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第33話 ポテト・マッシュ




私こと、コレット・オルレアは非常に気まずい思いをしている。


なぜって?

それはお姉ちゃんとハティさんがケンカ中だから。


つーんっていうのならまだわかる。


でも、この二人はとんでもなくぎこちない。


「ええ、この先の『ケトゥスの街』に立ち寄るのですが、その手前の村で一度休もうかと……」

変にそわそわして、目を泳がせつつハティさんが言う。


「そ、そうですかぁ、分かりましたぁ、ハ、ハティの思う通りでいいですよ……」

お姉ちゃんがためらいがちに言う。


な、なに?この初デートみたいな緊張感。

この姉弟、本当に血が繋がっているんだよね?


ケンカの時、ふたりとも走り去っていった。

少ししてから、「コレットが心配だから」って戻ってきた。


いや、もう「心のビジョン」で連呼してるよね?

「ごめんなさい」って。

ハッキリ言ったらどうなんですか?

精神年齢、幾つなんですか!?


そうして、今もズルズルと……


街道とはいえ、戦のせいで道は荒れている。

私は石ころを避けた。

ちょっとハティさんの方へ寄ってしまった。


ハティさんはそれとなく距離をとる。

そう、ハティさんはロリ……じゃない、「蕾愛好家」を名乗る。

けれど、「ぜっっったい」に自分から触れようとはしない。

いや、その潔癖症、ある意味で「変態紳士」ですよ?


この人の場合、「蕾」は、絵画や物語を鑑賞するのと同じだ。

実に、真性の変態だけれど。


でも、そのせいでハティさん、お姉ちゃんの手にちょんっと触ってしまう。


「「あ……」」

ふたり同時に声を上げる。


それから顔を赤らめる。

触れてしまった自分の手を握り、顔を反らす。


な、なに、これ。

私は何を見せられているの!?

ふたりは付き合っているの!?

姉弟なのにぃぃぃっ!?


もう、我慢できない。

私は能力スキルでふたりを覗く。


(うううう、ハティに嫌われたぁぁぁ、私、これからどうやって生きていけばいいのぉぉ)

お姉ちゃん……バカなの?


(なんたることだっ!姉上に暴言を吐くなどとっ!己の不徳を恥じるばかりだ。腹を切って詫びるかっ!?)

なに?その「ハラキリ」って。ヤバい何か?

ハティさんはぶっ飛んだ……バカなの?


もう、この姉弟どうしようもない。

しかたない、ひと肌脱ぎますか。


「あ……」


私はわざと足をとられたように転ぶ。


そう、「転ぶ」私をふたりは見逃さない。

とっさにふたり同時に私を抱えようとする。


「う……」


私の体を支えながらふたりはお見合い。


頬に朱が差した。

いや、だからぁっ、本当に姉弟なんですよねぇぇぇぇっ!?


「あ、あねうえっ!」

ハティさんがいった。


「は、はぃぃぃ」

お姉ちゃん、なんで声裏返っているの?


「も、申し訳ございませんでした」

ハティさんが頭を下げて謝る。


「姉上に対する口の利き方ではありませんでした。申し訳ございません」


「い、いえ、私も嫉妬のあまりやりすぎてしまいました。本当にごめんなさい」


う~ん、納得いかない。

なに、この「初めてケンカした付き合いたてカップル」みたいな感じ。


それからふたりは笑った。

そうして私を真ん中にして手をつないだ。


「コレット、ありがとう」


まあ、仲直りできたのなら、いいか……




魔獣を倒した後、ガレットさんたちの協力で魔獣を引き寄せた方陣を探した。


見つける度に僕がそこを耕した。

土寄せ棒に鍬の先をつけて「えっほ、えっほ」と耕す。


何ということでしょう……

あれだけ荒れ果てた土がみずみずしい息吹を感じるように。


壊された村の結界はアルセイスくんによってさらに強固に修復されました。


そしてあんなにボロボロだった村の囲いは、フィンレーたちの協力によって蘇りました。


なんと門の入り口には匠の技が!

