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208/208

第208話 語られる絶望。幼き日の「リャナン」。いや、逃げて正解だよ?



私、リャナンシーは行くあてもなく歩き続けた。


おかあさんはもういない。


独りで生きていくしかない。


でも、生きていくための「すべ」を知らない。


誰かに助けてもらわないと生きていけない。


そんな無力な自分が情けなかった。


お腹が空いて、人のいる場所を探して……


「ある村」にたどり着いた。


そこで、初めて私は気づいてしまった。


「私は見た目が良い」ということに。


私を見た人は、私に声をかけてくれる。


「お腹が空いた」と言えば、ご飯を恵んでくれる。


「ありがとう」と笑うと、「お礼なんていいんだよ」って。


「お金」を取られることがない。


ある時には「ウチの子にならないか」とまで言われた。


でも、私は「みんなが嫌い」だった。


きっと正体を知れば、「恩恵」を強要するだろうから。


私は、当たり障りなく人との距離を取った。


長居はできない。


こうして、私は他の人の善意に甘え、いろいろな場所を転々とする日々を送った。




――――そんなことを続けていた時だった。


やはり、人の善意なんてあてにしてはいけない。


「無償」なんて都合のいい話なんてないんだ。


「おい、言葉だけの礼なんかいらないんだよ!」


そう言って腕を掴まれた。


小太りで、清潔感のない中年男。


私に声をかけてきたときから感じていた嫌な視線。


私は抵抗するけれど、誰も助けてくれない。


「タダで恵んでもらえると思うなんておめでたいな」


男は私の腕を掴んで、どこかへひっぱって行こうとする。


「嫌っ!助けてっ」


悲鳴を上げるけれど、誰も助けてはくれない。


遠巻きに見ていて、視線さえ逸らす。


「飯の分、ちゃんと、元を取らせてもらうからな」



中年男がそう言った時だった。


「やめてくださいっ!」


男の人の声がする。


「あん?」


中年男は、声のする方を見た。


私も「彼」を見た。


彼は、手足を震わせながら、こちらを睨みつけていた。


どこかの貴族のお坊ちゃんだったのだろうか。


身なりは悪くない。


色白で、肉付きも良い方だ。


少しぽっちゃりしていて筋肉質ではないから。


顔も、下膨れの「茄子」みたいな感じ。


髪も少し濡れたようなようなぺったりした感じ。

マッシュルームみたいな形にカットしている。


「なんだぁ?どこぞの『貴族くずれ』か?」


中年男が言う。


このご時世では「貴族」であっても路頭に迷うことはある。


だから、私もこの中年男も同じ見立てであった。


「その子を離せっ」


男の人はなおも言う。


銀色の厚手の縁に覆われた「メガネ」。


メガネという高価なものをしているだけでも、元々の「財力」は窺われた。


「ウルセェなぁ、そんなに言うなら、お前が『買った』らどうだよ」


中年男が笑う。


「今なら、格安だぜ?なんせ、『金貨1枚』で売ろうってんだ」


私はこの男に殺意を覚えた。


私はこの男の所有物じゃない。


恵んでもらったのだって、いつ焼いたのかわからない「ボソボソのライ麦パン」と何の肉かわからない「臭い干し肉」だったのに!


中年男は笑う。


「普通は奴隷の相場は『金貨10枚』ってところだろ」


冗談じゃない!


いつから私はこの男の「奴隷」になったのよっ!


