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第37話 時間だよ、全員集合……ってオバサンは死亡フラグ

今回は「合流回」ということで、かな~り、長いです。

3話分くらい?

お時間のない方はテキトーに読み飛ばしていただいて大丈夫です。


「……ここ、本当に安全なんですか」

コレットが呟く。

岩山をくり抜いた街。

そこまでは良いが、道にはガラの悪い連中がたむろしている。

「そうよ。こういうところだから、逆に、ね」


宿屋に入る。

「二人泊まれる部屋、空いてる?」

「空いているよ」

「一人、一晩いくら?」

「銅貨4枚だよ」

「あら、相場より高いわね」

「どこの相場だよ。うちはセキュリティーがしっかりしているんだ。嫌なら他所に行きな」


エリーゼは小さく笑う。

「子連れでも冒険者よ」

「それならたくさんいる、うちのお得意さんの一人だね」

「私の負けね、二人分だから8枚?。相部屋割引はしてくれないの」

「そんなのしないよ」

受付の親父はにやりと笑った。

「あら、残念」

エリーゼは銅貨8枚を受付に渡す。

「2階の一番奥の部屋だよ。これ、鍵ね」


エリーゼは鍵を受け取り、部屋まで行く。

ベッドが二つ。

テーブルが一つと椅子が二つという部屋である。だが、見るからに清潔で、シーツも新しいもの。

「けっこういい部屋じゃない」

そう言って中を探る。

「問題なさそうね」

言って椅子に座る。

「夜通し歩いたから疲れたでしょ?好きなベッドを使っていいから寝ていていいわよ。起きたらご飯食べに行きましょ」

コレットはエリーゼの言葉に頷き、ベッドに向かう。


自分の荷物を足元に置くと、そのままベッドにもぐり込んだ。

疲れから睡魔にさそわれるまま瞼を閉じる。



少ししてコレットが目覚めると、エリーゼが徽章を見ている。

「?」

いつになく考え込んでいる様子に不思議に思った。

(やっぱり、政府の徽章。しかも、魔族の術式が込められている。アイツら、私たちを追い出しただけじゃ満足できないのね)

