第43話 魔獣退治の冒険者と猛虎と黒鷹の最強対決!?
ガラガラガラ―――――
『あ~る~、晴れたぁ~、ひ~るさがり~』
街道を荷車を引く人々。
陽気に歌を歌っている。
『街ぃぃに、続くぅ道ぃぃぃ』
まだ年若い一団。
『荷馬車ぁが、ごとごぉぉとぉ』
荷車の上には食料などの荷物、木箱や樽が載っている。
そして、その隣には一際大きな「存在」。
『罪人を引いていくぅぅっ』
かつての「大領主、グリード・バロウ」だった。
簀巻きにされ、猿轡をされている。
そう、荷車を引いているのは「魔狼騎士団」のメンバーだ。
『か~わいそ~な、罪人~、棄てられに行くよ~』
『か~なしそ~な瞳でぇ、見ているよぉ』
彼らはグリードから政府の情報を引き出した。
そして、適当な村の通りに放置して行くように言われていた。
『オラオラオラ~、オラ~』
『罪人載せてぇ』
『オラオラオラ~、オラ~』
『オラついてみるぅぅ』
珍妙な歌を歌いながら足取りも軽く歩く。
荷台の上の「グリード」は青ざめていた。
「残虐魔人のハティ」の「子供たち」。
どんな目に遭わされるか分かったものではない。
「あっ!村が見えるよっ」
黒髪の女性、リャナンが言う。
「お~、村だなぁ、ようやくこのお荷物棄てられるなぁ」
ワザとらしく金髪の青年、フィンレーが言う。
グリードは身を震わせた。
「……なんかおかしい」
青みかかった髪の少女、リムアンが言う。
「ホントだ」
挑発の青年、アルセイスも同意を示す。
「騒がしいなぁ」
荷車を引く大柄な青年、スヴェインが呟く。
「なんだろう」
いかにも村娘という姿の少女、ハンナが隣の少年を見る。
「ね?なんだろう」
少年、「ハル」も首を傾げた。
◇
「た、たすけてー!」
悲鳴が上がった。
その言葉に僕たちは頷き合う。
「リィ、索敵!」
フィンが言うと、リャナンが目を瞑り、両コメカミに指をあてる。
ち~ん、ぽくぽくぽく……
謎の効果音。
いや、白目剥きながらのそれって、怖いよ。
その間、フィンたちフェンリルナイトは荷車を中心に展開する。
そして警戒態勢をとった。
「はっ!?」
急にリャナンが目を見開いた。
「モンスターが、いる!」
そう言った。
「かなり強い魔力を持ってる。たぶん……」
そう言って、グリードを見た。
「このヤロウと同じ、『恩寵』の影響を受けている」
「ということは、眷属化の実験体か何かか?」
「それっぽい」
フィンレーの言葉にリャナンが加える。
「数は?」
「一体だけ」
話している時、1人こちらに走って来る人がいる。
「た、助けてくださいっ」
いかにも農作業の途中と思われる格好のおじさん。
「どうしました?」
「魔物がっ、『畑』を荒らして!」
ある程度の事情を察してはいた。
けれど、こうして口にされると緊迫感がある。
「助けに行くぞ!」
フィンが先頭に立って駆けだした。
「おい、グリードどうする?」
「このおっちゃんに見ててもらえよ」
「あ~、だなぁ」
もはやグリード「お荷物」扱い。
「おっちゃん、荷物頼むねぇ」
僕とフィンたちは「畑」に向かって走った。
◇
〈ひどい……〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが呟く。
僕たちの目の前に広がる広大な農地。
いたるところに穴が空いていて、土も掘り返されていた。
そして縦横に走る土の盛り上がり。
(これって、もしかして……)
僕はある「生物」が思い浮かぶ。
「もしかして、『モグラ』?」
隣でハンナが言う。
それに僕も頷く。
バクス村で、でかいネズミの魔獣が出たんだ。
モグラがいたっておかしくはない。
たぶん、でっかい―――――
「ウキキキキキッ」
はい?
どう考えても「猿」の鳴き声。
みんな、声のする方を見た。
地面の穴から顔を出している「猿」。
「猿だ」
「猿だな」
〈猿ね〉
みんな、頭に「?」が浮かぶ。
なんで顔だけ出して、地面に埋まってるんだ?
すると、注目している僕たちの前で、「猿」は身を躍らせる。
一瞬だが、体が見えた。
あああっ?
体だけ「モグラ」だっ!?なんでっ。
「メチャクチャバランス悪いな」
「たぶん、合成魔獣……『キメラ』だな」
「……実験の『失敗作』?」
「可能性はあるね」
「棄てられたのかな」
フェンリルナイトたちが囁き合う。
それから、ため息をついた。
『かわいそうに』
そうみんなで言った時だった。
「猿モグラ」が尻を見せる。
あ、胴体モグラなのに尻だけ赤いんだぁ。
『?』
みんな、様子を見ている。
ぺしぺしぺし
お尻を叩いて見せた。
それから―――――
チュッチュッ!
唇を尖らせて「キス」の真似をする。
ニチャァァァァァ
さらに、なんともいやらしい笑みを浮かべる「猿モグラ」。
ブチッ!
フェンリルナイト達の何かが「キレ」た。
『ぶっ殺す!』
そう言って一斉に駆ける。
って、速っ!?
一瞬で全員が「猿モグラ」との距離を詰めていた。
『くたばれ』
言うとともに脳天に得物を打ち下ろす。
「キキッ」
猿モグラは短く鳴くと、身を穴の中に潜めた。
〈モグラの、『後退する』速度って、メッチャ速いのよん〉
アンジェさ~ん、その豆知識今、いりますか?
