第32話 ジャガイモ無双2
「ぐぅ」
村人の一人が苦しみだす。
「お、おい……」
声をかけた村人は悲鳴を上げた。
赤黒い血管が浮かび、目が真っ赤になっている。
「あ、あああああああ」
うめいていた村人が声を上げて腕をふるう。
それだけで助け起こそうとした村人だけでなく、周囲の人も薙ぎ倒した。
黒い煤が体から立ち上っている。
そして、最初の一人を皮切りに、次々と苦しみだした。
◇
「極大魔術」を「スン」と消され、呆然とした兵士たち。
あまりのことに戦意を失ったのか、投降し始めた。
「クカカカッ、どうだスゲェだろ?ウチの『ジャガーノート』さまはぁ」
ガレットが兵士たちにふれ回る。
「『ハル』っつうんだぜ?ジャガイモ農家ってトボケてっけど、本気出しゃあ、俺らまとめて『スン』よ」
そう言って首を掻っ切る真似をする。
何よりも「戦場の覇者」と謳われる強者の言だ。
目の前で見せられた光景もあり、頷くしかない。
「アイツに指一本でも、触れてみ?いや、逆に指先ひとつでダウンか?」
もはや反抗する気力もない「共和政府兵士」たち。
ガレットは武装解除をさせつつ、腕のみ拘束する。
ポルコの姿はなかった。
そこへ、建物の奥から上がった悲鳴。
「っ!?まさか、奴らの『仕込み』かよ」
建物の奥で起きた騒ぎ。
その異変を察したガレットが言う。
(けれど、コイツで斬っちまったら元も子もない)
手にする大剣を見る。
一瞬の躊躇。
ハルが走り出す。
「おい、ハル」
◇
建物の中に入ったハル。
遅れてガレットも駆け込んでくる。
彼らの目に入ったのは、「黒い煤」を吐きながら暴れている村人たち。
「ひぃぃやぁぁぁぁぁっ」
取り巻きたちを盾に、逃げ回るポルコ。
ハルは、走って暴走している村人へ向かう。
「やめろぉっ!」
棒を一振り。
ぽかんと軽い音がして、暴走した村人の頭を叩いた。
――――――スン
「あれ?」
叩かれた村人は元に戻っていた。
(こいつは、最高だ!)
ガレットは快哉を叫んだ。
「いいぞ、ハル。暴走した奴、片っ端からぶん殴っちまえ」
「は、はいっ」
よくわかっていないままハルが返事をした。
それが合図となったのか、次々と村人が暴走し、向かってくる。
「だから、やめろって言ってるだろ!」
ハルの注意と共に、ぽかん、ぽかんという叩く音が響き渡る。
――――スン
―――――スン、スン
――――――スン、ススン
その度に暴走した村人は我に返る。
どうやら、一度叩かれた者は解呪されるらしい。
再び暴走することはなかった。
僅かな時間でほぼ全員が叩かれ、元に戻った。
その中で……
「や、ややや、やめろぉぉ」
へたり込み、後ろへと這って逃げるポルコ。
「お、俺だっ『ポルコ』だっ!手下のくせにっ」
見れば、「暴走」した取り巻きが迫っている。
ポルコは殴られたのか、口の端を切って血をにじませていた。
「分け前だってやったろ?良い目もみただろ?」
ポルコは鼻水を垂らしながら言う。
「なんで、なんでっ!俺がこんな目に遭わなきゃならねぇんだよっ」
「俺は悪くないっ!オマエらなんか、ゴミだっ!存在自体がキモイんだよ!」
叫びながらも這って逃げ続ける。
ガシッ
ポルコは足を掴まれる。
そのまま引き寄せられる。
「や、やめろぉぉぉ」
漏らしながら悲鳴を上げる。
暴走した取り巻きたちが、ポルコを踏みつける。
そこへ――――
「どっこい!ほいさぁぁっ!」
どこかのんびりとした掛け声。
ぽかん、ぽかんと軽くたたく音がする。
「え?あ?あれ……ポルコ?」
泣きながらうずくまるポルコに気づく「取り巻き」たち。
「大丈夫っすか?」
そう言って引き起こす。
「おま、お前らよくもぉぉぉっ!」
ポルコが怒声を上げる。
ボグシャーーーー!
とんでもない轟音が響き渡る。
「あ、間違えた」
ハルがわざとらしく【棒】でポルコを殴り飛ばしたのだ。
〈やぁぁん、ちょいスッキリぃ!……足りないけれど〉
ハルの中でだけ聞こえる少女の声。
ポルコの小太りの体が吹っ飛ぶ。
そのままゴロゴロと地面を転がる。
「わはははは、やるな!フルスイング」
ガレットはハルの一撃に爆笑した。
奇しくも、取り巻きたちに抱えられたポルコは無防備だった。
「お、おれは、魔物化して…ねぇ」
うめきながら這いつくばっているポルコ。
起き上がろうとしたとき、ポケットから銀貨と水晶が転がり落ちた。
「こ、これは……」
「あっ!?ああっ……」
村人たちが注目する中でポルコが慌てて隠そうとする。
「政府銀貨……おまえ!俺らを売ったのかっ」
「この水晶は『結界石』だ。お前が犯人か」
村人たちの怒りがポルコに集中する。
「ち、ちがっ、俺はなにも……はるがぁ」
「ハルは俺たちを救ったじゃないか!」
「この嘘つきめ!」
怒声と殴打する音。
「だ、誰かっ助けっ、俺は悪くない、ハルがっ」
ポルコが袋叩きにされながらもハルに擦り付けようとする。
「まだ言うかっ」
糾弾する村人。
ハルとガレットはそれを一瞥しただけで「興味ない」とばかりに建物の外へと出て行った。
ハルたちが戸を閉めた後。
「ぎゃあああああああ!」
ポルコの悲鳴と村人の怒号はしばらく続いた。




