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第201話 【第二部スタート】雨はみんなの傷を濡らす?カビても捨てないで僕のポテト



雷鳴が轟く。

窓を強くたたく雨音。


「ううっ」


リムアン・マクスウェルは夢にうなされていた。


恐ろしい、実に恐ろしい夢。


怒号と剣戟。


そして、血の臭い。


それは、幼い頃の記憶。


彼女は夢の中で、必死に走った。


雨に打たれ、泥にまみれながら。


稲光と共に、ひときわ大きな轟音。


近くに落雷したのだろうか。


リムアンが目を見開く。


辺りを見回し、安堵の息をつくどころか自身の体を抱きしめる。


震える体。


流れる汗。


いっこうに落ち着く気配がない。





「ハティ……」


躊躇いがちな声と共に、襖があけられる。


「リム?」


ハティは布団から半身を起こした。


「どうしたの?」


暗い中でもわかるほど、リムアンの血の気は引いていた。


「いっしょに、寝てもいい?」


その言葉にハティは一瞬だが眉をひそめた。

だが、リムアンのただならぬ様子にすぐに表情を戻した。


「いいよ。怖い夢でもみたの?」


ハティの言葉に、リムアンが頷く。


そして、彼女はゆっくりと彼の布団に歩み寄る。

ほんのわずか躊躇った後、布団にもぐり込んで来た。


ぎゅっ


リムアンがハティの体に身を寄せる。

小さく丸まり、それでも顔を押しつけるようにしていた。


小刻みに震える体。


ハティはあやすようにぽんぽんと軽く彼女の肩を叩く。


「おやすみ。僕はここにいるよ」


優しく、子供をあやす声。


彼女が寝つくまで、ハティはそうしていた。




リムアンが寝息をたてはじめた頃だった。


ジャキ……ジャキ……


金属どうしがこすり合う音が響く。


嵐の音の合間。


床を踏む音と金属音が響く。


ス―――――――


ハティの部屋の襖が、またも開く。


ガァアアアアアン


落雷の音。


そして、稲光に照らされる「金髪の少女」の姿。


髪の房を口に咥え、冷ややかな紅玉の目でハティを見下ろしている。


アンジェ・フラン・スカーレットであった。


彼女の手には、「枝切りハサミ」。


ジャキッ、ジャキッ―――――


具合を確かめるかのように開閉している。


「オマエのその『枝』、切り落としてやろうか」


抑揚のない声。


「その後、世の男ども全員の『枝』も落して回る。連帯責任だ」


彼女が部屋に踏み入れた。

ハティが「静かに」とジェスチャーを送る。


寝汗をかいて、時々苦しそうに声を漏らすリムアンを示した。


「ようやく落ち着いたんだ」


小声でハティが言うと、アンジェはため息を吐く。


――――ドスッ!


ハティの顔の横。

枕に「枝切りハサミ」が突き立った。


「これで、勘弁してあげる」


そう言って「枝切りハサミ」を引く抜く。


「こういう時こそ『ママン』の器ってのを見せてあげるんだから」


ハサミを放り捨て、アンジェは「リムアンの反対側」へともぐり込んだ。


「『川の字』で……我慢してあげる」


そうアンジェが呟いてハティにしがみついた。


アンジェは鼻を鳴らして悦に入ってはいたが、ハティは違った。


(うう、寝苦しいぃよぉ)


ハティは寝心地の悪さを心の中でぼやいた。


(夏なんだからさぁ……暑いんだよぉ)





場所は変わり、ドワーフ自治区「アダマス地区」の「メタラム集落」。


僕、ハル・ロッシェは引っ越しの準備を進めていた。


ガレットさんの領地「エーレンブルグ」へ引っ越すためだ。


ルーダが「ハルだけでもここに残れよ」と言っていた。

まあ、友達と離れるのは寂しい。

けれど、「土」のないこの街は……


ちょっと、僕には狭すぎるな―――フッ


雨が降っている「メタラム」。

石畳が濡れて少し抒情的。


人通りは少ない。


「窓の外。雨の雫がぁ土を濡らしぃ」


〈シトピッチャン〉


「吹く風が、乱暴に窓のガラスを叩くぅ」


〈ガラスのハートっ〉


「ああ、アンニュイィィ~」


〈あんにゅういぃぃぃ〉


「僕はまたぁ、畑に出られなぃ日々」


〈ワワワワ~〉


「湿った心。湿った空気。ああ、こんな日はぁ」


〈こんな日はぁ〉


「心の中までカビそうだね」


〈除湿しちまえっ!〉


「ああ、ぽてぇとぉ」


〈ぽてぇとぉ〉


「カビてもぉ」


〈カビてもぉ〉


『僕のポテト、棄てないでぇ』



――――ふふ、渾身のバラードだぜ。


【土寄せ棒】の「アンジェ」さんこと【棒ジェ】さんの合の手も最高さ。


彼女は「アンジェ・フラン・スカーレット」さんの分身。


というか、もはや独立した別人格。


本体のアンジェさんが僕のご先祖様と出会い。執着した。

その結果、ご先祖様にプレゼントした【土寄せ棒】に彼女の「執念」という名の「生霊」が憑りついた。


そして、代々「ロッシェ家」の男性を見守ってくれている。

「守護者」的存在?


