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第4話 内緒のジャガバターと涙の味。性悪さんの本音も「スン」。



「もうちょっとで、できるよ」


僕は女の子に声をかける。


彼女は所在なさげに切株に座っていた。


僕が作っているのは「焼き芋」だ。


穴を掘って、火を熾した。


落ち着いたところで、落ち葉などでくるんだジャガイモさんを投入。


ぷすぷす言っているいところを「追い火」して加熱。


じっくり火を通す。


〈ロッシェ~、いいの?〉


「何が?」


〈勝手に食べて、怒られない?〉


「大丈夫。アイツらいちいち数えてないし」


〈ならいいけれどさ~〉


アンジェさんがさして興味なしとばかりに言う。


あ……マズイ。


僕は振り返る。


案の定、女の子は驚いた顔をしていた。


アンジェさんの声は他の人に聞こえないから、独り言を言っているように思われたんだ。


「あ~!ちょっとハル!」


遠くで声がする。ハンナだ。


こっちに駆け寄って来る。


「何やってるのよ」


「ごめん、お腹が空いて」


「もう、だったら言ってよね。食べる物、持ってくるのに」


「うん……」


ハンナのお小言に僕は謝る。


そして、ハンナは女の子に気づいたみたい。


「その子は?」


「ノービス村の孤児院の子」


「ああ、そうなんだ」


ハンナもそれで事情を察したみたい。


「じゃあ、ちょっとだけ待っていて」


そう言って小走りでいなくなった。





なんだろう、このお兄さん。


私は「ポルコ」っていう人に畑に連れて行かれた。


そこで、畑仕事をしているお兄さんに預けられた。


変なお兄さん。


他の人と違って、「視えない」。


「ねえ」


声をかけてくる。


私は反射的に身を固くした。


(こんな子に作業をさせるなんて可哀想だよ)


「心のビジョン」が視えた。


そう、私の眼には、その人の「心の声」がイメージとして「視える」。


だから、このお兄さんの声も視える。


そして、その人の持つ「魔力」の色も。


でも、その魔力が視えるはずなのに……


このお兄さんのは視えない。


透明で、なにも「ない」。


「僕はご飯、まだなんだ。よかったら一緒に食べようよ」


これは嘘。もう朝ごはんは食べている。

お昼にはまだ早い。


「で、でも……私」


私は言い淀む。きっと私のために嘘をついているから。


(きっと、何か見返りとか要求されると思ってるんだろうな)


優しい気づかい。きっといい人なんだと思う。


「気にしないで。ただ、一緒にご飯を食べようってだけだから」


そう笑う。嘘をついていない。


私は小さく頷いた。


そして、「ちょっと待っていてね」って地面を掘り始めた。


火を熾す時、火打石を使った。


「生活魔術」で火を熾さない。


どうして?


それからお芋を穴の中に入れて、少ししてからまた火を熾した。


この時も、火打ち石。


もしかして……「魔力がない」?


〈ロッシェ~、いいの?〉


女の人の声がする。


私は周りを見た。


誰もいない。


「何が?」


お兄さんは穴のお芋を見たまま言った。


〈勝手に食べて、怒られない?〉


「大丈夫。アイツらいちいち数えてないし」


〈ならいいけれどさ~〉


そこで私は気づいてしまった。


声の主。


それは、お兄さんの近くにある【棒】だってことに。




ハンナが戻ってきた。


あ、「バター」じゃないかっ!?


