第23話 素振り毎日千回って高校球児?
僕たちは、鍛冶師たちの宿舎の一角に住まわせてもらうことになった。
「ギース親方」って本当に顔が広いんだな。
リャナンとリムアンがエナの面倒を見てくれている間、母さんは働き口を探しに行った。
これに、フィンたちが同行している。
母さんが「カモ」にされないようにという配慮らしい。
僕はというと、昨日のこともあるのでガレットさんを訪ねていた。
そして、ガレットさんの経歴を聞いてひっくり返りそうになった。
彼があの最強の傭兵団「黒金の鷹」の頭領、ガレット・グランハートだって?
ガレットさん自身、剣奴だったのをコロシアムで生き抜いた伝説級の剣士だ。
「あん?俺は、魔術が使えない出来損ないだぜ?」
なぜかスクワットをしながらガレットさんが言う。
「ああ、正確に言えば『足場をつくる』魔術だけは使えるってだけの役立たずだな」
「しかも、一般人と同じ魔力量しかないからその魔術も回数制限あるけどな」
なんて言いながらスクワットを続ける。
確か、大戦の戦功から男爵の(ジャガイモじゃない)爵位を貰って「エーレンブルグ」っていう領地を貰ったって聞いたけれど。
「『黒鷹』なんて呼ばれちゃいるが、所詮、それしか能のない奴だよ」
そう言いながら、「995、996、997」とか数えてる。
どんだけやってんだ、この人。
「ハルも魔術使えないんだろ」
「使えないどころか、魔力もないです。誰もが、持っているってものなのに……」
「そっか」
ちょうどキリが良かったのか「1000」と数え終わり、立ち上がった。
「3セット目終了、ヴィクトリー!」
と両腕を上げて叫ぶ。なんですか、この人。
それからガレットさんが僕の肩に手を置く。
「なら、フィジカルとメンタルで勝負だな」
ニッっと笑う。
「おまえのソウル(魂)の熱さはわかったぜ。だったら、その上腕二頭筋で大事なモンを守らねぇとな」
「あ、え?」
「なんかすっげえ【棒】を持ってるって?見せてもらってもいいか?」
「あ、はい。いいですけど」
〈アタシは嫌っ!汗臭い手で触られたくない〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが悲鳴を上げる。
(ちょっと、アンジェさん。我慢してよっ)
僕は小声で彼女を諭した。
〈やだぁ、ロッシェは私が他の男に触られても我慢できるの?〉
確かに、ちょっと、いや、かな~り「嫌」だな。
ためらう僕に、ガレットさんが首を傾げる。
「嫌なら、無理にとは言わないぜ?」
気遣ってくれる。
「う~、ちょっとだけですからね。すぐ返してくださいね」
僕は「ちょっとしつこいかな」と思いつつ言う。
「あ、ああ……」
ちょっと引き気味のガレットさん。
僕は「アンジェ」さんを渡す。
「グッ!?」
手にした瞬間、ガレットさんが「アンジェ」さんを落しそうになる。
まるで何百キロもする重い物を持ったように。
「くっ、ヌヌヌヌヌ……」
汗を流し始める。
「大げさなぁ、なんです?そのジョーク」
僕はガレットさんから「アンジェ」さんを取り返す。
〈フンッ、私に触れていいのは『ロッシェ』だけなんだから〉
「その【棒】、すげぇな」
ガレットさんは肩で息をしている。
「悪い、俺が持っても力が抜ける。つまりは魔力をちょっとでも持っている奴は魔力奪われるから『ステータス異常』をきたすんだろうよ」
そう言って汗を拭う。
「で、魔力が一切ないお前は、その【棒】が魔力を消し去ろうが何だろうが、一切関係ない。もともとないもんだからな」
それから、ガレットさんが僕をまっすぐ見て言った。
「お前は強いよ。魔術っていう手品に頼らなくたって、そのままで戦えるんだからよ」
「派手なパフォーマンスなんてのは、一時には目を引くけれどそれだけだ。本当に強い奴ってのは、何もなくたってココで戦える奴なんだよ」
そう言って僕の胸のあたりを拳の先で軽くたたく。
「よう、俺が鍛えようか?」
「え?」
急な申出に僕は驚いた。
「お前自身わかっていると思うけれど、強いチームに入ったからってテメェが強くなれたわけじゃない。そこでレギュラーになって認められてはじめて強くなれたといえるんだ」
僕の胸にあるモヤモヤを代弁してくれた。
「だからよ、教えようと思ったんだ。お前さんに俺の知る『持たざる者の戦い』ってやつを、な」
そしニカッっと笑った。
「まずは明るい明日のために、素振り千回を毎日だな」
はぁ!?
「そう、お前の明日は明るい」
それから背筋と大殿筋を強調する謎のポージング。
「未来のお前は『ヴィクトリィィィッ!』」




