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第38話 スパイ大作戦!そして放たれる必殺の「ポテトスロー」


私、コレットは腕を縛られて歩いている。


暗く、カビ臭い地下水路。


ちょっと生臭い感じもする。


前後に男の人が一人……二人いる。


「ほら、さっさと歩くんだ」


後ろの人に急かされる。


その度に腰に提げた袋がピコピコ動く。

中には「リスさん」のマスコットが入っている。


『いいかい、けして無茶なことをしてはいけないよ』


そう言ってハティさんがくれた「お守り」。


お姉ちゃんの持っている「トラさん」マスコットとおそろいなんだって。


マスコットを動かすと、相手のマスコットも同じ動きをするらしい。

そして、お互いの体に衝撃が与えられると、相手方のマスコットが反応して勝手に動く。


つまり、さっき私が「押された」振動にお姉ちゃんが気づいて合図を送ったんだ。


(だいじょうぶ。ちょっと押されただけだから)


そう袋の中の「リスさん」を撫でる。



作戦は、こう。


私が捕まって、政府の実験場まで連れて行かれる。


そこには今まで捕まった子もいるはず。


実験場の詳しい場所、囚われている人の人数。

施設のトラップや警備などできる限りの情報を「視る」。


そして、「マスコット」を通じてお姉ちゃんたちに伝えるんだ。



私は兵士たちに囲まれて、領主屋敷の地下に来た。


途中、魔術陣がたくさんあった。

通る前に兵士たちは何か、木札のようなものを振っていた。


……3……4、5回。


どれも同じ木札を「5回」右から左に振った。

どの動きに意味があるかはわからなかったけれど、きっとトラップ解除をしたんだ。


さらに、とても大きい人とすれ違った。


「っ!?」

なに?この「真っ黒な魔力」。

ハティさんほどじゃないけれど、とても「暗い」。

そして、ハティさんにはない「不気味さ」。


全身外套で覆っていた上に、フードも被っていたから顔は見ていない。


でも――――


(はぁ、なんでこう「足」で歩くのってメンドイんだ?)


え?何を言っているの?


(陸の生活ってのはぁ、なんか面倒くさいなぁ)


どういうこと?船乗り?「海の男」なのかな。


そんなことを想いながら歩いた。


そして、一際おおきな扉の前に来る。


「入れ」


1人の人が扉を開けた。


目の前には、広い空間。


檻の中に少年、少女たちがいる。


攫われてきた子たちがここに集められている。

中には衰弱している子もいる。


「新しいのが入ってきたから、一人は実験に回せるな」


そう兵士が話し始める。


「ああ、奥の部屋に一人連れていけ」

檻の扉が空けられる。


私は突き飛ばされて中に転がり込んだ。


そして、私と入れ替わりに男の子が連れ出される。


「やめろっ、放せっ」


少年が暴れるけれど、力では及ばない。


「うるせぇ、暴れるな!」


彼はお腹を殴られる。


痛みで動けなくなった。


「ったく、手間をかけさせるな」


そう吐き捨てて兵士はその子を連れていく。


許せない。

けれど、ここは報告をしないと。


兵士たちがいなくなったのを見計らって、袋から「リスさん」を出す。


「?」


他の子は不思議そうに見ていた。

そうだよね。

急に「お人形さん」で遊びだしたように見えるんだもの。


(こちら、「スクワール」。無事に到着しました。オーバー)


お人形さんの動きで説明する。ときどき、動きで単語を交えた。


少しして、リスさんが動き出した。


(こちら、「タイガー」。報告お願いします。オーバー)


動きが止まるのを待って、返信する。


(こちら、「スクワール」。領主屋敷の地下にいます。子供が私を含めて合計16人います。そのうちの一人は別の部屋に連れ出されました。オーバー)


(こちら、「タイガー」。了解。敵についても教えてください。オーバー)


(こちら、「スクワール」。兵士は10人しか見ていません。真っ黒い魔力を纏った大きな人が5人ほどいました。オーバー)


(こちら、「タイガー」了解しました。すぐに向かいます。あなたの幸運を祈ります。オーバー)


(こちら、「スクワール」。途中、「魔術トラップ」があります。兵士の持っている「木札」を左から右へ5回往復して解除させています。グットラック「タイガー」。アウト)


