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第36話 魂(ソウル)を込めろ!レッツ・ワーク、肉・ジャガー!そしてごレット様の世直し旅。



僕は給仕に扮して屋敷に潜入した。


「……どう?」


リャナンとリムアンがメイド服姿を見せる。


か、かわいい……


これが、父さんが「冥土の土産に一度は見ておけ。メイド服」と言い残していたものか。


たしかに、良いモノだ。


〈ちょっと!ロッシェ!何鼻の下伸ばしてるのっ、他の女に見惚れないで!〉


アンジェさんの非難の声。

でも、動揺しまくっている僕にはその声は届いていなかった。


「あ、こここここ言葉がうまくでないのですが」


「反応で分かった。ありがとう」


いえ、お礼を言うのはこちらです。


今回の僕たちのミッションは屋敷内でウルフスベインさんを拘束すること。

そして彼の意図を聞き出すことだった。


ちなみにこれはフェンリルナイトと僕の独断。


ガレットさんにあれだけお世話になっているんだから、仲直りの手伝いくらいはしたい。


「で、どうするの?」

僕の問いにリムアンが答える。


「ハルの美味しい芋料理でおびき出す」

「はぇ?」


「ちゃんと考えているんだぁ」


リャナンが自信たっぷりに胸を反らす。


メイド服って胸が強調されるのですね……


「おい、ハル。後で一発殴らせろ」

リムが低い声で言う。


「わっ、なんかゴメン」



僕はカートを押す。

カートの上には僕特製の「肉じゃが」が載っている。

見栄えはもちろん、味にも自信がある。


ホクホクの男爵(爵位じゃないよ)は煮崩れしていない。フッ匠の技だぜ。


他の野菜だって負けてはいない。

すがすがしい緑のインゲン。

情熱的な赤のニンジン。

隠れた実力者の玉ねぎ。

このワンチームなら同じ「農」力者のウルフスベインさんだってイチコロだ。


「さて……」


リャナンが小瓶を取り出す。


「最後に隠し味を」

そう言ってサラサラと白い粉をふりかける。


「あああ、なにをするんだよぅっ!」

農の至宝に化学調味料だとっ!

いくらリャナンでもぶっとばすぞ!


