第207話 ジャガーノートと襲撃者。赤い槍とリャナンの真実!?
「ねえ、フィンはその『赤い槍』を普段使うよね」
「ああ、そうだよ」
「でも、剣も得意だよね」
「まぁ、な」
「状況によって使い分けているの?」
「ああそうだよ」
フィンは困った顔をする。
「この槍、【ビルガ】は、魔力を吸うんだ。ちょっと燃費悪いんだよ」
そう説明する。
この『赤い槍』は【ビルガ】という銘らしい。
「蜂」の力を持つというのだ。
ミッドガルズで見せたように、「士気高揚」や「活力分与」などいろいろな術が使える。
範囲攻撃が使えないフィンレーはこの「槍」を戦況に応じて使い分けているそうだ。
「あれ?でも、この間の共和政府軍と戦った時は使ってなかったよね?」
あんな多数を相手にする時ほど必要だったんじゃ?
「あ~、それな~」
困ったように頭を掻くフィンレー。
「エリーゼさんがいたからなぁ」
そう呟く。
それで僕は察した。
エリーゼさんは大の「虫嫌い」。
「ロナウ戦」での取り乱し方は尋常じゃなかった。
「前に使ってよぉ」
フィンが涙目でこちらを見る。
「ひっっどい、目に遭わされたんだ」
◇
フィンレーの話では、エリーゼさん、その場でシバキ倒しただけでは飽き足らなかったらしい。
『後で、その槍持って倉庫裏に来い。逃げたらわかってるな?』
と、招集をかけられた。
震えながら行くと、マクスウェル一家(ハティさん除く)が待ち構えていた。
『おお?ええ度胸じゃあのぉう?おおん』
そうエリーゼさんに言われながらメンチきられた。
『もう一度、ドヤって使ってみい?ホレ、どうした?』
エリーゼさんが煽ってきた。
もちろん、フィンレーが使えるわけがない。
ちょっとでも槍を持ち上げようものなら、フリードさんや、ブレイブ叔父さん、アビスさんが無言で「殺すぞ」と脅してきた。
……って「ブレイブ叔父さん」なにやってるのさぁっ?
僕ら一族は「平和主義的農家」が信条なんじゃないの?
「反社会的勢力」には与しないって。
暴力で解決したり、みんなを怖がらせるようなことをしちゃダメだって!絶対にさ!
……あっ!?
しまった……僕はみんなと「国家転覆」してしまったんだ。
僕は何を言っているんだ。
そうこうして、フィンレーは泣く泣く「血の誓約状」に押印させられた。
「エリーゼさんの前で【ビルガ】を使わない」
「エリーゼさんの前で【ビルガ】の穂先を見せない」
というもの。
これに違えれば、「足の小指を固い角にぶつけ続ける」というじみーーにキツイ呪いをかけられた。
◇
「そっかぁ、それはキツイねぇ」
僕はフィンレーを慰める。
ホント、彼は苦労が絶えない。
「そういうことぉ」
フィンレーは半泣きで応える。
「みんな!」
リャナンが声を上げる。
僕たちはすぐに周囲を警戒した。
って!?また「白目」剥いてるぅ!
リャナンは「索敵」の時なぜか「白目を剥く」という変な癖がある。
本人は集中していると自然になるっていうけれどさ。
普通にしていれば、「黒髪ストレートヘア」の美少女なんだよ?
なんで、そのアイデンティティ、ドブに捨てているのさ!?
「ハルっ!伏せろ」
スヴェンの指示。
僕は慌てて身を低くした。
「【盾】!」
スヴェンが「盾」の魔術を使う。
盾が展開されるとほぼ同じくして矢の雨が降ってきた。
僕たちは身を低くしながら「盾」の後ろに避難する。
オオオオッ!
雄たけびが聞こえる。
「獣人族っ!?」
◇
僕たちはなんとか「獣人族」の襲撃を撃退した。
リャナンとフィンがそのほとんどを倒した。
僕も1、2体は倒したと思う。
「腕を上げたな、ハル」
始終、防御役をしていたスヴェンが褒めてくれる。
「え?いやぁ」
照れくさくなって僕は頭を掻く。
〈ふふん、ロッシェはまだまだこんなもんじゃないわよ〉
【棒ジェ】さんが自慢げに鼻を鳴らす。もっともそんな素振りの音だけれど。
しかし、ここのところ「獣人族」がらみ多くないかな?
「おい、『リャナン』ここまできたらハルにも事情を説明した方がいいんじゃないか?」
そんなことを考えていたら、フィンレーがリャナンに声をかける。
リャナンが一瞬だけ、身を固くした。
それから、深々とため息をついた。
「ハル」
リャナンが僕を見る。
「私は、『リャナン』。『リャナン・シー(妖精)・マクスウェル』」
濡れたようなダークブラウンの瞳。
美しい黒く艶やかな髪。
「妖精族の『リャナン』なの」
◇
私が物心ついたときには「おとうさん」はいなかった。
「おかあさん」とふたり。
おかあさんも「リャナン」。
私たちは代々「リャナン」という名前を受け継ぐ。
小さい時の名前は思い出せない。
当時は帝国と戦争をしていたから、戦でたくさんの人が亡くなった。
みんな貧しいし、住む場所を求めていた。
私たちはそんな人たちに紛れて居場所を求めて転々としていた。
でも、私たちが居場所を変えるのは「戦」だけが理由じゃない。
私たち「リャナン・シー」は、「吸血の一族」。
「吸血」といっても実際に「血」を吸うのではない。
「血」の代わりに「魔力」を吸う。
魔力を吸う代わりに、相手には「恩恵」が与えられる。
「才能の開花と強化」。
吸う「魔力」の量によって、「強化」の強さが変わる。
それに、「才能の開花」も、相手が「望む才能」を後づけするもの。
だから、恩恵を受け取った者にはとてつもない負担がかかる。
―――そう、その「寿命」を縮めるほどに。
それでも「才能」を欲する人は後を絶たない。
だから「リャナン・シー」は狙われる。
私たちを囲って、望みを叶えようという人がいる。
私たちは逃げて逃げて、逃げ続けた。
途中、おかあさんが捕まって、抵抗して……
――――――私の目の前で「殺された」。
おかあさんを殺した人は、最初はとても優しかった。
でも、私たちの正体を知ると、手のひらを返した。
おかあさんはその人を殺したくなかったから、断り続けたのに。
逆に殺されてしまうだなんて。
私は、もはや誰も信じられなかった。
嫌い……みんな、嫌い。
みんなで私たちを利用しようとする。
みんな、私たちを見てくれない。
みんな、私の「恩恵」しか求めていない。
嘘つきばっかり。
私は「人」に絶望した。
絶望したまま歩きづつけた。
そんな絶望の中で、私は「ある男」と出会った。
そう、この世の規格に囚われることのない「彼」と―――――
ジャガイモ仲間のみなさんへ
夏ですね。
体調をくずされていませんか?
この暑さのような不快感を与える人に困らせられてませんか?
今日も1日頑張っているみなさんは、最高ですよ!
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次回、リャナンの運命を揺るがす「あの人」との出会いが描かれます。
乞うご期待!