ジャガイモとブドウのプレートが……あれだけ簡素な門がオシャレな形で息を吹き返しました。


と、まあそんなこんなで魔獣に荒らされた土地も復活した。

でも、壊された建物とかは元には戻らない。

あとは村のみんなで頑張るしかない。

もちろん僕はここに残るという気持ちは皆無だ。



「これ」

そう言ってリムアンがリボンを差し出してくる。


あ、これは……


「ハルが前に言っていたでしょ。エナのリボン」


そう、僕がこの家に取りに来たかったもの。

死んだ父さんがエナにプレゼントしたもの。

ここを去る時には見つけられなかった。


「リムが汚されていたのをキレイになるまで洗ったんだよ~」

リャナンがこっそりと教えてくれる。


「言うなって言ったでしょ!」

リムがリャナンを叱りつけて僕にリボンを押し付ける。


そうして彼女がそっぽを向く。


「あ、ありがとう」

僕は涙がこぼれるのを堪えられなかった。


「な、泣くなっ!男の子でしょ」


「う、うん……でも、ホント、ありがとぉ」

湿っぽくなったのを誤魔化すためか、リャナンが大げさにあるものを取り出した。


「じゃじゃ~ん!お母さんの服も見つけたよ」


それも父さんが母さんにプレゼントしたものだった。

母さんは僕たちのものを優先して自分のはほとんど持って行かなかったから。


「「ハンナが、教えてくれたんたんだよ!」」


ふたりが声を揃えて言う。

あれ?仲悪くなかった?


「ハンナがさ、私たちが戦ってる間、何してたと思う?」


そう、リャナンが聞いてくる。


「ハルの家を掃除しに行っていた」


リムアンが言う。


「『ぜったいに、帰って来るから』って」


ふたりで言って笑う。


「それで、これを見つけ出したの」


「一緒にがんばったんだよね~」


リムとリャナンが交互に言い、頷き合う。


それから二人は僕の肩を小突いた。


『ね、ハル。そんなに悪いことばっかりじゃないでしょ?』


『生きてさえいれば、誰かが頑張ってるの、見てくれているって』




村を出るころに僕は村の救世主扱いだった。


みんなから褒められるってこんなに気分のいいものだったなんて。


今まで冷たかったハンナさえも変わった。

手を握って「ありがとう」って言ってくれた。


しかも潤んだ目で僕を見つめてくるんだ。

ちょっとドキドキしちゃったよ。


フィンたちが「ケッ」と毒づいていたのは忘れよう。


一件落着して、今は「メタラム」に戻る途中。


ハンナは村の人と毎日忙しそうにしていたから、挨拶はしなかった。



道すがらポルコとその取り巻きが何かのオブジェにされていたのを目にした。

何か言っていたような気がするけれど。


まあ、もうどうでもいいので僕たちは無視していく。



僕たちは道中の街で休憩をとることにした。

一晩ここで過ごして、明日また出発する。


フィンたちもめいめい観光しに歩いている。


ここは「オルジュの街」

治安が良くて作物が豊富。

大麦が主な作物だ。

だからお上りさんの僕が一人で歩いていてもスリに遭う事すらない。


(いい街だよね~)

そう思いながら市場を覗く。


(ああ、なんてみずみずしいジャガイモさんたち)

僕は目を輝かせる。


売られている作物は全て品質がいい。

領主が農業に力を入れている証拠。

しかも適正価格というのは収穫も安定しているんだろうね。


ふわっといい香りがした。

シトラスのような香りと木のような落ち着いた感じ。


ちょっと重たく甘いような……


僕は顔を上げると、路地の向こうへと歩き去る銀色の髪をした女性を見た。


(ま、まさか、エルザさん!)


