第41話 勝利の宴と事実ギャップ。合法なのか?「アンジェ」さんの正体は?
「ええ、それではみなさん。お疲れっしたぁ!」
ガレットさんが試合の打ち上げみたいな挨拶をする。
いや、簡単すぎ。
一晩明けた。
拘束したグリードやら投降した兵士たちの後始末をしていたら、朝になっていた。
「とほほほ、何年もかけて貯めた財産が……」
ウルフスベインさんが肩を落とす。
「何言ってるんだ、ウォルフ!俺らの雑草魂を見せてやれ」
「農家にとって雑草は敵なんだよ!お頭」
「ええ~」
なんとも安定感のある見当違いな発言。
ガレットさん、いつもどおりで安心するよ。
そう、僕たちはグリードを拘束した。
もちろん今の共和政府の内情を吐かせるため。
そして、今までの裏切りや悪行をみんなの前で断罪するためだ。
そうでもしないとこの騒ぎは収まらない。
だって、大領主を招き入れておきながら、その一味を武力制圧したんだから。
もっとも、これでグリードは自身の「地位」というものを失った。
誰からも信用されないだろう。
愚直なガレットさんとは正反対の末路だ。
ガラガラと荷車を引いたハンナが現れる。
「片付いたみたいだね」
「おお?どうした、エース」
「それは……頑張ったハルに」
そう言って、アツアツの包みを渡してくれる。
はああああああん!?
これってもしかして。
ハンナの顔を見る。
彼女は黙ってうなずいた。
「ジャガイモさんじゃないかあ!」
僕は包みの中で湯気を立て、魅惑のバター様で「てりってり」になった御姿を見る。
「ハル、好きでしょ」
彼女の言葉に僕は頷いて、むしゃぶりついた。
「うまっ、あちぃ、うまっ、ハンナっ、サイコウ!」
その言葉にハンナが顔を赤くする。
なぜかリャナンが険しい顔をしてこちらを見ていた。
それから、ハンナは飲み物や食べ物をみんなに配って回った。
酒瓶を配ってまわる。あ、未成年にはジュースか。
「リムは子供じゃない!」
リムアンが怒鳴る。
え……?
「リムアン、20歳だよ。もうすぐ21歳」
はぁぁぁぁっ?!まさかの「成人女性」!?
リャナンの言葉に僕はひっくり返りそうになった。
(どう停滞したらそうなるんだ?ジャガイモより遅いだろ!)
ルーダが僕と同い年だった。
その姉なんだから、年上ってことになるけど、数カ月違いと思い込んでいた。
「他にもあるよ」
ハンナは意に介せず、そう言って「大麦のパン」を渡してくれる。
「……」
みんなでそれを手にして黙った。
「ぷっ」
誰からともなく吹き出した。
「あははははははははははは」
ついには大口を開けて笑いだした。
これは僕たちにとって最高の「ご褒美」。
そして最高の「ご馳走」だ。
◇
共和国首都「ミッドガルズ」。
その一室―――――――――
「グリードがやられだと?」
ウォルターが声を上げる。
議事堂の中にあるウォルターの執務室だ。
ナハトは相変わらず無機質な声で報告を続けた。
「相手は、『黒金の鷹』とその頭目ガレット、フェンリルナイト」
その言葉にウォルターが眉を顰める。
「あの痴れ者には、『狂化』の術式を渡していたはずだ。対抗できただろう」
「イレギュラーがいた」
「なんだ、それは」
「神器【星霜の洗滌】を持つ者がいた」
この言葉にウォルターが動揺を見せた。
「バカなっ、エルフの神樹だぞ?誰がそのようなもの……アンジェか?」
「依然、アンジェは拘束中だ」
「ならば、何者が……常人では、いや魔力を持つ者は触れられないはずだ」
その問いにナハトは無機質な声で回答した。
「ただの子供のように見えた」
「子供だと?」
「魔力がない」
その言葉にウォルターが歯噛みする。
「そういうことかっ、あのエルフめが」
その顔が醜悪に歪む。
「加えて報告することがある」
「なんだ?」
「『恩寵』を奪われた」
「『黒金の鷹』にか」
「そうだ」
ウォルターが机を叩く。
「やってくれたな、ガレットめ!奴らはどれだけ我らを阻めば気が済むのか」
「あれらには解析はできない」
「バカを言うな、アガートラームやエリーゼがまだ生きている。必ず『恩寵』の術式を読み解き、我らの計画を邪魔するだろう」
ウォルターが顔を覆う。
しばらくして手を退けた。
表情が消え、まるで人形のように無感情なものへと変じている。
「ガレットの本拠地、『エーレンブルグ』を攻める。それから『恩寵』を取り戻す」
そう静かに告げた。
「アンジェの手に渡らなければ、良いだけだ。警戒を怠るな」
その言葉にナハトが首肯すると、闇に溶けるように姿を消した。
その後に、うめくように呟く。
「またも、立ちふさがるか。『ロッシェ』」
◇
場所は変わって、旧王城の一室。
今は、「首都議事堂」と名前を変えている。
ウォルターたち軍部とは隔絶された場所にある居住区画。
元は王城だけあって「貴人」を飼い殺しにする軟禁部屋はいくつもあった。
――――シャッ!
