第197話 戦場でイモ食う姉弟。悪魔が絶叫する「ポテト・フルコンボ」
「お姉ちゃん!完全ふっかぁぁつ!」
エリーゼが飛び込んでくる。
「そして!『元気百万倍』のエリーゼさん」
イモの欠片を口の端につけたままだ。
(バカな!私の転生時の特典【黄道十二宮の円環】に固定されたはずだ)
「ふふぅん」
エリーゼが自慢げに笑う。
「どうしたんですか?悪魔さん」
「私が『詰んでいる』とでも思っていたんですか?」
ニヤニヤとディアブロを見るエリーゼ。
「貴様っ!なぜっ」
問うディアブロ。
「お~し~え~て、あ~げませ~ん」
舌を出すエリーゼ。
(このクソ女……弟といい、「マクスウェルの悪魔」どもはっ)
苛立ちを見せる
(いつもいつも邪魔をする。そして人を食ったような態度)
(そもそも、お前たちの祖先が私を「封印」したのが始まりなのだ)
ディアブロは、遠い昔の宿敵を思い出す。
茶色い髪の「流転」の悪魔。
白銀の髪の「秩序」の悪魔。
共に転生者でありながら主張の違いから反目をしていた。
(この禍根、断じて己に咎はない。己らこそにその遺恨の根源はある!)
ディアブロが武器を握り直した時だ。
『銀の右腕解放―――狼将闘気【赤月】』
『死の十字星解放―――虎将闘気【赤日】』
ハティの右腕が銀の肩鎧のように変化する。
だが、それにとどまらなかった。
右肩からの変容が左上半身から下半身まで広がり、フルプレートメイルのように体を覆う。
顔もフルフェイスのアーメットに覆われる。
銀を基調としているが、要所に赤黒い文様と炎を纏う禍々しい鎧姿。
エリーゼの全身を闘気が覆い、ほのかに光っている。
それだけではなく、陽炎のように熱気が立ち上っている。
「ハティばかり恰好をつけてはいけませんよ」
エリーゼが割って入る。
ハティの牽制で攻勢が鈍っていたディアブロに対し、暴力を叩きつける。
「いきますよ!」
双剣を手に躍進する。
体を回転させて勢いのまま双剣を叩きつけ、着地と同時に駆け抜けざまに斬りつける。
「剣技【旋風】」
抜けざまに、ブロードソードを投擲する。
ただの投擲ではなく魔力を纏わせたミサイルのような勢いである。
ディアブロはかわして直撃はまぬかれたが、地に突き立つとともに剣が放電する。
「これが、父の【電光石火】」
雷撃で麻痺したところにエリーゼが接近し、地に突き立った剣と共に短剣を振るって連撃を加える。
2対の腕で凌ぐディアブロ。
エリーゼが跳躍する。
中空でハティを足場にして溜をつくるエリーゼ。
双剣を前に掲げて突進する。
「【貫通】」
高速で迫り、左側の腕と脇腹を貫いていく。
(防御を抜けた?)
驚愕するディアブロをよそに、エリーゼは口惜しそうにする。
「その汚い顔を穿つつもりでしたが、外しましたか」
ディアブロは思い起こせば初めての驚愕ではなかったか。
この二人は、なぜ、ここまでに。
「あら?不思議ですか」
エリーゼが問う。
「雌伏していた時、ただイチャチャしていただけではないんですよ」
ふふふっと笑う。
狩りの傍らハティは動体視力や予測、初動牽制といった技術を磨いた。
建築や設計などの傍らエリーゼは素材の見極め、切り出すための節目を見る目を養った。
すなわち、弟は攻的守勢。姉は一撃必殺。
いずれも攻めにありながら、攻守をともに担うに値する素養を磨いた。
「この、異常者が!」
世に追われ、明日をも知れぬ人間が、ここまで牙を研ぐのは尋常ではない。
「騎士とは万民のため、名誉のために」
その身命を賭するものという個人を捨てた、いや、脇に置いた考え方をする異常者だ。
「武士こそ、戦において咲く徒花。散ってこそ誉」
己の身命など勘定に入れず、ただ目的のため、誉のためだけに血反吐を吐きて敵を屠る異常者。
『たかだか我欲にまみれた獣風情に、屈する剣ではない』
◇
姉弟の連携は、見なくとも互いの動きが把握できているかのように淀みない。
防御と速度に優れたハティがディアブロの攻撃を防ぐと、攻撃に優れたエリーゼが間髪入れずに斬りかかる。
エリーゼは弟の体を支点にして位置を入れ替えながら舞踏のように体を回転させ、連撃を入れてくる。
姉に攻撃が向くと、ハティは【盾】の魔術と鎧化した腕で防ぐ。
四本の腕を持つディアブロの攻撃を連携して凌ぎ、傷をつけていく。
ディアブロは、その分担を逆手にエリーゼに攻撃を仕掛けるふりをしてハティの動きを誘発する。
しかし、エリーゼはそのままの場所で剣を交差させる。
「【盾】!」
盾魔術を展開する。
「イージス」も「アイギス」も語源は同じである。
魔術としても同系統で差異など無い。
ディアブロの動きを読んでいたかのように、エリーゼが攻撃を受ける。
その間に位置をスイッチしたハティが、魔力を付加した剣で斬りつける。
(このガキどもっ!)
