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第43話 「騎士道」と「スン」と大脱出!押すな押すなはフリじゃない!


幸せな時を刻んできた。愛する人とも出会った。

だが、一転して暗雲が立ち込める。

その後に続いた不幸な出来事をまざまざと見せつけられる。

愛する人を失った時の光景。

弟が戦場で瀕死の重傷を負った時のこと。

王が弟を追い出すと宣言した時のこと。

その最後は――――――――これだ。


火の海、戦場。

騎士たちが敵を押しとどめている。

(これは、あの時の景色)

体の奥底から怒りが湧き出してくるのがわかる。

怨嗟の声が聞こえる。


「裏切者」「守ってくれなかった」「卑怯者」「恥さらし」……


さまざまな罵倒が聞こえる。

周囲の騎士からも声が聞こえる。


エリーゼは手にした剣を額に押しあて、深呼吸する。

ゆっくりと切っ先を下ろして地面を叩く。

カツンという音と共に波紋が広がり、景色が揺らぐ。


「我は騎士、剣にその身命をかけし者。その剣は魔を討ち、弱き者を護る。誇りこそが我が支え、誉は糧。何人たりとも我が騎士道シュバリーを侵すことはできない」


再度地を叩く。

揺らいだ景色が一変してもとに戻った。



周りに子供たちが倒れている。

いったいどれだけの時間が経っていたのか。

みんな、泣きながらうずくまっている。

謝罪や怒りをあらわにしている。

だが、そのなかでハルが立っていた。

彼の棒がわずかな光を放っている。

(何?あれ……周囲の魔術効果を打ち消し……違う、魔力自体を拡散させてる)


「だだだだ、誰だ!?ぼぼぼ僕が相手だっ」

震えながら必死にみんなを守ろうとしている。

視えない相手に向かって棒を振りまわしている。


(ああ、あれのおかげで私の魔術抵抗が利くくらいまで魔力が薄まったのね)

エリーゼは内心「30エルポイント」とハルを褒めた。


「でも、まあここは譲ってもらわないと」

エルザが双剣を構える。

「今はちょっとね、とっても奮い立っているの。我慢ができないくらい」

唇をなめる。

「昔の話っていいですね。辛かったこともなんだか特別に思えます」

ゆっくりと歩き出す。

「あなたは、それはもういい夢をみさせてくれました」

フッと笑う。


「思い出しましたよ、私の原点ってのを」

周囲をうかがう。

「そこにいるのね」

言うなり、姿が霞む。

壁面を駆けあがった彼女が、逃げ回る蛍光のような点を切り刻む。

「バカですねぇ、そんな魔力でなりを麦粒にしたって分かるじゃない」

魔力の天蓋が崩れた。



「…エルザぁさぁぁぁん!」

フィンレーが叫ぶ。

他のメンバーも全速力で駆ける。

エルザはコレットを抱えたまま走っている。

「ごめんって、つい」

「ついじゃねぇぇぇ!」

後ろから轟音がする。

水が流れている音だ。

「だってぇ、『押すな』ってあったらつい押したくなるのが人の性分じゃないの」

「んなわけねェッスよ」

必死に全員が走る中で、エルザだけが余裕がある。


(つか、速ぇぇ)

頭一つだけエルザが速い。

何よりコレットを抱えながらも息を乱していない。


「ねぇ、アルくん」

エルザが声をかける。

「は、はい」

「この先、抜けるところでウッドバインドの魔術を使ってほしいの。準備できる?」

「……?はい、できますが」

「これ、排水路だから。たぶん行き先は崖よね」

何ということもないように言う。

「飛び出たら奈落の底ね。だから、全員助かるには君の魔術で壁面にみんなを固定するの」


「ええっ?!」

全員が声を上げる。

「大丈夫よ、あなたはできる子だから。何だったらお姉さんが抱っこして準備できるまで走ったげるわ」

「いえ、いいです」

アルセイスが魔術の準備を始める。

「もう少しで抜けるわよ。5つカウントするから、ゼロで発動ね」


そう言って走り続けるが、ハルが遅れつつあった。

エルザは少し速度を緩めてハルを担ぎ上げた。

ちなみにコレットは脇に抱えている。

「もっと走り込みが必要ね」

小柄なエルザが二人を担いで走る。

そして、速度を上げて先頭を走るフィンレーとリャナンを追い越す。

「いい?アルくんを信じて跳ぶのよ」

追い越しざまにエルザは言うと、カウントを始める。


「5、4、3……」

明るさが増した。

光の中に駆け込む。

「2、1、ゼロ!」

全員がジャンプする。

アルセイスがジャンプしながら魔術を放った。

「ウッドバインド(樹木拘束)!」

エルザが言った通り、先に道はなく、みんなが重力にしたがって落下した。


「いやぁぁぁぁ!」

リャナンが悲鳴を上げる。

しかし、寸分たがわずに発動した魔術によって、蔓が壁面から伸びて全員を絡めとる。

「お、おおぉ」

フィンレーが声を漏らす。

「し、死ぬかと思った」

無口なリムアンでさえ声を漏らす。

その直後に地響きを立てて水が通路からあふれ出た。



ギルドで報酬を受け取って山分けをする。

もちろんギルド内ではできない。だから別な食事処でだ。

「私ももらっていいんですか?」

コレットが尋ねると、リャナンが言う。

「当然。コレットちゃんも私たちの仲間なんだから」

言葉に皆が頷く。

「一緒にダンジョンアタックしただろう?」

フィンレーも続ける。

「コレットも活躍したでしょ」

リムアンが言う。

「はい」

コレットの返事に全員が満面の笑みで応じる。


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