いがちにフィンが聞いてくる。
「いいかい?『たぁんと、スィンク。フィーリング』さ」
「は?」
「僕の先祖が残した言葉さ『いっぱい考えて、最後は感じるままに』ってさ」
「いや、最後、勘かよっ!?」
フィンが言う間に、アンジェさんは「アチョーーー」と謎の気合を入れていた。
「いやいや、ちゃんと『大地の鼓動』は感じ取ったさ」
「は?」
不思議そうにしているフィンレーに僕は耳打ちした。
◇
ハンナが底をぶち抜いた「樽」。
けれど、途中で蓋の一部を切って入れた「罠」
これに入ると、抜けることはまず難しい。
そして、僕らはモグラの「本道」に繋がる「穴」のいくつかにそれを設置した。
さらに僕らは「支道」の穴に立つ。
「いいかい?」
僕の言葉にみんなが頷く。
「いくよっ!」
僕の掛け声と同時にみんなが叫びながら穴の周りを叩き始める。
「クソガぁ!」
「ぶっころぉぉす!」
「エテ公!焼くぞぉ!」
「けっこう好きぃぃ!」
「ハティぃぃ!」
「期待させんなやぁっ!」
途中、関係なくない?
でも、地中にいる「猿モグラ」には効果絶大だった。
振動や音で判別する「モグラ」の修正を持っているなら、これは混乱するハズ。
「支道」、そのうちスヴェンのところから顔を出した。
「うおおおらあぁぁ!」
さんざんムカついていたスヴェンが目を血走らせて「片手斧」を振り下ろした。
ドゴーーーン!
爆音がして土砂が撒きあがった。
もちろん、「猿モグラ」は咄嗟に回避している。
でも、それでいい。
「猿モグラ」はパニックに陥ったはずだ。
「キキキ―――――!」
しゅぽーーーーーん
後退したまま、「本道」の穴から飛び出た。
「樽罠」に尻が嵌ったまま跳び上がる。
「キキッ!?」
半身が樽に嵌ったままで驚く「猿モグラ」。
ドスッ、ゴロゴロゴロ――――
樽と共に足元に転がって来る。
『いらっしゃぁぁぁい』
フェンリルナイト達があくどい笑みを浮かべる。
「キ?」
怯えた顔で見上げる「猿モグラ」。
彼らは容赦なくボコボコにした。
◇
殴打する音が響く。
「ウラアァ、さんざんコケにしやがって」
「このエテ公がぁッ!」
叫びながら「魔狼騎士団」とハンナがボコボコにしている。
「ム……ゴラアァァァ!」
咆哮が上がる。
「なっ!?」
フェンリルナイトたちの驚愕の声。
なんと「猿モグラ」がメタモルフォーゼ!?
体が「猿」で、顔が「モグラ」。
「クソッ!これが地上モードか!?」
フィンレーの声。
破壊された樽。
けれど、「猿モグラ」改め「モグラ猿」は、転がっている樽罠を拾い上げる。
そして、僕を見た。
えええ?なんで「僕」、恨みかってるの?
あ!?
弱そうな僕を捕まえて仕返しをっ!?
「鈍器」を握って巨大化した猿。「コング」。
その「鈍器コング」は僕を見て「ニタァァ」と笑った。
モグラの顔、結構可愛い。
「クソッたれっ!」
フィンが斬りかかるが、「樽」をぶつけられる。
「鈍器コング」はそのまま跳んで、僕へと向かってきた。
(農家の力を舐めるな……)
僕は、【土寄せ棒】、「アンジェ」さんを握る。
〈あんっ、ロッシェぇ、そんなキツくぅぅぅ〉
(アンジェさん、いくよ?)
〈ばっちこーーーい!〉
彼女の嬌声を受けながら僕は飛来する「鈍器コング」をみる。
なんてことはないんだ。
よく動きを見ればいいんだ。
「大地」を捨てたお前に、もう勝ち目はない。
スローモーションのようにその巨体が向かってくる。
フッ、遅いぜ。
僕は、するべきことをした。
「はあぁあああああああああ!」
◇
どごーーん!
「鈍器コング」は着地の勢いと共に、「樽」を振り下ろした。
地面が爆ぜ、土砂が撒きあがる。
「鈍器コング」は勢いで、自身の体が浮いた。
カサカサカサカサ――――――
地面に伏せた「ハル」が高速で這っている。
地べたを這いずって回避したハル。
土砂で視界から外れたために「鈍器コング」は気づかない。
(ちゃああぁんす!)
ハルには絶好の機会だ。
しかも、こちらに背を向けている。
無防備に「尻」を差し向けている。
「ほぉぉぉぉわわぁぁぁぁつ!」
ハルが【土寄せ棒】、「アンジェ」を回旋する。
右、左と、「ヌンチャク」のように回す。
「どっこーーーーい!」
無防備の「尻」に棒を叩きつけた。
バッ、スゥイーーーーン!
尻に棒が叩きつけられた。
――――――スン
「キィヒャァアァアアァン」
「鈍器コング」が悲鳴を上げる。
同時に「黒い煤」が消えていく。
ハルが親指の先で顔についた「土」を払った。
「どぉぉぉんと、スゥイング!ふぃぃぃる」
〈『ドーンと振り抜いた一撃!重みを感じ取ったか?』って……決まったわね!〉
後に残ったのは。
泡を吹いて倒れる「モグラ」と「猿」だけであった。




