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第4話 もぐりの女医と地面をつつく僕


「あの~、すいません」

若い女の声がする。

コレットは扉の影から礼拝堂の様子を覗き見た。

「……なんでしょう」

ちょうど掃除をしていたシスターが応えた。

「あ、旅の者なんですが」

「はい」

「病気の子とかいませんかね」

女の奇妙な質問にシスターは怪訝な顔をした。

それから、あの囁くような声……イメージが浮かぶ。


「実は私、医者でして。このご時世でしょ?もといた村が焼けてしまってから方々を渡り歩いて病気の人を診ては日銭を稼いでいるんです」

「では、ここにお金を無心に来たと?(面倒な奴が来たわね)」

「いや、教会にたかるなんて罰当たりなことはしませんよ。治療代の代わりに泊めてくれると嬉しいなぁって」

女はバツが悪そうに頭を掻く。

「そうですか。でも、本当にお医者様かしら?それこそいいお医者様なら居てくれっていうところもあったでしょう(どうせ金の無い貧乏人が宿代わりに居つこうって腹でしょう)」

「そこは、あまり長居できない性分でして」


悪びれたふうもなく言い、女は白銀の髪先を指でもてあそぶ。

背の低いシスターとあまり変わらないくらいの身長。

「本当かしら?」

とってつけたようなことを言うのでシスターはますます疑念を深めた。


「(疑り深いお人ですね。まあ、子供のことを思えば仕方がないでしょう)ああ、シスター、あなた左足が悪いですね。それを庇っているから右足に痛みが出る。違いますか?」

不意に女性はシスターの左足を指さす。

「右足は痛いのですが、左足は何とも(ほら、みたことか。もぐりが)」

的外れな指摘にシスターはさらに警戒心を高めて言った。

「どうですかね?診させてください。私の腕をお疑いのようなのでタダにしておきますよ」


そう言ってシスターを無理に椅子に座らせ、左足の膝上を触る。

「いたっ!」

触った途端、シスターが小さな悲鳴を上げる。

「トリガーポイントっていって本当はここが悪いんです。でも無意識に庇うから右のほうにばかり負担がかかって痛みが出てしまう」

アイスブルーの綺麗な目でシスターの顔を見る。

「まあ、歳も歳ですから完治はしないでしょうけれど、軟膏を塗って凝り固まった筋肉をほぐしましょう。少しは楽になりますよ」

言うと、カバンから瓶を取り出し、口を開く。

指先で軟膏を掬い取って、膝に塗り広げる。

「少しほてりを感じますが、それが効いている証拠です。少し安静に」

シスターの足に丁寧に薬を塗る。


ちょっとしてから「どうです」とシスターを立たせる。

「あら、痛くない(本当に、医者だったの?この女)」

驚くシスターに、「でしょう」と女性は自慢げに応えた。

(ふふぅん、どうですか。どうですか。この私の腕はその辺のヤブとは違うのですよ)

「ありがとう」とお礼を言うシスター。

(チッ追い出す口実が無くなったじゃないの)

それに事もないように女性は「いえいえ、どういたしまして」と答える。

(うんうん。一日一善。良いことをしましたねぇ、偉いぞ私)



僕は、愛用の棒で農園の地面を突いていた。

魔物を一瞬で消した僕をみんなは気味悪がって近づかなくなった。

結界を壊したという疑惑は、ハンナの嘘でうやむやになった。

「私はハルと一緒に見回りをしていた」ってみんなに説明したんだ。

彼女はポルコと僕が農場に行くのを見て、後をつけた。

それから僕と一緒に見回った。

けれど、農園でポルコが襲われているのを見て怖くなって逃げ出した。

家に戻ったところで魔物に襲われた。

こんな内容だった。もちろん全部、嘘だ。

でも、ポルコだって嘘をついていて真実を証明できない。

だから、ハンナの嘘も嘘って証明できない。

娘が言うことをおじさんもおばさんも否定しなかった。

だから、こうして僕は農園でまだ働かせてもらっている。

ハンナには頭が上がらない。

ああ、僕はなんで地面をつついているのかって?

傍から見れば、何をしてるんだって話。

だけれど、これをしないのとした後では、植物の生育が違う。

試しにやらない年があったけれど、その時は天候不順でもないのに生育が悪かった。

それどころか虫害や病害にあった。

それから僕はこの棒で農園の作物近くの地面をつつくようになった。

植物を直接叩いたら、痛めてしまうかもしれないのでやらない。

けれど、萎れかけていた葉にツヤが戻るのを見ていると間違いじゃないと思っている。

ポルコはこれが気に入らないらしい。

僕から取り上げて捨てたこともあったし、壊そうとしたこともあった。

けれど、不思議なことに次の日には僕の手元に戻ってくる。

壊そうと斧を使っても、火で炙っても傷つきも焦げもしない。

軽くもなければ重くもない。いつもちょうどいい感じ。

不思議な棒だなぁと思っている。

不気味な感じもしないんだよね。

そういえば、父さん「それは先祖が熾天使フランメさまから授かった杖なのだ」って言っていったけ。

こんなブドウ色の棒が?って思う。

けれど、でも不思議と手になじむから僕の相棒って感じ。棒だけにね。

この棒を手にしている時だけは、なぜか心の靄も晴れるような気分だった。


ジャガイモ仲間へ


祝日後、非常にダルいですね。

午前中はどうでしたか?

シスターみたいな人にも遭遇したのでは?

ハルくんみたいにそんなのは「スン」とシャットアウトしちゃいましょう。

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