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第39話 ジャガーノートの再来!そしてハイハイ(徘徊)する「謎紳士」?



「うぉぉらぁ!皆殺しだぁ」

トゲ付き鉄球を振り回すグリード。


敵味方見境なく叩きつぶしてく。


「おいおい、グリードさんよ。人ん家で暴れて下さんなよ」

ウルフスベインが大剣を担いで現れる。


「『恩寵』を返しやがれ!」


「恩寵」を奪われたことをさとられていた。


「あんなものが『恩寵』だって?『呪物』の間違いだろ」

もはや言葉が通じないのか、鉄球が飛んでくる。


「うぉっと」

ウルフスベインが避ける。

だが、すぐに鉄球はグリードの手元に戻り、再度放たれる。

間断なく放たれ、周囲を破壊しまくる。


「おいおい、器物損壊!ちゃんと弁償しろよ」

ウルフスベインが猛攻をしのぎながら軽口をたたく。


(とはいえ、さすがは俺と同格の大隊長にまでなった「鉄鎖のグリード」だな)


ウルフスベインだからこそ避けられているが、他の者ではそうはいかない。


その証左に、兵士たちが何人も倒されていた。


(ジリ貧だな。隙を作らねぇと……)


「おい、ウォルフ」


グリードが声をかけてくる。


「これで終いだと思うか?」


「なんだと?」


「『皆殺し』って俺は言ったよなぁ」

グリードの目が赤黒い血の色に変わる。


「てめぇ!」


「俺の『恩寵』は他の奴らとは違うぜ」

時を同じくして黒い霧が屋敷を覆った。




「おお、お前ら!いい感じに盛り上がってるな」


僕たちが屋敷から出ようとしたところ、ガレットさんと鉢合わせる。


「あっと……」


僕は「ウルフスベインさんに怒られたんで帰ります」と言おうとした。


ガシィィィ


いきなり肩を組まれる。


「せっかく盛り上がってきたんだからよ」


そう言ってガレットさんが片目を瞑って見せる。


「特大ホームランでもかまして、観客沸かぞうぜ」


いえいえ、結構でございます。

僕はただの「農家」でございますから。


「ほうほう、ということは出番ですな」


なぜかリムアンが拳をゴキゴキ鳴らしている。


……ロリメイドでせっかくかわいいのに。


「ほうほう、私の仕込みがどうなったか観覧しに行くわけですな」


リャナンさんはニコニコしている。


……って下剤混ぜた恨みは忘れないからなっ!


「見つけたぞ!」


後ろで声が上がった。


見ると兵士たちがぞろぞろとやって来る。




「ガレット……グランハートっ!?」


兵士たちが驚愕の声を上げた。


「あらぁ、俺って有名人?」


ガレットさんはのんびりしている。

圧倒的な強者の余裕。


「だが……しかしだ」


兵士たちが余裕の笑みを浮かべる。


「グリード様は、お前が来ることを予見していたぞ」


そう言って後方へと手を広げて、ある人物を示す。


ボサボサの髪、モジャモジャの髭。

瓶底眼鏡。


けして清潔そうとは言えない男。


〈なんか、異様な雰囲気の男ね〉



その男はボソボソと呟くように詠唱を始めた。


「神の息吹に揺り起こされし、無数の飢餓よ!その牙で、その羽で、全てを貪りつくせ」


【貪食のアフィス・テンペスタス】」


男から緑色の燐光が立ち上る。


それだけは幻想的な光景。


ブゥゥゥゥンン、ブゥゥゥゥゥン


これは……羽音?


見ると、緑色の光の物はどこかで見たような「虫」の形をしていた。


〈ああっ!あれはっ!〉

アンジェさんの驚愕の声。


それもそのはず、僕ら「農家」の敵。

どこからともなく現れ、植物の「生き血(汁)」をすすり、貪り尽したあとは、「羽」を生やしてメタモルフォーゼ。どこかへと去っていく厄介者。


その名も、「アブラムシ」!


確かにさ、「アフィス」ってアブラムシだよね?

って!?「テンペスタス」って「嵐」っすか?


「いやあああああ!ムリムリ、ビジュアルから何からしてムリ!」

リャナンが悲鳴を上げる。


「確かに……これは結構キツイ」

リムアンが顔をしかめる。


こんなにうじゃうじゃと飛ぶ虫の群れって……嫌だね。



「なんだ?虫だろ?」


そう言ってガレットさんは大剣を振り回す。


「こうやって叩き落としたらいいじゃねぇか」


とんでもない速度。

そして、巻き起こる風。


確かに、数匹は叩き落とすことに成功した。


けれど、「魔力」で出来ていると思しき「アブラムシ」はすぐに復活する。


それに多くは「風」に乗ってひらりひらりとかわしていた。



「ふはははっ!ろくに魔術も使えない物理一辺倒のガレットには防げまい。どんな物理の防御もすり抜け、執拗に狙い、取りついて、その力を啜る……」


瓶底眼鏡の男が声を上げて笑う。


いや、いきなりテンション、ハイだよ。

さっきまでボソボソ喋っていた「陰キャ」どこいったの?


