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第3話 ネズミって脂身が好きなの?


「くそ、くそくそくそっ」

ポルコが毒づきながら木の幹を蹴りつける。

(あの女が邪魔しなきゃ、ハルがぶちキレてたんだよ)


何を言っても反応しないハルでも家族のことになると目の色を変える。

だからわざと聞こえるように話して、ハルが向かってくるように仕向けた。

顔を真っ赤にして怒る表情は、ポルコの嗜虐心をそそる。

そうしてみんなの前で「勝手にキレたヤツ」と徹底的に吊し上げる。

皆に糾弾されてしょげかえるハルを見られると思ったのに。


(人気者のポルコさんにアイツは興味がなさすぎるんだ。偉そうにっ!)

林の樹に八つ当たりを続ける。

すぐに息が上がった。


(くそ面白くない。何か面白いもんでもないか……)

周囲を見渡す。

この林は森と村との境目にある緩衝地帯だ。

少し歩けば魔物除けの結界がある。

結界の起点が村を囲むようにいくつもあり、まるで防護柵のように繋がっているのだ。

(この辺りはハルの家にも近かったな)

ポルコはほくそ笑んだ。

(よぉし、おもしろいもんが見られるぞ)



僕はご飯を食べ終えて、妹のエナに絵本を読んであげていた。

昔、父さんが買ってくれた本。

今でこそ農家をしているけれど、父さんは兵士をしていて文字も読めた。

僕にも文字の読み方を教えてくれた。

今度は僕が父さんに代わってエナに読み方を教えるんだ。


「タヌキさんは言いました。『僕じゃない、このウサギがやったんだ』」

エナは絵を見ながら僕の声に聞き入っている。

「ウサギさんは言いました。『私じゃないわ。なんであなたは嘘を言うの』」

……毎回読んでも重い内容。これ、本当に幼児向け?

エナはそれでも楽しそう。まぁいいか。


そう思っていたらなんだか外が騒がしい。

なんだろう?

「お兄ちゃん、お外が……」

「だよね」

僕はエナに「ちょっと見てくるね」と言って外へと出た。

何かあったら怖いので愛用の「土寄せ棒」を持って。

母さんが「気を付けて」と言ってくれる。


真っ暗になった外は月明りでほの白く照らされていた。

カサカサと茂みが音を立てる。

(え?なに、怖いんですけど)

茂みからポルコが出てきた。

「は、ハルっ!」

なに、またなんか言われるの?

「助けてくれっ」

「え?」

「大変なんだ。農園が荒らされて」

ええええ?

「な、なんで、そんなことに」

「わからない。お前も手伝ってくれよ」

「わかった」

僕はポルコに従って走り出す。

僕は気づいていなかった。ポルコがニヤついていたことに。



「あれ?何ともないけれど……」

僕はジャガイモ畑に来て、何も変わり映えしないことに驚いた。

「おかしいな、さっきまで変な獣がうろついていたんだけれど」

ポルコが言う。

「そう?」

違和感がある。今さらながらだけれど、コイツが僕に助けを求めてきたってことに。


「お~い、大丈夫か」

ポルコの取り巻き達も来た。

「ああ、今は大丈夫みたいだ」

ポルコが言う。

「じゃあ、ちょっと見回ってから帰るか」

奴の提案に、みんなで頷く。

「手分けしようぜ」

そう言って見回る範囲を決める。

って、なんで僕は林の方に行かされるんだ。

「見回ったらまたここに集合な」

そういってアイツらは行ってしまう。



「う、うわあああああああああ」

悲鳴が聞こえる。

慌てて畑に戻ると、でっかい……ネズミ?

