第191話 人間脱穀機「ハル」。「呪い」より酷い災厄の「スン」トルネード。
「どうだ!」
ハルが気炎を吐く。
「あ、あれ?」
何も起きないことにハルがキョトンとする。
「おかしいな、村の時は白い糸状のものがにょろにょろ出てくるのに」
すぱーーーん
エリーゼがハルの後頭部を叩いた。
「まじめにやりなさい」
「まじめに、やってるんですぅぅ」
「なおタチが悪いです!」
エリーゼがハルを叱る。
「その【棒】で引っ叩くだけでいいんです!」
ムチャクチャ言ってくる。
「さあ、弟を、『ガツーーン』とやってしまいなさい!」
実の姉の言うことではない。
「さあ」
躊躇うハルの背を押すエリーゼ。
「さあさあ」
さらにぐいぐいと押す。
『さあさあさあさあ、ささあ』
良くわからない掛け声をみんながかけ、促す。
「そこまでいうなら、遠慮なく」
ハルが【棒】を振り上げ―――――
(僕のせいじゃないですからねっ!)
思い切り振り下ろした。
―――――サッ
先ほどまで沈黙していたハティが【棒ジェ】を避けた。
「え?」
ハルは驚いた。
(もう一回!)
ブゥゥン
今度は大振りで横薙ぎに。
―――――サッ
これもハティは避けた。
(なんで、僕の時は避けるかなあ!)
苛立ってハルは棒をぶんぶん振り回す。
ブンブンブン、ブウウウウウン
―――――サッ、サササッ、スササササ
軽やかにかわすハティ。
「うがああああああああ!」
苛立ち紛れの咆哮が響く。
ハルではない。
「イライラする子ですねぇぇぇ!」
エリーゼだった。
「ほんっと!さっさとやらないから」
「え!?」
ハルが声を上げる。
それもそのはず。
ガシィィィ!
エリーゼに足首を掴まれている。
「こういうのは、思いっきりやらないとダメなんですよ!」
「ぎいやああああああああああっ!」
エリーゼがハルの足首を持って、グルグルと回転を始める。
遠心力でハルの体が浮いた。
ギュルルルルルッ
回転はさらに増す。
そのままハティに向かって行った。
―――――サササササササッ
ハティは無意識ながら避け続ける。
「くぉぉぉのぉぉぉ!」
「いやああああああああああああ」
エリーゼの怒声とハルの悲鳴が響く。
さらに回転は加速し、まるで竜巻のように旋風を巻き起こした。
「いい加減にしないか!」
シグルドがエルザの隙をついて「魔術」の雷を放つ。
―――――――スン
雷が音もなく掻き消えた。
(あれが、【星霜の洗滌】なのか?)
シグルドは驚愕する。
(ならば、アレによって術が破られる)
シグルドがウォルターに目配せをする。
どちらかがエルザを足止めして、解呪を阻止しようというのだろう。
だが―――――
――――――ニョ
エルザが立ちはだかる。
「あらあらあら、気の多い殿方ですこと」
ニヤリと笑う。
「そんなに、あの性悪『お義姉さま』が良いんですかぁ?」
「ぬかせ!」
ウォルターが「突き」を放つ。
ガリッ!
