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第202話 君を狙うのは暗殺者か狙撃手か?ハル(主人公)絶体絶命?



「ハティ、無様を見せた」


リムアンが頭を下げる。


「何のこと?」


ハティがとぼける。


「過去に怯えて、『同衾』を要求した」


「いや!言い方!」


ハティがツッコミを入れる。


「一晩ずっとリムを――――」


「だから!言い方ッ!考えて!」


なおも誤解を招く言い方をするリムアンにハティは頭を抱えた。


「こほん。『弱さ』は『恥』ではないよ」


ハティは気を取り直して言う。


「もしそうなら、僕は『恥さらし』でしかない」


彼は苦笑する。


それにリムアンもつられて笑った。


「リム。そろそろ、僕も君との約束を果たす頃だと思う」


その言葉にリムアンは身を固くした。


「それは……」


リムアンは吐息と共に声が漏れ出ていた。


「リムアン……いや、『ムリアン』。君の願いを叶える」


真剣な目でリムアンの目を見据え、ハティが告げた。


「ハティ……」


リムアンは目元を潤ませながら言った。


「ようやく、リムをお嫁さんにしてくれ―――――」


「違うからっ!」


ハティが慌てて否定した。


――――ジャキッ!


遠くでは枝が切り落とされる音が響く。



その音にハティは身を固くした。



「あ~あ~、ここまで、力を貸してくれてありがとう。無事、我が姉が『名誉』を取り戻した。そして、『アンジェ』を僕は取り戻せた」


それから、ハティは居ずまいを正し、リムアンに頭を下げる。


「ここからは、君の献身に僕が報いる時だ」


「君の、『故郷』を取り戻すため、僕は力の限りを尽くすよ」




僕はメタラムの路地裏で立ち尽くしていた。


雨の音も遠くに聞こえる。


「あははは、見られちゃったなぁ」


リャナンが笑う。


「もう、ハルったらそんな怖い顔しないでよ」


リャナンは僕の顔を覗き込むようにして言った。


「えへへっ」


足元に転がる「死体」。


リャナン?どうして笑えるの?


リャナンは、死体を示した。


「ハルも、見て」


そう言って男たちのフードを剥がす。


え?


