第31話 ジャガイモ無双1
魔物の群れを蹂躙するフェンリルナイトたち。
それを追い越し、先に村長宅に到着していたハルとガレット。
彼らはすでに暴れ始めていた。
「なっなんだ!?」
兵士たちの悲鳴が響き渡る。
「ふぅぅぅ!」
鋭い呼気。
「はぁっ!」
大剣を一閃させ、ガレットが兵士を薙ぎ倒す。
「まだまだぁ!」
自身の身長とそう変わらないサイズの剣を軽々と振るっている。
「ま、まるで竜巻じゃないか」
その光景を、離れた場所で村人たちは見ていた。
村人が驚くのも無理はない。
絶え間なく大剣を振り回して兵士を薙ぎ倒していく大男。
「クソッ、ガレットは魔術を使えない!ならば」
魔術兵たちが詠唱をする。
極大魔術で倒そうというのだ。
ガレットの邪魔が入らないように数名が早撃ちできる魔術で牽制を始めた。
魔術で練り上げられた「炎の矢」が十数本、ガレットに向かう。
「ハルっ!頼む」
「え?僕っ!?」
ガレットの声に戸惑うハル。
「その【棒】、振ればいいだけだ!」
「えええ?」
なおも躊躇う「ハル・ロッシェ」。
「お前の『相棒』はそんじょそこらの棒切れじゃねぇ!オンリーワンのナンバーワンだ!信じろっ、【棒】を!」
言っていることはムチャクチャ。
傍から見れば「土寄せ棒」を信じるというのは笑い話でしかない。
〈フン……わかってんじゃない、『脳筋』のくせに〉
ハルの脳裏に少女の声が響く。
〈やるわよ、ロッシェ!あおられてんだからっ、「本気」見せるわよ〉
その言葉にハルは頷く。
「僕は、『アンジェさん』を信じている」
〈や、やだぁん、こんなところで告白っ!?将来は白い壁の可愛いお家でいっしょに暮らしましょう!そして、世界中を私たちの「愛の芋畑」にしちゃおうねっ〉
「そうだね。ずっと僕といっしょに――――――」
「いいから、早くやれよ!もう被弾するだろ」
ガレットの悲鳴に近い叫び。
ハルが【土寄せ棒】に話しかけている間にも「炎の矢」が降り注ぐ。
〈アタシの「ロッシェ」にぃぃ、ナニさらしとんじゃぁぁ!オンドレらぁぁぁ!〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」が光を放つ。
そういっても、「ぽわわわん」とほのかに光るだけだ。
しかし――――――
――――――――スン
ハルに降り注ぐ「炎の矢」が音もなく消える。
――――――スン、スン、ススススン
なおも降り注ぐ魔術の矢。
だが、ことごとく消え去る。
「は?」
兵士たちが固まった。
『はあああああああああっ!?』
絶叫が響き渡る。
◇
あれ?あれれ?
なんか火の塊が飛んできたけれど……消えちゃった。
きっと、「魔力切れ」でも起こしたんだね。
朝ごはん、ちゃんと食べなかったのかな?
〈んもう、ロッシェとの語らいを邪魔するなんてっ「野暮天」なんだから〉
アンジェさん、「野暮天」って今時あまり使わないよ?
野菜の天ぷらと間違えられるからね。
あ……今度、ジャガイモの天ぷら作ってみたいな。
「あ~、実戦で見るの初めてだったが……それが平常運行なのな」
ガレットさんが眉間を抑えている。
「え?なんのことでしょうか」
「あ~、そういう感じね」
なんだか納得している。僕にはよくわからない。
〈ん~、きっとアタシたちの「いちゃラブ」のことを言っているのよ〉
「あっ、そうかぁ~。みんなには刺激が強すぎるからね」
アンジェさんの言葉に納得。
「刺激強すぎるわぁ~、魔術『スン』って消しながら【棒】と戯れてっしよぉ」
ガレットさんが渋い顔で「僕たち」を見ている。
そして―――――
『天の理は崩れ、封じられしものが放たれる』
『罪なき者も、咎ある者も、等しく終焉を迎えよ』
『災厄は等しく降り注ぐ』
『灰燼と帰すがよい』
『降り注げ!全てを焼き尽くす、天の怒りよ!』
―――――――『【終焉の黙示録】』
巨大な火球が天から落ちてくる。
うわぁぁぁぁ、ナニあれ!?
「焼き畑」する時期じゃないよっ!
というか、ここら畑じゃないし!