エリーゼがコレットに気づき、目を向ける。

「少しは疲れがとれた?」

「あ、はい」

「じゃあ、ご飯を食べに行きましょう」

「先生、何を見ていたんですか」

「ん?ああ、襲ってきた奴から奪ったものよ」

「そうですか」



酒場で食事を摂っていると、黒髪の女性が近づいてくる。

「あの……」

まだ年若い、十代後半といった女性である。

躊躇いがちにエリーゼを見ている。

エリーゼは一瞥すると険しい顔をする。

「あの、エリ――――」

「エルザよ。お嬢さん」

言いかけた言葉を遮るように名乗る。

「あ、エルザ…さん?お久しぶりですね」

「久しぶり?どなた?私は知らないんだけど」

「リャナンです。リャナン・シー・マクスウェル」

「ぁあん?」

『マクスウェル』と名乗ったときエルザが凄む。


「あ、いえ、すみません。リャナン…ですぅ」

リャナンと名乗った女性は泣きそうな顔をしていた。

「憶えていませんか?孤児院の」

「だから知らないって言っているでしょ。人違いじゃないの」

「ううぅ……」

目じりに涙を溜めている。

コレットはちょっとだけかわいそうになってきた。

「あの、先生。忘れているだけってことは」

「ないわね。知らない。だから話しかけないでほしいわ」

とりつく島もなく言い切った時、しゃくりあげる音がする。

「え?」

コレットが見ると、リャナンがボロボロと涙をこぼしていた。

「うぇ、えっく……」

これにはエリーゼも苦い顔をした。

「うえぇぇぇぇん」

ついに声を上げて泣き出した。


「おば、おばさまが苛める。おばさまがいじわるするぅぅぅ」

「だれがおばさんよ!このクソガキ」

なおも声を上げて泣くリャナンに周囲も何事かと注目し始めた。

「わかった、わかったわ。ほんっと、腹の立つ子ね。あなたのことは憶えているわ」

「ほんとですかぁ」

「憶えているって言っているでしょ。弟が面倒を見ていた、あのリャナンでしょ?王都の孤児院の」

「そうですぅ、なのに、なんで無視したんですかぁ」

「うるさいからよ。あと、私はエルザね。いい、エルザさん。復唱しなさい」

「え、エル……」

「省略しない!」

「声が詰まっただけなのにぃぃ」

またもやリャナンが泣き出す。


「ああ、あの、リャナンさん。落ち着いてください。先生も悪気があってのことではないと、そう思うので」

コレットがなだめにかかる。悪気しかないとは思っているがあえて言わない。

「ううぅぅ、こんな小さい子に慰められるなんてぇ」

ぐすぐすと鼻を鳴らす。



少し落ち着いてきたようだ。

その様子を見てエリーゼが深々とため息をつく。

「あの、リャナンさん。まずは掛けてください。私、リャナンさんとお話したいなぁ」

コレットが愛想笑いをしながら言う。

「なんていい子なのぉ、お母さんに似なくてよかったねぇ」

「失礼なガキね」

エリーゼが忌々し気に言う。

「あ、あのぉ私は先生の子供じゃないですよ?」

「ふぇ?」

「いいから、そのままでいるのも悪目立ちするから早く座りなさい」

首をかしげるリャナンに座るようエリーゼ、ことエルザが促す。

鼻を鳴らしながら座るリャナンに「あなたも何か頼んでいいわ」とエリーゼが言う。


給仕を呼んで、飲み物を頼む。

「コレットは孤児院にいたのを私が引き取ったの」

言葉にリャナンがコレットの顔を見る。

同意を示して頷いたのを見ると、彼女はがっしりと手を握ってきた。

「私と同じ。仲良くしようね、コレットちゃん。従妹になるのかな」

「あなた、図々しいわね」

エリーゼが言うが、リャナンは気にしない。

「コレットちゃんって呼んでいい?」

「はい。リャナンさん」

「かわいい、コレットちゃん。お姉ちゃんって呼んでもいいわ」

「いえ、それは」

「そお?ん~、ねえ、エリ…エルザさんに苛められてない?」

「え?いえ、ぜんぜん」

「本当?エルザさん私たちに意地悪だから。辛かったら私たちと一緒に来てもいいんだよ」

「本当に大丈夫です。先生、私をとても大切にしてくれるので」

先ほどまでギャンギャン泣いていたのににこやかにコレットと話している。

感情の振れ幅が大きいのだろうか。

コレットもリャナンの嘘偽りのない好意に驚いている。


「あの、他の方もいっしょにいるんですか」

「うん。ここで待ち合わせているんだ。もうすぐ……あ、噂をすれば」

酒場に数人の男女が入ってくる。

「あ、リャナン」

リャナンに気づいたその集団は、その向かいに座るエリーゼを見て硬直した。



エルザさんだ。隣にいる子は……コレット!?

栗色の髪はそのままなんだけど、めちゃくちゃ可愛くなってる。

何か月かぶりの再会。

エルザさん相変わらず美人だなぁ、でもなんか不機嫌そう。

喜んでいる僕に反してみんなはなぜか怯えていた。

「ああぁ……」

よくわからない声を漏らして冷や汗を流している。

「あぁん?何?」

エルザさんが不快そうに見る。

視線を受けて5人は駆け足でテーブルまで来ると、直立し、頭を下げた。

「お久しぶりです。おばさま!……へぐぁ!」

言った途端、先頭にいたフィンレーが張り飛ばされた。

「だれがおばさんじゃぁ、このクソガキども」

「あわわわわわ」

床にころがるフィンを見てコレットが慌てる。

「え、エリ――」

「エルザさん!エルザさんなんだよねぇ~」

スヴェンが言いなおそうとしたところを、リャナンが割って入る。



床で伸びていたフィンレーを僕は介抱した。

ここまでの旅で、フィンがめちゃくちゃ強い冒険者だったって思い知らされた。

けれど、それを一発でのしちゃうエルザさんって。

「あらためて自己紹介です。私はリャナンです」

「俺はフィンレー」

はじめましてのコレットに自己紹介を始める。

フィンレー…頬が腫れている。痛そうだなぁ。

「スヴェンだ」

「僕はアルセイス」

あれ、アルセイスが名乗ったらエルザさん微笑んでいる。

もしかして面食い?

