第35話 勝利の宴と事実ギャップ。合法なのか? そして棒の正体は?【ハル・ルート】
「ええ、それではみなさん。お疲れっしたぁ!」
ガレットさんが試合の打ち上げみたいな挨拶をする。
いや、簡単すぎ。
とはいえ、滅茶苦茶になった屋敷ではまともな食材もない。
「とほほほ、何年もかけて溜めた財産が……」
ウルフスベインさんが肩を落とす。
「何言ってるんだ、ウォルフ!俺らの雑草魂を見せてやれ」
「農家にとって雑草は敵なんだよ!お頭」
「ええ~」
なんとも安定感のある見当違いな発言。
ガレットさん、いつもどおりで安心するよ。
僕たちはグリードを拘束した。
もちろん今の共和政府の内情を吐かせるため。
そして、今までの裏切りや悪行をみんなの前で断罪するためだ。
そうでもしないとこの騒ぎは収まらない。
だって、大領主を招き入れておきながら、その一味を武力制圧したんだから。
もっとも、これでグリードは自身の「地位」というものを失った。
誰からも信用されないだろう。
愚直なガレットさんとは正反対の末路だ。
ガラガラとリヤカーを引いたソニアさんが現れる。
「片付いたみたいだね」
「おう、ソニア」
そういえばソニアさんは何していたんだ?
「ウォルフの押さえていた『証拠品』ありゃ、アタリだね」
ソニアさんがにやりと笑う。
「そうかい、そいつはどうも」
ウルフスベインさんも笑う。
あ……ソニアさん『証拠品』の確保と取り返されないように隠していたのか。
「で、頑張ったご褒美だよ」
ああ、やっぱりマネージャー気質だな。
酒瓶を配ってまわる。あ、未成年にはジュースか。
「リムは子供じゃない!」
リムアンが怒鳴る。
え……?
「リムアン、20歳だよ。もうすぐ21歳」
はぁぁぁぁっ?!まさかの成人女性?!
リャナンの言葉に僕はひっくり返りそうになった。
(どう停滞したらそうなるんだ?ジャガイモより遅いだろ!)
ルーダが僕と同い年だった。
その姉なんだから、年上ってことになるけど、数カ月違いと思い込んでいた。
「食い物もあるよ」
そう言って大麦のパンと蒸かした芋を渡してくれる。
「……」
みんなでそれを手にして黙った。
「ぷっ」
誰からともなく吹き出した。
「あははははははははははは」
ついには大口を開けて笑いだした。
これは僕たちにとって最高の「ご褒美」。
そして最高の「ご馳走」だ。
◇
「グリードがやられた?!」
ウォルターが声を上げる。
議事堂の一室。
報告をしたナハトは相変わらず無機質な声で続けた。
「相手は、『黒金の鷹』とその頭目ガレット、フェンリルナイト」
その言葉にウォルターが眉を顰める。
「あの痴れ者には、『狂化』の術式を渡していたはずだ。対抗できただろう」
「イレギュラーがいた」
「なんだ、それは」
「神器【星霜の洗滌】を持つ者がいた」
この言葉にウォルターが動揺を見せた。
「バカなっ、エルフの神樹だぞ?誰がそのようなもの……アンジェか?」
「依然、アンジェは拘束中だ」
「ならば、何者が……常人では、いや魔力を持つ者は触れられないはずだ」
その問いにナハトは無機質な声で回答した。
「ただの子供のように見えた」
「子供だと?」
「魔力がない」
その言葉にウォルターが歯噛みする。
「そういうことかっ、あのエルフめが」
その顔が醜悪に歪む。
「加えて報告することがある」
「なんだ?」
「『恩寵』を奪われた」
「『黒金の鷹』にか」
「そうだ」
ウォルターが机を叩く。
「やってくれたな、ガレットめ!奴らはどれだけ我らを阻めば気が済むのか」
「あれらには解析はできない」
「バカを言うな、アガートラームやエリーゼがまだ生きている。必ず『恩寵』の術式を読み解き、我らが眷属の復活を邪魔するだろう」
ウォルターが顔を覆う。
しばらくして手を退けた。
表情が消え、まるで人形のように無感情なものへと変じている。
「ガレットの本拠地、『エーレンブルグ』を攻める。それから『恩寵』を取り戻す」
そう静かに告げた。
「アンジェの手に渡らなければ、良いだけだ。警戒を怠るな」
その言葉にナハトが首肯すると、闇に溶けるように姿を消した。




