第42話 これからのこと
「あ~、悪いが、俺は先に行くわ」
ガレットさんが言い出す。
僕たちは何事かと顔を見合わせた。
「ほら、ここでグリードをボコったろ?ぜってぇバレたと思うんだよな」
ガレットさんの言うことは分かる。
「大領主」のグリードを倒して拘束しているんだ。
そして、「小領主」のウルフスベインさんが政府から離反した。
共和政府が見逃すはずがない。
グリードや領地を取り戻そうとするはず。
ここ「オルジュの街」にとどまって戦うのは分が悪い。
でも、「先に行く」ってどこに?
ドワーフ自治区に行くなら一緒でもいいんじゃないかな。
「お前たちは『メタラム』に戻れ」
ガレットさんが言う。
「俺は『エーレンブルグ』に戻る」
「エーレンブルグ」とはガレットさんの領地。
この国の北に位置する商業都市だ。
「じゃあ、お頭。俺は『グリード』の野郎から情報引き出してから後を追うわ」
ウルフスベインさんの切り替えが早い。
「ああ、頼む」
ガレットさんはそう言い、ウルフスベインさんの肩を叩く。
いいなぁ、信頼し合える仲って。
〈ロッシェ、羨ましそうに見てないで~〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが僕に声をかけてくる。
(大丈夫だよ。僕には君がいる。君以上の「相棒」なんでいやしないさ)
みんなの前なので口にはしなかったけれど、そっと「アンジェ」さんの(頬?)撫でる。
〈うふふっ、わかってるわよ〉
くすぐったそうに笑う「アンジェ」さんの声。
やっぱり、癒されるなぁ。
「お前らなら大丈夫だと思うが、それでも十分に気をつけろ」
真面目な顔でガレットさんが言う。
「『ドワーフ自治区』なら、政府も手を出せない。だが、紛れ込むことはできる。ギースたちを頼れ」
政府としても「ドワーフ」たちと事を構えたくないだろう。
鉱山資源の採掘や良質な「武具」の生産といった点でドワーフの力は絶大だ。
だから「魔狼騎士団」たちも活動拠点にしている。
そう、彼らは「魔人、ハティ・アガートラーム・マクスウェル」の義理の子供だから。
「ああ、わかっているよガレットさん」
フィンレーが頷く。
「親父も時々来てくれるから、まあ、何とかなるだろ」
スヴェンも言う。
え?「白狼将軍」ってメタラムを出入りしてたの?
「ハティ」さんは、「白狼将軍」とも呼ばれていた旧王家の将軍。
そして、僕の父さんの「上官」だった人。
父さんがずっと尊敬をしていた人だ。
どんな人かなぁ……
◇
場所は変わって、大陸北西部の「ケトゥスの街」近郊。
街の外で、ひと悶着あった。
「ここは、僕に構わず、先に行くんだ!」
ハティが声高に言う。
「姉上っ!すぐに追いつきます。コレットと共に、『メタラム』へ」
その言葉を受けてエリーゼがためらう。
「ハティ!ハティだけを残して行くなんて……」
固く拳を握るエリーゼ。
「せっかく、せっかくまた会えたのにっ!これからも一緒だと思ってたのに」
涙を浮かべてエリーゼが叫ぶ。
「姉上!」
「ハティ!」
ふたりは熱く視線をかわす。
「あの~、もうそろそろ気が済みましたか?」
コレットが呆れた顔で言う。
「え?いや……もうちょっと」
エリーゼが言う。
「僕は大丈夫だからさぁ」
ハティは緩みそうになる顔を必死に堪えていた。
周りには「ケトゥスの街」で保護した子供たちがいる。
「ちゃあんと、この『蕾』たちを親御さんの元に送り届けてから行くからさぁ」
(うふふふ、こんなにたくさんの「蕾」たち。保護した責任はちゃんと果たさないとねぇ)
コレットの「眼」には「ハティの本音」が映っていた。
(ああ、可愛そうに。みんな震えて。怖かったんだねぇ、もう安心だよぉ)
ハティが子供たちに向かって微笑む。
全員が身を震わせた。
(いえ、ハティさん。みんなあなたに怯えているんですよ)
コレットは「全員の本音」を視て思った。
ケトゥスの街の領主屋敷地下。
そこに乗り込んで「マクスウェル姉弟」はさんざん暴れまわった。
怪人は倒されると「黒い煤」を放ち、元の生き物に戻った。
後に残った「ワカメ」。
「じゅるり」と「元・怪人」を拾い上げて啜る「ハティ」。
それを見た子供たちはドン引きした。
そして、「さあさあ、もう大丈夫だからね」とワカメを噛みながら近づいてくるものだから余計に恐怖心をあおってしまったのだ。
「姉上、名残惜しいですが、しばしの別れ。また会いましょう」
「ああ……ハティ、我が弟よ!早くお姉ちゃんのところに来るのですよ」
「もちろんです」
ハティは早く子供たちと一緒に行きたくてうずうずしている。
(ハッ!?これって、もしかして)
エリーゼがふと思い当たる。
(ハティがお姉ちゃんを追いかけてくるの?)