「で、こいつが」

最後まで名乗らないで不機嫌そうにしているリムを指す。

「……リムアン」

リムは呟くように言った。

はじめましての人には毎度こうなんだよね。

「俺たち冒険者をやっているんだ。『魔狼騎士団フェンリルナイト』ってクランをつくって活動してる」

フィンレーが説明した。

「フィンがリーダーで、私がサブリーダーなの」

リャナンが補足した。

「アタッカー(攻撃役)がフィンとリャナン。タンク(防御役)がスヴェン。ブロッカー(防御役)兼サポーター(補助役)でリム。ヒーラー(回復役)兼バックアタッカー(後方攻撃役)が僕だよ」

アルセイスが言葉を継いで言う。

「そして、我らがルーキーのハル君!」

アルセイスが大げさに僕を紹介した。

「ど、どうも」


「あ、憶えてます。バクス村の人ですよね」

「う、うん。憶えていてくれたんだ」

「はい。あの時はとっても、その、ありがとうございました」

「いや、いや、いいんだ」

なんだか恥ずかしいな。

「あれあれぇ?ふたりってばぁ、なに、そういう感じのご関係?」

リャナンがニヤついて僕らを見比べる。

「ちがうよっ!リャナンが思ってるような関係じゃないって」

僕は慌てて誤解を解こうとする。

本当に、僕はこの子に何もしてあげられなかったんだから。

「そうなの?」ってリャナンが機嫌良さげにコレットに言う。

しかも先ほどから手をつないでいる。


「他のはどうしているの?」

コレットが答える前にエルザさんが聞く。

「あ、はい。コリガン、オーレ、ルーダの三人ですね。あの子たちは戦いに向かないので、冒険者じゃなくて生産者になりました。技工士とかです。元気でやっていますよ」

「そ、よかったわね」

言葉に皆の表情が緩む。

態度のわりには他の子を気にかけていたのに気づいたからだ。

「ルーダもこの街にいますよ」

「ギース親方のところです」

フィンたちの説明にエルザさんは素っ気なくも「じゃあ、安心ね」なんて言っている。

「で、なんでハルまでいるの?」

エルザさんが僕を見る。

「実は――――」



事情を説明した。

エルザさんは唖然としていた。

少ししてから「そう、か」と呟いた。

エルザさんがスッと手を伸ばしてきた。

両手で僕の顔を包むように手をあててくる。

顔が近い。というか、近づいてくる。

なに、なにっ、これは「ちゅ~」なのか。

僕は人生初のキスを体験するのかっ!?

こんな美人のお姉さんに!?もしかして今まで頑張ってきたご褒美?

神様、ありがとうございます。

ハルさん、これからも頑張っちゃうよ!

と思っていたら胸に抱かれてしまった。

「ありがとう、ハル」って優しい声。

あったかいなぁ、いい匂いだ。

スパイスのようで、柑橘のようで……それになんだろう、この柔らかい感じは……

って、エルザさんにっ!?

気づいたときには頭のてっぺんまで血が上っていた。

ああ、気が遠のく……これが天国というものか……



ぼんやりとした視界に見慣れない天井。

魔狼騎士団フェンリルナイトのフェンリルって、昔話の魔狼のことですよね?」

コレットの声が聞こえる。

「お、コレットは知ってるんだ。そう、そのフェンリルからとったんだ」

フィンレーが楽しそうに話している。

「俺たち、『白狼将軍』に憧れていてさ。そのまま名乗るのもあの人に悪いって思って、じゃあ強い狼で、銀か白ってイメージのがあるのってなんだって話した結果がフェンリルだったんだ」

