第206話 激務!エリーゼさんと、旅路のジャガーノート
暫定政府首都、ミッドガルズ。
ここは、「旧共和政府」の議事堂であり、「旧王政時代」の王城でもあった場所。
「おのれぇええ!」
エリーゼが呻く。
「キョーチョーセーーーーイ!」
天に向かって吠えた。
もちろん、「五将」のまとまりのなさに対してだ。
「共和政府」を倒し、政権を取り戻した。
エリーゼは自分の領地を取り戻すことができた。
この国に蔓延り、暗躍していた「転生の悪魔」を倒すことができた。
これによって「ウォルター」の仇もうつことができた。
しかし、しかしだ。
「戦」はただ敵を倒せば良いというものではない。
特に、今回のような国を正常化させるための場合はだ。
戦後処理をしなくてはならない。
それなのに。
どいつもコイツもやる気が違う方へと向いていた。
◇
早々に「ハティ」と「アンジェ」はエルフの自治区に引っ込んだ。
やる気がなさすぎる。
――――『ハティ、お姉ちゃんとふたりの王国をつくりましょう』
エリーゼが手を組み、覗き込むように言った。
だが、ハティはつれなかった。
『いえ、結構です』
にべもなく答える。
『そうよぉ、なにトチ狂ったこと言ってんの』
ハティに続いてアンジェも言う。
『僕たちは、エルフ自治区の別邸でしばらくゆっくりさせていただきます』
肩を落とすエリーゼにハティは言った。
『でも、ご安心を。ちゃんと姉上のお力になれる者をご用意いたしますので』
ハティはにこやかに言う。
しかし、ようやく弟・ハティと共にまた歩むことができると期待していたエリーゼには落胆しかなかった。
『ああああああああああああ』
去っていくハティとアンジェを涙ながらに見送るしかなかった。
アンジェが振り返って舌を出していたのも追い打ちをかけた。
『くそぉあぁぁぁぁ』
エリーゼは慟哭した。
そして、「ガレット」は自分の領地、エーレンブルグ復興に集中。
自分のところだけ良ければいいというものではないというのに。
―――――『ガレット、国の立て直し、あなたにも尽力してもらいますよ』
エリーゼは胸を反らしながら言った。
『あ~、悪い。エーレンブルグ、まだ復興途中なんだよ。姐さん』
ガレットはバツが悪そうに言った。
『それを言うなら、私のマクスウェル領とて同じです』
エリーゼは頬を膨らませて言い返した。
『姐さんところはフリードがいるだろ?』
そう言ってガレットが苦笑いする。
『それに、「戦塵の中、天駆ける鷹が、それ以外の場所ですることなどないでしょう」って俺に発破かけたの姐さんだぜ?確かに政治なんて俺には向かねぇわ』
『ぐうっ』
ガレットにそう言われ、エリーゼはうめいた。
『まあ、俺は自分の目の届く範囲で夢が叶うなら充分だ』
ガレットはカラカラと笑う。
『ああ、でも、適任者はいるから、こっち落ち着いたらよこすよ。そいつの「夢」叶えてやってほしい』
ガレットの裏のない笑顔に、エリーゼはぐうの音も出なかった。
―――いや、さっき一回「ぐう」と呻いたが。
「ティア」は政府の国家公安委員の長に就任した。
ティアについては王政時代「金の軍靴」として、同様の役職にあったため、職能について問題はない。
しかし、「地方役人の監督」と称して自身の「薄い本」の布教活動(即売会)をするあたり、公私混同もいいところだ。
『ティ―――――』
『ファァッハッハッハッーーー!』
『地方役人の取り締まりですが――――』
『お任せください!エリーゼ様!いや、「お義姉さま」!』
『は?』
『ハティは私のことを「好き」と申しました!これはもう「アレ」です』
『「アレ」とは何です?』
『鉄板の展開ですよ!素直になれないけれど、本音をポロリと漏らす「デレ」です』
『はぁ』
『大丈夫です!すべて私に任せてください』
戦が終わってしばらくたつが、今だこのテンションのティア。
『この国の未来は明るいです!いや、むしろ花畑』
脳内「花畑」となったティアが言う。
『ラブ&ピース!愛は世界を平和にするっ!!!』
ティアが高らかと告げる。
『今回のハティの「デレ」で、私は新たなる「天啓」、いや「境地」を得ました』
自信ありげに「原稿」の束を指し示す。
『私こと【神速の執筆者】(※ペンネーム)の手で!有象無象の悪党どもの脳みそも、見事に「教化」して差し上げましょう!』
ティアが胸を叩く。
背の高い男装の麗人。
見る人が見れば、それはもうドストライクな美貌。
傍に控える従者「ジャンヌ」はハフハフと涎を垂らしながら熱い視線を送っている。
『それ!いけーーーー』
「ばびゅん」とコミカルな音を立ててティアが駆けていく。
(まあ、率先して地方役人の監督をしてくれるというのですから、話ははや――――)
そこで、エリーゼは気づいてしまった。
『あの子、さっき「教化」するとか言っていませんでしたか?』
自問自答する。
そして、愕然とした。
そう、ティア・シュトゥーテ・フラインは「薄い本」作家。
しかも、「BL」専門。
以前、「エーレンブルグ防衛戦」で、旗下で防衛にあたった兵たちのほぼ全員を「BL脳」に「教化」した前科がある。
『あああああああっっ!まちなさーーーーーい!』
このままでは、全員が「腐」属性になってしまう。
ある意味、「腐敗政治」だ!