ディアブロは焦燥を禁じ得ない。
当初はアンジェとハティのみを危険視していた。
だから、「エリーゼ」は政治的な面でのみ、注視して戦力としては除外してしたのだ。
しかし、相対してみると様相が違っていた。
あくまでもハティがサポート。
メインのアタッカーはエリーゼである。
では、ハティに劣るかというとそのようなことはない。
確かにハティの方が強力であるが、エリーゼの攻撃には致死性があり、侮ることできないでいる。
しかも攻め手が緩むことがない。
どこにこれだけの持久力があるというのか。
いや、この姉弟は互いの息が切れる前に休ませている。
連携し、攻撃や防御を切り替える合間にどちらかが休んでいる。
それを交互に繰り返しているため、攻撃の手を途切れさせることなく継続している。
(おのれ、「マクスウェルの悪魔」の血を引く者め)
ディアブロは忌々し気に姉弟を見る。
そして、あることに気づいてしまった。
(なんか、口の端についていないか?)
その違和感とモグモグ動く場に不釣り合いな口。
(こいつら、戦いながら「芋」食ってやがるぅ!?)
◇
……マクスウェル姉弟は、戦いのながらポテトを齧っていた。
(なんなんだ、あの「芋」は!?)
ディアブロとて力に任せたバカではない。
間断なく続く猛攻の中で、弱点を見出すこともしよう。
(だから、なんなんだあの「芋」は!)
片方が攻防で時間を稼いでいるうちに、もう片方が懐から蒸かし芋を出して齧っている。
もぐもぐと咀嚼しながら斬りかかってくる。
はじめはただの補給と思っていたが様相が違う。
延々と回復し続ける。
HPとMPがすぐにMAX状態で向かってくる異常さ。
(ならば!)
そう、攻撃手段さえ奪えばよいのだ。
そこに穴がある。
二人の攻撃に効果があるからこそ成立するこの攻防。
だが、一人意味をなさなけれれば、注視するのはあくまでも片方のみである。
(今は、芋のことなどどうでもいい!)
一抹の不安をかき消すようにディアブロが魔力を収束させて、周囲に放出する。
ふたりが距離をとった。
このまま接近戦をくりかえしていてもらちがあかない。
「愚策!」
エリーゼが嗤う。
「【断罪】」
言うなり、剣魔術を放つ。
光の方陣がディアブロの足元と頭上に現れ、光の剣が刺し貫く。
「【荒神の怒槌】」
ハティの雷撃が横から襲う。
それにとどまらない。
上空に逃れた悪魔の頭上で声がする。
「【霊槍投擲】」
いつの間にかハティがいる。
槍状の魔力を十本放ち、悪魔を貫く。
光の槍が砕けると共に、地面に打ち付けられた悪魔へ接近したエリーゼが剣を振るう。
「剣技【怒り(フューリー)】!」
双剣を連続で叩きつける。
灼熱の剣が悪魔の体を切り刻む。
◇
(このままでは……)
マクスウェル姉弟も焦燥を感じていた。
これだけ攻撃を繰り返していても致命傷を与えられない。
相手の体力や魔力を奪えても、致命傷を与えられないのではいずれこちらが力尽きる。
(それに)
武器がもたない。
業物であるが、彼女たちが込める魔力と剣撃の衝撃に耐え続けるのも限界がある。
唯一アーティファクトである彼女のグラディウスと弟の銀の右腕を除いて。
ディアブロもそれはわかっているのだろう。
自分の攻撃が防がれ、有効打が決まらなことを知ると作戦を切り替えたようだ。
だが、彼は別なことを考えていた。
(いや、あの「芋」どう考えてもおかしいだろ!?)