ハンナ様ぁぁぁっ、ありがとうございますぅぅ。


〈なによなによっ!いいカッコしいがぁ〉


アンジェさんはちょっと拗ねている。


でもまあ僕はハンナに感謝だ。


「ひひひっ、ナイショだからね」


そう言って焼きたての「ジャガイモさん」にバターを乗せてくれる。


ほわわわわん


湯気と共に立ち上る甘くミルキーな香り。


ほぉぉぉ、よかにおいですなぁ。


「はぁい、どうぞ」


そう言ってハンナは女の子に渡す。


古い紙の上に乗せた「ジャガバター」。


女の子は驚いたように顔を上げた。


僕たちの顔を交互に見る。


「どうぞ、召し上がれ」


「遠慮しないで」


僕たちがそう言うと、女の子はためらいがちに「ジャガバター」に齧り付いた。


「あひっ」


小さく悲鳴を上げて、はふはふと口の中を冷ましながら食べる。


夢中で食べている。


うんうん。やっぱりお腹空いていたんだね。


え?……泣いてる。


食べながら、俯いた顔から滴がこぼれ落ちているのが見えた。





僕たちは女の子が食べ終えるまで待った。


きっと今まで辛いことがいっぱいあったんだね。


僕は母さんやエナ、アンジェさんがいるから頑張れるけどさ。


この子に味方してくれる人はいないのかな?


そうして食後、自己紹介をした。


彼女の名前は「コレット」だった。


11歳だった。


え……そんなに歳が離れてないよ……


もっと年下だと思っていた。



それから、コレットにはちょっとだけ作業を手伝ってもらった。



無理のないように、「種芋」さんを置く作業をしてもらった。


ふかふかの「畝」の段差で彼女はよく転んだ。


その度に「ごめんなさい」って謝っていた。


ぜんぜん気にならない。


むしろ、そんなに謝らないでほしい。


妹のエナだってお手伝いの時、しょっちゅうだから。



日が暮れる前、早めに帰すことにした。


「送ろうか」と聞いたら、「一人で帰れる」とのこと。


すごいなぁ。


一本道だけれど、歩いて2時間はかかるよ。


僕は別れ際、「また来てね」って言った。


なんだか、そう言わないとコレットは来なくなるような気がしたんだ。


「コレットが嫌じゃなければ、毎日だって来てもいいんだよ」


コレットはなぜか口元を歪めて何かを堪えていた。


そして、お辞儀をして帰って行った。




不思議……帰り道、ぜんぜん疲れなかった。


体もぽかぽかしている。


おいしいお芋を食べたからかな?


ハルもハンナさんも優しかった。


「また来てね」って。


嬉しいな。


ちょっとだけ、頬が緩んだ。


私は孤児院の扉を開く。


軋むような音をたてて動く扉。


薄暗いホールにシスターがいた。


「あら、お帰りなさい」


ちょっと驚いたような顔。


「コレット、大丈夫でしたか?」


シスターが心配そうに声をかけてくれる。


でもシスターと同じ姿の誰かが囁く。


(チッ、なんで帰ってきたのよ)


うっすらとだけれど胸のあたりに「黒い靄」のようなものがかかっている。


「……はい」


私は気味の悪さを堪えながらシスターに頷いた。


「遅いから心配したのですよ」

(その辺でくたばってくれたら面倒が減るのに)


心配そうに顔を歪めている年老いたシスター。


でも、その言葉に重ねるように彼女と同じ姿の誰かの囁きが「視える」。


いつものこと。


「お腹が空いたでしょう?これからお夕食ですから、一緒に食べましょうね」

(せっかく食い扶持が減ると思ったのに。間の悪いことに食事の時間に戻るなんて)


私はシスターに促されて食堂へと移動する。


他の子はみんな揃っていた。


私は空いた席に座る。


そして、みんなと一緒にご飯を食べる。


お夕食のスープとお芋を食べる。


他の子は何も言わない。

私をどう思っているんだろう。


周りの子の本音を「覗きたい」という気持ちはある。

けれど、でもまた本当のことが視えてしまって、傷つくのも嫌だな……


冷めて固くなったお芋を齧る。

おいしくない。


喉にひっかかる。私はそれをスープで流し込む。


味があまりしない。



「ハル」のお芋はあんなにおいしかったのに。


あったかくって、あまくって、ちょっとしょっぱい。


お腹の中からあったかくなる味。


まだちょっと、ぽかぽかしている。


また、食べたいな……



ジャガイモ仲間へ


皆さんいかがお過ごしでしょうか?

今日はよい日?普通の日?

それとも嫌なことがあった日?

嫌なことはハルくんみたいに「スン」とシャットアウトしちゃいましょう!



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