エリーゼは慌てて後追ったが、遅かった。
『あなた!問題児ですかぁぁぁぁぁ』
「軽騎兵最速の女」、ティアの足には、さしものエリーゼでも追いつくことはできなかった。
◇
そんなこんなを思い出して、現在。
エリーゼは頭を抱える。
彼女は「共和政府」の敷いた「共和制」を変えることはしなかった。
一気に変えてしまっては混乱を招く。
故に、「現行の政治」を維持しつつ、正常化を図ってから少しずつ変えていこうというのだ。
「お姉ちゃん……いえ、エリーゼ補佐官」
コレットの気遣わしげな声。
彼女もまた、向かいの机で書類の山と格闘していた。
コレット・オルレア。
旧王家の血を受け継ぐ者。
エリーゼは彼女を「国家元首」に擁立した。
別段、傀儡政治をしようというのではない。
ただ、以前よりの共和政府の高官たちを黙らせるためだ。
エリーゼを除いて「五将」にはちゃんと「決議権」がある。
強権を発動できる力を陣営に保有して、それを束ねる「旗頭」となってもらったのだ。
「ああ、大丈夫よ。『コレット総帥』」
エリーゼは笑う。
だが、その顔は引きつっている。
(あの子たちがちゃんと協力してくれていれば、こんな苦労しなくても)
そう、愚痴が浮かぶ。
もちろん、コレットはその「心の声」が視えている。
(ううう、お姉ちゃん……私、もっと頑張るから)
◇
僕、ハル・ロッシェは今、「エーレンブルグ」へ向かっている。
もちろん、「引っ越し」だから。
母さんやエナは、僕が「マクスウェル領」で戦っている間に「エーレンブルグ」へ移住していたらしい。
僕が畑を貰ったと聞いて、復興の手伝いも兼ねつつ「僕の畑」のために。
だから、今回の引っ越しの「荷物」は母さんたちが残したわずかなものと、僕のもの。
母さん、ありがとう。
こんな放蕩息子のフォローしてくれて。
ああっ、ヤバッ!なんか涙がっ!?
〈ロッシェ、大丈夫?〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」こと【棒ジェ】さんが気遣ってくれる。
(大丈夫大丈夫)
僕は彼女へ言った。
それから、隣を歩くリャナンを見る。
彼女は何事もなかったかのように、鼻歌交じり。
ありえない。
ほんとぉぉぉに、あり得なぁぁぁい。
恨みがましい目を彼女に向ける。
あの時、リャナンはメタラムの裏路地で「獣人族」を返り討ちにした。
そして、バックレた。
後始末は、そこに残された僕とルーダですることになった。
駆けつけてきた「警備隊」の人たちによって事情聴取が行われた。
僕たちの装備品と傷が一致しないので、犯人と断定されなかったのが救いだ。
加えて、ルーダが「ギース親方」の弟子ということも酌量の余地となった。
ドワーフ自治区「アダマス」は複数の集落で形成されている。
各集落のまとめ役「区長」の集まりによって統治されている。
ギースさんは「アダマス」の区長だった。
そういった要素も絡み、僕たちはただの「第一発見者」として扱われたのだ。
今回の「事件」は「『冒険者』どうしのいざこざ」と。
ギルドにも所属登録がない「冒険者」は無頼の輩。
彼らがどのような末路を迎えても、「自治区」は関与しない。
だから、「チモシー」のような「掃除屋」が片づけをする。
「無法の輩」のことは「無法の闇に」という事らしい。
「掃除屋」は、「掃除」の時に出ためぼしいものを「報酬」として懐に入れられる。
だから、チモシーはあんなに急いていたのか。
世知辛いなぁ……
そんなことを思いながら街道を歩く。
視界の先には荷車を引くスヴェン。
隣で周囲を厳しい顔で警戒するフィンレー。
雨が上がっても、道はまだぬかるんでいる。
空もまだまだ曇り模様。
夏の湿った重苦しい空気が、まとわりつく。
頬をわずかばかり汗が伝った。
ホント、このまま何もなければいいなぁ。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日もお疲れ様です。
日々理不尽に耐え、無念無想のスルー戦略など難題に取り組んでいる皆さま。
本当にお疲れ様です。
皆さんの孤軍奮闘、誰も見ていなくても作中の「コレット」ちゃんはちゃんと見てくれているハズですよ。
頑張って下さい!
応援しております。