急にエリーゼの顔が華やいだ。そしてハティの顔を見る。
(「姉上、早く姉上にお会いしたくて、秒で子供たちを帰してきましたよ」とか!?)
(「やはり、姉上がいない寂しさに僕は堪えられなかった」とかとかとかっ!)
急にエリーゼがニヤケてぷりぷりと身もだえする。
(「あねうえ~」とか手を振って駆け寄ってくるの!?)
その「心の声」を「視ていた」コレットは、ため息をついた。
エリーゼの脳内では「花畑」の中、笑いながら駆けてくるハティの映像が再生されていた。
そして抱擁を交わして「微笑み合う」二人……。
一方、ハティの脳内では「子供たち」に感謝される映像が再生されていた。
「ありがとう。助けてくれて」と言われて「人気者」になっている。
「おじちゃん、カッコいい」と言われて照れまくる「心の声」。
『ドゥフッ、ドゥフフフフフ』
「マクスウェル姉弟」は妄想に浸り、笑っている。
どちらも、「健全な妄想」なのだが……
(もう、この姉弟、誰か止めてください)
「ハティ」
「姉上」
「お姉ちゃんは、寂しいけれど、待っていますからねっ」
「はい。名残惜しいことこの上ないですが、さっさと旅立ってください」
「ハティも寂しかったら、いつでもお姉ちゃんをお空に向かって呼ぶのよ」
「ええ。いつでも『コレット』を寸分たがわず思い描いています」
(やめて。私の「イメトレ」をし続けないでっ!そして絶妙に噛み合ってないわ、この姉弟)
コレットは頭を抱える。
「では」
そう言って涙を拭いながらエリーゼが歩き出す。
ハティは……それはもう晴れやかな顔で手を振って見送った。
数メートル歩いてすぐにエリーゼは振り返る。
後ろ髪ひかれる思いが勝ったのだ。
ハティに向かって手を振ろうと手を挙げた。
しかし、ハティはさっさと子供たちを誘って歩き出していた。
「お腹空いたでしょ?途中で何か食べようか?おじちゃんが買ってあげるよ~」
だらしなく笑いながら言う。
ピキ――――
エリーゼのコメカミに血管が浮き出る。
彼女は無言で「石」を拾った。
「コンチクショウ!」
ハティに向かって投げる。
ソニックブームを放ちながら飛ぶ「石」。
ちゅどーーーーーん!
彼の足元に着弾し、土砂を巻き上げて地面を数メートルも陥没させた。
「ちょっ!?姉上!『蕾』たちに当たったらどうするんですかっ!」
「ふんっだ!」
ハティの非難にエリーゼがそっぽを向く
「コレット、行きますよ!」
エリーゼはコレットを促して歩いて行った。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
皆さん、日々一所懸命に努力をされているのではないでしょうか?
そんな皆さんにエリーゼさんからのメッセージ。
「お姉ちゃんはアナタの味方よ!いじわるするヤツは、お姉ちゃんが(脳内で)やっつけてやるんだから!」
明日も「スン」っと一緒に頑張りましょう。