それをエルザが盾で阻む。
「未練タラタラな男って、みじめですねぇ」
忍び笑いを漏らす。
「ああ、ごめんなさい。アナタは違いましたかね」
◇
回転しながら追いかけるエリーゼ。
逃げ回るハティ。
エリーゼに振り回されて中身を吐き出しそうなハル。
「ああ、ダメっ!いや、そこ、もうちょい右!」
コレットはそれを見てハラハラしていた。
とにかくハティは素早い。
(どうにかして拘束しないと……)
しかし、高速で動くハティを捉えられるのは「エルザ」くらいだ。
いや、もう1人、いた。
「軽騎兵最速の女」。
その名は―――――
―――――ティア・シュトゥーテ・フライン。
「ティアさま!」
コレットが声をかける。
早くしないと、ハルの中身がまろび出てしまう。
「なんだ?」
「お兄ちゃんに抱き着いて!」
一拍程の間。
「なああああああ!?」
ティアが吠えた。顔を真っ赤にして。
「この非常時に何を言っているのだ、貴様はぁあ!」
「お兄ちゃんを捕まえられるのは、ティアさまだけ」
「いや、だからといって、『抱き着く』のはどうかと……」
もじもじと照れるティア。
イラッ
コレットはこめかみに血管が浮き出る。
「うぉぉらぁ、なに、チキってんだぁ、『グス』がぁぁ!」
コレットが罵声を浴びせる。
「いい歳こいて、抱き着くの躊躇ってんじゃねぇよっ!乙女かよっ」
豹変したコレットにティアもアンジェもリムアンも唖然とする。
「変な妄想して『エロ小説』書いてるよりはマシだろうがぁ」
「誰がエロ小説書いてるってっ!?解釈違いもはなはだしい」
「お耽美なBLできわどい表現ばっか書いてるでしょうがっ!」
その言葉にティアがたじろぐ。
「それぐらいならっ、ガバッと襲えってんだ!」
「いや、表現過激すぎるだろ!」
「お兄ちゃん『大しゅきっ!離さない』とか言ってみせろってんだ『グス』が」
先ほどからティアの「グス」を連呼するコレット。
「おまっ、お前、聞いていたのか!?」
「いいえ~、知りませぇん。でも、なんと~くわかりますぅぅ」
「こ、このぉっ」
ティアがわなわなと肩を震わせる。
「それとも、できないんですかぁ?私は『おんぶ』してもらえるようになったのにね。アナタがその程度もできないなんてぇ」
ニヤニヤと笑って焚きつけるコレット。
「あ、もしかしてぇ」
ワザとらしくコレットが言う。
「振りほどかれたりしたらどうしようとか思ってる?拒否られるのが怖いの?意気地なしさん」
「おほほほほほ」と笑い出すコレット。
「そのポーニーテール、くるっと巻いてお逃げあそばしたら?しっぽ巻いて、ね」
――――ブチ
何かがキレる音がした。
「だぁれが、逃げるってぇ?」
ティアが唸った。
「いいぞ、やってやろうじゃないかっ!」
くあああああと吠える。
(チョロい)
さんざん呷り倒したコレットはほくそ笑む。
「この【不可視の捕縛者】たる私を何だと思ってる!」
この言葉に皆、「中二病と腐女子のハイブリット」と内心即答した。
「なんだったら、『しゅきしゅき』言って悶絶させてやるぁぁぁぁ」
ティアは吠えると両手を地につける。
足を引いて、姿勢を低くする「クロウチ・スタート」の構え。
「セット(構え)―――――」
ティアが呟く。
「ライジング(加速・上昇)」
魔力が体全体からスパークする。
「テイク――――オフ!」
もはや「中二病全開放」。
だが、その「スピード」はもはや「神速」の域に達していた。
音すらも置き去りにする速さ。
皆が気づいたときには、ハティにタックルをかましていた。
「ゴェフッ!」
あまりの衝撃(物理)にさしもの魔人も血を吐く。
「く」の字に体を横に曲げ、吹っ飛ぶ。
「しゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅき……」
自棄になったティアがまるで早口言葉のように連呼する。
ティアにクリンチされたまま、轢き潰されるハティ。
「ギャアアアアアアア」
ハティは無意識ながらも悶絶した。もちろん体の痛みのせいだ。
「うぉぉぉらぁぁぁぁっ」
迫る竜巻。迫るエリーゼの咆哮。
「ぎゃああああああ」
そして、迫るハルの悲鳴。
ハルの中身はもうのど元まで迫っていた。
ズドドドドッ!
竜巻がよじれ、【棒】の横回転が縦に変化する。
脱穀機か何かのように【棒】が連続してハティを叩いた。
―――――――ススススススン
「ガアアアアッ!」
ハティが苦悶の声を上げた。
無論、連続して叩かれる痛みのせいだ。
後に残ったのは――――
走り去る「災厄」によって削り取られた地面。
そして、ボコボコに殴られ、魔力による鎧化まで「スン」されたハティ。
「しゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅき……」
憑りつかれたように連呼するティアの姿だった。
ハティへかけられた【這い寄る恐怖】が解呪されたのは言うまでもない。