嬉々として話すフィンレーの向こうでエルザさんも嬉しそうに微笑んでいた。

いや、白狼将軍の名前、「ハティ」はフェンリルの子どもなんだから、逆転してるよね。

コレットも複雑な顔をしていた。

彼らの話す「白狼将軍」とは良い噂を聞かない。

必ず枕詞に「みんなに嫌われている」ってつく人。

僕の父さんの上官であっても…その印象は拭いきれない。


「ふふふっ、白狼将軍ってとっても強くてカッコいいの!優しくってぇお料理も上手でぇ」

うっとりとリャナンが話す。

その様子にコレットは困惑したようだ。

「金がないのに気前はいいんだよね」

「変なところでケチだけどな」

アルセイスやスヴェンも悪ノリして話している。

「気前の良さって言ったらさ、毎月の給料日はお風呂連れてってくれたよね!」

リャナンが嬉しそうに言う。

「そうそう、そんで、俺たちのお決まりは……」

フィンレーの言葉に全員が声をそろえる。


『風呂上がりのアイス!』


これには不機嫌そうなリムアンも加わった。

そうして笑いあう。

「親父、いっつも風呂上がりに食わせてくれたよな」

「バカみたいに高いのに無理してさ」

「風邪ひいたとき、作ってくれたよね」

「俺、どっちかっていうと親父の方のが好き」

「それ、リムも!」

「リムはあ~んってしてもらえるからでしょ」

嬉しそうに話す。


不思議そうに首をひねるコレットにアルセイスが自慢げに言った。

「僕たちのお父さんなんだよ」

「え!?」

コレットは驚いた。

「勝手に言ってるだけよ」

すかさずエルザさんが物言いをつける。

「俺たちを引き取って孤児院で育ててくれた恩人なんだ」

フィンレーの言葉にコレットは「ほえ~」とよくわからない返答をした。


「リムは、子供じゃない」

ぼそっとリムアンが言う。

「リムったらまだ言ってる」

「ガキの頃は『お父さんと結婚する』とかいうの多いって聞くけど、こじらせすぎなんじゃないの」

「うるさい。いいでしょ」

そのやり取りを不思議そうに見ているコレット。

今度はスヴェンがこっそりと教えた。

「リムアン、白狼将軍の嫁になりたいって本気で狙ってるんだ」

リムの耳が赤くなっているところをみると、スヴェンの言葉は本当のようだ。

「ハル、いつまで寝てるの!早く起きて」

リムアンが僕をぺチぺチ叩く。

「はい」

僕は体を起こした。



そうこうしているうちにテーブルに料理が運ばれてくる。

それぞれが好きな物を頼んでいるのだから、来た順番に手を付けるのかと思いきや揃うまで待っている。

というか、僕が起きるまで待っていてくれたのか。

「みんなそろったか?」

フィンレーが言う。


「じゃぁ、『いただきます』」


全員が手を合わせ、「いただきます」と言ってから食器を手にする。

「?」

コレットはこの不思議なお祈りに首をかしげる。

まあ、僕もこんな簡素で手のひらを合わせるだけのは最初は驚いた。

「どうしたの」

「今のお祈りは何ですか?何をいただくのですか」

コレットの問いにリャナンが答える。

「私たちは命を奪ってその命を『いただく』の。だから、いただく命に感謝の気持ちで『あなたの命をいただきます』って言ったのよ」

「それは今日の糧を与えてくれた神様へのお礼とは違うのですか」

「もちろん、糧を与えてくれた神様には感謝しているの。でもね、やっぱり一番にその命が糧として私たちの血肉になってくれることに感謝したいの。あなたのおかげで明日一日生きられそうですって、無駄にしないよって」

