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第40話 泥臭いジャガイモ・ヴィクトリー



瓶底眼鏡の魔術師を倒した僕らは、ホールへと向かった。


僕たちは眼前の光景に戸惑った。


ホールの中は混乱の渦中。

黒い霧が立ち込めると共に議員貴族たちが苦しみだした。


「な、なに?やっぱり下剤、効いていたの?」

「トイレ我慢大会?」

リャナンとリムアンが半笑いで見ている。



「違うと思うな」


「あ、アルス」


アルセイスが杖を構えている。


「魔力の煤だな……バクス村と同じのなんじゃないか」


フィンレーが冷静に分析している。


「フィン、いたんだね」


「いや、ずっといたから!長兄を敬えよっ」


「あははは~、ごめ~ん」


「ふざけてないでさぁ、これって結構ヤバいよね」


「だな、このあとは――――」


先ほどまで苦しんでいた議員貴族たちが咆哮を上げ、暴れ出した。




暴れ出す議員貴族たち。


なんかとんでもないことになってる。


こ、これはもしかしてっ!?


「ハルっ!バクス村を思い出せ」


フィンレーが僕に声をかける。


ああ、そうだ。

これは知っている。


村のみんなが「暴れ出した」ときと同じ。


「ストレスの限界」だ!


それに、今回はリャナンが「下剤」を盛った。


だから、こんな、こんなにも苦しんで……


そう「人間だもの」。


いくらブルジョワたちだって、我慢の限界を迎えて身悶えることもあるさ。

ほら、みんなお腹とお尻を緊張させている。


でもね、でもだよ?


僕は心を鬼にする。

彼らの蛮行は止めなければいけない。


そして、「肥し」はここで漏らしてはいけない。


(アンジェさん、まずはみんなを正気に戻そう!)


〈オッケー、ロッシェ!〉


「うぉぉおおお!」

僕は【土寄せ棒】の「アンジェ」さんを振り回す。


「我慢の限界でも物を壊しちゃダメだぁ!」

そう叫びながら暴れている人たちを叩いていく。


「そんなんじゃ、堪えられない!」


「むしろ、お腹の動きが活発になるよっ」


「探すんだっ!『壺』をっ!そして、並ぶんだ『トイレ』という聖域にっ!」


「それまで皆さん『限界突破!』です。括約筋を活躍させて!」


「僕の話を聞いてください!」


ぽこん、ぽこん、ぽんぽこぽん……


バクス村の時のように暴れている人たちを叩きまくる。


――――スン、―――――スン、――――ススン


あのときと同じ。


すぐにみんな大人しくなってくれた。

そしてせかせかと姿勢よく走っていった。


「ふぅ、きっとみんなトイレの我慢の限界だったんだね」

僕は一息ついた。


「ぜったい違う。それ」

リムアンが呆れた顔で言う。



その時だった。


壁が崩れて、人が飛び込んでくる。



「なんじゃありゃぁぁぁ!?」

僕は叫んでいた。


まさに怪獣大決戦。


巨大な鉄球が壁を突き破ったかと思ったら、大男が転がって来る。


ウルフスベインさんだ。


続いて入ってくるのは……グリード?3メートルはあるよね。


鉄球をぶんぶん振り回しては辺り一帯をグチャグチャにしている。


「ハルっ、帰れって言っただろ!」

ウルフスベインさんのお叱りが聞こえる。


すぐに起き上がったウルフスベインさん。

身軽に駆けまわってグリードの鉄球をかわしてる。


とはいえ、数発は食らったのか血を流している。


「ウォルフ!」

ガレットさんが叫ぶ。


「お頭、ガキども連れて逃げろ」

「お前はどうするんだ」

「こいつぶっ殺すんだよ」


ウルフスベインさんの言葉に、ガレットさんが歯噛みする。


「オマエなぁ」

なんか怒っている。


「そういうのは俺らの『ヴィクトリー』じゃねぇ!俺らはワンチームだ。誰かがボールを繋がなかったら、スパイクを叩き込めねぇだろ」


あれ?野球ネタどこ行ったの?


