第4話 内緒のジャガバターと涙の味。性悪さんの本音も「スン」。
「もうちょっとで、できるよ」
僕は女の子に声をかける。
彼女は所在なさげに切株に座っていた。
僕が作っているのは「焼き芋」だ。
穴を掘って、火を熾した。
落ち着いたところで、落ち葉などでくるんだジャガイモさんを投入。
ぷすぷす言っているいところを「追い火」して加熱。
じっくり火を通す。
〈ロッシェ~、いいの?〉
「何が?」
〈勝手に食べて、怒られない?〉
「大丈夫。アイツらいちいち数えてないし」
〈ならいいけれどさ~〉
アンジェさんがさして興味なしとばかりに言う。
あ……マズイ。
僕は振り返る。
案の定、女の子は驚いた顔をしていた。
アンジェさんの声は他の人に聞こえないから、独り言を言っているように思われたんだ。
「あ~!ちょっとハル!」
遠くで声がする。ハンナだ。
こっちに駆け寄って来る。
「何やってるのよ」
「ごめん、お腹が空いて」
「もう、だったら言ってよね。食べる物、持ってくるのに」
「うん……」
ハンナのお小言に僕は謝る。
そして、ハンナは女の子に気づいたみたい。
「その子は?」
「ノービス村の孤児院の子」
「ああ、そうなんだ」
ハンナもそれで事情を察したみたい。
「じゃあ、ちょっとだけ待っていて」
そう言って小走りでいなくなった。
◇
なんだろう、このお兄さん。
私は「ポルコ」っていう人に畑に連れて行かれた。
そこで、畑仕事をしているお兄さんに預けられた。
変なお兄さん。
他の人と違って、「視えない」。
「ねえ」
声をかけてくる。
私は反射的に身を固くした。
(こんな子に作業をさせるなんて可哀想だよ)
「心の声」が視えた。
そう、私の眼には、その人の「心の声」がイメージとして「視える」。
だから、このお兄さんの声も視える。
そして、その人の持つ「魔力」の色も。
でも、その魔力が視えるはずなのに……
このお兄さんのは視えない。
透明で、なにも「ない」。
「僕はご飯、まだなんだ。よかったら一緒に食べようよ」
これは嘘。もう朝ごはんは食べている。
お昼にはまだ早い。
「で、でも……私」
私は言い淀む。きっと私のために嘘をついているから。
(きっと、何か見返りとか要求されると思ってるんだろうな)
優しい気づかい。きっといい人なんだと思う。
「気にしないで。ただ、一緒にご飯を食べようってだけだから」
そう笑う。嘘をついていない。
私は小さく頷いた。
そして、「ちょっと待っていてね」って地面を掘り始めた。
火を熾す時、火打石を使った。
「生活魔術」で火を熾さない。
どうして?
それからお芋を穴の中に入れて、少ししてからまた火を熾した。
この時も、火打ち石。
もしかして……「魔力がない」?
〈ロッシェ~、いいの?〉
女の人の声がする。
私は周りを見た。
誰もいない。
「何が?」
お兄さんは穴のお芋を見たまま言った。
〈勝手に食べて、怒られない?〉
「大丈夫。アイツらいちいち数えてないし」
〈ならいいけれどさ~〉
そこで私は気づいてしまった。
声の主。
それは、お兄さんの近くにある【棒】だってことに。
◇
ハンナが戻ってきた。
あ、「バター」じゃないかっ!?