この考え方にコレットは興味を持ったみたいだ。

「何も小難しく考えなくてもいいんだ。俺たちは親父がいっつもしていて、そう教えてくれたから習慣でやってるってだけ。他の人に強要もしない」


「それでは皆さんご一緒にご唱和願います!」

フィンが音頭をとった。

「マクスウェル家家訓―――――」


ひとつ、「いただきます」「ごちそうさま」は必ず言え。今日のウ●コは昨日のおかげさま。


ひとつ、お前は木の股から生まれたか?父ちゃん母ちゃん恨んだってしょうがない。


ひとつ、他人がどうだとか口にするな。そんなの負け犬の遠吠えだ。


ひとつ、仲間を侮辱する奴はぶん殴っても構わない。けれど殴り返されることを忘れるな。


ひとつ、偉そうな奴はおだてておけ。財布の紐も警戒も緩くなる。


ひとつ、迷ったら自分の中の鏡に向かって聞いてみろ。そこに映った自分は誇れるのか。


ひとつ、お前は誰だ?そんなの決めるのお前だけ。誰も責任とっちゃくれない。


ひとつ、ヤバいと思ったら逃げちまえ。生きていたらどうとでも言える。


……あれ?なんでエルザさんまで姿勢を正して言っているの??

とか言っている自分も習慣化してしまって一緒に言っているけれどさ。


「白狼将軍のこと本当に尊敬しているんですね」

「もちろん。大人なんて信じちゃいなかった俺たち全員が『この人は信じられる』って思わせてくれたんだから」


スヴェンが眉根を寄せながら言う。

「俺たち、引き取られてからも盗みをしたことがあったんだ。それを知った親父は怒るでもなく悲しそうな顔したんだよ。『自分が悪いんだ』ってさ。『こんなことをさせるくらい腹を減らさせた自分が悪い』って」