でも、僕にとっては幼馴染の「お姉さん」かな?


〈うふふ、ロッシェ『相合傘』ね〉


ちょっとご機嫌の【棒ジェ】さん。


今は金先を「傘地」に取り換えているので「【棒ジェ】傘バージョン」。


うん。彼女は有能な僕の相棒だ。


〈あの雀斑「オレっ娘」もやるじゃないのさ〉


【棒ジェ】さんがつけているのは「ルーダ」が作ってくれたもの。


金属のアタッチメントで取り付け取り外しが簡単。

畳めばポケットに収まるくらいにコンパクト。


「メンテナンスしに、ちゃんと来るんだぞ」ってルーダが言っていた。


アフターフォローまでしてくれるなんて。


なんて、「職人魂」。僕も負けていられないね。



そんなことを思いながら歩いていると、見知った後ろ姿を見かけた。


あれ?リャナン?


露店を覗いては、楽しそうにしている。


雨で客足も遠のいているので、露天商も愛想がいい。


あの戦のあと、フェンリルナイトのメンバーは別々に行動していた。


リャナンとフィンレー、スヴェンが「エーレンブルグ」に。


リムアンとアルセイス、オーレがエルフ自治区「シルバニア」に。


「首都ミッドガルズ」にはコレットとエリーゼさんにくっついてコリガンくんが。


ルーダはもともとここ、「メタラム」で鍛冶師見習いをしているから戻ってきた感じ。


今は、引っ越し準備で「エーレンブルグ組」も「メタラム」に来ている。


この雨もあって引っ越し準備はお休みだから、リャナンが街にいてもおかしくはないんだけれど。



〈ロッシェ……〉


【棒アンジェ】さんが僕に注意を促す。


(うん)


僕も気づいた。


リャナンの後ろをつけている男たち。


いかにも悪そうな感じ。


リャナンは前にかかってきた黒髪を手の甲で押しのけた。


一瞬ではあるが、男たちを見ていた。


それから、機嫌良さそうに鼻歌を歌い、裏路地へと歩いて行く。


(これは―――――)


嫌な予感がした。

でも、僕は荒事に向いていない。


なら、こういった手合いは、「人に見られる」のを嫌う。


それも、複数人。


ふふふ、いつまでもビビりのハルさんじゃないぜ。


僕の「素敵なバラード」で、人々の注目を集めるのさ。


そして、悪漢どもも思わずホームシックにかかって諦める。


「田舎の母ちゃんが泣いているぞ!」という僕の言葉で感動してね。


なんとも、平和的解決じゃないかっ!


僕は、意気揚々と後を追った。





リャナンが人気のない裏路地を歩く。


そこまで広くない路地。


建物が影を落として薄暗い。


後ろから足音がする。


雨の日の襲撃。

水音を立てないのは困難だ。


気配からして知らない人物。

さきほど目視で確認はしていた。


リャナンは少し歩調を早めた。


前の辻から、二人の男が歩いてくる。


(後ろは……ひとり。前にふたり)


数を把握する。


前のふたりが姿を現したと共に、後ろの一人が足を早める。


前のふたりは「ショートソード」を抜きかけていた。


(やはり)


リャナンは傘の柄から手を離し、刀の柄に手をかけた。


「おい――――」


知らない男の声。


リャナンは、右斜め前に刀を静かに抜く。


男が彼女の肩に手をかけようとした。


ス―――――


鯉口から離れた刀の切っ先が、スライドするようにリャナンの左肩下から滑り出る。


後ろから歩いてきた男には、リャナンの体と傘がブラインドになって刀は見えなかった。


歩み寄る勢いそのままに近づく。


――――トス


滑り出た切っ先が男の胸に吸い込まれる。


「っ!?」


彼が気づいたときには遅かった。


リャナンは前へ向き直る勢いを使い、刀を引く抜く。

同時に突いた男の心臓を抉っていた。


前から向かうふたりは、何が起きたかもわからず、呆然としていた。


リャナンは傘を弾き上げ、踏み込む。


滑り込むように距離を詰め、右前の男を斬り下げる。


そして即座に左前の男を一刀のもとに斬り倒した。


――――わずかばかりの残心。


そして、血振るいをしてからの納刀。


「私、知らない人に触られるの嫌なの」


感情の一切消えた声で呟く。


雨が彼女を濡らし、頬を伝って落ちた。


表情は見えない。


辺りは湿った空気に交じって生臭く鉄錆た臭いが漂いはじめた。


その時だ。


『湿った心。湿った空気。ああ、こんな日はぁ』


『心の中までカビそうだね』


珍妙な歌が聞こえてくる。

しかも、音程やらテンポやらが微妙におかしい。


『ああ、ぽてぇとぉ』


『カビてもぉ』


『僕のポテト、棄てないぃぃんんでぇ~ん』



――――ガタッ


物音がする。


振り返ると、「ハル」がいた。


「あ、あれ?どういうこと?」


間の抜けた彼の声が聞こえる。


ジャガイモ仲間の皆さんへ


お待たせいたしました。

第二部スタートです。


これからも、ご愛読下さいますよう、よろしくお願いいたします。

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