私は息をついた。


あとは「お姉ちゃん」と「ハティ」さんの出番だ。


私は、私のできることをしたんだ。




その頃、ハルたちはというと――――――


「ふはははは、お前もようやく立場ってものが分かってきたじゃねぇか」

グリードが大口を開けて笑う。


「昔っからガレットの腰巾着だったお前が、ついに俺に仕えると決心するとはな」

そう言って無言でグラスを差し向ける。


「ハッ、なにとぞ、よろしくお願いいたします」

ウルフスベインはグラスにワインを注ぐ。


ガーネットを思わせる色合いのワイン。


バクス村で醸造されたものだった。


「ほぅ、これはなかなかだな」

グリードが一口含み、感嘆の声を漏らす。


「さすがはグリード様。王家へも献上されていたヴィンテージワインです。すぐにお分かりになるとは、いやはやご慧眼感服いたしました」


ウルフスベインの言葉に気を良くしたグリードが大仰に笑う。


「お前もなかなかに皮肉屋だな。王家を陥れて議員貴族の上位に至った俺に、わざわざ王家のワインを飲ませるのだからな」


ワインを飲み干し、さらにグラスを差し出す。

ウルフスベインはワインを注ぐ。


「まさにこのワインと同じ。長い時をかけて熟成させ、最後に俺が王家を飲み干してやったというわけだ」

さらにワインを呷る。


「お前たちは政治や策略というものに疎い。だから男爵どまりなんだ。要はいかに辛抱強く策をめぐらし、下準備をするか。そして機を見るや迅速に事を起こすか、だ」

「なるほど。ガレットの傭兵団にいたころからすでに青地図を描かれていたのですな」

「そのとおりよ」


なおも機嫌よく笑うグリード。


「して、臣従の証となる『恩寵』はいただけるのでしょうか?それで『眷属』を増やし、貢献することが出世へとつながるというのは本当でしょうか」


ウルフスベインが声を潜めて尋ねる。


「ああ、ちゃんと用意してあるぞ。まずはお前の誠意を見せてもらうのが先だ」

「ハッ、必ずやご期待に沿えましょう」


ウルフスベインが頭を下げる。

だが、下を向いたときにはこっそりと舌を出した。


(バーカ、せいぜい頭のぼせてやがれ。だいいちそのワインは熟成中の並のものだ。数カ月前から急に品質が落ちたからな。ちょうどいいと思って飲ませたら、やはりバカ舌には分からんかったか)



屋敷の一角、廊下を滑るように移動する影がある。

目深に「キャップ」を被った女性。

なぜか、「スポーツグラス」をしている。


「くそっ、ついてねぇな」

重厚な扉の前に立つ兵士がぼやく。


「本当ですね」

ぼやきに若い兵士が答える。


「まあ、お前は新人だから、しょうがないと言えばそうだが……」


そう言って中年の兵士が若い兵士を見る。


「ウルフスベインのところのヤツでいいんだよな?」

「はい。2ヶ月前に配属になりました」

「そうか。まあ、ガタイがいいからな、期待しているぜ」

「ありがとうございます」

若い兵士は礼を言うと、首をかしげる。


「しかし、来賓のグリード様の部屋とはいえ、なぜお留守なのに警備をするのですか」


この問いを中年の兵士が笑う。


「あのな、主の所持品をお守りするのも兵士の務めだぞ。特にグリード様は『大領主』。上級の議員貴族だ。その持ち物は高価なものばかり、さらに政府から下賜されたものもあるからな」


「なるほど、そうでしたか」

若い兵士が頷く。

一瞬だが瞳に怪しげな光が差した。


トントントントン……


床を叩く音がする。

中年の兵士が目をやると、若い兵士が足先で床をタップしている。


「おい、いくら暇だからといって……」

若い兵士を注意した時だった。


シュゴーーーーーー!


風を切る音がする。


「っ!?」


スコーーーーーン!


中年の兵士の体が吹っ飛ぶ。

そのまま気絶した。


足元に「拳大の石」。


「すとらいーーく」


投げたのは「ハンナ」だった。


(いや、マジで「眉間」撃ち抜いたぜ?すっげえコントロール)


年若い兵士に扮装していたスヴェンが冷えや汗を流す。

彼は「デットボール(死球)」とは言わなかった。


「それじゃあ、中に入るか」

「鍵はあるの?」


「渡されてねぇな」

「じゃあ、どうするの」


「ああ、ぶっ壊すんだ」


そう言って、スヴェンがドアに向かって片手斧を振り下ろす。


いとも簡単に鍵を壊してしまった。



「お待たせいたしました。ポテトグラタンでございます」

僕は大皿のグラタンをテーブルへと運ぶ。


何をしているって?