「チームはお前のためにあるんじゃねぇ、お前がチームのためにあるんだよ!一人でやろうとするな!」


いや、また競技変わった。あと、大丈夫なのこのセリフ。


「そんなトウヘンボクのコンコンチキにはな、新生『黒金の鷹』の戦いを見せてやるぜ!」


いやもう、何がなんだか。キャラ崩壊だよ。


「行くぜガキども、ハル!」


ガレットさんが叫ぶ。


「俺たちかよ!」

「私たちはフェンリルナイト!」

「黒金の鷹に入った憶えない」

「筋肉バカの仲間は嫌だぁぁっ」


フィンレーたちが口々に文句を言う。


それを言うなら僕だってフェンリルナイトに入団した憶えすらないんだけど。


「なんだよ、ノリ悪いな。そして俺の扱い悪すぎだろっ」



「うわぁ!?」

破片が飛んでくる。


巨大化したグリード。別名デカオッサンが暴れている。


そしてそれに対抗してフィジカルお化けことガレットさんが剣を振るう。


「くはははは、ぬるいな。リトルリーグのガキでももっとまともな球投げるぜ」


いや、おかしいだろ。

トゲ付き鉄球をことごとく大剣で打ち返している。



ギュオオオオオオ


そこへ、空を裂く音がする。


どぉごおおおおおおん!


グリードの足元が爆発した。


「ハンナっ、ちょい右ずれたぞ」


「外角低め狙ったの!ストライクゾーン入っていた」


え?スヴェンとハンナ?


ギュオオオオオオ


再度ソニックブーム。


「なんだとっ!?」


グリードが盾で防ぐ。


どぉごおおおおおおん!


轟音と共に盾が吹っ飛ぶ。


「バカなっ!投石機カタパルト!?」


グリードがうめく。


「いつの間に、攻城兵器をっ!?持って――――あ?」


グリードが驚くのも無理はない。


だってさっきから投石爆撃を仕掛けているのが「ハンナ」だから。


「父ちゃんっ!私はやるよ!」


「やる」が非常に不穏な響きがあるのですが?


「アアアアアッ!」


バチバチバチッ


筋肉をスパークさせてハンナが「石」を投げる。


どごーーーーーん


「うおっ!?」


さしものグリードも身を投げ出して避けた。


「なんじゃぁ!?あのガキはっ」


いやぁ、幼馴染の僕でもビックリですわ。

昔から家畜を狙う害獣追い払うために、石投げてたのは知っていましたが。



そう思っていた時だった。


「跳べっ、ハル」

ガレットさんが叫ぶ。


「道は俺がつくる。お前ならわかるはずだ!」

僕は中空に渦巻くような空気の層を見つける。


〈ロッシェ!今こそ、『漢』を見せる時よ!〉


アンジェさんの声。


「はいっ!」


僕はそれをはしごのように駆け上げる。


〈ハイハイハイハイ、ロッシェくんのぉ〉


一直線に、グリードへ向けて走った。


〈ちょっと、イイトコ、見てみたい~〉


アンジェさんが僕を鼓舞する。


「バカが。あの村娘にはビビったが、こんな芋っぽいのに何ができる」


グリードが手にしたモーニングスター(とげ付き鉄球)を振るう。


空中で身動きの取れない僕へ鉄球が飛んできた。


「できるよ。ハルは」


リムがいる。


「槍技、【パリィ(受け流し)】」

リムが鉄球を弾いた。


「行けっ!」


リムの声に背中を押されるように僕は走った。


足場はもろくてすぐに崩壊する。


戻ることなんてできない、前に進むしかない。


でも、僕がアイツを倒せるなんて思えない。


(あれはジャガイモ、あれはジャガイモ、あれはジャガイモ……)


