第37話 コレットの真実。そして、「マッスル」覚醒!機を見るに「ビン」!
私、コレットは、ふたりを別な場所に誘った。
ふたりは黙って私についてきてくれた。
「あの、お二人には、その……話していないことがあって」
怖い。
本当に怖い。
お姉ちゃんとハティさんが私の眼のことを知って、離れてしまうことが。
今まで覗き見ていたことを知って、怒ることが。
そんな気持ちを察してか、お姉ちゃんがそっと私の肩に手を置く。
「コレット」
静かに言う。
「私はあなたの味方よ」
きれいなアイスブルーの瞳。
後ろのハティさんが優しく微笑んで頷く。
「私、他の人の心の声、心象風景が視えるんです」
思い切って言った。
「見た人の『本当の気持ち』が視えるんです。その人の魔力もっ」
涙がこぼれてきた。
「ちっちゃい頃から視えていて、みんなに気味悪がられていてっ、『気持ち悪い』って」
「ずっと、ずっと言えなくてっ、お姉ちゃんのも、お兄ちゃんのも視えていた」
震える声で続ける。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
嫌わないで、私を捨てないで……
私は優しく包まれた。
あったかい。
お姉ちゃんが私を胸に抱いていた。
「辛かったわね」
そう言って頭を撫でてくれた。
「言ってくれてありがとう。コレット」
そして、続けて言った。
「私はあなたのことが大好きよ」
私は声を上げて泣いた。
◇
私は泣き疲れて、いつの間にか寝てしまっていた。
気づくと、お姉ちゃんが膝枕をしてくれている。
ときどき、優しく撫でてくれていた。
「あ……」
目が合うとにっこりと笑ってくれた。
「目が覚めた?」
優しい声、夢じゃないよね。
「こ、コレットぉぉぉぉ」
ハティさんが鼻水垂らしながら泣いていた。
「辛かったねぇ、苦しかったねぇ、もう大丈夫だからねぇ」
残念魔人さんの優しさが、今は心地いい。
「僕も君の味方だよぉ、君を傷つける奴は僕が滅ぼしてやるからねぇ」
……平常運転みたい。
ふたりの「心の声」はとても優しくてあったかい色。
この人たちは私の期待を裏切らない。
誰が「騎士の恥」だって?
誰が「みんなに嫌われている魔人」だって?
この人たちは最高の私の「お姉ちゃん」と「お兄ちゃん」なんだよ。
◇
「私が囮になります」
私は言った。
「なななななな、なんてことを言うんだっコレットぉ!」
ハティさんが狼狽する。
「お姉ちゃん許しませんよ!」
お姉ちゃんが叱ってくる。あ「お姉ちゃん」って言ってくれた。
「だって、一刻も早く捕まっている子たちを助けなきゃいけないんだよね。だったら私の『眼』で探してお二人を誘導します。そしてワザと捕まって正確な場所を伝えることができたら……」
「コレットが危ない目に遭う必要なんかないんだ!」
「そうよ、まったくもってその通り」
ふたりが詰め寄ってくる。
その心配が嬉しい。
でも―――
「私もお二人の役に立ちたいんです。いつまでも役立たずの末っ子でいたくないんです」
この啖呵に二人が固まった。
「お、おおおおお」ってなんか感動して呻いている。
それからお姉ちゃんがひとしきり懊悩したあと、私に言った。
「わかりました。コレット・オルレア。あなたのその『眼』【高貴なる洞察】の力をお借りします」
……はい?
なに、その【高貴なる洞察】って?
いきなりぶっ込んでこないでっ。
ハティさんが恭しく膝をつく。
「正統なる王の御力、卑小なる我らにお貸しください」
え?ええ?なに、なんでそうなるの?!
それから「にへらっ」とハティさんが顔を緩める。
「コレットのカワかっこいい活躍が見られるんだっ!俄然やる気が出てきたよぅ」
◇
――――その一方で、我らが主人公「ハル」はというと。
あれから僕らはウルフスベインさんに解放してもらった。
「遊び半分でこんな危ない真似をするなよ」とお小言のお土産つき。
根っからの善人なんだろうなぁ。
そして、ガレットさんへの伝言を承った。
戻った宿屋でガレットさんにことの経緯を告げた。
「……マジかよ」
話を聞いて、ガレットさんが絶句している。
「はい。本当です」
ガレットさん、肩を震わせている。
怒っているのかな?
グバッッ!!
何かが膨張する音がする。
「ウォルフの野郎……」
ガレットさんが立ち上がった。
「最高に『ヴィクトリーーーーーーッ』な奴だぜ!」
咆哮してマッスルポーズをとった。
その瞬間、服が破れる。
〈ぎゃあぁあああああ!変態っ!〉
さすがの「アンジェ」さんも悲鳴を上げる。
あ!?あの「グバッ」って筋肉が膨張した音だったんだ。
何事もなかったかのようにガレットさんが座る。
ズボンが破れてホットパンツみたいになってる。
……この半裸のオッサン、どうしよう。
「つまり、二日後にグリードの野郎がここに来るんだな?」
「はい。そこで決定的な証拠を掴むってウルフスベインさん言っていました」
テーブル挟んで向かい合う僕たち。
やだなぁ、この面談。
「ふむ」
真面目に考え込んでいるんだろうけどさ。
目の前の変態は僕にとって迷惑そのもの。
というか、時々大胸筋ピクつかせるのやめろ。気が散る。
〈うっわぁ、ちょっと迷惑ぅ〉
アンジェさんもため息(音だけ)をついている。
「決起するのはまだ先だから、僕らには街を出るようにって言っていました」
「ふむ」
だから、大胸筋ピクつかせるなよ、オッサン。
「あいわかった。ウォルフは俺たちにあえて『敬遠』させて、次の打席で打ち取ろうってサインを送ったわけだな」
そういうことなんだけどさ、なんでいちいち野球用語に翻訳するかな。
100年くらい前にどっかから伝わって、帝国領で流行っていたらしいけれどさ。
「だがな、それは愚策だな」
ガレットさんは言った。
「傭兵の鉄則『機を見るに敏』!」
そう言って上腕二頭筋を「ビンッ!」と膨張させた。
暑苦しぃ……
「獲物がのこのこホームに来るってのに逃がす手はねぇ」
にやりと笑う。
「地の利はこっちにある。準備できる猶予はある」
そして、僕を見た。
「とっておきの切り札、ジャガーノート様もいるわけだしな」