私は「違う」と言おうとした。


「イタっ!?」


中年男は私の髪を引っぱって、手に持つナイフを私に見せつけた。


「いつでも刺せるんだぞ」と言わんばかりに。


そうしたら、「男の人」はこう言った。


「わかった。買うよ」


まだ声は震えているけれど、そうハッキリと言った。


「へえ、商談成立だな」


中年男は上手くいったとばかりに笑う。


「僕は『タカシ』だ」


「おう」


男の人は名乗り、じっと中年男を見る。


中年男は目を逸らすこともせずに、「タカシ」を見返した。


「ところで、本当に『金貨1枚』でいいのか?」


タカシが中年男に聞いた。


「君は、なんか…凄い人だと思うけれど、良かったら僕の『騎士』にならないか。僕はこの世界の『覇王』となる者だから」


そう言った時だ。


「ブッ!ぶははははははっ!」


中年男が吹き出した。


当然だと思う。


何をそんな大ぼらを。


けれど、私は「タカシ」がほくそ笑んでいたのが見えた。


「ははっ……はぁ」


中年男が急にため息をついた。


目がうつろになっていた。


そして、「笑顔」になっている。


「そのお申し出、ありがたく、お受けいたします」


中年男は急に膝まづいて「礼」をとった。


「この子供の代金など不要です。私のものはアナタのものですゆえ」


私を含め、遠巻きに見ていた皆は混乱していた。





「えっと」


私は、どう声をかけて良いかわからなかった。


まずは「ありがとう」と言うべきなのかな。


「ああ、僕は『タカシ』。タカシって呼んでくれたらいいよ」


そう男の人、「タカシ」は言った。


笑顔なのに、どこか目は虚ろ。


「死んだ魚」のように淀んでいる。


「『タカシ』助けてくれてありがとう」


私はそう言った。


「どういたしまして」


タカシは答えた。


そして、口の端を上げる笑み。


厚ぼったい唇が、わずかながら釣上がった。


何とも言えない「違和感」を感じる。


それは、「こう言われたら、こう返そう」というテンプレートをなぞっただけのやりとりと感じたから。


ちなみに、中年男は街を出るころでタカシに命じられて食糧調達に向かった。


「君、今日から僕の『パシリ』だから」ってタカシは言った。


さっきは「騎士」云々って言っていたのに……


「えっと、君の名前は?」


タカシが笑顔をつくって尋ねてきた。


淀んだ光を湛えた目が、眼鏡越しに見ている。


正直な話。なぜか背筋に寒いものを感じた。


「リャナン……です」


私は恐ろしさに堪えながら答えた。


「『リャナン』か。良い名前だね。可愛いな」


タカシがそう言った。


いや、ぜんぜんっ可愛くもなければ、良い名前でもない。


なのに、なんで「タカシ」はそんな感想なの?


なんだか、彼は何か……演劇の「台本」のようなセリフをなぞっているように見える。


受け答えが、決まり文句。


そして、そのセリフは必ずと言っていいほど「二枚目の主役」のものだ。


見た目は程遠いのに。


「リャナンは、どこか行くあてはあるのかい?」


キザったらしい。それでいて「身を案じている」というような問い。


「あ……」


少し迷った。

けれど、それも数秒も経たない。


「はい。この先の街に『親戚』がいるので」


私は「身の安全」を考慮してそう答えた。


途端に、タカシは慌てた。


私の回答が予想外だったのだろう。


まあ、「お決まり」では、私は奴隷商人に売られそうな「孤児」って感じだからね。


「あ、ああっ、えっと……こういう時は、『ゲーム』だったら」


「げーむ」って何?


タカシは何気ない様子を装って言った。


「そうか。なら、その街まで送るよ。君ひとりだと心配だからね」


なぜか自信ありげに鼻にかかった声で言った。


ごめんなさい。


アナタがいても、戦力にはならないと思います。


それに、下膨れの芋虫唇で、なぜか油を塗ったようなペッタリ髪の方に言われても……


何とも言えない「怖気」を感じながら私は、断ることもできずにいた。





その後は「生き地獄」だった。


タカシは、珍妙なことをする。


ある時のことだ。


タカシは機嫌良さげに鼻歌を歌っていた。


それは、別に何の問題もない。


それなのに、急に耳に手をあてて、何かを話し出す。


「―――たん?僕は、君をずっと『応援』しているからね」


「うふふ、ありがとぅ」


誰と交信しているのっ!?


それから頭をブンブンと上下させて、小躍りする。


そうかと思えば、急に直立して、胸に手をあてた。


キリッ!


なに?何が起きたの?


なんで不釣り合いに、表情を引き締めて遠くを見ているの??


そう思っていたら、恍惚の笑みを浮かべて、手を天にかざしたのだ。


彼は、何か特別な存在と交信する「ドルイド(妖術師)」なのだろうか。


怖くて、私は何も聞けなかった。



またある時のことだった。


私はふと隣を歩く「彼」の顔を見た。


わ、笑っているぅぅぅぅっ!?


声も出さず、ただ「ニヤニヤ」と笑っている。


え?えええ?何も面白いものないよっ!


だって、荒野のど真ん中だしっ!


根なし草すら転がってないよ?

「ハシ転がっても面白い」って歳でもないよね?