憤慨する僕にリムアンが説明する。


「ハル、おいしい料理だけでウォルフを口説けたら苦労しない」

「そうだよ。それに戦っても勝てないと思う」


え?どういうこと。


「相手はガレット並の化け物だと思って」


……勝てる気がしない。

会話も成立しなさそう。


「それと、その粉となんの関係が……まさか、毒!?」


「シー、声が大きい」

ふたりに口を押えられる。

柔らかいふたりの手にちょっとドキドキした。


「毒殺なんてして、ガレットさん怒るよ」

「だろうから、これ、下剤」

下剤っすか。それもそれでえげつないですよ。


「これでお腹がピーってなって、トイレに行こうと慌てているところを捕まえる」


「そうしてね、『情報を漏らすか、実を漏らすか選べ』って脅すの」

グフフフと二人が悪い忍び笑いを漏らす。


ヤバいよコイツら。


「誰が自宅の廊下で『肥しを漏らす』んだ?」

後ろからした声に僕らはギョッとして振り返った。


即座に脳天に衝撃。


拳骨が落とされたんだ。


「いったぁぁぁ!」


あまりの痛みに三人がうめいてしゃがみ込む。


「ったく、だからハティのところのガキは面倒くせえんだよ」


ウルフスベインさんだった。



「ほ~れ、ほれ。どぉした?この程度で根を上げるのかぁ」


ウルフスベインさんの声がする。


「ぁ、いやっ、やめろ」

「いや、やめてください」


リムアンとリャナンの力ない悲鳴が上がる。


「ダメなメイドにはお仕置きをしなくちゃだなぁ」


ねっとりとしたウルフスベインさんの声。


だ、だめだ!見てられない。


アレをあんな使い方して、彼女たちを辱めるなんてっ。


……

………


「ギャハハハハハハ!」


ふたり同時に笑いだした。


「ほうれ、コチョコチョコチョ……」


ウルフスベインさんは穂のついた麦を使ってふたりをくすぐる。


「にゃはははは、やめ、やめろぉぉぉ、げふげふ」

「おえっ、ひゃははははは、やめてっ、うひゃひゃひゃ」


もうふたりとも限界だ。


それを見極めてウルフスベインさんは離れた。


「これに懲りたらバカな真似はするんじゃねぇぞ。クソガキども」


ウルフスベインさんが拘束した僕たちを見下ろす。


「な、なんでハルだけ……」

リャナンとリムアンが恨みがましい目を向ける。


確かに僕は罰をくらっていない。


「そりゃぁ」

ウルフスベインさんが照れくさそうに頬を掻いた。


「あんな見事な肉じゃが見たらなぁ」


そういって僕の肩に手を置いた。


「おまえの『農』力、ハンパねぇな。特に芋の煮方に『魂』を感じたぜ!」

目を輝かせている彼は少年のようだった。


「お前のその熱い『ソウル』、お頭が目をかけるのも分かる気がする」

「そ、そうですか。えへへへへ」


なにかこの人とは分かり合える気がする。

一方で拷問を受けたリャナンたちがじっとりとした目で僕たちを見ていた。


「んで、俺に何の用だったんだ?」


ウルフスベインさんが尋ねてきた。

「あ、えと。なんでガレットさんの元を離れたんですか?」

「もとからそういう約束だったからだよ。土地もらって俺の夢を叶えるって」

「『黄金の麦畑』ですか」

ウルフスベインさん、面食らったようだ。

「そうほいほい人に言うもんじゃねぇって言っただろうに。ったくよ」

「なんでですか!言いましょう、シャウトしましょうよ、最高に熱い夢じゃないですか!」

僕は叫んでいた。

「僕も協力しますよ!むしろ、負けませんから」

「は?」

「僕は大地を埋め尽くす芋畑作ってジャガイモで世界征服しますから!」

興奮して言ってしまった。

「ジャガイモで、世界征服だと?」

あ……なんか肩を震わせている。

「なんだそりゃ、最高に熱いじゃねぇえか!ソウル・ブラザー」

背中をバシバシ叩かれる。とんでもない力、めちゃくちゃ痛い。


「よぉうし、いいね。そんじゃあ、手始めにグリードの奴をボコるか」

え?どういうこと?