「確かにっ、キリはねぇなぁ」

ガレットさんがうっとおしそうに言う。


「ガレットさん、『害虫』駆除は、『農家』の方が上手いんですよ」



僕はガレットさんに声をかけ、不敵な笑みを見せる。

フフッ、ここはハルさんの実力を見せつけるターンだよ。


〈キャーーッ!やっちゃえやっちゃえっ!ロッシェぇ〉


アンジェさんの声に僕は心の中で手を振る。


きっとリャナンもリムアンも僕のこと見直すはずさ。

女の子が苦手な虫を退治するんだ。

「ハル、カッコいい!」「見直しちゃった」とか言うに決まっている。


「お?おお、珍しくやる気だな」


「ふふっ、僕が今までどれだけの『修羅場』くぐってきたとお思いですか」


僕は左手を手刀にして、【土寄せ棒】の「アンジェ」さんを肩に担ぐ。


「ああぁと、知らぁざぁ名乗ってさしあげやしょう」


〈よぉぉぉう!〉


「ひとぉぉぉつ、人の大事な作物の生き血を啜りィィ」


〈やっ、ハッ!血ぃ吸ぅとるんかい!?〉


「ふたぁぁぁつ、再び気づいたときには大量発生ぃぃ」


〈やんなっちゃうねぇ!〉


「みぃぃっつ、蜜をお尻から出しちゃう困ったちゃん」


〈いやん、アリさん誘ってるのっ!?〉



「退治てくれよう『ハル・ロッシェ』!」


〈いよっ、石潰しぃ!〉


……アンジェさん、石潰しは酷いよ。


〈つい勢いで。テヘッ、メンゴ〉


可愛いから許しちゃうけれどさ。


「あ~、それで、どうするんだ?」

ガレットさん、せっかくカッコよく名乗ったんだから、もっとノリ良くてもいいよね。


「害虫駆除には『木酢』が一番です」


「もくさく……『酢』か?」


「はい。そうです、噴霧器でかければイチコロですよ」


「で、それはどこにあるんだ?」


「え?」


そこで我に返った。


……ってない!?


「『酢』がっ!?『お酢』がないよ!」


僕はうろたえる。

これでは、無力だ。


慌てる僕にリャナンが首を傾げる。


「酢?」


「そう、酢?」


「スーってする、酢?」


「そう、スーススーってする酢」


「あるよ」


「なんでっ!?」


僕の問いにリャナンが苦笑いする。


「だって仕込んだら『ブフッ』って咽るでしょ」


この子、最悪だ。


でも、今回ばかりは助かった。「木酢」ではないけれど、同じだよ。


「貸してっ!」


「いいよ」


僕にリャナンが「酢」の瓶を渡す。

なぜかニヤついていた。


僕は瓶の蓋を取る。


「お、おい―――」

ガレットさんが止めようとする。


「もちろん、こうやって―――――」

噴霧器など無い。

なら、「人間霧吹き」だ!


〈ちょっっと?ロッシェっ!さすがにそれは――――〉

アンジェさんの驚くような声。


止めないでっ!

いまこそ「仇敵」を討ち滅ぼす時!


(駆除してやるぅぅぅ!)


「お酢」の瓶を傾け、口に含む。


(食ら―――――)


「ブフゥゥァァッ」


僕は口に含んだとたんに吹き出した。


「ゲホッ、ゲホッ、オエッ!ガファッ」

あまりの刺激に僕は咽て吹き出してしまった。


ダメだっ!この刺激は、虫どころか僕の気管すら殲滅する劇薬だ。


〈言わんこっちゃない〉

アンジェさん、呆れないで。


「アハハハハハハッ、サイッコウ!」

リャナンが爆笑している。


「……」

リムアンは何事かと呆然としている。


「悪い、リアクションできん」

ガレットさん~、マジレスしないでぇ……


「くははははっ」

敵魔術師が笑う。


「やれっ!【アフィス・テンペスタス】。あのバカなガキから干からびさせてしまえ!」


羽音を立てて「アブラムシ」が飛んでくる。

僕は咽てそれどころではなかった。


ブゥゥゥゥン!


