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第22話 傭兵と拳骨と。僕には痛い言葉。



共和国南東部、アダマス地区。


大陸とこの共和国を分断する霊峰がそびえる地区。

旧帝国領と王国領にまたがるこの地区は、ドワーフ族が棲む場所としてしても知られている。

旧王国領北西にはシルバニア地区というエルフ族が棲む地区があるので、その対極とされる場所。


僕たちはアダマス地区の一角、メタラム集落へ踏み入れた。


山肌を繰り抜いたような門をくぐる。


中に入ると、そこは大都市であった。


レンガ造りの家々が立ち並び、様々な人種が行き交う。

天を覆う岩肌のそこかしこには穴が開いていて、陽光も風も入ってくる。


〈ふぅん、結構発展してるじゃない〉


【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが呟く。


〈穴蔵好きの「モグラもどき」どもの街にしちゃあ、まあまあね〉


なんだか対抗意識を感じるなぁ。


昔、ドワーフと何かあったのかな?




まずは食事ということで僕たちは酒場に入った。

母さんやエナも疲れているからどこかで休ませたいというのが本音だ。


でも、お金がない。


遠慮している僕たちに「いいんです」とフィンたちがお金を出してくれる。


「俺たちのせいでもあるので、罪滅ぼしにこれぐらいはさせてください」

いつもそうやって僕たちのことを気にかけてくれる。


そうして、僕たちはテーブルを囲む。


「エナ、お腹空いた」


「エナちゃん、何食べたい?」


「リムのパンケーキ」


その言葉にみんなが微笑む。

リムアンは頬を赤くし、頬が緩むのを堪えていた。


「あれ?どうしたのお前ら」

元気のいい声が聞こえる。


振り返ると赤毛の女の子が木箱を抱えて戸口に立っていた。


「ルーダ、久しぶり」

「久しぶり、リィ姉。で、その人たちは?」


「あ~話せば長いんだけど……」

「じゃあ、後でいいや。納品だけ先に終わらせるわ」

さっさと行ってしまう。せっかちな子なのかな。


「あの子は?」

「妹のルーダ。あ、もちろん孤児院での」

リャナンが教えてくれた。


フェンリルナイトは同じ孤児院出の子で構成されている。

そして、その孤児院の支援をしていたのが「白狼将軍」だった。


彼の名前は「ハティ・アガートラーム・マクスウェル」。

ハティさんは僕のお父さんの上官だった人。


「そうなんだ」

「ルーダが末っ子だよね」

「だな」

フィンの同意に僕は驚く。


う、うそだろ。


リムアンを見る。


「何?失礼なこと考えてない?」

「あ、いえ、あはははははは」


だって、ルーダって子、身長は僕と同じくらい。

で、作業着の上からでもわかる成長具合はリャナンのそれよりも立派だ。


「お兄ちゃんそういうの、良くないよ」

エナが注意してくる。


え?顔に出ていた?


「後で一発殴らせろ」


リムアンがこっちを睨み付けている。ヤバ……


〈あ~あ~、ロッシェったらぁ〉

アンジェさんの呆れたような声。


母さんも声を殺して笑っていた。




ルーダが戻ってきた。

調理器具の納品だったらしい。

メンテナンスは料理人自身がやるので、替えが必要なものを納めたというのだ。


「で?」

事情を聞いてきた。

なんだろう、末っ子なのに貫禄がある。


フィンがかいつまんで説明してくれた。


「アンタ、ハルだっけ」

急にルーダが僕に声をかけてきた。


「え?うん」

にっかりと歯を見せて笑う。


「見かけによらずやるじゃん」

そう言って肩を小突く。力、強い、結構痛い。


それから急に真顔になって頭を下げてきた。


「ありがとう。義父、ハティ・アガートラーム・マクスウェルに代わってお礼を申し上げます、ハル・ロッシェ」


「え?いや、頭を上げて」


僕は恐縮してしまい、そう言った。


ルーダは顔を上げると、またにっこりと笑った。


「敬愛する当主の名誉を守ってくれた、その功し(いさおし)。心より感謝を」


雀斑顔の彼女の笑顔が、とても美しく見えた。


「そして魔狼騎士団フェンリルナイトへようこそ。義兄弟」


……はぁぁぁっ?またそれ?