クッと口元を歪ませて涙を堪えているようだ。

「一緒に謝りに行って、親父はなけなしの金を払って貴族なのに平民に頭を下げたんだ」

「だから、私たちはね、この人にこんな顔をさせちゃだめだって思ったの」

「本当に自分たちがダメなことをしたってわかったんだよ」

「あの時、すごくかっこよかった」

みんなの声が震えている。

きっと思い出したんだろうな。


それから飲み物と一緒に内にある何かを腹に流し込んだようだ。

「だから、俺たち魔狼騎士団は、非道はしない。盗みも、騙しもな。あの人に恥じない生き方をしないとな」


湿っぽい空気を払うためか、それからは色々なバカ話を始めた。

主にダンジョンでの話だけれど、本当に楽しそうだ。

なんだろうな……隣のエルザさんを見た。

エルザさんも目元を緩めて笑っている。

心底楽しそうにして見守っている。

言ったら悪いけれどお母さんみたいだ。

なんか、いいなぁ。母さんたち元気かな。


「これっちょたん、ダメよそんな顔してたらぁ、老けるわよぉ、おばさんになっちゃうわよぉ」

酔いがまわったのかリャナンがコレットに絡む。

「コレット、エリ…エルザさんとの旅は苦労するだろ?エルザさん、血の気多いからさ」

フィンレーが水を向ける。話題がなくて混ざれないのを気にしたのかな。

この人はほんと頭が良くてよく気がつく。

「え?」

「例えば、すぐキレて相手殴り倒したりさ」

スヴェンが冗談めかして言う。

彼は口数こそ多くないけれど、要所でフォローを入れてくる。

「確か、襲われたとき、盗賊を返り討ちに……」

コレットが先日撃退したという盗賊の話をした。


話し終えるとみんな、足踏みをする。

ドンドンドンドンというリズム。

『乾杯っ!』

声がそろう。

「やかましいわ」

エルザさんが辟易したように言う。

「武勇に乾杯!」

「なんでソイツら手を出したんだろうね」

「というか、相手に追悼の意を」

「ケンカ売っちゃだめでしょ」

「やばいでしょ、リムも秒で死ぬわ」

本当に騒がしい。でも、嫌な感じはしないんだ。

だってこの人たちは誰も悪く言わないんだもの。


「コレット……」

入れ替わりに酔眼のリムアンが話しかける。

「乾杯」

カップを合わせる。

「あ……」

コレットも応じて合わせる。

「つまらない?」

「いえ」

「くだらなくても、騒いで。今日までの自分を笑い飛ばしたらいいよ」

結構酔っているのか、顔が赤い。

年下だと思っていたリムが僕より年上って知ったときはびっくりした。

「リムたちはバカだから。バカなことばっかりしてきたから。だから、バカなリムは他の人のことのことをバカにしない」

そう言って、ちょっと間を置いて言う。

「話したいことあったら聞かせて。リムたちはバカにしないから。だって……」

言いかけた時、スヴェンが笑ってリムアンの頭を撫でた。

「こらっ!ちょっと真面目に話してんの!」

「らしくないぞっ!お姉ちゃんぶるなよぉ」

「実際、年上のおねえちゃんなんだから」

「ちがいないっ、悪い!」

全員が笑う。

「ごめぇぇんねぇぇぇ、お姉ちゃんらしくなくてぇぇぇ」

さっきまで笑っていたリャナンが泣いている。

いや、情緒!?どうしたの、リャナンさん。

「おまえらなぁ」

「ごめぇん」

皆で謝るが笑いが止まらない。

バカにしているわけではない。悪意がないのだ。

僕も声を上げて笑った。

「好きな人がいたらさ、その人に恥ずかしくない自分でいたいよね。だから、コレットは十分がんばっているけど、これからも一緒にがんばろう」

言うとリムアンが離れる。

「リムっいいぞっ」ってみんなではやし立てる。


リムアンはなぜかエルザさんのところに突っ込んで行った。

「おねぇちゃん」とか言いながら絡むのにエルザさんがイラッとした表情で追い払う。

照れ隠しにワザとやっているのは明らかだ。

しばらくは酔いに任せた騒ぎが続いた。



料理が尽きたあたりで、不意にフィンレーがジョッキを飲み干して静かに置く。

同時に他のメンバーも飲み終えたのか、めいめいが盃を置いた。

酔っているのは変わらないのに、コレットはその雰囲気が一変したのに気づいた。

(なに、この人たち)