周囲を見渡しながら思った。


「あ、あの、タカシ?大丈夫?」


私は思わず声をかけた。


たぶん、熱中症とか、脱水症状で意識がもうろうと――――


「え?何?今、脳内で『にゃんKOミリタリー』の歌を再生してたんだけれど?」


え、なに、その「にゃんこ」ナントカッテ……


「うふふ、チョビちゃんのアレ、サイコウだったなぁ」


そんなことを呟いている。


「あああっ!」


急にタカシが叫ぶ。


「なに?何がっ!?」


私は周囲を警戒した。モンスター?


「ああああああああ!」


さらにタカシは頭を抱え、暴れはじめる。


「なんで、なんで『三毛』たんっ!中古になっちゃったんだよぅ!僕をうらぎったんだよぅううううう!」


地団太を踏むタカシ。


かと思ったら、伏して地面を叩き始める。


「くそう!くそう!みんな『嘘つき』だ。どうせ、見た目重視!イケメンと付き合うためにアイドルやっていたんだ!地下から育ててきた僕らなんて搾取するだけだと、嗤ってるんだぁぁぁぁ」


私は、どうにもこの「理解不能」な同行者に違和感と恐怖しか感じられなかった。



早く、一刻でも早く「街」に着かないかなぁ……





今、街道からすぐわきに逸れた林にいる。


野営の準備。


といっても獣除けの「薬草」を投じた焚き火を前にしているだけ。


テントも毛布もないから。


ここまで歩き通しだから、夜くらいは休まないと。

食べ物もそろそろ心許ない。


タカシは旅に必要最小限の物しか持っていなかった。


「街」まではまだ遠く、それでいてあと一日ほどの距離。


でも、ようやく、「街」まで近づいた。


これで、「彼」との旅も終わりかと思った。


「フン、フンフン、フフフフン~」


軽快な鼻歌と、ニヤケ面。


そして、微妙にキレの良いダンス。


音が鳴るようなものなどない。


にも関わらず、耳に手をあてて「タカシ」は踊っている。


私が、おかしいのかな?


私には聞こえない、何かが聞こえているのかな?


ふと、私は耳に手をあててみる。


……何も聞こえない。


すごい!「タカシ」は【妖精の囁き(フェアリー・テイル)】のスキル持ちなんだっ!?


って、なるかーーーーーーーー!


そう思るくらい、「タカシ」は当然のようにそのような振る舞いをする。


ひとしきり、クネクネと踊った「タカシ」は、たき火を前にする私の隣に座った。


当然のことのように。


いや……距離感っ!


近いよっ!仲良くもなってないからねっ!!


タカシは「ひとつしかない水筒」を取り出し、「水」を飲む。

まあ、彼のものだ。私にとやかく言う権利などない。


たき火に照らされて、飴色にタカシのメガネが光る。


その奥にはいつも通り、淀んだ光を湛えた「死んだ魚のような目」。


「リャナンも飲む?」


タカシが勧めてくる。


正直、嫌だけれど、喉が渇いているのは間違いない。


私は「水筒」を受け取り、口をつけた。


こくこくと喉を鳴らして水を飲む。


タカシはその様子をじっとりと見ていた。


ううっ、何なのぉ……


「リャナン……」


不意に私を呼ぶ。


こちらを見て……うっすらと笑っている?


でも、私には「ニヤついている」としか見えない。


下膨れの顔。


茄子のヘタのようにしか見えない、ペッタリとした髪。


彼の分厚い唇の端には、産毛のような髭が生えている。


そっと、「彼」は私に手を伸ばしてきた。


ぽんっ、ぽんっ――――――


私の頭を撫でるように、軽く触る。


ザワワワワワワワワ!!!!!


なぜか、言い得ぬ「拒絶感」と「寒気」を感じた。


「もう少しで、『街』に着くね」


そうタカシが言った。


そう、その「街」こそが、私をこの地獄から解放してくれる「サンクチュアリ(聖域)」。


「寂しくなるな」


タカシが言った。


少しばかり。ほんっとぉぉぉぉぉに、少しばかり、私は自己嫌悪に陥った。


よく考えて見れば、そうだよ。


「タカシ」は見た目こそ「アレ」でも、私をあの変態のオッサンから救ってくれた。


そして、「街」までこうして送り届けてくれている。


良い人なのだ。


きっと、きっとそうなのだ。


そうでなければ、嫌だ!


お願い、そうであって!!


「リャナン」


タカシは言った。


「僕は、ずっと君の味方だよ」


静かに彼は言った。


妙に低めの声で言っていたのは気にしないことにする。


というか、発言に脈絡がない。


なんで、今、このタイミング?