前とちょっと匂いは違うけれど。

でも、そうだった。

僕はエルザさんを探すんだった。


会って彼女に言うんだ。


あのとき言えなかった「僕も一緒に旅をしたい」って。


思わず後を追うようにして走った。


〈ちょっとぉ!ロッシェぇ〉

アンジェさんの非難の声も届かない。



「おい!」

「あ、ごめんなさい」


「気を付けろ!」

「すいません」

人をかき分けてその女性が入った路地へと向かう。


「あれ?」


いない?どこへ……


キョロキョロしていたら、声をかけられた。


「おまえ、フェンリルナイトだな」


無精ひげを生やした黒髪の男性。

かなり大きい。

それに、ガレットさんに似ている。


「バカじゃねぇか、団員証をぶら下げやがって。隠せ」

男の人は僕を叱りつけた。


僕は言われたとおりにフィンから借りていた団員証を隠す。


「ここの領地じゃ、五将は目の敵にされてる。フェンリルナイトだって知れたらお前タダじゃ済まねぇからな」


しかも心配してのお小言。

ますますそっくりだ。


ちなみに五将というのは、旧王家の五人の英雄のこと。


最優の聖騎士長。十字の騎士の称号を持つ、エリーゼ・カナン・マクスウェル様。


最狂の銀の右腕の魔人。白狼将軍、ハティ・アガートラーム・マクスウェル様。


最速の軽騎兵。神機妙道の智将、ティア・シュトゥーテ・フライン様。


最悪の魔術師。王国の守護者、アンジェ・フラン・スカーレット様。


……そして、実際の人物は暑苦しくて迷惑そのものだけれど。


最強の傭兵団団長。戦場の覇者、ガレット・グランハートさん。


「……はい。すみません」

僕は素直に謝る。


「気をつけろよっ、ったく。相変わらず面倒なガキどもだぜ。『お頭』もとうとう焼きが回ったのかね」

そうやってぼやく。


その人は、僕の肩を軽くたたいていなくなる。

いい人なのかな?



それから僕は表通りに戻った。


屋台で「芋餅」を見つけてしまった。

これは、買うしかない。

買い食いして宿に戻ることにした。


あれ?なにしてたんだっけ?


(くっ、なんて味な真似を。モチモチの芋の中に大麦のプチプチとした食感だとぅ?!どんだけ食材の特徴を把握しているんだ)


もぐもぐと芋餅を食べる。

甘しょっぱい餡にうっとりしながら歩いた。


「ハルっ!」


声が上がる。

周りの人も注目し始めた。


え?ええ?なんで、「ハンナ」がいるの?


「私を置いて行くなんて、どういうつもり!」


いやいやいや、君はお家の仕事を―――――


「あれだけ、あれだけっ『尽した』のに……」


ハンナが泣くふりをする。


「うわぁ、修羅場じゃん」

「あの年で?ナニやってるんだ」

「おっそろしぃ、見た目普通な奴ほど、裏じゃなぁ」


道行く人が口々に軽蔑のまなざしを向けてくる。


違いますっ!誤解ですぅぅぅ!


「は、ハンナさんや?ちょっと場所を変えてお話ししようではありませんか」


あまりのことに僕は彼女をなだめようとした。


「よぉ、ハル。何やってんだ?面白そうな状況じゃねぇか」


あ、ガレットさん。


「助けてくださぃぃ」


僕は懇願した。


「はは、あいよ。とりあえず、場所変えようぜ」

そう軽く言ってから、ふと遠くに目をやる。


あれ?あの人は……


「ウォルフがいやがる」

そう言って僕の背をそっと押して促す。


「?」


「お前らも捕まりたくはないだろ?」



ジャガイモ仲間へ


今日は皆さんにとってどんな日でしたか?

蒸かし芋みたいにほっこりできていたら良いですね。

作中のハルくんたちは「ヴィクトリー」に向けて頑張っています。

堪えた皆さんの今日1日もきっと「ヴィクトリー!」ですよ。


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