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第5話 もぐりの女医とジャガーソングと怪しい影。首都で暴れてるのは誰でしょう?



「あの~、すいません」

若い女の声がする。


コレットは扉の影から礼拝堂の様子を覗き見た。


「……なんでしょう」

ちょうど掃除をしていたシスターが応えた。


「あ、旅の者なんですが」

「はい」

「病気の子とかいませんかね」

女の奇妙な質問にシスターは怪訝な顔をした。


それから、あの囁くような声……イメージが浮かぶ。


「実は私、医者でして。このご時世でしょ?もといた村が焼けてしまってから方々を渡り歩いて病気の人を診ては日銭を稼いでいるんです」


「では、ここにお金を無心に来たと?」

(面倒な奴が来たわね)


「いや、教会にたかるなんて罰当たりなことはしませんよ。治療代の代わりに泊めてくれると嬉しいなぁって」

女はバツが悪そうに頭を掻く。


「そうですか。でも、本当にお医者様かしら?それこそいいお医者様なら居てくれっていうところもあったでしょう」

(どうせ金の無い貧乏人が宿代わりに居つこうって腹でしょう)


「そこは、あまり長居できない性分でして」


悪びれたふうもなく言い、女は白銀の髪先を指でもてあそぶ。

背の低いシスターとあまり変わらないくらいの身長。


「本当かしら?」

取って付けたようなことを言うのでシスターはますます疑念を深めた。


コレットには銀髪の女性の考えていることが視える。


(疑り深いお人ですね。まあ、子供のことを思えば仕方がないでしょう)


「ああ、シスター、あなた左足が悪いですね。それを庇っているから右足に痛みが出る。違いますか?」

不意に女性はシスターの左足を指さす。


「右足は痛いのですが、左足は何とも」

(ほら、みたことか。もぐりが)


的外れな指摘にシスターはさらに警戒心を高めて言った。


「どうですかね?診させてください。私の腕をお疑いのようなのでタダにしておきますよ」

そう言ってシスターを無理に椅子に座らせる。


女性はシスターの左足の膝上を触る。


「いたっ!」

触った途端、シスターが小さな悲鳴を上げる。


「トリガーポイントっていって本当はここが悪いんです。でも無意識に庇うから右のほうにばかり負担がかかって痛みが出てしまう」


アイスブルーの綺麗な目でシスターの顔を見る。


「まあ、歳も歳ですから完治はしないでしょうけれど、軟膏を塗って凝り固まった筋肉をほぐしましょう。少しは楽になりますよ」


言うと、カバンから瓶を取り出し、蓋を開く。


指先で軟膏を掬い取って、膝に塗り広げる。


「少しほてりを感じますが、それが効いている証拠です。少し安静に」


シスターの足に丁寧に薬を塗る。


ちょっとしてから「どうです」とシスターを立たせる。


「あら、痛くない」

(本当に、医者だったの?この女)


驚くシスターに、「でしょう?」と女性は自慢げに応えた。


(ふふぅん、どうですか。どうですか。この私の腕はその辺のヤブとは違うのですよ)


「ありがとう」とお礼を言うシスター。


(チッ追い出す口実が無くなったじゃないの)


それに事もないように女性は「いえいえ、どういたしまして」と答える。

(うんうん。一日一善。良いことをしましたねぇ、偉いぞ私)