「グリードの手下になったんじゃないの?」

「はぁ?んなわけあるか。俺はアイツの悪行暴いて、政府共々2年前の反乱のツケを払わせるんだよ」

僕たちは絶句した。

「じゃ、じゃあ、ガレットさんたちを裏切ったってのは」

「ああ、そう思い込ませていた方が都合がいいからな。『敵を騙すにはまず味方から』って言うだろ?」



一方、コレットたちは港町へと向かっていた。



私たちは「ケトゥスの街」を一望できる丘まで来た。


この街はいかにも港町という感じ。

船着き場もあって、交易船とかも停泊している。


大きな街で商業で発展しているのだから、そこで一泊するのかと思っていた。


けれど、ハティさんが「その前の村で一泊」って言った意味がここにきて分かった。


なに、あれ……


街全体を黒い靄みたいなのが覆っている。

ハティさんの右腕みたいに暗くて、怖い。


特に中心部の建物が色が濃い。


「コレット、心配しないで」

そう「エリーゼお姉ちゃん」が私の肩に手を置く。


それだけで私の震えは止まった。


「なるほど。さすがは私の弟ハティ。わかっているじゃありませんか」

お姉ちゃんが言う。


「ええ、愚弟は姉上の『前菜』となるものをようやく見つけました」

ハティさんが自慢げに鼻を鳴らす。


「あの軍船みたいなのは?」

「ああ、どこぞの村に駐留していた小隊が引き上げてきたようですね」

「またあの趣味の悪い実験?」

「そうです。ですから、姉上も『スッキリ』できるでしょう?」


ふたりで顔を見合わせて不敵に笑う。



近くの村で一泊。


村に入るなり、ひどく寂れていることに私は驚いた。

だって、あんな大きな街が近くにあるんだから行商人だって立ち寄るはずだもの。

「おまえさんたち」

声をかけられる。


ハティさん、さりげなくフードを被る。


振り返ると年老いた男性が立っていた。


「早く別な村に行った方がいい」

周囲を気にするようにして忠告してきた。


「どうしてです?」

お姉ちゃんが尋ねる。


「ここ数日、『神隠し』に遭う子供が増えている。その子が神隠しに合う前に……」

「それは共和政府と関係があるの?」

お姉ちゃんがズバリと聞いた。


老人は驚いた。


「なんで、それを」


怯えだす。


「さぁて、なんで知っているのでしょうねぇ」

お姉ちゃんがとぼける。


その老人はお姉ちゃんの顔をまじまじと見つめた。


「っ!?あなたは、もしや」


お姉ちゃんがにやりと笑う。



「まさか、十字の騎士、エリーゼ様にお会いできるとは」

おじいさんが言う。

「私の息子も兵士でした。あの戦の中、あなたに命を救われたのです」

そう言って涙をこらえる。


「その息子さんは?」

「今は街で働いています」

「そうですかそうですか、それは何よりです」

得意げなお姉ちゃん。


「慈悲深き高潔な騎士。戦場にありながら多くの兵士を癒し、命を救ったまさに『十字の騎士』の名にふさわしい御方……」


そう、「お姉ちゃん」こと、エリーゼ様は最高位の聖騎士に与えられる称号「十字の騎士」だ。

それはこれまでの戦果だけではなく、戦場にあって「命を救う」ことを優先してきたから。


「私はあなたが『騎士の恥』と貶められることに納得がいきません」

おじいさんが肩を震わせる。

お姉ちゃんは困ったというように頬を掻いた。

「王を土壇場で見捨てて逃走したなどとっ、誰がそのような嘘を」

おじいさんの憤りは本物だ。

私の眼にはそれが「視えて」いる。

そしてその言葉にお姉ちゃんの胸に深い「後悔」が視えた。

「嘘ではありません」

自嘲するように笑ってお姉ちゃんが言う。

「そんなっ」

おじいさんが愕然とした。

「なぜ……」

「それは、私が姉上を連れ出したからです」

ハティさんがフードを下ろして口を開いた。

「あ、ああ…ああアガートラーム……」

おじいさんは驚きと恐怖の混じった声を上げた。

「私があの暗愚な王を見限り、姉上を拘束してまで連れ出した。姉上は抵抗したが我が力の前に抗いきれなかった」

どす黒い靄を纏ったハティさんの言葉。

私の眼でも嘘を言っていないことがわかる。

「追放された恨みですか?」

「そうとってもらって構わない」

おじいさんの言葉に頷くハティさん。

でも、これは嘘だ。

だって、ハティさんの心のビジョンは後悔と自責の念で押しつぶされそう。


パンッと手を打ち合わせる音が響く。

お姉ちゃんだ。

「そんなことは、今は良いんです。優先すべき問題は『神隠し』事件です」



「ぬ、ぬぅわんてことだぁ」

ハティさんが呻いている。

「国の至宝、蕾たちがぁぁぁ」

安定の変態魔人さん。


おじいさんの話によれば、政府の人たちが子供をさらっているというのだ。

そして、子供たちはまだ誰も帰ってきていない。

失踪者の捜索をみんなが願い出ているが、犯人である政府自体が協力するわけがない。

「あああ、花咲く前に踏みにじられるだなんてっ、許せない」

真面目な話に割って入ってこないで……

「どこに囚われているかわからないのですか?」

「はい、見当も」

おじいさんの絶望したような顔。

「ハティは見つけられないのですか?」

お姉ちゃんの言葉に、ハティさんが真顔に戻って言う。

「時間をかければ探せますが、それまでに蕾たちの安全は保証できません」

変わり身早くない?

そして、こういう時の顔は超絶イケメン。

「アーティファクトは?」

「ダメですね。僕のは『追尾型の破壊』しかできませんから」

え?なにそのえげつないもの。

「そうですか、仮にアーティファクトで炙り出そうにも、子供たちまで危険に曝すわけにもいかないでしょうし」

その言葉に私はある決心をした。

いつまでも甘やかされてばかりの「役立たず」でいたくない。

きっと、お姉ちゃんとお兄ちゃんは他の人たちとは違う。

私は、この二人を信じている。


「あの、お二人に話があります―――」



ジャガイモ仲間へ


いかがお過ごしですか?

お仕事や勉強、家事で忙しい方、今頑張っているあなたは「ヴィクトリー」です。

お休みの人たちは、日々の疲れからちょっとでもひと息入れられているでしょうか?


まずは、ほっこりゆっくり過ごせたら良いですね。



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