ハンナ様ぁぁぁっ、ありがとうございますぅぅ。
〈なによなによっ!いいカッコしいがぁ〉
アンジェさんはちょっと拗ねている。
でもまあ僕はハンナに感謝だ。
「ひひひっ、ナイショだからね」
そう言って焼きたての「ジャガイモさん」にバターを乗せてくれる。
ほわわわわん
湯気と共に立ち上る甘くミルキーな香り。
ほぉぉぉ、よかにおいですなぁ。
「はぁい、どうぞ」
そう言ってハンナは女の子に渡す。
古い紙の上に乗せた「ジャガバター」。
女の子は驚いたように顔を上げた。
僕たちの顔を交互に見る。
「どうぞ、召し上がれ」
「遠慮しないで」
僕たちがそう言うと、女の子はためらいがちに「ジャガバター」に齧り付いた。
「あひっ」
小さく悲鳴を上げて、はふはふと口の中を冷ましながら食べる。
夢中で食べている。
うんうん。やっぱりお腹空いていたんだね。
え?……泣いてる。
食べながら、俯いた顔から滴がこぼれ落ちているのが見えた。
◇
僕たちは女の子が食べ終えるまで待った。
きっと今まで辛いことがいっぱいあったんだね。
僕は母さんやエナ、アンジェさんがいるから頑張れるけどさ。
この子に味方してくれる人はいないのかな?
そうして食後、自己紹介をした。
彼女の名前は「コレット」だった。
11歳だった。
え……そんなに歳が離れてないよ……
もっと年下だと思っていた。
それから、コレットにはちょっとだけ作業を手伝ってもらった。
無理のないように、「種芋」さんを置く作業をしてもらった。
ふかふかの「畝」の段差で彼女はよく転んだ。
その度に「ごめんなさい」って謝っていた。
ぜんぜん気にならない。
むしろ、そんなに謝らないでほしい。
妹のエナだってお手伝いの時、しょっちゅうだから。
日が暮れる前、早めに帰すことにした。
「送ろうか」と聞いたら、「一人で帰れる」とのこと。
すごいなぁ。
一本道だけれど、歩いて2時間はかかるよ。
僕は別れ際、「また来てね」って言った。
なんだか、そう言わないとコレットは来なくなるような気がしたんだ。
「コレットが嫌じゃなければ、毎日だって来てもいいんだよ」
コレットはなぜか口元を歪めて何かを堪えていた。
そして、お辞儀をして帰って行った。
◇
不思議……帰り道、ぜんぜん疲れなかった。
体もぽかぽかしている。
おいしいお芋を食べたからかな?
ハルもハンナさんも優しかった。
「また来てね」って。
嬉しいな。
ちょっとだけ、頬が緩んだ。
私は孤児院の扉を開く。
軋むような音をたてて動く扉。
薄暗いホールにシスターがいた。
「あら、お帰りなさい」
ちょっと驚いたような顔。
「コレット、大丈夫でしたか?」
シスターが心配そうに声をかけてくれる。
でもシスターと同じ姿の誰かが囁く。
(チッ、なんで帰ってきたのよ)
うっすらとだけれど胸のあたりに「黒い靄」のようなものがかかっている。
「……はい」
私は気味の悪さを堪えながらシスターに頷いた。
「遅いから心配したのですよ」
(その辺でくたばってくれたら面倒が減るのに)
心配そうに顔を歪めている年老いたシスター。
でも、その言葉に重ねるように彼女と同じ姿の誰かの囁きが「視える」。
いつものこと。
「お腹が空いたでしょう?これからお夕食ですから、一緒に食べましょうね」
(せっかく食い扶持が減ると思ったのに。間の悪いことに食事の時間に戻るなんて)
私はシスターに促されて食堂へと移動する。
他の子はみんな揃っていた。
私は空いた席に座る。
そして、みんなと一緒にご飯を食べる。
お夕食のスープとお芋を食べる。
他の子は何も言わない。
私をどう思っているんだろう。
周りの子の本音を「覗きたい」という気持ちはある。
けれど、でもまた本当のことが視えてしまって、傷つくのも嫌だな……
冷めて固くなったお芋を齧る。
おいしくない。
喉にひっかかる。私はそれをスープで流し込む。
味があまりしない。
「ハル」のお芋はあんなにおいしかったのに。
あったかくって、あまくって、ちょっとしょっぱい。
お腹の中からあったかくなる味。
まだちょっと、ぽかぽかしている。
また、食べたいな……
ジャガイモ仲間へ
皆さんいかがお過ごしでしょうか?
今日はよい日?普通の日?
それとも嫌なことがあった日?
嫌なことはハルくんみたいに「スン」とシャットアウトしちゃいましょう!