陽気で騒がしい、なのにオンとオフの切り替えが異常に早く、その内面には変な冷徹さがある。

ハルだけはぽけーっとしている。ある意味大物なのかと思った。

「ねえねえ、エルザさん。エルザさんたちは、明日からって予定あるんですか」

リャナンが尋ねる。

「ないけれど?」

「じゃあ、私たちとクエストに行きませんか?」

言葉にエルザが顔をしかめる。

「私、ダンジョンにはいい思い出がなんだけれど」

「ええ~、行きましょうよぉ」

リャナンが駄々をこねる真似をする。

「小遣い稼ぎだと思って、どうですか」

フィンレーの言葉に、エルザが片眉を上げる。

隣に座っているフィンレーの額を指で弾く。

「イテッ」

「アンタたち、弟の悪いところばっかり見習って」

エルザは苦笑いする。

「せっかくだからその話に乗らせてもらうわ」

彼女の言葉に、ちいさく安堵のため息を漏らす。

施しを受けることを良しとしないだろうことはわかっている。

しかも彼女の身の上を知っている魔狼騎士団だからこそ、先立つものを与えるためにこんな遠回しな誘いをしたのだ。

「どんなクエストがいいですか」

「何でもいいわよ。虫が出なければ」

「あ、ああそうでしたね」

「せっかくなら、でかくて固い奴を討伐したいわ」

「あ、リーゼントーター(巨人殺し)の武勇伝!」

「聞きたい、聞きたいです」

フェンリルナイトのメンバーが身を乗り出し、ねだり始める。

ハルも「なに、何それ!」って乗り気だ。

「え、嫌よ。そのせいで弟があなた達を引き取ることになったんだから」

「だからですよ。それに、エルザさん自身から話を聞けるなんてめったにないですから」

「声が大きい」

大騒ぎする一団に、周りの目が向く。

「お願いできませんか?」

アルセイスが言う。

「……宿でなら話してあげてもいいわ」

その様を他のメンバーは笑っていた。

「エルザさん、昔っからアルセイスだけには甘いんだから」



そのまま連れ立って宿へと移動する。

ちなみに勘定はエルザがもった。これはエルザが頑として譲らなかった。

みんなで雑談をしながら歩く。ほてった体に夜風が気持ちいい。

ふとコレットは嫌な視線を感じるが、そちらを見る間もなくリムアンが話しかけてくる。

「コレットはごはん何が好き?」

「えっと好き嫌いないですけど、エルザ先生のシチューが一番です」

「作ってくれるの?」

「時々作ってくれます」

「リムも食べてみたい」

そういえばリャナンがいない。

「気にしなくていいよ」

リムアンが言う。

自分と背丈がおなじくらい。

表情はあまり読めないけれど、緑色の瞳が優しそうに見える。

宿に着くときにリャナンもいつの間にか混ざっていた。



「エーレンブルグは参列を頑なに拒否している」

ウォルターが集った将軍たちに告げる。

「さらに、旧王国の者がガレットを頼って集まってきている」

「ただでさえ復興が進んでいないからなぁ」

ランドルフが眉間を抑える。

「王政から共和制に変わったことに慣れていないのか、執政官が地方を治めることに抵抗している。われわれが貴族も平民もなく、その才で官として取り立てると言っても耳を貸さない」