日の出とともにカーテンが開かれる。
(うん。今日も良いお天気)
朝日を浴びて「少女」は微笑む。
格子のはめられた窓を開ける。
爽やかな風が吹き込む。
金色の髪を風になびかせ、目を細める。
(ふふ、こんな場所でもお日様も、風も私たちを癒してくれる)
少女は、明るい光に満たされた部屋の中央へと進む。
(あ~、レディオゥ体操、バージョンワン!)
過去、「知人」から聞いた体操を始める。
(まずは、「大きく背伸びの運動」~)
金色の髪を二つに結った少女が伸びを始める。
それから、「イチ、ニ、サン、シ」と掛け声をかけて体を動かす。
(はい、「深呼吸」……)
大きく息を吸って、呼吸を整える。
(では……)
ギラァァァン。
紅玉の瞳に怪しい光が灯る。
次第に体の動きが大きくなる。
(イチ、ニッ、サン、シィ!)
さらに動きは激しくなる。
しゅぱぱぱーん!シュタッ!
バク中や側転まで始める。
室内を縦横に跳ねまわる身軽さ。
早朝に「高血圧」な動きだ。
(ハイ、大きく息を吸ってェェェ)
コハァァァァァ
深呼吸というより、「息吹き」である。
断っておくが、彼女の外見は「十代前半」である。
(続きましてはぁ)
体操(?)の後に、構えをとる。
「シィィィッ、シュッ、ハッ!」
パンチとひじ打ち、膝蹴り。
そして、三段の蹴り。上・中・下段のキックの練習を始める。
その度に、空気を切る音。
いや、空を震わす音が響く。
「ふぅぅぅぅぅぅ」
金髪の少女は一通りの動きを済ませる。
ゆうに一時間以上は過ぎていた。
……コンコン
扉をノックする音が響く。
「はい」
「アンジェ様、お食事とお湯をお持ちしました」
「ありがとう。入っていいわよ」
その声と共に、「アペリー(開け)」という解呪の言葉が聞こえる。
物々しくも後ろに兵士を従えた執事風の男が入って来る。
カートを押して来ていた。
「アンジェ・フラン・スカーレット様。本日もご機嫌麗しゅう」
「そういう挨拶は良いわ。あなたもお勤めご苦労」
「いえ……」
恐縮……というより、怯えながら男は言った。
そう、この少女としか見えない彼女こそ「最悪の魔女」と恐れられた存在。
1000年を生き、旧王家に「宮廷魔術師」として仕えた傑物。
ハイエルフ、「アンジェ・フラン・スカーレット」。
「朝ごはんは何かなぁ」
アンジェは、カートの上にある「蓋」を取る。
そこには、豪華な朝食があった。
パン。スープ。オムレツ。ベーコン。サラダ。カットフルーツ。
だが、彼女、「アンジェ」は眉を顰める。
「おい……」
少女の声が、低く響く。
それだけで全員が身を震わせた。
「臭うが?」
その一言で、後ろの兵士は尻もちをついた。
「オマエ、これを、飲んでみろ」
可愛らしい少女。
それが、グイッと目の前の男の顎を掴む。
「あッ、がぅっ!?」
抵抗しようともがくが、その腕を払うことすらできない。
「スープ」を執事風の男の喉へ流し込む。
それから、鼻を摘み、口も押さえた。
男は飲み下すしかない。
そして、たちまち、苦しみ始めた。
「……この程度では、死なないけれど、『不愉快』ね」
その言葉に、その場にいた全員が平伏した。
『お許しください』
その様を見て、「アンジェ」はため息をついた。
「詫びとして『カツ丼』持って来なさい」
「え?朝から……」
「うっさいわね!『カツ丼』食べたいのっ!」
その言葉に兵士たちは慌てて退避する。
もちろん、苦しんでいる「執事風の男」を引きずって。
扉が閉まると共に、「アンジェ」はため息を吐く。
(ハティ……)
窓の外を見る。
遠くを望むように。
(早く、迎えに来て……)
そっと瞳を閉じる。
涙がつーーと、頬を伝った。
(でないと、アタシ)
両手を握り、胸に抱く。
(ストレスで、政府の人間、1人ずつ消しちゃいそう……)




