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第200話 【第一部完】孤独の終わり。春風に吹かれ、少年と少女は明日へと歩み出す。そして放置された「虹の聖杯」。




君たちは、本当の「孤独」というものを知っているだろうか。


物理的に誰かが傍にいないことではない。


「気持ち」を共有できないことを言うんだ。


つまり、「心」が「孤独」と感じることこそが本当の「孤独」だ。



……ねえ、なんで「僕」と「コレット」ほっぽって楽しそうなのさ。


共和政府の人たちも何もなかったかのように騒いでいる。



あの大人たち、ダメだよ。



子供の「孤独」に気づいてない。


僕たちだってキャッキャッ騒ぎたいんだからさ。


ちなみにさ、目の前で「楽しそうにしている」のを見せつけられるのってさ。


とんでもなく、腹が立つってさ、わかってやってるのかな?


人間関係から切り離すやり方って「エゲツナイ」よ。



怨嗟の念を奴らに送ってやる。



(ほぅれ、ほれほれ、ジャガイモの怨念がおんねん。お前たちのジャガイモ、ぜぇんぶ芽が出てしまえええええええ)


〈ロッシェ!アタシがいるわっ〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが勇気づけてくれる。


それはとてもうれしい。

幾度となく彼女は僕を支えてくれた【支え棒】。


でも、でも……


僕は人ともつながりたいんだ。


そう思いながら隣のコレットに目をやる。


寂しそう……


僕はかわいそうな「妹」の手を握った。


「ひぃうん!?」


コレットが変な悲鳴を上げた。


「大丈夫。あんな奴らいなくたって、僕がいるからさ」


そう励ます。


コレットの顔がかみるみる赤くなっていく。


あ?もしかして怒った?


妹のエナもときどき「ちがう」って怒るから。


コレットが手を握り返してくる。


「ははははははは、ハル!」


なんだか緊張した顔。


「『僕がいる』って、い、いっしょにいてくれるの?」


コレットがそう言ってくる。


良かった。怒ったわけじゃないんだね。


「もちろんだよ。これからが大変でしょ?」


そう、いろいろ大変だ。


ほっぽっていた畑とか、いろいろ。


コレットだって、エリーゼさんたちの手伝いとかさ。


「コレットを一人にしないよ。僕もいっしょに頑張るからさ」


僕の言葉にコレットが目を見開く。


それから何度も「うんうん」って頷く。


元気が出たみたい。


よかった―――――



「ジーーー」


僕とコレットを間近で見ている女の子。


いえ、見た目は少女。


中身は成人女性。


その名はリムアン・マクスウェルさん。


僕とコレットは慌てて手を離した。


「人は、忘れ去られたとき、本当の『死』を迎える」


なんだか、重いことをいうなぁ……


「すぐ近くに居ながら、ガン無視されてイチャつかれるリムの身にもなれ」


「す、すみません」


僕はリムアンに謝る。


「私の尊厳は辛うじて保たれたか」


なんだかいつもの「中二病感」出ているね。


それから「フッ」と哀愁を込めた笑いを浮かべる。


「わかればよいのだ」


そう言ってハティさんたちを見る。


「気高き王よ……」


リムアンがボソリと呟いた。


「私と共に――――」


え?王様?誰が?



(……嫌だ)


(消えたくない)


黒い煤のようなもの。

わずかに草の陰に残ったもの。


「転生の悪魔」だ。


最期、マクスウェル姉弟の「合技【エクリプス】」を受けた。

だが、完全に消滅する前に「因子」を残した。


(せっかく「異世界転生」したのに)


(誰かに転生するたびに「持ち主の能力を奪える」チートになったのに)


彼は最初の転生時を思い出した。


この世界に転生する前。


彼は「役立たず」の会社員だった。


学生の頃からスポーツ、学力共に「普通」。


見た目にいたっては平均以下。


なんとか就いた仕事でも「誰でも替えがきく」とバカにされた。


要領も悪ければ、人付き合いも上手くできない。


趣味は「カードゲーム」。


それだって誰かと共に楽しく過ごすなど稀だ。


ある日、仕事の「飲み会」で無理やり飲まされた。


フラフラになって帰宅する途中、コンビニに寄った。


トイレを済ませ、飲み物を買い、コンビニを出た。


数メートルも歩かないうちに複数人の若者に囲まれた。


暗がりで暴行を受け、財布を奪われた。


足蹴にされ、嗤われる。


(奪われる……なんで?どうしてだよ。俺が何をしたってんだ?)


遠のく意識の中、彼らへの「恨み」だけが頭にこびりついていた。


(誰かになりたい。誰かになりたかった。有能で、尊敬される「誰か」に)


目覚めると「この世界」にいた。


体は10代まで若返っていた。


どこからともなく声がする。


〈あなたは生まれ変わりました〉


〈望むことで、あなたは「誰か」になれる。その人のものを自分のものにできる〉


そんなことを言っていた。


それから、何度も、何度も「誰か」になった。


成り代わることでその「誰か」の持っている「力」を得られた。


それは蓄積され、自分を満たしていった。


そうか、自分はこのように「奪う」ことで「万能」になるのか。


それから、幾度となく「誰か」となり、「奪い」続けた。


満たされる。自分が成長し、力を得て、称賛される。


しかし、ある時、他の「転生者」たちが彼を襲った。


(ちくしょう、ちくしょう!俺のことなんかなんにもわかりゃしないくせにっ、俺の辛さなんかっ、どんな目に遭ったかなんて)