ランドルフが忌々し気に言った。

「まずは生活基盤が確立していないからだろうか」

口の重いリュックが疑問を呈する。

「リュック様の言が一番の理由かと思います」

唯一の女性、クレイグが話す。

「神の御教えを解いて、孤児たちの保護や貧しい人たちの受け入れを促しても誰もが自身のことでいっぱいです」

「そこで、流民となった者たちや不満を抱えているのものがガレットを頼って集まっていると」

ランドルフが深々とため息をついた。

「エーレンブルグに受け入れるキャパシティなどないだろう」


「そこが問題だ」

ウォルターが口をはさんだ。

「膨れ上がった流民どもの不満が暴発するのも時間の問題だ」

「その怒りの矛先が、我々為政者というわけですか」

ランドルフが背もたれに寄りかかってため息をつく。

「まるで、以前のわれわれと同じですな」

ディアブロの言葉にランドルフが食ってかかる。

「俺たちは違うだろう。こっちは復興に尽力しているし、寄付だって行っている。治安回復や不平等の解消だって」


「ランドルフ、熱くなるな」

リュックが注意する。

「自分たちはなにもしないのに、虫のいい話だ。ったく」

「我々もガレットを懐柔して政治基盤を盤石にと思っていたが、ガレットもなかなかの食わせ者、戦争のきっかけをいまだに手放そうとしない」

「いずれにしても早いうちに火種を消しておかなくてはなるまい。ガレットがこちらに加わらないならば、消えてもらわなくてはな」

「ちなみに議会はなんと?討伐ですか」

「懸案として我々の意見を求めている」

ウォルターの言葉にランドルフは鼻で笑った。

「あのタヌキ爺どもめ。わかりきっているくせに。自分たちじゃあ印象を悪くする決定は下さないってか」

意見を求めるといっても八割がたはもう決まっている。

ウォルターに話が回ってくるときはほぼ議会で意思決定がなされている。

ただ議会が一方的な採決を下したわけではないという体裁を整えるだけのこと。

そのためにこの六人を招集している。


「私としてはガレットが再三の要請を拒否していることと、不穏な動きがあるために討伐するしかないと考えています」

リュックが言う。彼は生粋の武人だ、上官の命令は絶対。

この場合も議会での意思を汲んでいる。

「戦は避けられないのでしょうか」

クレイグの言葉にディアブロが首をふる。

「聖女殿、お気持ちはわからんではないが、無理なこともある」

この言葉にクレイグはびくりと身を震わせた。

「しかたあるまい。ガレットには見せしめになってもらい、反乱の芽は摘まなければ」

ナハトも続いた。

「なれば、我々は戦を起こさんと画策するガレットを討伐すべしと提案をする、それでよいか」

ウォルターの言葉に、クレイグを除いて皆が首肯する。

「その陣容はどうする?主力の我々が出て一気に潰すのが妥当だろう。相手が相手だけに変に出し惜しみしては返り討ちに遭いかねん。変に手こずっていても印象が悪い」

リュックが陣容について質問をする。


「首都の防衛にも戦力を割かれるな」

「あの痩せ犬がうろついているからか」

ランドルフとリュックが意見を交わす。

「それもあるが、性格上、ガレットが襲われればそっちに向かうはずだ。だが問題は別にある」

「あの魔女……アンジェが暴れ出すと?」

「そちらの可能性が高いな」

「人質はとってあるのだろう」

「それだけでは心もとない」

「ならば、私が残ろう。イグリースも監視に残せばよい」

ディアブロの言葉に「うむ……」とウォルターが考え込む。

「司令?」

「やはり、アガートラームの動きが気になるな」

懸念を示す。

「それは、ガレットよりも魔女の方を選ぶと?あの時は姉を選んだのに」

「だからこそだ。あの男のことだ慙愧の念にかられて今度こそ魔女を取り返しに来ることもある」


「来ないという保証はないですものね」

不意にかけられた声に部屋の入り口を見る。

白銀の髪の女性が立っていた。

「イグリース」

小柄ながら豊かな胸をした女性。

静謐なアイスブルーの瞳。

茨の意匠を施したロングソード。

「帝都を陥した時の話は皆が知っていることでしょう?あの人は『家族』を奪う者には容赦がない」

円卓に歩み寄りつつイグリースと呼ばれた女は続けた。

「ならば策はあるのか」

「あら、私などが策を述べてもいいの?私があの人たちと交わした約束を知っているでしょうに」

「ただ会議を混乱させるためだけに言ったのか?」

ランドルフが睨み付ける。

「私は十分にあり得ると司令殿の懸念を明らかにしただけですよ」

そうイグリースがうそぶく。

「きさまっ」

「よさないか」

怒りを露わにするランドルフをリュックがおさえる。

イグリースは「こわいこわい」とわざとらしく繰り返す。

「イグリース。策があるならば言ってみろ、一考の余地はある」

ウォルターが言う。


その顔をじっと見つめ、すぐにイグリースは不敵な笑みを浮かべた。

「戦力の増強をしてはどうかしら?」

「どういうことだ」

「エーレンブルグを攻めるのに、『ティア・シュトゥーテ・フライン』を使うのよ」

「なんだとっ」

これには一同が驚いた。

「人質を抑えて、対策もたてている。あの人は実質この二年は侵入もできないでいるし、あの魔女も身動きがとれない。そして、あなた達が施した仕掛けは、高い魔力を有する者がこの地から欠ける、もしくは侵入するとあの魔女の負担が大きくなるようになっている」

「つまりは、懸念材料のアンジェ・フラン・スカーレットをより疲弊させるということか」

「そういうことです」

「たしかに、我々と共にいるティアの首が刎ねられると思えばアガートラームとて下手なこともできまい」

「だが、あの暴れ馬。裏切るとは考えられないか」

その言葉にイグリースが笑みを浮かべる。

「彼女に兵を預けてもこちらの息がかかった者ばかり、反旗を翻しても野戦では大軍に押し包まれてどうにもできないでしょう」


この言葉に納得しながらもランドルフは「女狐が」と吐き捨てた。

「さすがは、と言っておこうか『鉄血の』」

ウォルターの賛辞にイグリースは眉をひそめたがすぐに薄く笑う。

「まずはイグリースの案をもとに作戦をたてる。リュック、ランドルフ、陣容と兵站について任せる。進めてくれ。クレイグはその補佐を。ナハトはエーレンブルグの動きを引き続き探るように。ディアブロはあの魔女の監視と首都の警戒を強めてくれ」

ウォルターはそう告げると席を立つ。

「私は議会へ意見を提出する」

そして会議室を出る直前、振り返り、イグリースに言った。

「イグリース、あとで私の部屋に来い」

イグリースは不快そうに眉をひそめた。

だが、すぐに表情を消す。

(待っていて、私の『旦那様』。最高のエンタメにしてみせます)


ようやく合流できたハルくんとコレット、次回は「ダンジョンアタック」の回です。


フェンリルナイトたちの活躍、ぜひご覧ください。

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