もちろん「潜入作戦第2段」だよ。


今回はガレットさんの同意も得ている。


スヴェンとハンナ、ガレットさんを除いてみんなは給仕係。


別動隊のスヴェンとハンナが「あるもの」を奪取。

僕らは隙を見て騒動を起こして、脱出の機会をつくる。

可能ならば、「グリード」に痛手を被らせる。

もっともお目当ての物を奪った時点で、グリードには致命的だっていうけれど。


ガレットさんは保険。

まあ、本人は正面から乗り込んで全部潰す気満々だったけれど。

大人しくしてもらっている。

正面から「ウルフスベインさんの屋敷」で暴れられたら仲直りもできないいでしょうに。


僕の「ポテトグラタン」を見て、議員貴族たちが目を輝かせる。


「ほう、こんな田舎料理が、実に美味そうな」


フフフフ、こいつは僕史上最高の出来だ。


大人味にするためにちょっとスパイスを利かせている。


でも、バターのコクで深みを増した滑らかマッシュポテトがその刺激を優しく包み込む。


怖れ慄け、カースト上位ども。

最下層民の底力を舐めるなよ。

この至高のポテトグラタンをハフハフしながら貪り食うがいい。


〈さっすが、ロッシェ!これで「ノーブル」どもも「ブルジョワ」もイチコロよん〉

アンジェさんが背中で褒めてくれる。


というのも、今は、彼女は服の中。

背中に入れた状態。

「金先」はないから、【棒】だけの「スッピン」。


ちょっと冷たい感触だけれど、なんだか安心感あるな……

おっと、いけないけない。

作戦中だ。


僕は気を引き締めて背筋を伸ばす。


まぁ、アンジェさんが背中にいるから曲げれないけどさ。


最後の皿を出そうとした時だった。


「うっ!」

貴族の一人がうめいた。

ポテトグラタンを口にしたのだ。


そうでしょう、そうでしょう。うなるほどおいし……


周りの貴族たちもうめきだした。

しかも、お腹を押さえて妙に背筋をピンと伸ばしている。


あっ!?


内股でせかせか走り出した。


ま、まさか。


〈アイツ、一服盛りやがったわよっ〉

背中に隠していた「アンジェ」さんが言う。


くっそぉっ!リャナンだなぁっ!


「なんだ、何事か?」

上座にいた大男、グリードが狼狽する。


「どうしたのだ」

壇上から駆け下りてこっちに来る。


ま、まずい、逃げないと。


慌てた僕は手を滑らせてしまう。


〈ちょっと、ロッシェ気をつけてっ!〉


「――――――あ」


勢いあまってグラタン皿を宙に放り投げてしまった。


向かってくるグリード。


放物線を描いて飛ぶグラタン。


「なっ!?」

グリード、歴戦の戦士なのに気づくの遅い。


グリードはグラタン皿を顔面で受け止めた。


「ひぃぃぃゃぁぁぁぁっ!」


グリードさんの悲鳴が響き渡った。



「おい、俺の忠告は聞いていなかったのか」

ウルフスベインさんが頭を抱える。


「どうだっ!」

リムアンが胸を反らす。


「『どうだ』じゃねぇ、クソガキが」

ウルフスベインさんが恨みがましく言う。


僕たちは、グリードに「ポテトスロー」をかました直後、即行で見つかった。


そして、僕とリャナン、リムアンが連れ出された。


「よくも料理に毒を盛りやがったな」

正確にはお通じが良くなる薬ですが。


「しかも、食わせるどころか、グリードの野郎の面にぶっかけるとはよ」


「どうだ!」


「だから『どうだ』じゃねぇよ、クソガキ」

リャナンも悪ノリして言ったが、一蹴される。


「あ~、ハル」

僕を名指しする。


「お前のポテト・スローは最高で最悪な見世物だった」

「あ、ありが―――――」

「俺が怒ってるのもわかるよな?」


ズンって体が重くなる。


「わかっているよな?」


なんだ、これ?

魔術なら「アンジェ」さんが無効化してくれるのに。


周りを見るとリャナンもリムアンも動けないでいる。


「ヤバッ、こいつの闘気……」

闘気?何ですかそれ?


「歯ぁ食いしばれよ、クソガキどもが」



拳骨を食らってこぶをつくった僕ら三人はさめざめと泣いている。


うん、じみ~に痛い。


「どうせお頭の差し金だろ」


ふぅとタバコの煙を吹く。


「お前ら、もう帰れ」


なんだろ、この渋い感じ。


「これからここは戦場になる」


はい?


「お前ら、奴が持っていた『証拠品』を奪ったんだろ?」


……ああ、お気づきでしたか。


「言っておくが、俺だけでもできたことだ」

「はい。すいません」

謝る僕の肩を小突く。


「盗まれたことに気づいたグリードは激怒するな。んで、証拠消そうと俺らを皆殺しにしようとする」


ウルフスベインさんが立ち上がった。


「というわけで、メイドさんごっこは終わりだ」


僕たちを見て笑った。


「今度こそ、本当に帰れよ、お前ら」



ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日も1日お疲れ様です。


今日もお仕事や勉強で忙しかった方、1日頑張ったあなたは「ビクトリー!」な方ですよ!


あ、お話の内容のご評価をいただけると幸いです。

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