無数の緑色の光。

「アブラムシ」の達が僕に群がってくる。


〈アブラムシ~、アブラムシ~〉


アンジェさんが歌い出す。


〈羽を取ったら、タダの虫~〉


〈地べた這ってる、タダの虫~〉


そこから、「ギラァン」と鈍い眼光イメージをアンジェさんが向ける。


〈「アブラ(魔力)」なかったらぁ、タダの「ムシ」ぃぁぁぁっ!〉


ぽわわわわわん


光を放つ。


僕に向かってくる「アブラムシの嵐」。


―――――スン、スン、スン


突っ込んでくる端から、「アブラムシ」は消えていく。


「は?」


瓶底眼鏡魔術師が唖然としている。


僕はようやく、喉の刺激が落ち着いて周りを見る。


あっ!?アブラムシがいないっ!

よおっしゃぁぁぁぁっ!


「農家の智慧」が勝ったんだ。


「僕の『酢の毒霧攻撃』!どうだぁぁぁ」


僕は両こぶしを突き上げて吠えた。

今回だけは「ヴィクトリー」と叫んだっていい。


『いや、1ミリもあたってないからなっ!』


なぜか敵味方問わずに叫んだ。




この頃のコレットたちはというと――――


「スンスンスン」


ハティが地面に這っている。


「匂う、匂うよぉ~」


泥にまみれた地面を舐めるかのように顔を近づける。


「そこまで、顔を近づけなくても―――――」


「いえ!これが最も効率が良いのです!」


エリーゼにハティが断言する。


(ふふふっ、そんなに一生懸命になって)


エリーゼが微笑む。


ちょん、ちょん


ハティの横腹をつつく。


「姉上?」

不思議そうにハティが見上げる。


「ふふふっ」

微笑むエリーゼ。


「もう、気が散りますよ」

「ごめんごめん」


ハティがまたもや地面に顔近づけて足跡をたどろうとする。


ちょんちょん


エリーゼがまたもつつく。


「姉上~」

ハティが困ったように笑う。


「うふふふふ」

エリーゼも笑う。



そんな時だった。


ピコピコ


エリーゼのぶら下げている「トラさん」マスコットが動く。


「……」


ふたりはすぐに体を起こして「マスコット」を見る。


マスコットが動き始める。


「んん~」


その様子を見る「マクスウェル姉弟」。


しばらくエリーゼとコレットによる「パペット通話」は続いた。


そして、通話が終わると、ふたりはため息をついた。


「なんとも、ひねりのない」


そう。こういう場合の「お決まり」過ぎたのだ。


「いやぁ、コレットがやる気になっていたから任せましたが」


「ねぇ、もうちょっと何かあっても良いと思ったんですが」


ふたりで苦悩する。


「いや、まあ、何かあっても事ですが」


「なんでしょうねぇ、この消化不良な感じ」


そう言ってふたりは領主屋敷へと向かう。




十分ほどの後、「ケトゥスの街」領主屋敷の壁を前に、考え込む男女。

「マクスウェル姉弟」だ。



「ん~~~~」



それもわずかな時間。


「メンドイ」


同時に言う。


「せっかくコレットが謎解きまでして、教えてくれたんですけれど」


「ハッキリ言って時間のムダですね」


マクスウェル姉弟が言う。


「この程度の防御結界、紙切れですね」


「そうですねぇ、どうしてこれで隠蔽できると思ったのか」


「まあ、楽でいいですが」


それから二人ともストレッチを始める。


『それじゃぁ、サクッとぶち抜きますか』




ズドーン、ズドーーン


私、コレットが潜入している地下室に地響きがする。

それは次第に近づいてくる。


そして、少しの間をおいて――――――


「どっかーーーーん☆」


私が囚われている部屋の壁が弾け飛ぶ。


もうもうと広がる粉塵。


そこにふたりの人影が映る。


黒装束の男性が、左腕を腰だめにし、バッと右腕を左上に突き出す。


それから半円を描くように右腕を腰に持っていき、同時に左腕を突き出す。


「ハティ・アガートラーム・マクスウェル!」


どおぉぉぉん!


背後で爆発した。


「この右腕が訴えかけてくる……そう『汝、蕾愛好者ならば護れ』と」



その隣で拳をゴキゴキ鳴らしてどう猛な目で周囲を見回している女性。


「悪い子いねぇがぁ、いじめっ子はいねぇがぁ」

おどろおどろしい気を放ちながら、コハァと息を吐く銀髪美女。


「お姉ちゃんがシバキ倒してあげるわぁ」


あ、ああっ、あああっ!