自分に言い聞かせる。


〈ロッシェならダイジョウV!〉


アンジェさんがさらに励ましてくれる。


〈跳べ!跳ぶのよっ!ロシェ!〉


「わあああああああああっ!」


僕は最後の足場を蹴って叫び声を上げる。


気合とか雄たけびとかそんなカッコいいものじゃない。


落下の勢いが怖いだけだ。

しかも鉄球ぶん回してるヤバい奴に落下しているんだから。


僕は目を瞑り、覚悟を決めて棒を振り下ろした。


カーンという固い音がする。


物を叩く手ごたえに、恐る恐る目を開く。


「あれ?」

「は?」


そこにグリードはいなかった。

遥か前方にいて呆けている。


や、やっちまったぁっ!

あんまりに怖くて思いっきり跳ばなかったからっ。


「ぶっ、がはははははは」

あいつの爆笑が聞こえる。


は、恥ずかしいぃぃぃぃ。


「ナイス、フェイント」

風の音と共にそんな囁きが聞こえた。


「刀技、【疾風はやて】」


「っ!」

リャナンだ。


高速の抜刀術でグリードに斬りつける。


グリードがかろうじてモーニングスターの柄で防いだ。


「おおりゃぁ!」

フィンが剣を振るう。


「剣技、【フューリー(怒り)】」

叩きつけるような剣の連撃。

これも、グリードは柄の部分で捌く。


「今だっ!」


フィンが声と共に後ろへ跳ぶ。


同時に僕に覆いかぶさり、姿勢を低くさせた人がいる。スヴェンだ。


「【エーテルブラスト(霊爆)】」

アルセイスの魔術放たれた。


先ほどまで斬り結んでいたグリードに逃げ場はない。

避けられずに直撃した。


爆炎が晴れる。


「がはははは、こんなんでくたばるかよ。仮にも俺は――――」


「そういうの、間に合ってんだ。本命こっちなんで」

盾を背に懐にもぐり込んだスヴェンがいる。


「やれっ!ハル」


僕はスヴェンの盾に守られながら、その下から【土寄せ棒】の「アンジェ」さんを突き出した。


ここまで接近して、大柄な相手だ。

目を瞑っていたって外すことはない。


〈愛を忘れた君だってドキ胸!【不意打ちの『つん』シンフォニー☆】!〉


今度こそ「アンジェ」さん(棒)の(指)先が……


『ラブ・アンド・農業!』


僕と「アンジェ」さんの声が重なる。


そして、グリードを捉えた。


『ジャガイモ魂!なめんなよぉっ!』


―――――スン


「は?痛くもかゆく、も……」


言葉と共にグリードが膝をつく。


〈フゥッ、お前はもう『スン』でいる〉

アンジェさんの呟き。


ピキピキピキ――――――


「俺の、俺の『恩寵』が消えていく……」

狼狽するグリード。


「うそ、だろ?俺の、俺の『力』……」


「手に入れた『力』が……」


「うおぉぉらぁっ!」

咆哮が聞こえる。ガレットさんだ。


大剣を振り下ろす。


ゴィィィィィン!


何とも言えない音が響いた。

剣の平でグリードを殴って昏倒させたんだ。


「ほんとうならぶった切りてぇんだがな」


その向こうでリムがポーズを決めている。

「私たちの勝利。『狩りは一匹でするもんじゃない』……ハティの教え」


残っていた兵士たちが駆け寄って来る。


それを見たガレットさんが叫んだ。


「どうした!?俺らのジャガーノートが親玉を獲ったぞ!」

え、いやとどめはあなたが……


「コイツの圧倒的な破壊力の前では、何人たりとも無力だ。抵抗をやめろ、今なら命はとらねぇ!」


その言葉に、兵士たちは武器を投じて降参の意を示し始めた。




ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日も1日耐え抜いたあなたは「ビクトリー!」です。



エピソード等々ご評価もよろしければお願いいたします。

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