第39話 「スン」発動!燃えよ、フェンリルナイト
小休止を経て僕たちは探索を再開した。
途中モンスターと遭遇することもあったけれど、すべてフィンたちがやっつけてくれた。僕やエルザさん、コレットは後をついていくだけだ。
でも僕だって少しは仕事をする。
「ねぇ、これ採っておくね」
そう言って脇に生えている、外では見かけない草を指さす。
「お、頼むよ」
フィンが返事をしてくれる。僕は鎌を使って刈り取ろうとする。
「できれば根っこの方から採った方がいいわね」
声がしてエルザさんがとなりにしゃがんだ。
ふんわりいい匂いがする。柑橘のようなスパイスのような若草の匂い。
結構歩いて汗をかいているのにな。
僕は言われたとおりに草を採取した。
あ、けっこう根っこが深いぞ…て根が太いな。
なんとか掘り起こして採取する。
「上手じゃない、ハル」
エルザさんが褒めてくれる。
「それはね、根っこのほうに薬効がある薬草なのよ。普通の草と同じように見えるのによく見落とさなかったね」
「そ、そうなんですか~」
いいなぁ、やっぱり。モチベーションあがるよ。農園のときとは大違い。
あれ、なんかコレットがほっぺを膨らませている。
目を向けるとぷいって横を向いてしまった。
「え、エルザ先生!この石、キラキラして綺麗です。何かの鉱石ですよね」
コレットが大きな声でエルザさんを呼ぶ。
「どれどれ~」ってエルザさんが見に行く。
その様子をみんなは笑って眺めていた。
「あ、たぶん雲母じゃないかな」
「貴重なものですか?」
「いいえ、どこにでもあるわよ。多分線に沿ってなら指でも剥がせるんじゃないかな」
「ふぇ」
コレットががっかりしている。かわいそうだな。
「確か、すり潰して粉にしたのを化粧の材料にしていたと思うよ」
僕は言ってみた。
「あら、よく知っているのね」
「昔お金にならないか道具屋に持っていったときに教えてもらったんです」
「へぇ~」
コレットが見つけたものなんだ。価値がないわけじゃない。
でも、コレットはむくれてしまった。
「ハルには聞いてないです」って、行ってしまった。
エルザさんも困ったように後ろ頭を掻いていた。
◇
そんなこともありながら、採取を続けつつ奥へと進んだ。
言葉通りに巨大な石造りの扉があった。
「はいは~い、私の出番ですねぇ」
そう言ってリャナンが進み出る。
小石をとって投げる。
「えいっえいっ!」とか言って投げる姿は微笑ましい。
「うん、次は」
地面に伏せて地面を叩く。
最後に膝立ちになって扉をぼーっと眺める。
石を投げたかと思ったら地面に這いつくばり、そしてぼーっとする。
傍から見れば本当に情緒不安定な奇人だ。
しばらくして「うん。罠はないね大丈夫」と起き上がる。
「スヴェン、手伝ってくれ」
フィンレーが扉を開けようとする。
「あら、いいわよ。私がやるから」
「え?でも」
「扉を開けたらいきなりモンスターが出てくるかもしれないでしょ」
遠慮する二人にエルザさんが笑う。
「それに、ここいらで私も何かしないと存在価値を疑われるわ」
迷いなく扉に近づいたかと思うと前蹴りで扉を蹴飛ばす。
「っ!?」
バーンという音よりもどぉぉぉんという爆発音が響く。
「あら?意外に軽かった…のね」
数メートル先に転がる扉。
「……脳筋」
「人間の皮を被ったモンスターだと思う」
リムアンとアルセイスが呟く。
「さぁて、フロアボスとかいうのってどんなのかしら」
◇
ふたりの非難をよそにエルザが進み入る。
遺跡のような石造りの広間。
不思議なことに陽光のようなものが降り注ぎ、壁伝いに水が流れ落ちている。
その水があふれないのはどこかで排水されているからなのだろう。
部屋の中央に水晶のような石が積んである。
「ん?なんで魔力が込められた石があるのかしら?宝石っぽいけど」
エルザが首をひねる。
「それ、魔水晶とかっていう宝石です。魔術の触媒とかにもなるんで高値で取引されますよ」
フィンレーが言う。
「やったぁ!お宝ですね」
コレットが喜ぶ。
「じゃあ、宝石を集める習性があって、それで餌をおびき寄せるんだから」
「はい。ドラゴンです」
エルザの言葉にフィンレーがこともなげに答える。
◇
え……ちょっと待って。
いま「ドラゴン」って言った?言ったよね?
その疑問が整理できないうちに、巨大な生物が宝石の山に降り立つ。
あまりの巨体。縦長の瞳孔を持つ瞳がこちらを見据えている。
赤黒く鱗に覆われた体。大きな翼。3…4本爪の四肢。
コレットだけではなく、リムアン達も固まっている。
「確かに、ドラゴンの鱗は剣を通さないくらい固いらしいわね。それにいいサイズ」
エルザさんがうんうんと納得の首肯をする。
いやいやいや、いいサイズってなんですか?ドラゴンですよ!
魔獣でもトップクラスにヤバい奴ですよ。
「固くてでかいのが好き」って剣も通らないって噂のドラゴンさんですよ。
動揺する僕たちの弱気を察してかドラゴンが咆哮する。
それだけで空気が震え、周囲の水が波立つ。
ほら、なんかドラゴンさんお怒りです。下手すれば鉄拳が飛びます。
口の端からなんか喉元が明滅してる。
なんだかくしゃみでもしそうな動き、火みたいのが口の端から漏れている。
「……あ、ヤバ」
フィンレーが呟く。
みんな身構える。
「ブレスが来る、にげろぉっ!」
フィンレーの合図と同時に背を向けて走り出す。
「コレットちゃん、急いで」
リャナンが手をとる。
「がんばれ」
リムアンも背中を支える。
「逃げろ逃げろ、黒焦げだ」
フィンレーが言う。
ドラゴンがブレスを吐いた。高熱の波が襲ってくる。
ボス部屋から出ても放たれた炎が追ってくる。扉壊したの誰だよ!