男たちの耳。それは獣のもだった。


「獣人族?」


「そう。クロエと同じ」


僕はその言葉に身を震わせた。


「私と……リムは、『獣人族』に狙われているの」


顔は笑っている。でも、その奥には寒々としたものを感じる。


「ヘッ…クチッ」


リャナンが可愛らしいくしゃみをする。


「あ~もう、濡れちゃったじゃない」


そう言って道の隅に転がっている傘を拾いに行く。


〈ロッシェ、気をつけてね〉


【棒ジェ】さんが警戒を促してくる。


魔狼騎士団フェンリルナイト」メンバー。「リャナン・マクスウェル」。


リャナンたちフェンリルナイトは「ハティ・マクスウェル」の「養子」だ。


元々、犯罪組織に囚われていた子供たち。


それをハティさんが組織から保護(拉致)して、孤児院で育てた。


「養子」としたのだって、彼が「後ろ盾」であることを示すためのもの。


そんな複雑な背景をもつ彼ら、彼女たち。


特に「リャナン」はある事情から感情の振れ幅が大きい。


キレた時のヤバさは「本家・アンジェ」さんを救う作戦のときに目にしている。


「ねえ、ハル」


リャナンが傘を拾い上げて、差す。


傘の縁の向こう、濡れたようなダークブラウンの瞳が僕を見据えている。


「なに?」


その怪しい光に僕は一瞬だけれどたじろいだ。


リャナンはすぐに顔をほころばせて言った。


「素敵な『傘』だね。るーちゃんが作ってくれたの?」


「う、うん」


「ずるいなぁ。そういうところでリードしようっての」


にこにこしながらリャナンが近づいてくる。



ザァ―――――――


雨脚は強まる一方だ。


静かに吹く風が、いつの間にか鼻をつく血の臭いを押し流していた。


〈ちょっと、近い近い!ロッシェ、少し距離を取ってっ!〉

悲鳴に近い【棒ジェ】さんの声。


【棒ジェ】さんが光を放つ。


僕に身を寄せる、リャナンの瞳が「赤い血のような色」に―――――


〈させないからね!〉


「あっちゃぁ~、やっぱりハルは『特別』なんだね」


リャナンは言って顔を離した。


「ハルにだったら、『あげて』もいいかなって思っていたのに」


そして「てへぇ」と舌を出して笑う。


「そんな、怖い顔しないでよぉ」


そう言って後ろを振り返る。


「ね?るーちゃんってばさぁ」


「ハルに、何をしようとしていた。姉貴」


連射式ボウガン「タカハシさん・8号機」を構えたルーダが立っている。

雨に濡れ、滴が垂れようとも、目だけは油断なく「標的」を捉えていた。


「なーんにも」


「嘘を吐くなっ!」


笑いながら言うリャナンへ、ルーダが声を荒げる。


「刃傷沙汰が起きたって聞いたから来てみればッ」


ルーダが肩を震わせている。


雨に濡れた赤毛。その下に覗く目は敵意に満ち、リャナンを見据えている。



「姉貴はまだ『ハルと腕組んでダンス』だってしてないだろッ!」



雨音をかき消すほどの音量でルーダが叫んだ。


―――――ザァ


辺りに静寂が満ちた。


響くのは雨音だけ。


え?ダンス?なんで?


「腕組む」って意味が分からない。


「路上で『ちゅ~』なんてアダルトなことをっ!破廉恥なっ」


僕はなんとコメントしたら良いのでしょうか。


「姉貴は『露出狂』なのっ!?」


「ぶッ」


リャナンが吹き出した。


「あはははははっ」


大きな声を上げて笑い出した。


「もう、るーちゃんてば可愛いっ」


目じりに溜まった涙を指先で拭ってリャナンはルーダに近づく。


「冗談よ、冗談」


リャナンは、ボウガンの本体を手で脇に退けて照準を壁に向ける。


そして、ルーダの肩を叩く。


「るーちゃんこそ、プレゼントで抜け駆けしようとしたの、ダメなんだからね」


「ぐっ」


ルーダが何とも言えない顔をして呻いた。


「あ~あ~、びしょ濡れ」


ワザとらしくリャナンがため息を吐く。


「風邪ひかないうちにお風呂入りに行こうかなぁ」


そう言って歩いて行ってしまう。



……


………ハッ!?


ちょっと待てっ!


この「死体」ほっぽって行きやがったッ!


どうするんだよコレ。


〈ロッシェ……ヤバいわね〉


僕とルーダは雨の中、立ち尽くしていた。





―――――チャッ


金属音がする。


しかし、それは【消音サイレント】の魔術で周囲には響かない。


メタラムの裏路地に面した建物の屋根。


煙突のすぐ脇に伏せ撃ち(プロ―ン)の姿勢でボウガンを構える人物がいた。


(チッ、余計なことを)


内心毒づく。


フードつきの外套を身に着けた小柄な少女。


(おかげで、警戒が強まったじゃない)


【潜伏】の魔術で気配を消しつつ、周囲に姿すら同化させていた。


眼下には「ハル」と「ルーダ」がいる。


(やはり、「ハル」は「特別」。先の戦いでもそれは証明された)


耳をピコピコと動かして周囲を探る。


(リャナンも……)


黒い獣の耳。


(フム、もう大丈夫かな)


トリガーから指を外す。


安全装置セーフティでロックをかける。


ゆっくりと身を起こして煙突の陰に背を預ける。


レール上の「矢」を後ろへとスライドさせ、矢筒クイバーへと矢を戻す。


その滑らかな動きは彼女が「得物」の扱いに長けていることを示していた。


彼女はコッキングロープを弦に掛け、ゆっくりと弦を解放していく。


(フゥ)


慣れてはいても、神経は使う。


静かに息を吐く。


(さて、と)


ゆっくりと身を起こす。


(ちょっとからかいにでも、行ってやりますかね)


そう思いつき、舌でペロリと唇を舐める。


(しっかし、雨の日に「猫」を働かせるなっての)


外套のフードを被り直して立ち上がる。


「あ、『猫』を働かせるな――――だニ」


呟いた少女―――――クロエ・カッツェは音もなく屋根から降りた。


ジャガイモ仲間の皆さんへ


週の始め、とても気だるい日ですね。

布団から出るだけでも、アナタは十分に戦っています!


不条理なこともありますが、いっしょにもうひとふんばりしましょう!

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