だいたい、なんで「エルザさん」のことを庇った僕が「ハティさん」にお礼を言われるの?


それに「当主」?「エルザさん」っていったい何者?



「とりあえず、住む家については親方に相談してみる。親方、顔がきくからさ。で、先立つものがないんじゃ身動きも取れないだろうから……」


ルーダを先頭にぞろぞろと鍛冶屋に向かう。


ルーダが住み込みで働いている鍛冶屋は、名匠ギースというドワーフの工房だ。


通り名は「鉄拳のギース」。


噂では拳で殴って剣を鍛えるとかなんとか……

僕は話半分に聞いていた。


「ここだよ」

ルーダの案内で入って行く。


「いらっしゃい」

ぶっきらぼうな声。


「あれ?親方」

ルーダが首を傾げる。


僕は「ギースさん」の姿を見て驚いた。


ドワーフって聞いていたから髭もじゃをイメージしていたけれど違った。

人間の成人男性とあまり変わらない見た目。

髪を短く切り、生えているのは無精ひげくらい。


「店頭にいるなんてめずらし……」


言いかけたルーダが別な方に視線を向けて目を輝かせた。


ギースさんとカウンターで話していお客さん。

その大男が片手を挙げる。


「おう、元気そうだなジャリん子」


黒い髪を無造作に後ろに撫でつけたようなヘアスタイル。

鋭い眼光に両頬の傷。眉間にも傷跡がある。


ルーダの表情が一気に華やいだ。


「ガレット、いつ来たの!?」


駆け出してその体に抱き着く。


「痛っってぇ、オマエ、でかくなったんだから加減覚えろ」

「しらないよぉだ」

ぐりぐりと顔をこすりつける。


「ルーダ、いい加減にしないか、ガレットを離してやれ」

ギースさんが注意する。


「親方ぁぁ」

ルーダが恨みがましい顔で声を上げる。

ガレットと呼ばれた人がルーダの頭を押して離す。


「おう、ガキどももそろい踏みだな。って、なんで夜逃げしてきたみたいな人連れてんだ」


「夜逃げしたんですよ」



僕たちの事情をフィンレーが説明した。


「そうか」

そう言ってガレットさんが僕を見る。


「ハルっつったけ?」

「はい」


「ちょっとこっち来い」

「はい」


「歯を食いしばれ」

突然言われた。


けれど、有無を言わせないその感じに、僕は歯を食いしばった。


いきなり頭に拳骨を落された。


〈ちょっとっ!コイツ、いきなり何するのよ!〉

アンジェさんが非難の声を上げる。

でも、みんなには彼女の声は聞こえない。


「お前は間違っている」


「なっ!」

フェンリルナイトのメンバーが腰を浮かした。


「アイツらは姐さんの名誉を守ったって浮かれて、お前を持ち上げている。けれど、俺にしてみればお前はバカ野郎だ」


「結果を見たらわかるだろう?」


「その豚野郎の挑発に乗せられて、お前の一番守りたいものを守れなくなった」

彼の言葉が僕の胸に刺さったトゲの姿を明らかにした。


「お袋さんも妹もお前のことが好きで、言えない。お前の頑張りを知っているから、言えない。でも、誰かが言わなきゃなんねぇ」


僕の目を覗き込んで彼が言った。


「じゃなきゃ、お前自身が許せないだろ」


ガレットさんは寂しそうに笑った。


「バカ野郎だな。そんなになるまで我慢してよ。やったことは間違っちゃいるが、お前の心根はなんにも間違っちゃいねぇよ」



ジャガイモ仲間へ


今日も今日とてお疲れ様です。

今日がどんな日であれ、こうして頑張って生きている皆さんはヴィクトリー!ですよ。

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