でも、まだ「消えていない」。


(そうだ。何度でも、今度だって)


ディアブロ(転生の悪魔)は、目の前にいる「ハル」と「リムアン」を見比べる。


「ハル」は以前の自分と同じような普通の見た目。


「リムアン」は女の子で、可愛らしい見た目。


性別は違うが「リムアン」に狙いを定めた。


そっと忍び寄る。



「っ!?」


真っ先に気づいたのはコレットだった。


振り返ると、黒い煤のようなものがこちらに向かってくる。


風にのって漂うように。


(……ヨコセ)


「心のビジョン」が視える。


(オマエノ……スキル……カラダ)


その煤は意思を持って向かってきている。


(オレニ、ヨコセ!)


そう強く発したかと思うと、体積を増した。


「リムアン」へと向かう。


「ハル!」


コレットが叫ぶ。


コレットの声にハルも振り返った。


「悪魔よっ!まだ消えていないっ、逃げて」





なんですとぉぉぉっ!?


あの姉弟、何やってるのさぁ!


倒しきってないってあり得ないってぇぇ!


「黒い煤」はリムに向かって行く。


「ふざけるなよっ!」


僕は走った。


〈ロッシェ!〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが叫ぶ。


僕はリムに飛びついて転がった。


向かってきた「黒い煤」をすんでのところで避けることができた。


僕たちは勢いのまま転がる。


そして、僕は勢いのまま立ち上がる。


〈やるわよ!ロッシェ!〉

【棒ジェ】さんの声。


僕は【棒ジェ】さんを構えた。


「僕の――――」


【棒ジェ】さんを振りかぶる。


「大切な人に、触るなぁぁぁぁぁぁ」


そう叫び、【棒ジェ】さんを振り下ろす。


「黒い煤」は僕たちに向かってくる。


『【星霜の洗滌エトス・カタルシス】!!』


僕らの声が重なる。


【棒ジェ】さんの先端が「煤」に触れる。


――――――――スン


「煤」は触れた端から波及するように消えていく。


(ウソ……だろ?なんで、だよ)


(消え……死にたく……ない……)


どこからともなく聞こえたその「声」。


それも、風に吹きさらわれるかのように消えていった。



リムアンは座り込んだまま、「ハル」を見ている。


「はぅっ!?」


我に返る。


「ハル」


「あ、大丈夫だった?」


リムアンの声にハルが問いかける。


「大丈夫」


困ったようにリムアンが応えた。


「急に、告白されても困る」


「え?」


「リムにはもう、心に決めた人がいる」


頬を朱色に染めて横を向く。


「え?何のこと?」


ハルがキョトンとする。


「だって、『大事な人』って」


「そうだよ『大事な仲間』じゃないか」


ハルは何を言っているのかと言わんばかりの顔をする。


リムアンは目を見開く。


そして、彼女の顔はみるみるうちに赤くなった。


「~~~~~っ」


肩を震わせて立ち上がる。


「おまえっ!紛らわしいっ」


そう言ってぽかぽか叩いてくる。


「いたたたた」


ハルは逃げ出した。


「待て~」


リムアンが追ってくる。





あ~あ~


ハルったら行っちゃった。



私、コレットはそっと自分の手に触れる。


ハルに握られた手。


まだ温かい。


『僕がいるよ』


『コレットを一人にしないよ』


嬉しい。


私は「気味の悪い子」だったから。


「みんなに嫌われている子」だったから。


いっつも、ひとりぼっち。


誰も見てくれなかった。


でも、今は違う。


昔のことはまだトゲみたいに刺さって残ってる。


時々、痛い。


でも、それでも「ハル」がいてくれる。


私がいなくなっても一番に迎えに来てくれる。


嬉しい。


私は頑張れる。


彼がいてくれたなら……


風が吹いた。


私はその風に目を瞑る。



―――――あ


再度目を開いた私の視界に入ったもの。


「バケツ」と、十二の宝石がついた「剣」。



(あれは、確か「転生の悪魔」の?)


ちがう。


あれは「ウォルター」さんの……



私は歩み寄る。


剣を手にした。



『ありがとう』


そんな「心のイメージ」。


『あの寂しん坊と一緒に歩んでくれて』


ウォルターさん……こんな顔で笑う人だったんだ。


『これからも、頼む』


そうか、この「剣」はひとつの「完結した世界」なんだ。


ウォルターさんは消える前にここに「心」を映した。


でも、これからも頼むって……


『都合が良いとはは思うが、頼みがある』


『私に代わって、エリーゼに伝えてほしい』


え?ちょっと待って……


『私は、本当に君を愛していた、と』


『そして、寂しい思いをさせてすまなかった、と』


そう言ったウォルターさんは消えていった。



私は、この剣を手に歩き出した。


お姉ちゃんに渡さないと。



草を踏む音が、サクサクと響く。


春はもうすぐ終わる。


濃い草の匂い。


少し湿ったような風。


ひと雨来るのかなぁ。



私は、その場を後にした。



―――――「虹」の欠片を集めた「バケツ(聖杯)」を放置して。




――――― 第一部・完 ―――――




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