穴の中から小ばかにするような鳴き声。
「うがぁああぁぁぁぁ!」
フェンリルナイトたちの叫びが「畑」に木霊した。
◇
場所は変わり、大陸北部の森。
「うぉぉぉらっぁ!」
静寂を裂く咆哮。
気合とともに、剛剣が振るわれる。
エリーゼは難なく避けたが、あまりの衝撃にコレットは悲鳴を上げた。
「一手、手合せを願う」
「よろしくてよ」
エリーゼが双剣を構える。
漆黒の鎧の騎士に対して軽装の小柄な女性。
それなのに互いの差はないように見えた。
エリーゼの姿が霞む。
瞬時に黒騎士の懐にもぐり込み剣を振るう。
騎士は大剣を使い、攻撃を防ぐ。
「戦技【手甲斬り】」
呟くと、剣を反転させて内籠手を狙う攻撃に転じる。
エリーゼが避けて距離がひらく。
「戦技っ!【朽ち木倒し】」
足元を狙った横薙ぎの剣。
避けて飛ぶのを待って、体当たりを仕掛ける。
これもエリーゼは勢いに任せて反転して避ける。
ここまでのやり取りをみると簡単に感じるが、騎士の剣はどれも必殺。
その余波ですら殺傷する力がある。
「戦技【破城槌】っ!」
突き技が飛んでくる。まるで砲弾だ。
その証左に衝撃波で木の幹が砕ける。
しかし、これをも難なくエリーゼはかわす。
「【虎牙刀】」
かわした勢いのまま、エリーゼが剣を振るう。
金属が叩き合う高い音が響く。
互いに距離をとった。
「嬢ちゃん、賢いな。距離をすぐにとるなんてな」
黒い騎士が言う。
「ええ、私では出足を遅らせるどころか、足手まといですから」
コレットが言う。
「クっ……」
兜の中で騎士が笑うのが分かる。
「何か?」
「いや、本当に賢いと思ってな」
「ありがとうございます。でも、余裕を見せていると大変ですよ」
「へぇ……」
「先生は強いんです。だから、あなたにも負けません」
言葉にエリーゼが頬を緩ませる。
「コレット、ダメよ。こういう時は、そういう言い方じゃないの」
それに「あ」っとコレットが気づく。
「言いなおします。先生は強いんです。あなたにだって簡単に勝っちゃいます。それはもう、一方的にボコボコにやっつけちゃうんですから!覚悟してください」
この煽り文句に黒騎士が大笑いする。
「すげぇ!この子は本物だ。いいね。楽しくなってきたよ」
「それは、どうも」
エリーゼの声がする。
全身から闘気が立ち上っている。
「こんな声援受けて、奮い立たない剣士がいる?」
「いねぇな」
「はっ」
破顔一笑。
同時に踏み込む。
「っ!?」
剣が交錯する。
だが、押し返されたのは巨躯の騎士の方だ。
「ちょっと熱くなってきたわ。滾るわね」
エリーゼが間断なく剣撃を加える。
「くっ、そうこなくちゃなぁっ!」
黒騎士が大剣を振るう。
受けたエリーゼの体をひっかけて、剣で振り回す。
「おおおらぁぁ!場外ホームラン」
勢いで投げ飛ばす。
中空を飛ぶエリーゼに瞬時に追いつく。
体躯に似合わぬ速さだ。
「【兜割り】!」
黒騎士は断頭の一撃を振り下ろす。
「ぬるいわね」
エリーゼはその攻撃すらも勢いを活かして避ける。
地を叩いた大剣から轟音が発せられる。
地面が爆ぜ、陥没した。
それだけの衝撃だ。
二人はまた距離をとって対峙する。
一呼吸の間。
二人が同時に駆ける。
「【貫通】」
エリーゼが双剣を前に構えて突き技を放つ。
「【顎割】」
黒騎士は剣を下から跳ね上げるように振るう。
ギャリィィィィッ
金属の擦れる音が響く。
衝撃波が木々を揺らした。
エリーゼの交差させた剣に挟まれるように黒騎士の大剣が止まる。
そのまま大剣が振り上げられていればエリーゼの体は二つに割られていた。
それと同時に大剣で抑えなければエリーゼの双剣の切っ先が黒騎士の喉笛を貫いていた。
「ふ……」
「くくっ」
互いに笑みを漏らす。
『はははははっ』
「腕は鈍ってぇねようだな!姐さん」
快活な声。
「元気そうでなによりですね」
互いに剣を引き、納める。
「ガレット、弟に聞いているわ。いろいろとありがとう」
一瞬だが、黒騎士、ガレットが言葉を詰まらせるがすぐに答えた。
「まぁな、乗り掛かった舟ってやつだ。姐さんも元気そうでなによりだ」
そう言いながら兜のバイザーを上げる。
「いや、なんつーか。縛りありの小手調べでも、燃えるね」
ガレットはさらに笑う。
「ああ、嬢ちゃんも良い声援だったな。大したタマだ。母ちゃんの教育か」
「……」
笑うガレットに対して、コレットが固まっている。
「どうした?もう剣は納めているし、なにも危害は加えないぜ」
ゆっくりと近づくガレット。
大きく無骨な手が、コレットの小さな頭を撫でる。
ぷしゅ~~~~~
途端に、コレットの頭から蒸気が吹き出した。
「お?」
「こ、コレット?」
エリーゼが慌てて近寄り、顔を覗き込む。
コレットは顔を真っ赤にして目を回していた。