……あ、エルザさんだった。
「スヴェン!」
「おう!」
一番後ろを走っていたスヴェンが反転して盾を構える。
「【スヴァリン・フォルスヴァール】」
炎の波が僕たちを覆いそうな時だった。
スヴェンの見えない壁によってそれが阻まれる。壁から蒸気が上がり、霜みたいなものが足元に広がる。
「あら?」
エルザさんが驚く。
「…8、9、10、11、12、13……」
「スヴェン、もう少し!」
「って、アイツどんだけブレス長ぇんだ!」
(ぼ、僕も何かしなきゃ)
僕はオロオロと周囲を見渡す。
(ダメだ、僕なんて、棒を振り回すしか能がない。でも……)
棒をじっと見つめる。
(そうだ、グリードの屋敷の時みたいに気を散らしたり、注意を引きつければ)
ぐっと棒を握る手に力を込める。
(邪魔だって怒られるかもしれないけれど、何もしない役立たずよりかはマシだ)
◇
「うおぉぉぉらぁ、ドラゴン!こっちじゃぁぁ」
大声を上げて棒を振り回す。
「どうだ、こっちにうまい棒があるぞぉ!」
「ば、バカっ!」
フィンレーが叫ぶ。
ブレスが止む。
ドラゴンがハルへと標的を定めた。
再度の溜め。それから容赦なくブレスを吐く。
「うわぁぁあ!」
ハルが悲鳴を上げる。
「バカ野郎っ!」
スヴェンが割って入るようにし盾を掲げる。
「スヴァリン・フォルス――――」
魔術の盾を展開しようとした時だった。
ブレスが届く寸前、ハルが棒を振り下ろした。
―――――――――スン
ブレスが消える。
それはドラゴンの口元まで届き、音もなく消し去った。
ドラゴンは「ゲフッ」というゲップのような音を出す。
「よくやったね、スヴェン」
リャナンが歓声を上げる。
(え、いや?不発か?)
スヴェンが首をかしげる。
「親父殿だったら簡単にシャットアウトするんだけどなぁ」
「あの人と一緒にすんなっ」
アルセイスの軽口にスヴェンは口答えをする。
「肩並べるなんて無理だろうがよ」
エルザが不意にスヴェンの隣に来る。
「?」
バシッと背中を叩いた。
「同じことができるなら、同じ土俵に立ってんじゃない。もう肩を並べてるのよ」
面白くなさそうに言うエルザ。
全員が彼女の顔を見た。
「はっ……」
フィンレーが失笑する。
「本当に姉弟なんですか?」
呟いた途端、ゆっくりとドラゴンに向かって歩き出す。
「考え方が似てないですね」
フィンレーが剣を振るう。
「あ~言われちゃあなぁ」
合わせるように、スヴェンが盾を担ぎ上げる。
「どうせ、倒さなきゃ先に進めないんだものね」
リャナンも鯉口を切り、剣の柄に手をあてる。
「この国のドラゴンはただのでっかいトカゲだって、ハティが言ってた」
リムアンが斧槍を旋回させて構える。
「親父殿の言葉真に受けちゃだめだよ。火を吹くトカゲってだけで十分危険だからさ」
アルセイスも杖を構えなおした。
「俺らを煽って…責任とってくださいよ」
フィンレーが笑う。カラ元気にも似た笑い。
「親父ができたんだから、子供の俺らができなきゃな」
「リムは違うけど」
「リムはややこしくなるから言わないで!」
「親父殿は誰か怪我するくらいなら逃げろっていうけどねぇ」
「ちょっとね」
「うん」
「がんばってみようかなって」
「かっこつけたくなっちゃうよね」
エルザを見る。
「何よ」
うっとおしそうにエルザは見返した。
その様子を苦笑いで流し、魔狼騎士団はドラゴンに向けて悠々と歩いていく。
「今度会ったら自慢しようよ」
「ぜったい親父びっくりして喜ぶぜ」
「凄いねって撫でてもらうんだ」
「リムは…リムはぁぁ……」
「リムアンさん、帰ってきて~」
全員が深呼吸する。
そして一斉に言った。
「それじゃ、やってやりますか!」
その後は圧巻だった。
ドラゴンの動きをことごとくリャナンとリムアンで制する。
苛立ったドラゴンの攻撃をスヴェンが無力化する。
アルセイスがドラゴンの体力を削りながら仲間の支援をする。
フィンレーが延々とドラゴンに斬り込み、攻め続ける。
まさに狼の狩りである。
「これでっ……どうだ!【燃える黄金】!」
光の斬撃。ドラゴンの首を断ち切る。
そうしてドラゴンが息絶える。
「やるじゃないですか」
エルザが呟く。
ドラゴンを倒すなど簡単なことではない。騎士団一個中隊は必要だ。
冒険者でも特級クラスのパーティで共闘しないと難しいとも聞く。
それを単独パーティがこうして倒している。死者も出ていない。
疲弊はしているが余力も十分に残っている。
「……もっと自信を持ってもいいんですよ」
エルザの呟きにフェンリルナイトの全員が驚く。
「あら?私、何か言ったかしら」
ほほほほほとわざとらしく笑う。
「法術で治してあげますから、並びなさい」