肥満体のポルコより大きい。

「なんで俺ばっかり追いかけてくるんだよぉ」

ポルコがデカネズミに追いかけられている。

小太りのポルコが顔を真っ赤にして必死に走っている。

……あ、コケた。

さすがにこれはヤバい。

僕は棒を手に走った。棒がぼんやりとだけれど光って見えた。

「このぉぉぉ!」

デカネズミはすぐに僕に気づいた。

そして、一目散に逃げだした。

「?」

呆気に取られている僕。


ポルコはブフッブフッって荒い息をつきながらつぶやいた。

「なんだよ、あいつ」

「ポルコが見たって言うの、アレ」

「知らねぇよ!」

ポルコが叫ぶ。

あのデカネズミが走り去った方から悲鳴が上がった。

「今度はなんだ!?」

ポルコがうろたえる。

あっちは、ハンナの家の方だ。

僕は走った。



ハンナの家の近くまで来ると、おばさんとハンナが座り込んでいる。

おじさんは家畜のえさやり用フォーク(ピッチフォーク)を手にしている。

もちろん彼女たちを庇うためだ。

デカネズミはそんな彼らにお構いなしに、ハンナの家の豚を齧っていた。

って、ネズミって肉食べるんだ。


騒ぎを聞きつけて村のみんなが集まってきた。

「魔物だ!」

「なんで、魔物がこんなところに」

「結界はどうした」

口々に騒ぎ立てる。

今はそれどころじゃないでしょ。

しかし、このネズミ、豚の脂身ばっかり食べてる……

もしかしてポルコが襲われたのってそれ?


まあ、大人たちがこれだけ集まっているんだから、僕の出番はないよね。

そう思っていたら、脂身…もとい、ポルコがやってきた。

「お、俺、見たんだ!ハルの奴が結界にイタズラしていたのを」

はぁっ!?

「ハルっ、どういうことだ!」

詰め寄られる。

「し、知らないよっ、違う。僕じゃないって」

「親父もそうだったが、役立たずってだけじゃなくて迷惑をかけるとは」

「父さんは関係ないだろ!」

僕は思わず叫んでいた。

「父さんをバカにするなよ」

「うるさい、魔物を引き込んだロクデナシめ」

「違うって言ってるだろ!」


言い争っている後ろで悲鳴が上がった。

食事を終えたデカネズミが、今度は標的をポルコに向けた。

「いかん!逃げろ」

誰かが叫び、大人たちはピッチフォークやスコップを手に魔物を追い払おうとした。

チュゥ――――

鳴き声だけはメチャクチャ可愛いソレは、しっぽを一振りした。

それだけで大人たちは蹴散らかされた。

「ひぃ」

邪魔者を排除し、ネズミはポルコに照準を定めた。

「このっ!」

石が飛ぶ。ハンナが投げたんだ。

「離れろっ、あっち行け、この豚野郎」

……え?

「あ、間違った。ドブネズミ!」

わざとじゃないよね。


ハンナに続けとばかりにみんなで石を投げる。

多くはネズミに当たったけれど、たまに逸れてポルコにも当たる。

「いたい、痛いっっ、俺にもあたってる」

奴の非難は興奮したみんなの耳には届いていない。


チュゥ、チュゥ!

あまりにも投石がうっとおしかったのか、ネズミが村人たちに向かっていく。

「うわぁ!」

人垣が崩される。

その真ん中にいたハンナが巻き込まれて転んでしまう。

チュゥ

ドブネズミと言われた恨みからか、ネズミがハンナに襲い掛かる。

「やめろぉ!」

僕はデカネズミに向かって棒を振り上げ、そして振り下ろした。

――――――あ。

みごとにすっぽ抜けた。


棒は真っ直ぐに飛んで、ネズミのお尻に突き刺さった。

その瞬間だった。


――――――スン


あれだけの巨体が一瞬にして音もなく消えてしまった。

後に残ったのは月明りを受けてほの白く光る「土寄せ棒」だけ。

あれだけの喧騒が、一瞬で静寂へと変わった。


ジャガイモ仲間へ


今日1日お疲れ様でした。

いい日であってもそうでない日であっても、今日1日を生きているだけで素晴らしいことだと思います。

それではまた、明日。

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