表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

193/222

第193話 チェスの終局(チェックメイト)。エリーゼの因縁を断つ「超絶技巧」と謎の呪印。



ウォルターの剣はいわば、エストックの類である。


突き技に向いた真っ直ぐな諸刃の剣。


類にもれず、ウォルターも突きを主とした戦いをする。



これに比して、エリーゼは曲線的な動きをする。


双剣を体の回転に合わせて振るう。

遠心力で勢いを増して振るうので、途中で止めることは難しい。

だが、その分反対の腕の剣でカバーをする。


剣が鎧を掠めて火花を散らす。


剣が合わさるたびに石火が飛ぶ。



打ち合いを中断し、互いに距離をとる。


荒い息遣い。


滴る汗。


互いに削り合っている。


集中の糸が切れた方が一気に勝負を持っていかれる。


互いに機をうかがいながら円を描くように移動する。



ウォルターが不意に切っ先を下げた。


だらりと体の力を抜く。


「っ!?」


明らかに一足で斬り込むには遠い間合いではあった。


「フゥッ!」


鋭い呼気。


一瞬の間でウォルターの剣先がエリーゼの喉元に迫る。


エリーゼの体が浮き、そのまま後ろに跳ね飛ばされる。


彼女は地面に背中から落ちる。



「――――これをかわせた者は、エリーゼ、お前で二人目だ」


エリーゼはすんでのところで後ろに跳びつつ剣で受けていた。


エリーゼは後転して立ち上がる。


「そうですか、二人目ですか。では、一度見切られた技ということですね」


「相変わらず口が減らないな」


「そうですか?」


「ちなみに、最初の一人目はガレス・レオナート・シュタイナーだ」


この言葉に、エリーゼは眉をひそめた。


「最後には力尽きたがな」



――――ガレス・レオナート・シュタイナー。


「赤獅子のガレス」。


エリーゼの父、「トリスタン・アドルフ・マクスウェル」と双璧をなした傑物。


王領騎士団の団長であり、「ハティの剣の師」。


大剣を使う豪傑でありながら、その剣は誰よりも精巧であった。


特に、相手の「挙動」を読む力は抜きんでていた。


その「洞察力の鬼」のような人物が敗北を喫した剣とは。



「そうでしたか。ガレス様は殉死されたとうかがっていましたが、あなたでしたか」


エリーゼの言葉にウォルターが薄く笑う。


「そうだ。あの『赤獅子』ですら、私の前では膝を屈した」


得意げなその言葉に、エリーゼはますます眉をしかめる。


(私の知っているウォルターは、このようなことを言う男ではなかった)


苛立ちが募る。


アンジェやエルザ、ハティからある「推測」を聞かされていた。


(やはり、もう、ウォルターは……)





幾度となく、ウォルターの突きがエリーゼを襲う。


ティアほどの速度はない。


だが、ティアのように助走を必要としない。


静止状態からのトップスピード。


そのため、連続で「高速の突き」を放ってくる。


「くっ」


エリーゼが歯噛みする。


エリーゼの間合いの外からの踏み込み。


そして、即座にエリーゼの攻撃圏外への離脱。


(いやらしいですねぇ……)


わずかに割かれた頬から血が滴る。


だが、すぐに【回復法術ヒール】を使って治す。


この「敵」には、わずかな綻びすら「隙」として利用される。


このヒット&アウェイの戦い方は、彼女を削り取っていた。


鎧という武装自体もそうであるが、彼女の回避行動の選択肢をだ。


(右肩)


これを防ぐために腕が上がる。


膂力に優れたエリーゼでも、これだけの鋭い突きを受けるためには双剣を動員する。


そいうなると、空いた左わき腹を狙われる。


(やはり、左わき腹)


過たず狙ってくる。


剣を振り下ろすようにして突きを叩き落とす。


後退すれば勢いに押されて転倒してしまう。


だから彼女は前に踏み込もうとする。


しかし、それもウォルターの手のひらの上だ。


踏み出した足が地に着く前に払われる。


エリーゼは無理に堪えることなく、転倒する勢いを利用して前に大きく跳んだ。


まるで「チェックメイト・パズル(詰将棋)」だ。


理詰めで誘導され、追い詰められる。


そして―――――


「チェックメイト」


前に跳び、前転の途中であるエリーゼへと「突き」を放つ。


不安定な体勢。


宙にある体。


避けようがない。



―――――くるん



エリーゼは宙にあって身をよじる。


回避した。


それも、突きを放ったウォルターの腕を支点にするように。


着地したエリーゼがゴロゴロ転がりながら距離をとる。


すぐに立ち上がり、追撃に備える。


「ええ~と?チェック……なんです?」


ワザとらしく聞き返す。


「本当に、おまえという女は」


ウォルターが苦笑する。


それに対し、エリーゼが舌打ちする。


「いい加減、その『フリ』やめてくれませんか?」


「何がだ?」


「とぼけるのも」


「ふふふ」


ウォルターは笑う。


「ホント、嫌らしい」


吐き捨てるようにエリーゼが呟く。


剣を構える。


腕を交差させるような「十字」の構え。


普段見せる苛烈さとは異なる「静かさ」。


ウォルターも剣を平らに寝かせて切っ先をエリーゼに向ける。


身を引いた姿は、踏み込みと同時に突きを放つためのもの。



静寂が訪れた。


風が吹く。


離れた場所での「戦闘」の音すら遠のいた。





「――――フゥッ!」


先に仕掛けたのはウォルターだった。


鋭い呼気を放ち、その姿が霞む。


ウォルターの突きに合わせるようにグラディウスが閃く。


エリーゼが、剣を握るウォルターの指を切る。


勢いそのままに懐に潜り込んだエリーゼ。


右手のブロードソードで袈裟懸けに斬る。


「ご……」


鎧ごと断ち割る剛力。


斬られたウォルターは血を吐く。



「……ごめんなさい、ウォルター」


そうエリーゼが呟く。


ウォルターの体が傾ぎ、そのままうつ伏せに倒れた。


エリーゼの肩鎧を貫き、エストックが刺さっている。


「チェス」のように相手を追い詰める剣であった。


だが、その一撃は速度、威力共に尋常ではなかった。


だからこそ全力で対応する。


動きを「誘導される」。



エリーゼは倒れ伏した彼に残心をする。



ウォルターは動かない。



……最後、なぜ「力押し」に頼ったのか。


知る由もない。


「くぅっ!」


エリーゼは痛みに顔を歪ませる。


血振るいをして剣を納めた。


ウォルターの「エストック」を引き抜く。



それを投げ捨てる。


あしらわれた「十二の宝石」が怪しく光った。


「神の慈悲よ、我が身に慈悲を【聖なる癒しセイクリッドヒール】」


エリーゼが「回復の法術」を使う。


(傷が……)


傷が治らない。


エリーゼはすぐに鎧を外し、傷口を圧迫して固定を試みた。


血が止まらない。


おかしい。


その「傷」という状態が「固定」されている。


あたかも、はじめからそのようにある『秩序』であるかのように。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