「ジャ~ガ、ジャガジャガ、ジャガイモさぁん~」


〈ヘイ、ジャガイモさ~ん〉


僕は自作の歌を口ずさみながら農園へと急ぐ。

もちろん【土寄せ棒】のアンジェさんの合の手つき。


デカネズミの一件以来、ポルコたちは僕を警戒している。


あまりちょっかいをかけてこない。


まあ、遠巻きに「キッショ」とか「みんなに嫌われている」って言ってるけど。


イラつきはしても以前ほどの実害はないから、まだ許容範囲。


それよりも拡張中の畑の土づくりしなきゃ。


今日はハンナが「堆肥」を分けてくれる予定なんだ。


「灰」をブレンドしよかねぇ。気分も「ハイ」だから。


それまで石とか余分なのを取っておいてあげないと……ふふ。



あれから定期的に「コレット」も来るようになった。


ちょっとずつだけれど、「笑顔」も見せるようになった。


彼女が元気になってきているようで良かったよ。



「あいらぶぅ〈アイラブ〉、あいにーじゅ~〈アイニージュー〉」


『ぽてぇ~とぉ~』


ふたりでハモる。


〈OH、イエス!〉


「ノー、ポテト。ノー、ライフ」


ふふっ、決まったね。


ふと林の方に人影が見えた。


村の結界が壊された。


あの後、村の人が結界を見に行ったら、結界石が一個無くなっていたらしい。


たぶん犯人はポルコ。

証拠はないけれどさ。


ポルコの奴がこっそり結界石を戻そうとしているのか?


〈あやしいわね〉


アンジェさんと頷きあう。


あ、彼女の場合はそんな感じの擬音をだしただけ。


僕は後をつけることにした。





共和国首都ミッドガルズ。

旧王都をそのまま首都として定め、王城を暫定的な議事堂として利用している。


他の都市も反乱時の暴動によって破壊されていたためだ。

現在新たに議事堂を建築中ではあるが、遅々として進んでいない。

破壊された各都市と政治機能の復興こそが急務であったからだ。


いまだに戦の傷跡が色濃く残る首都、その王城の一角。

ほの暗い廊下を一人の女性が歩く。


陽光の下では白銀に光る髪は、燭台の光を受けて飴色に光っている。

腰には茨の装飾が施されたロングソード。


銀を基調としたプレートメイルを身に纏っている。

彼女の靴音だけが廊下に響く。


彼女はふと立ち止まると声を発した。


「ねぇ、あなたは何者かしら」


答えはない。


「ずいぶんと下手くそですね。今、大人しく出てきてくれるなら害意なしとして見逃してあげます」

穏やかな口調で語りかける。


「10数えましょう。それまでに出てきてください。もちろん、変なことをしたら敵意ありとして処断するわ」

口調と裏腹に苛烈なまでの殺意を向ける。


ゆっくりと黒髪の女性が姿を現す。


「見た顔ね」


「私も……です」


アイスブルーの瞳を向ける白銀の髪の女性。

穏やかな笑みを浮かべてはいるが目の奥には暗い光を湛えている。


それに対して黒髪の方は戸惑いを隠せないでいる。


「何が目的?」

「言いません」

「でしょうね」


銀髪の言葉を受けて、黒髪の女性がそっと刀の柄に手をかける。


「いけない子ね。剣を抜くなんて」

「っ!?」


「あなたの流派は柄に手をかけたときには抜いたも同義。私が見逃すと思って?」


「それだけ誘っておいて言うのですか」


黒髪の女性は機をはかりつつも窓際まで後退する。

「恐ろしいまでの殺気。それでよく見逃すなんて言えますね」

「あら、察しがいいですね」

「もし私の知っている人なら、油断をしたらすぐに首を刎ねるでしょう」


この言葉に銀髪の女性は目元を緩める。

「ますます察しがいいですね」

そう楽しそうに笑う。


「ご褒美をあげます。あの人に伝えてください。『あなたの大切なものは、無事』って。もう一つ。『危ないから絶対に焦らないで』ってね」


言い終えると同時に、黒髪の女性に斬りかかる。

剣を抜く動きは見えなかった。


「くぅっ!」

黒髪の女性はその鋭さに飛び退く。


「ダメですよ、そんなんじゃ。精進しなさい」


銀髪の女性はクスクスと楽しそうに笑う。

避けたはずの黒髪の左腕がわずかに斬られている。


「影よ、戒めとなれ。【シャドウバインド(影縫い)】!」

黒髪は魔術を使う。


銀髪の足元に広がる影が伸び、本体である彼女自身に絡みつく。


動きが止まったわずかの時間。


黒髪が跳躍する。

窓へ向け跳び、そのまま外へと身を投じた。


「ふ……」

その様子を銀髪の女性が微笑みながら見ている。


「さすが私の『旦那様』の子。いい教育を受けていますね」

呟くと共に拘束している影が砂のように綻び、崩れていく。


「ちゃんとお使いをするのですよ」



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