あまりの熱で、近くの植物が焼け始める。
「あちっ、あちちちちち」
ポルコが叫んでいる。
うるさいなぁ……いちいち。
どっか行ってよ、もう。
あ、遠くで「死んだフリ」していた兵士さんたち。
一斉に起きて逃げ出した。
すごい身体能力。
どうやったら一瞬で跳ね起きて走れるんだろう。
〈ああっ、お花がぁ……〉
アンジェさんの声。
村長の邸宅にある「家庭菜園」。
その花が、熱で焼け始めていた。
――――ビキッ
自分でもわかる。
僕のコメカミに血管が浮かんだ。
近くに植わっている、「トマト」や「ナス」たち。
そして、「ジャガイモ」さん。
芽かきを終えて、今「美しい花」が咲いている盛りだというのに。
「テメェェェ」
僕は声が漏れた。
「ふざけんなよっ」
涙がじわじわと浮かんできた。
「せっかく、せっかく花を咲かせてっ!オシャンティに目覚めてっ、おませな背伸びの時期を迎えたってのにっ!」
僕は叫んだ。
「花は美しいうちに摘み取って―――――」
「うっせぇっ!豚野郎っ」
「ヒヒヒヒヒ」と耳障りな笑い声あげつつ言いかけた誰か。
それを僕は叱り飛ばす。
〈ロッシェっ!アタシをっ!〉
僕は【土寄せ棒】の「アンジェ」さんに促され、彼女を構える。
〈あんな「ロウソクの火」。アタシの一振りで充分だからね〉
その言葉に、僕はガレットさんに教わった(強制させられた)スイングを思い出す。
『そうだ!ハルっ!そのスイングでロウソクの火を消せるようになるんだ』
『まずは、じーっと見つめる』
ジーーーーー
僕は「じーーー」と落ちてくる火球を見詰める。
「お、おい……何が始まるんだ?」
「ふははっ、極大魔術に呆然となったのだろう」
兵士たちが騒ぎ始める。
『そして、その揺らぎがなくなるほど観察して』
ガレットさん?あれ、落ちてきてるからずっと揺らいでるよ?
すぐそばに本人がいるけれど、モノローグにツッコむ。
『それから、バット(棒)を振り抜き――――』
とりあえず、やってみるか!
『――――消す!』
「ほいさぁぁッ!」
僕はイメージのガレットさんの指示に従い、「アンジェ」さんを振る。
〈いやぁぁぁん、ロッシェぇぇっ!いきなり、激しいぃっ〉
――――――スン
巨大な「火球」は音もなく消えた。
先ほどの「熱」はまだ少し残っている。
『ええええええええええ!?』
またもや絶叫している人たちがいる。
「うっ、ううううう」
僕は涙がこぼれてきた。
〈ロッシェ……〉
少し焼けちゃった……多くの「花」は救われたけれど。
戦いなんて空しいだけだよ。
なんで、なんでっ、こんな犠牲を払わないといけないんだ。
これから、お花さんたちが「受粉」して実を宿すんだよ?
じゃないと「実り」が得られないじゃないか。
あ、「ジャガイモさん」の実は食べちゃダメだよ。
ポンっ
僕の肩に優しく手を置く人がいる。
ガレットさん……
「ハル。辛いだろうけれど、今は堪えろ」
「ううっ、グスッ……」
鼻をすする僕。
「俺たちは、この悲劇を繰り返さないためにも前に進まなきゃならねぇ」
僕はその言葉に頷く。
「悔しさを胸に、それでも一歩踏み出せる力、それが『勇気』だ」
ガレットさんはそれからニカッと白い歯を見せて笑った。
「ナイス、バッティング!」
親指を立てる。
「お前の場外ホームランで、度肝は抜いてやった。途中、アウトになった走者(花)もいたが、お前の一発で救われただろう」
そして、僕の肩に手を置いたまま、反対の手で「村長宅」を指さした。
「こう…支援のアリーナはすぐそこだ!試合はまだまだこれからだっ!」
ガレットさんが力強く言う。
「お前のパッションを吐き出せ!己を鼓舞するんだっ!」
僕を見て頷く。
「もう、俺たちの合言葉は決まっているだろ」
優しく目元を緩める。
その顔を見て僕は頷いた。
「じゃあ、叫ぶぞっ」
合図と共に僕たちは咆哮した。
「ヴィクトリィァァァァァアアア!」
「ノーポテト!ノーライーーーフ!」
そして、僕たちは固まった。
〈ぜんっぜん、息が合ってないわね〉
アンジェさんのため息を吐くような声。




