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第21話 ジャガー・ノートの帰還


この日の朝は悲鳴から始まった。

村を徘徊していたネズミの魔獣たちが群れとなって村長の屋敷に向かってきたのだ。

――――チュゥ、チュゥッ!

相変わらず鳴き声だけは冗談のように可愛らしい。

だが、それ以外は絶望的だ。

赤く血走った無機質な目。

波のように押し寄せてくる。

「た、助けてくれぇ」

ポルコは叫び、村長宅の扉を叩く。

(俺は、俺だけは絶対に助けてくれるっ)

そう、自分は「使える奴」だ。褒められたんだ。認められたんだ。

だから、あんな奴らなんか放ってでも助けてもらえる。

扉が開いた。

「あ、ありがとうございま―――――」

そこには誰もいなかった。



「なんで、魔物が一斉に?」

僕の言葉にリムアンが冷めた顔で言う。

「食べる物がなくなったからじゃない?」

「え……」

僕は青ざめた。食べる物が無くなった?じゃあ、次に狙うのは……

「「脂身ポルコ!?」」

僕とハンナが同時に叫ぶ。

正直、ポルコがどんな目に遭ったとしても興味がない。

でも、アイツは誰かを盾にしてでも逃げようとするはずだ。

そして、村人といっしょにいる。


「ハンナ!」

僕はハンナの肩に手を置いた。

「ハンナはここにいて。ぜったいに危ないことはしないで」

僕は彼女の目を見て言った。

ハンナは目を潤ませて黙っている。

少し興奮しているのか頬が赤い。

きっと、おじさんおばさんのことが心配でたまらないんだな……

「僕がみんなを助けるよ」

そう告げて、ハンナから離れる。

愛用の「土寄せ棒」を握り直した。

地獄の千本ノックを堪え抜いたんだ。簡単にやられるハルさんじゃないぜ。

よぉうし、ハルさん頑張っちゃうぞ!


「ソニア」

「なんだい、お頭」

「そこのお嬢ちゃん守ってくれ」

「あいよ。任された」

短いやり取り。それだけで通じ合う。

「なあ、ガレットさん」

フィンレーが声をかけてくる。

「もうさ、暴れてもいいかな」

まるで繋がれた猛獣が、首輪を外してくれと言わんばかりの目をしている。

「ああ、悪いな。待たせた」


「ホントだぜ」

ガレットの言葉にフィンがにやりと笑う。

「だってよ、弟妹きょうだい


その言葉を待っていたかのようにフェンリルナイトたちが得物を手に歩き出す。

すこしずつ、すこしずつ歩調が早まり、ついには駆けだし始めた。

「『狩り』の時間だ!」

フィンの号令で一気に加速する。


「おおっ!いいスタートダッシュだ」

ガレットが手を叩く。

「行くぜ、目指すは完全試合!俺たちはワンチームだ!」

ガレットが叫ぶがフェンリルナイトたちは目もくれずに駆けていく。

「お頭、無視されてるな」

辛辣な言葉にガレットが呟く。

「なあ、ソニア、俺の扱い悪くねぇか?」



「うおぉぉぉっらぁっ!」

フィンレーの気合一閃。魔獣が真っ二つにされて塵と消える。

「吹っ飛べ!」

アルセイスが魔術で群れに風穴を開ける。

何体かをまとめて消し去った。

「行きます!【颶風狂乱ぐふうきょうらん】」

リャナンが高速の変位抜刀術を繰り出す。

風が吹き荒れ、嵐のように抜けた後には魔獣たちが千々に切り裂かれて霧散した。

「リム、本気出す」

リムアンの体を魔力が覆い、紫電が走る。

加速するその動きが閃光のように弾けた。

「ハティ直伝の……【電光石火ライトニング・ストライク】!」

稲妻を纏った攻撃。

彼女もまた高速で駆け続け次々と魔物を打倒していく。

その後から土埃を上げて重戦車の如く突進してくる者がいた。

「おおおおおおおおおお」

スヴェンが盾を構えて走り、2メートル越えのデカいネズミたちを跳ね飛ばしていく。


そして、ハルはというと……

「ゼェー、ハァー、ゼェー……ヒュー……おぇっ」

走って追いつくだけでも精一杯。息も絶え絶えになっていた。

「ちょ、ちょっと休憩……おえぇぇ」

えずく。

「ったく、しょうがねぇなぁ」

ガレットの声がする。

「ルーキー、帰ったら特訓だからな」

ハルがぎょっとした顔をする。

「まずは俺がホームベースまで還してやるから」

ハルを抱える。

「悪いが、まだ盗塁王はガキどもに名乗らせられんな」

ガレットは彼を抱えたままジャンプする。

そして、空中で再度ジャンプした。

「うわっ、うわぁっ、うぁぁぁ」

ハルが悲鳴を上げる。



「暴れんなっ、ついでに棒を俺に近づけるな!ただでさえ『足場』がそいつのせいで脆くなってんだからよ」

文句を言いながら空を「跳ぶ」ガレット。

だが、傍から見ると高速で空を飛ぶ鷹そのものだった。

ジャンプの屈伸運動が羽ばたきにみえるほどに。

そして眼下に村長の邸宅を捉える。

「ほんじゃぁ、行くぜ!戦技・【破城槌】」

空中の足場を蹴り、急降下する。


そのままの勢いで大剣を構えて突っ込んだ。

爆音を立てて壁面を貫通し、崩壊させる。

ガレットは着地し、勢いのまま地面を滑った。

「やっべぇ、これでも抑えたんだが」

もはや村長宅は一階天井部分から上がすべて粉砕されてしまっていた。


「な、なんだ!?魔物か」

人々が悲鳴を上げる。

「うるせぇ!黙ってろ」

ガレットが怒鳴りつける。

「今、魔物ぶっころしてやっから、大人しくしてろよ、コラ」

彼の怒声に皆が縮こまる。


「あ……ハル!」

ガレットに抱えられて目を回しているハルをポルコの取り巻きの一人が見つける。

「この疫病神!お前のせいで村がっ」


叫ぶ男をガレットは睨み付けた。

「あ?お前、今ハルのこと何ていった」

あまりの凄みに人々は口を閉ざす。

「コイツはな、疫病神なんかじゃねぇ!」

そうして続けた。

「バカなお前らにもわかるように教えてやるよ。よぉく聞けよ!」

息を吸いこみ、叫んだ。


「ハル・ロッシェは全てを消し去る『ジャガー・ノート(不可抗力の破壊者)』なんだよ!」


ガレットの大音声にハルが意識を取り戻した。

気絶してもなお手放さなかった相棒……「土寄せ棒」を力強く握る。


ジャガイモ仲間へ


今日も1日お疲れ様でした。

今日1日頑張った皆さん「ヴィクトリー」です。

堪えることは力を蓄えること。

そして「勇気」ある選択だって皆さんには伝わっていると嬉しいです。


さあ、準備は整いました。

明日はハルくんを筆頭に、みんなで「ヴィクトリー!」って叫びましょう。

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