第198話 【ポテト・フォール】――限界の姉弟と、狙わない「不可抗力の破壊者(ジャガーノート)」の一撃。
エリーゼのブロードソードが砕けた。
双剣での攻め手が一瞬緩む。
その一瞬を好機としてディアブロが拳をエリーゼに振り下ろす。
ハティが割り込み、これを受けた。
ハティの体がはるか後方まで跳ね飛ばされる。
エリーゼが、次に応じようと身構える。
―――――『狼将闘気【月輪】』
ハティの声が聞こえる。
先ほどまでの炎のように揺らめいた魔力が密度を増して収束する。
寒々とした銀の光を纏う。
地面が爆ぜる音がすると、ハティが高速で駆け、ディアブロに襲い掛かる。
エリーゼの脇を通過するときに、自身のロングソードを渡す。
「【氷結槍兵】」
ハティが氷の礫を放ち、ディアブロを牽制する。
礫が当たった場所が凍り付き、動きを鈍らせる。
その隙を逃さずにハティが懐に入る。
ガントレットで殴りつける。
ハティの打突は、純粋な暴力で、今まで武器に預けていた魔力を体にまとって叩きつけている。
拳法の打突を繰り返す。
(このガキ、素手でも―――――)
『虎将闘気【日輪】』
エリーゼも纏うオーラをさらに強固にする。
「アァッ!」
ハティが気合と共に両脇からくる攻撃を両腕で抑え、隙間にできた近接の間合いで蹴りを食らわせる。
標的はウォルターの胸。
つまりはディアブロの本体である。
「がっ!?」
頭部に蹴りを食らったディアブロがうめくが、間を与えない。
「剣技、【虎牙剣】」
残る一対の腕で攻撃しようとするディアブロをエリーゼが双剣を振るい、牽制する。
「拳技、【狼牙拳】」
続くようにハティが拳を続けざまに繰り出す。
上下から挟み込むような二連撃。
◇
最後の攻めとばかりにマクスウェル姉弟が攻め立てる。
だが、不意にハティがえずく。
「……グェ」
胃の中のものを吐き出した。
「あね、うえ…もう……」
そう告げる弟にエリーゼは容赦がない。
「食えっ、弟っ!ジャガイモをっ」
「いや、もう……むりっス」
「昔っから(胃袋)弱い子ですねぇ!」
芋をクッチャクッチャしながらエリーゼが叫ぶ。
その顔にも限界が見えていた。
それはそうだろう、十個近く蒸かし芋を齧りながら延々と動き続けている。
むしろハティが堪えていたほうだ。
「げふぅ」と美女らしからぬゲップをし、エリーゼがディアブロを睨みつける。
ディアブロもこの鬼気迫る「大食いトライアル」と「戦闘狂」に尻込みした。
「こうなれば、奥の手です」
エリーゼが虚空に向かって叫ぶ。
「はぁぁぁるぅぅぅっ!」
◇
エリーゼの声にハルが応じる。
「は、はいっ、ただいま」
駆けてくる。
ちょっと膨満感気味に息をついたエリーゼが言う。
「アイツをその、【棒】で……うっ…ぷ」
口元を押さえる。
「な、殴って、ください」
そう辛うじて言ったところにハルがバケツを投じる。
えも言われぬ音がして美女が「虹」を描く。
「あ、ダメだ、その音は……」
ハティもつられて芋を「フォール」してしまう。
(【シルヴァント・フォールズ(銀の腰鎧)】改め、【ポテト・フォール(芋の滝)】に改名してくれよ、僕のジャガイモたちの無念)
ハルはハティにだけは辛辣だ。
「ハティはまだ動けません。ハルっあなたが頼りです」
口の端に「虹」の欠片を張りつけながらエリーゼが微笑む。
「あなたを信じています」
ハルはエリーゼに焚きつけられて燃える。
口の端に残っていた「欠片」は目に入っていない。
「ハルさん、頑張っちゃうぞ!」
〈ロッシェぇぇ!アイツ、ぶっちめてやんょぉぉ!〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」も気合を入れて叫ぶ。
ガレット仕込みの棒術を披露すべく駆ける。
『ハルっ、あの悪魔さんの胸のところ!あそこが本体!』
コレットの声が聞こえる。
アンジェの魔術で声が伝わってくる。
(ありがとう!)
ハルは心の中でお礼を言う。
「食らえっ!ガレットさん仕込みの棒術」
そう叫びながら踏み込む。
「通天大聖―――――」
足がもつれる。
「れ、れれれ……」
よろめいたところ手から【棒】がすっぽ抜ける。
〈ロッシェ~~~~~〉
【棒ジェ】が声を上げる。
「―――ん?」
すこーーーーーん
放物線を描いて……ディアブロの頭部にぶつかった。
―――――スン
「にぎゃぁぁあぁあ!」
なんとも言えない悲鳴が上がった。
(あれ?)
ハルは呆然とする。
◇
「さすがっうっ、プ。ハル。あえて投擲とは……」
「うまく、虚をついた……ね、ゲッ※○■▽△▲……」
マクスウェル姉弟がすごい音を立てて「虹」を描き始める。
「こ、ここで、たたみかけますよ」
「ま、待って、姉上ぇ、まだ、で、生まれるぅ」
へこたれる魔人さん。
「ハルっ、もう一発かましますよ!」
エリーゼは胃袋も虎並なのか、すぐに復活してハルに命じる。
ハルは手元に戻ってきた【棒】を「よしよし」と撫でる。
一定時間離れると手元に「戻ってくる」。
その【土寄せ棒】には「アンジェの執念」が染みつき、人格を成している。
ある意味「怨念」でもあるが。
(ああっ!悪魔さんの本体がっ、お腹に引っ込んだ!?)
「わかったよ!」
今度こそ「棒術」を見せるべくハルが駆ける。
しかし、今度は石に躓く。
「わっと、とっとっ!」
堪えようと手をバタつかせたのがいけなかった。
またもや【棒】は手から離れて飛んでいく。
しかも、狙いを逸れて明後日の方向に飛んでいった。
「問題なし!いっこうにかまいません!」
中空に跳んだエリーゼが剣でそれをカーンと弾く。
それは、軌道が修正され、過たず、ディアブロを襲う。
〈くそぉぉぉ!ロッシェの仇【リバウンド王・アンジェ・ダンクスマッシュ】!〉
【棒ジェ】が叫ぶ。
「僕は死んでましぇぇぇん」遠くでハルは叫んでいた。
――――スン
ディアブロの腹部に命中した。
「にぎゃぁぁあああぁぁあああ!」
またもや悪魔の悲鳴が荒野に響き渡る。