「ずっと、君を見守っているよ」


いえ、ご辞退申し上げます。慎んで。


「僕は、君の一番の『理解者』だからね?」


アナタに、私の何が分かるっていうのっ!?

というか、「理解」しないでっ!


お願いしますっっ!伏してっっ!!


そっと、「タカシ」は私の肩に手を回してきた。


「緊張感」が私を包む。


ドクン…ドクン…ドクン


心臓が高鳴る。


私は身を固くした。


もちろん―――――言い表せない「嫌悪感」から。


(逃げちゃダメ、逃げちゃダメ、逃げちゃダメ……)


タカシはきっと私の身を案じているんだ。


また、悪漢に襲われないか、辛い思いをした私を気遣ってくれて、慰めようとしているんだ!


そうなんだ。そのはずなんだ!


「タカシ」は「イイ人」!「イイ人」!「イイ人」なハズなんだからっっっ!


私は優しく引き寄せられ、胸に抱かれる。


え?何を――――



――――こつん



そして、額を合わせられた。


「僕は、君の一生の『ファン』でいると誓うよ――――」


死んだ魚のような目。


歪んだ笑顔。


引きつったような笑いと、その厚い唇……と、産毛。

「良い子にしていたら、僕がきっと君を迎えにいくからね」



下膨れの顔が――――――近い。



「ぎぃっやぁぁぁぁぁぁあ!」


私は、思わず彼を突き飛ばした。


堪えられなかった。


もう無理だ!限界だった。


悲鳴を上げて走り出していた。


言い表せない「恐怖」と「嫌悪感」に衝き動かされて。


私は、「街」まで夜を徹して走り続けた。





「ね、酷い話でしょ?わたしって、最低な子なのっ」


話し終えたリャナンは顔を手で覆って泣いている。

演技とは思えない、ガチ泣き。


「私を救ってくれた恩人にっ」


「『見た目がクソブサ』だからってっ」


何気に酷いことを言っている。


でも、僕はリャナンが本気で悩んで、そして「自責の念」で苦しんでいるのは分かる。


それに、「呪われのロッシェ」とバカにされた僕、ハル・ロッシェ。

だからこそ彼女の苦しみはなんとなくだけれど、理解できる。


彼女がその「血筋」故に他者から狙われ続けてきたことが辛い。


そして、その後の悲劇にはとても胸が痛んだ。


「ふぅ」


フィンたちがため息を吐く。


「リャナン」


フィンとスヴェンがリャナンの肩に手を置く。


僕も頷いた。


リャナンが顔を上げる。



『逃げて大っっ正解!!!』



僕たち三人で声を上げる。



「いや、話聞いて思った。『俺でもマジでムリ』って」

フィンが言う。


「ソイツは距離感バグってる!たった二、三日同行しただけで『ない』だろ?10年近く一緒にいて兄妹やってる俺でもできないって」

スヴェンも力説する。


「むしろっ!むしろリャナンは『善人』だよっ!僕はよく頑張ったって思うよっ」

僕も心からリャナンを励ます。


いや、本気でさ。

彼女はよく我慢したと思うなぁ。


普通ならソッコーで逃げるよねぇ……


「そう?」


リャナンが涙目で僕たちを見上げる。


「そうだよ」


僕たち三人は頷く。


「それでね、私は逃げちゃったんだけれど、すぐに『犯罪組織』に捕まって」


「ああ、それで俺たちと同じ牢屋に」


フィンたちが言う。


「うん。それでね、おとうさん(ハティ)に助けてもらって、少しした時だったんだ」


リャナンは身を震わせ、自分の肩を抱く。


「獣人族の人が訪ねてきたの」


え?どういうこと?


ここで何で「獣人族」がからむの?


「あの人たちは言っていた『タカシ・プロデューサーがお待ちです』って」


は?「プロデューサー」??


「どうやら、『タカシ』は『プロデューサー』とかいうジョブになっていて、獣人族を率いているみたいなの……」


ジャガイモ仲間のみなさんへ


世の中は三連休だそうですね。


みなさんはお休みでしょうか?

それともお仕事や学校でしょうか?


お天気も気まぐれなので、体調をくずさないようにしてくださいね。


今日も1日お疲れ様です。


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「★★★★★」をポチってくださると嬉しいです。


あ、ちなみに私は別に「某丼物好き」の方を悪くいう気持ちはこれっぽっちもありませんからね!

好みは人それぞれ。

他の方に迷惑かけなければ良いだけです。

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