エリーゼお姉ちゃん!

ハティさん!


まったくもってこの姉弟自由過ぎるっ!


私、せっかく「トラップ解除法」教えたのにっ!

「解除」どころか「あっても意味がなかった」ことになってるぅっ!


頑張って用意していた悪者さんたちがかわいそうだよ!


「い~い~なぁ、い~い~なぁ……『人型』ってぇ、いいなぁ……はぁ」


肩を組みながら「大きな人」たちがやって来る。


バッ!


ローブを脱いだ。


……え?


鮫。

ワカメ。

ハリセンボン。

サザエ。

エビ。


それらに「人間」の手足がついている。

ちょっとすね毛とか生えている。

なんか、嫌だなぁ。


しかも使いづらそうに足を動かしているし。


そして、虚ろな目。

つまり「死んだ魚」の目をしていた。


(体、重いし、バランス悪いし……人間ってよくやってるよなぁ)


うっわぁ本音視えるぅ。


私、コレットはドン引きする。


(うっわぁ、何、コイツら。ヤバかったら即行で逃げるか)

エビ怪人の本音。


(なんで、僕連れて来られた?ヤダヨ!)

サザエ怪人さんの本音。


(フッ、俺に触れると「怪我」じゃあ済まないゼ)

ハリセンボン怪人の本音。


(というか、私動きたくない。流れに身を任せる主義なの)

ワカメ怪人ちゃんの本音。


(ウィー、アー、シャーーーク!空が落ちてくるぜ!)

サメ怪人の本音。

いや、サメはあなたひとりです。


って、やる気あるのサメ怪人+(ギリ)ハリセンボンだけっ!?


「我れらは、『海の中で育った兄弟』!」


「母なる海より生まれ出でっ!そして陸上でも『覇』をきそ――――」


言いかけたところ、エリーゼお姉ちゃんの鉄拳が飛ぶ。


「長い!」


ワザとなのか、「ハリセンボン」を狙って殴っている。

しかも、「トゲ」ごと粉砕。


「そんな、簡単に折れるヤワなトゲでどうするんですくわぁ!?」


「軟弱ですかっ!?」


「もうちょっと、『ツッパリ』なさいよっ」


意味違くない!?


ああ……ハリセンボン怪人がぁ……


壁にめり込んで気絶している。


「ふふふっ、ゆぅら、ゆぅらぁ~」


ワカメ怪人ちゃんが揺れながら歩いている。


「ふふふっ、ユラユラァ~」

ああ、ハティさん?なんで一緒に揺れているの?


「じゅゅるぅり~」

なぜかハティさん舌なめずりをする。


「ワカメの味噌汁……この国では初めてかなぁ」


「故郷の味。っていうか、山育ちに『海藻』って珍味さぁ」


「ひぃぃい!?」


悲鳴を上げる「ワカメ怪人ちゃん」。


「まずは、『酢味噌』でぇぇぇっ!」


ハティさんの高速の剣。

物理無効……のはず。

流れに応じて揺れるしなやかな動きは、すべてを受け流す……はず。


それなのに、ハティさん、太刀風さえ起こさない必殺の剣で瞬殺。


「……まずは、湯がいて食べるか。いただきます」

合唱している。


(ヤバい、ヤバイヤバイヤバイっ!)

その様子を見ていた「エビ怪人」。

高速のバックステップで逃げる。


逃げの一手。

鉄よりも固い(であろう)外殻を持ちながら、すぐに離脱を図る。

その、判断力は素晴らしい。


けれど――――――


(なっ!?なんで、進まない?まさかっ結界を張られた!?)


――――――いえ、ちゃんと後ろ見てください。


アナタ、延々と壁にヒップアタックしてますよ?


(クソっ、ここまで狡猾とはっ!?奴ら相当の策士。でも、やめられないっ!止まれない!)

エビ怪人さん?どこかに怒られます。


……悲惨。


サザエ怪人さん?なんで、部屋の隅っこで縮こまてるの?


(どうか、気づかれませんように)


いやぁ、そのサイズでムリあると思います。


(てか、暗い、怖いっ)


まあ、蓋閉めてますからねぇ。



「ええい、役立たずどもめ!


サメ怪人が叫ぶ。


「我が鉄壁のサメ肌!そして、全てを砕く牙!」


「これに敵う者は――――――サメぇぇぇっ!?」


言い始めたところだった。


お姉ちゃんとハティさんが同時に「グーパンチ」を見舞ったのだ。


『ウルセェ、ごたくはいいんだよ』


いえ、ちょとは言わせてあげてください。

「出オチ」って結構きついですから。






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